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第6話

مؤلف: 錦玉のきらめき
沙耶は、心の傷を静かに抱えながら、新しい仕事の準備を進めていた。

愛を失っても、まだ自分には「仕事」がある。

達也が沙耶を避けてくれるおかげで、絵に向き合う時間も増えた。

そんなある日、颯太が「海に行きたい」と言い出したことがきっかけで、達也と沙耶の冷戦は思いがけず中断されることになった。

達也が沙耶と一緒に海へ出かけるなんて、本当に久しぶりのことだった。

かつて達也が沙耶を追いかけていた頃、彼は、沙耶がアルバイトしていたクルーズ船をわざわざ貸し切り、サプライズで誕生日を祝ってくれたことがあった。

あの日、沙耶は給料のいいバイトがあると聞いて、迷わずそのクルーズ船に向かった。

華やかな服をまとった紳士淑女たちに囲まれて料理を運んでいたとき、突然、達也が大きな花束を抱えて現れ、みんなの前で沙耶に花を差し出した。「誕生日おめでとう。俺が愛する人には、せめて誕生日くらいは苦労させたくないから」

そのためだけに、船ごと貸し切り、役者まで雇っていたと後で知った。

新婚当初、達也はよく沙耶を海に連れて行き、大切にしてくれていた。いつも優しく、目に映るのは沙耶だけだった――

だけど、その幸せも、真美が現れるまでの話だった。

……

その日、天気は澄みきっていた。

家族三人と真美の四人で、達也のプライベートヨットで沖へ出かけることになった。

「さあ、この小型ヨットの操縦を教えてあげるよ。こっちは今乗ってる大型ヨットよりずっと速いし、二十分もあれば近くの島まで行けるから」

達也が声をかけると、颯太と真美が嬉しそうに小型ヨットのそばへ集まった。

沙耶は少し離れて、静かにその様子を見つめていた。

昔、達也も沙耶にヨットの操縦を教えてくれたことがある。一度教わっただけで、すぐに舵の扱いも覚えてしまった。

今もその感覚は、体にしっかり染みついている。

「できた!パパ、あの島まで行きたい!」颯太は目を輝かせて、今にも飛び出しそうだ。

真美は実は操縦のことをほとんど覚えていなかったが、それを認めるのが恥ずかしくて、強がって「私も大丈夫です」と達也に笑いかける。

どうせ達也が一緒なら大丈夫――そう思っていた。

ところが、いざ出発というタイミングで、達也の携帯が鳴った。大事なビジネスパートナーからだった。

「ちょっと仕事の話があるから、真美さん、悪いけど颯太を連れて先に向こうまで行ってもらえる?」達也がそう頼むと、真美は一瞬戸惑いの色を浮かべた。

沙耶には、真美が操縦のことをまったく理解していないことがすぐにわかった。自分の息子を危険な目に遭わせたくなくて、沙耶は口を開いた。「私も一緒に行く」

沙耶がそう申し出ると、真美は平静を装って達也に「任せてください」と言った。

こうして、沙耶、真美、颯太の三人は小型ボートに乗り込んだ。

最初は順調に進んでいたが、ナビが「ここで曲がって」と知らせると、颯太が不安そうに尋ねた。

「真美先生、この青いボタンを押して加速してからハンドルを切ればいいの?」

「えっと……たぶん、そうだったと思うよ。颯太くんが覚えてることなら、先生も信じる」

万が一何かあっても、自分の責任にはならない――

沙耶はそれが明らかに間違いだと気づき、慌てて声をかけた。「違うよ。車の運転と同じで、スピードを落としてからハンドルを切らないと、ひっくり返っちゃうよ」

けれど颯太は、沙耶の言うことを聞かず、助けを求めるように真美先生を見上げた。

真美は悔しそうに顎を上げる。

自分は何も覚えていないくせに、沙耶が自分よりも詳しいなんて認めたくない。

「先生も、颯太の覚えている通りでいいと思うよ。自分でやってみなさい」そう言って、得意げに沙耶を睨みながら続ける。

「子どもに口を出しすぎると、やる気や自主性をつぶすことになるの。親は口を出さない方がいいのよ」

沙耶は、もう真美の理屈を聞く気にもなれなかった。

もしこのままボートが転覆でもしたら、ケガや骨折だけじゃすまない。最悪、三人とも海に呑まれてしまうかもしれない。

沙耶は颯太のハンドルに手を伸ばし、なんとか一緒に操作しようとした。

しかし颯太は手を振り払う。

「ママは触らないで!ぼく、真美先生の言うことしか聞かない!」

次の瞬間、ボートはコントロールを失い、急カーブで片側が大きく持ち上がる。

沙耶が必死に体勢を立て直そうとしたが、間に合わなかった。ボートは勢いよく横転し、三人とも海へ投げ出される。

「ママ!真美先生……助けて……!」

颯太が必死に水面でもがき、頭がどんどん波に沈んでいく。

真美は颯太のそばにいるのに、一瞬、心の中に黒い感情がよぎる。

この子がここでいなくなってくれれば……

沙耶は必死に颯太のもとへ泳ごうとするが、そのとき、もう一隻のボートに乗った達也がこちらに向かってくるのが見えた。

「達也!早く、颯太を助けて!私、もう力が残ってない!」

けれど達也は沙耶の叫びを無視して、海へ飛び込み、真っ先に真美の方へ泳いでいった。
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