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第7話

Auteur: 錦玉のきらめき
沙耶は、達也が子どものために育児コンサルタントを雇ったはずなのに、今ではそのコンサルタントのために、子どもの命すら顧みないのだと気づいた。

力を振り絞って、沙耶は意識を失いかけた颯太を必死に支え続けた。

やがて救助隊が駆けつける。

「まず子どもを……」

沙耶は最後の力をふりしぼって、颯太を救助員に託した。

救急車が二台到着した。

達也が真美を抱えていたため、周囲の人は真美を奥様だと思い込んだ。

医療スタッフは、颯太と真美を同じ救急車に乗せ、達也もその車に同乗した。

沙耶はひとり、もう一台の救急車に乗せられた。

病院に到着し、カーテン一枚隔てた隣のベッドから、達也のかすれた声が聞こえてくる。

「真美さん、君に何かあったら……自分の本当の気持ちがやっとわかった。どうか無事でいてくれ。君がいなくなったら、俺は生きていけない」

達也は知らなかった。カーテンのすぐ向こう側が沙耶のベッドだということを。

沙耶は拳を固く握りしめ、爪が手のひらに食い込むほどだった。

痛い。

体のあちこちが痛む。

颯太も目を覚まし、真美のベッドのそばで大泣きしている。「真美先生、もし選べるなら、ずっと真美先生にママになってほしいと思ってた。真美先生に何かあったらいやだ……」

沙耶の胸が、石で打たれたみたいにズキンと痛む。

涙が止まらず、歯を食いしばって声が出ないように必死にこらえた。

さっき命がけで救ったはずの我が子が――もう、母親としての自分をとっくに捨てていたのだと知る。

しばらくして、真美も目を覚ました。

退院の手続きが終わると、達也は今回のボート転覆の原因を問い詰めはじめる。

「何もなければこんな事故は起きなかったはずだ。俺が教えたとおりに操縦していれば問題はなかったはず」

沙耶が真美が間違った操作を止めなかったことを指摘しようとした瞬間、真美が話を遮った。

「沙耶さんが操作の順番を間違えて、どうしても颯太くんのハンドルを奪おうとしたから、あんなことになったんです。沙耶さん、何度も止めたのに、聞いてくれなかったじゃない。なぜ余計なことをしたの?」

「でも、あなたたちが覚えていた順番こそ、間違ってたじゃない」

「どこが間違いだったの?」真美は沙耶の言葉をかわし、ボートの上で沙耶が言ったことをそのまま繰り返した。

「スピードを落としてからハンドルを切らないと横転しやすいのよ。車の運転と同じなの。ね、達也さん、間違っていませんよね?」

「うん、その通りだ」達也はうなずき、真美の言葉に感心したような目を向けた。

沙耶は思わず苦笑する。「さっきはそんなこと一言も言わなかったじゃない。それなら、颯太に聞いてみましょう。颯太はどう思う?」

沙耶は、どんなときも子どもだけは正直でいてくれると信じていた。

ところが、颯太はしばらく黙ったあと、はっきりした声で言い放った。

「真美先生が言った通りだよ。ぼくも真美先生も、パパに教えてもらったことはちゃんと覚えてる。ママは何も知らないくせに、邪魔ばかりして、だからボートがひっくり返ったんだ」

達也は冷たい笑みを浮かべた。「子どもがそう言うなら、そろそろ自分の間違いを認めたらどうだ?」

沙耶は急に、すべてがどうでもよくなってしまった。

争う気力も、言い訳をする力も、何も残っていない。

ゆっくりと目を伏せて、「私が悪かった」と小さくつぶやいた。

あまりにもあっさりと認めたものだから、その場にいた全員が驚いた。

真美は最後まで戦うつもりでいたのに、拍子抜けしてしまう。

「今後、出かけるときは、私のことは気にしないで。もう疲れたから、部屋で休んでくる」

沙耶はそう言い残し、リビングの皆を背にして階段を上がった。

この家に、もう未練は残っていなかった。
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