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第30話(19)

مؤلف: 北川とも
last update تاريخ النشر: 2026-05-16 11:00:40

 忘れたことはなかった。英俊と会うことに神経をすり減らしながらも、常に頭の片隅にあった件だ。このままなかったことにならないだろうかと、願わなかったといえばウソになるが、巨大な組織を背負う者に、そんな甘さがあるはずもない。和彦の状態が落ち着くのを待っていたということは、虎視淡々と機会をうかがっていたのだ。

「重責を背負わされるとは考えんでほしい。クリニックはあくまで、総和会における佐伯和彦という人物の地位を示すためのものだ。極道であれば、肩書きを与えて、組を持たせて、とやりようがあるが、あんたは違う。極道ではないからこそ、価値がある。いや、佐伯和彦であるからこそ、〈我々〉はあんたを大事にしたい」

「ぼくに、そこまでの価値は――」

「三世代の長嶺の男に想われているというだけで、十分価値はある。他の男たちにとっても。手間と金をかけて、あんたにクリニックを持たせるということは、要は檻だ。あんたを逃がさんためではなく、守るための」

 これは、長嶺の男特有の詭弁だ。だが、理性を揺さぶるだけの熱意も甘美さもあった。禍々しい狐を背負った男の言うことは、どこ
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  • 血と束縛と   第30話(22)

    「実は自分の人生について考えるのは、苦手だ。医者になるまで、親に命じられるままの進路を選んできたせいで、心のどこかで、自分の人生は自分のものではないと思っていたのかもしれない。……今も、似たようなものなのかもな」 気持ちが塞ぎ込んできている証か、そんな自虐的な言葉が口をついて出る。男たちの求めによって、自分の進むべき道は決められていくという危惧もあった。賢吾と関係を持った時点で、そんなことはわかりきっていたはずなのだが、守光から決断を迫られて、先の見えない道が新たに現れたような心境だ。 和彦がふっとため息をついた瞬間、まるで甘い毒を吹き込むように秦が言った。「――だったら、逃げ出してみますか。新しい人生へと」 いつもよりアルコールの巡りがよくなっているのか、和彦の思考は少し緩慢になっていた。ゆっくりと瞬きを数回繰り返してから、秦をまじまじと見つめる。「えっ?」 ここまで穏やかに微笑んでいた艶やかな美貌の男が、表情を一変させる。鮮烈な鋭さが潜んだ眼差しで、じっと和彦の目を覗き込んできた。「わたしと先生は、似ていますよ。権力のある家に生まれ、抗えないままに進む道を決められて、思いがけない事情によって一見順風満帆な人生が一変する。そして、したたかに生き抜く術を身につけた」「……そんなふうに言われると、確かに」「わたしと似ているから、わかるんです。先生はきっと――」 秦の話に危うく引き込まれかけた和彦だが、ホストと客たちの一際盛り上がった声が聞こえてきて、我に返る。秦の眼差しがふっと和らぎ、和彦もソファに座り直してから、簡潔に答えた。「逃げるなんて、ありえない。……というより、あの男たちから逃げられるとは、思えない」「まあ、そうでしょうね」 あっさりと秦に肯定され、失笑を洩らした和彦だが、きっと本気ではなかったのだろうと思いつつ、質問をぶつけてみた。「ぼくを唆そうとしていたが、君は何か考えがあるのか?」「おや、やっぱり興味がありますか」 賢吾に報告するつもりなのではないかと警戒しながら、和彦はぼそ

  • 血と束縛と   第30話(21)

    「先生は、王様のように振る舞ってください。なんといっても、わたしの友人でもあるし、命の恩人でもありますから。それにこの間は、わたしの事情で迷惑をかけてしまいましたしね」 ソファに腰掛けた和彦は淡い笑みで返し、斜め向かいに座った秦に水割りを作ってもらう。「――いろいろと大変だったようですね」 和彦がグラスに口をつけるのを待ってから、秦がそう切り出してくる。一人だけ飲むのは気が引けるが、秦が新たなグラスに氷を入れるのを見て、和彦は安心して会話を始める。「いろいろありすぎた。……一つ片付いたと思ったら、次が。そして、それが片付かないうちに、次、次――」「先生はいつでも、波瀾万丈だ」 自分の分の水割りを作った秦が、意味ありげな流し目を寄越してくる。「……他人事のような顔をしているが、ぼくは君のせいで、大変な目に遭ったことがあるんだからな」「それでも先生は、わたしとこうして会ってくれる。その寛容さが、先生の日常がにぎやかになる原因の一つだと思いますね」 物は言いようだと、苦い顔をした和彦は、ナッツを口に放り込む。すると、すぐ隣に移動してきた秦に片手を取られた。ドキリとした和彦は咄嗟に手を引こうとしたが、予想外の力強さで阻まれる。それ以上の抵抗はできなかった。そんな和彦に対して、秦は満足げに頷く。「寛容ではなく、甘い、ですね。先生の場合は」「自覚はあるんだ。それにもう一つ、〈こっち〉の世界に引きずり込まれてから、他人を拒むことが怖くなった。周りは、腹の内が読めなくて、ぼくなんて簡単に押さえ込める怖い男ばかりだ。機嫌を損ねることを、無意識のうちに恐れているんだ」「でも、先生に対して優しい男ばかりでしょう」 わたしも含めて、とヌケヌケと言えてしまうのが、秦という男だろう。声を上げて笑っていた和彦だが、すぐに真顔に戻ると、ぽつりと洩らす。「だからこそ、怖い。無条件の優しさなんてないとわかっているんだ。この世界でぼくは使い勝手のいい医者で、オンナだ。もし、男たちの期待を裏切ることになったら――」 賢吾は気軽に、もっと傲慢になれと言うが、それは、物騒

  • 血と束縛と   第30話(20)

     守光の言葉に潜む凄みに、和彦は静かに気圧されていた。言おうとしていることはわかるし、これまでこなしてきた仕事の中で、この世界特有の考え方は少しずつ和彦に染み込んできた。しかし守光は、さらに踏み込んでくる。 今いる世界で和彦は、長嶺の男たちの〈オンナ〉であることが大きな比重を占めてきた。しかし守光の申し出を受けることで、その比重が変わる。「知らず知らずのうちに、あんたには身についたはずだ。腹に呑み込む、ということが。組のために、男のために、何かしら呑み込んできただろう。これからは、医者として、あんたが呑み込むものは増えてくる。単なる医者ではなく、組織に必要とされる医者としてだ」 あんたならできる、と賢吾によく似た声が力強く言い切る。 強い拒否感と、逃げ出したい気持ちと、それすら凌駕する、見えない圧倒的な力に気持ちを押さえつけられる感覚に、和彦は眩暈に襲われる。 たまらず目を閉じると、じわじわと体内に満ちていくものがあった。強い男に求められているという、奇妙な安堵感だった。**** すっかり様子が変わった店内を見回した和彦は、所在なくその場に立ち尽くし、少し戸惑う。 男の自分が来ていい場所なのだろうかと、いまさらながら思ったのだ。 気を利かせた従業員がすぐに動き、和彦をこの場に招いた当人を呼んでくる。開店準備のため、忙しく立ち働いている従業員――ホストたちの誰よりも、華やかな雰囲気と美貌を持つ男は、和彦を見るなり、艶やかな笑みを浮かべた。こんな笑みを向けられては女性客はたまらないだろうが、残念なことに、秦がホストとして接客することはない。特別な場合を除いて。「いらっしゃいませ」 秦からそう声をかけられ、和彦は苦笑で返す。「別にぼくは、ホスト遊びがしたくて来たわけじゃないんだが」「お望みなら、店の者をつけますよ」「それでぼくがハマったら、君はいろいろ困るんじゃないか」 和彦がそう返すと、秦は芝居がかった仕種であごに指を当て、何か思案するような顔をする。「それもそうですね……。大事な先生に悪い遊

  • 血と束縛と   第30話(19)

     忘れたことはなかった。英俊と会うことに神経をすり減らしながらも、常に頭の片隅にあった件だ。このままなかったことにならないだろうかと、願わなかったといえばウソになるが、巨大な組織を背負う者に、そんな甘さがあるはずもない。和彦の状態が落ち着くのを待っていたということは、虎視淡々と機会をうかがっていたのだ。「重責を背負わされるとは考えんでほしい。クリニックはあくまで、総和会における佐伯和彦という人物の地位を示すためのものだ。極道であれば、肩書きを与えて、組を持たせて、とやりようがあるが、あんたは違う。極道ではないからこそ、価値がある。いや、佐伯和彦であるからこそ、〈我々〉はあんたを大事にしたい」「ぼくに、そこまでの価値は――」「三世代の長嶺の男に想われているというだけで、十分価値はある。他の男たちにとっても。手間と金をかけて、あんたにクリニックを持たせるということは、要は檻だ。あんたを逃がさんためではなく、守るための」 これは、長嶺の男特有の詭弁だ。だが、理性を揺さぶるだけの熱意も甘美さもあった。禍々しい狐を背負った男の言うことは、どこに真意があるのかまったく読めないが、すべてがウソというわけではないだろう。和彦を必要として、逃すまいとしている。この物騒な世界から、とっくに逃げられなくなっている和彦を。 自分の存在に価値を見出してくれるのはありがたいが、反面、医者としての腕や経験が未熟であるという現実が、肩に重くのしかかってくる。 堪らず、苦しい胸の内を気持ちを吐露していた。「ぼくは、自分を知っているつもりです。医者として、何もかも不足しているんです。毎回、患者がいると連絡が入るたびに、自分の手に負えられる状態であってほしいと、祈っています。腕がいいからじゃない。使い勝手がいいから、必要とされていることは、よくわかっています。それでも……患者を助けられたときは、普通の医者のような喜びを味わえるんです。だから、仕事をこなせてきた」 話しながら和彦は、前髪に指を差し込む。「これ以上のプレッシャーを抱えると、きっとぼくの頭も気持ちも容量がいっぱいになります。前にしていただいたお話は覚えています。最低限の必要な手続きをして、ときどき業務に

  • 血と束縛と   第30話(18)

     和彦を案内した男が声をかけ、スッと襖を開ける。座椅子についた守光と目が合い、穏やかに微笑みかけられた。和彦もぎこちなく微笑み返す。「しっかり働いたあとだと、腹も減っただろう。すぐに料理を運ばせよう」 和彦が向かいに座ると同時に、守光がそう切り出す。和彦は、お茶と一緒に運ばれてきたおしぼりで手を拭きながら、改めて守光を見つめる。今晩はすでに総和会会長としての仕事を終えているのか、ノーネクタイ姿だった。 和彦の視線に気づいたのか、守光は自分の格好を見下ろしてから、こう言った。「あんたが相手だと、体面を取り繕う必要もない。もしかすると普段から、大物ぶった格好をしているとか、年甲斐のない格好をしているとか思われているのかもしれんが」「いえっ、そんなことっ……」 わかっている、と言って、守光が笑う。「今のような立場にいると、相手の目にどう映るのが効果的か、そういう賢しいことでも神経を使う。大なり小なり、この世界で生きている人間は、そういうものだ。己の存在を軽んじられるのは、何よりの侮辱だということだ」 肩書きは医者である和彦にこういうことを説くのは、そういう人間になれというわけではなく、関わりを持つ男たちがどういう生き物なのか、理解しておけということだろう。その関わりを持つ男たちの中には当然、守光自身も含まれている。 他愛ない会話を交わしている間に、料理が運ばれてきて目の前に並ぶ。ここで意外に感じたが、今晩は酒は用意されておらず、守光はお茶で口を湿らせた。和彦には、グラスワインが。あまり細かいことを指摘するのも不躾に思え、和彦は口当たりの軽いワインを一口飲む。 和やかな雰囲気のまま食事は始まった。守光に呼ばれた理由を、最初はあれこれと推測していた和彦だが、料理の一品一品を満足げに味わう守光につられて、食事に集中する。確かに、働いたあとだけに空腹だったのだ。「本宅では、しっかりと美味いものを食わせてもらっているかね?」 揚げ物をすべて食べ終えた和彦に、守光がそう問いかけてくる。美味しいものを食べてすっかり気分が解れた和彦は、笑みをこぼして頷く。「はい。すっかりぼくが好きな味を把握されたみた

  • 血と束縛と   第30話(17)

    「あいつは番犬どころか、今じゃ先生の騎士気取りかもな。自分が犬であることを忘れたんだ。それもこれも先生が、鷹津を甘やかすからだ。躾もせず、ちょっとしたお使い仕事をこなすだけで、美味い餌をたっぷり与えて……。甘やかすだけじゃ狂犬は、単なる駄犬になる」 賢吾の口調が暗い凄みを帯びる。その迫力に圧された和彦は、知らず知らずのうちに体を後ろに引きそうになったが、賢吾に強く指を掴まれて、首を竦める。「痛っ」「――そろそろ鷹津を、適度に距離を置いて飼う時期になったのかもな。刑事であるあいつ自身にとっても、それがいいと思わないか?」 底冷えするような冷徹な眼差しを向けられて、和彦は返事ができなかった。迂闊な返事をしてしまえば、賢吾が鷹津をどうにかしてしまいそうな、そんな危機感が芽生えていた。 和彦が顔を強張らせると、賢吾は苦笑を浮かべて手の力を抜く。和彦は素早く指を抜き取ると、急いで立ち上がる。「少し、中庭で風に当たってくる」 賢吾の顔も見ないでそう言い置き、部屋を出ようとすると、冗談交じりの言葉を背後からかけられた。「この歳で、色恋で嫉妬することになるとは、思いもしなかった。――嫉妬深い男は嫌いか、先生?」 和彦は何も言わず、振り返りもせずに部屋を出る。自分でも戸惑うほど、賢吾の言葉に動揺していた。賢吾の目に、鷹津の存在がそんなふうに見えていたことにも驚いたが、鷹津の身を心底心配している自分自身に、気づいたからだ。 鷹津の存在が自分の中で変わりつつある。足早に廊下を歩きながら、和彦は無意識のうちに胸に手をやろうとして、寸前のところで我に返る。 今それを確認するのは、この家ではあまりに危険すぎた。 ここは、物騒な大蛇の住処なのだ――。**** 最後まで残っていたスタッフを見送った和彦は、いつもより時間をかけて日常業務を終え、パソコンの電源を落としてしまうと、所在なくクリニック内を歩いて回る。目についたところの掃除でも、と思ったが、ここで働いているスタッフたちは有能で、まじめだ。どこも手を抜いた様子がない。 仕方なく

  • 血と束縛と   第15話(28)

     無精ひげが生えたあごを撫でて、ぼそりと鷹津が呟く。妙な言い方をするなと思いつつ、和彦は厳しい表情で促した。「わかったことを早く言え。言う気がないなら、次の信号でさっさと車から降りろ」「年末時期は、組長のオンナも忙しそうだな」「あんたは暇そうだ」「俺は、忙しいぜ? 刑事の仕事の合間に、餌をもらうためにせっせと探偵ごっこをしてるんだから」 次の瞬間、鷹津の唇が耳元に寄せられた。「――お前の兄貴が、国政選挙に出馬する、という噂があるようだ」 鷹津の言葉を頭の中でじっくり反芻してから、和彦は目を見開く。その反応

    last updateآخر تحديث : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第15話(7)

     和彦が中嶋に抱く感情は、これまでになく複雑だ。いままでも、この青年に対してどう接すればいいのか戸惑っている部分はあったが、友情めいた感情もあった。だが今は、そこに生々しい――艶かしい感情も入り混じる。 兄の英俊と出会ったことで精神的に参ってしまい、ようやく立ち直ったところに、今日の内覧会も含めて、クリニック開業の準備に追われていた。和彦に、〈他人の恋路〉について考え込む余裕はなかった。 そう、中嶋は、秦に想われているのだ。それどころか、動物的で直情的な欲情を抱かれている。なのに中嶋は、何も知らない。 さらに事態を複雑にしているのは、和彦は中嶋と、キス

    last updateآخر تحديث : 2026-03-31
  • 血と束縛と   第14話(7)

     それでも今は、優しい錯覚に浸っていたい。 三田村に促され、サンドイッチを手に取る。和彦が眠っている間に、近くのファストフード店まで三田村が買いに行ってくれたものだ。具がたっぷりの大きなサンドイッチとスープは、和彦の普段の朝食としては十分すぎる量だ。「昼まで一緒にいられるんだろ?」 サンドイッチを頬張る合間に問いかけると、和彦を安心させるように三田村は目元を和らげる。「ああ。もうそんなに時間はないが、先生の行きたいところがあればつき合う」「別に今日、どうしても行きたいってところは……ないな。あんたこそ

    last updateآخر تحديث : 2026-03-30
  • 血と束縛と   第14話(29)

    「そのつもりだったが、元気そうだな。少し痩せたようには見えるが」「食欲は戻った。それに……安定剤を飲んででも、眠るようにしているしな」 鷹津から探るような眼差しを向けられ、和彦は逃げるようにキッチンに向かう。和彦に何があったのか、明らかに鷹津は知りたがっていた。 和彦の身近にいる男たちは、必要があれば情報を共有する。その中で、今回は鷹津がつま弾きにされたらしい。ここでいい気味だと思えないのは、自分自身のことだからだ。 二人分のコーヒーを淹れながら、仕方なく端的に事情を説明する。賢吾なら、先生は甘いなと、薄い笑みを

    last updateآخر تحديث : 2026-03-30
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