鳥籠の帝王

鳥籠の帝王

last updateDernière mise à jour : 2025-06-17
Par:  液体猫Complété
Langue: Japanese
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 全 思風(チュアン スーファン)は愛する者を、二度と失わないために。  華 閻李(ホゥア イェンリー)は花の力を使い、優しさを失わないために。  彼らは動き出す──  とある地に禿(とく)王朝という、膨大な國があった。表向きは平和そのもの。しかし蓋を開けてみれば、悪の巣窟のように数多の闇が蔓延っていた。  それを象徴するのが殭屍(キョンシー)と呼ばれる死体である。悪意が働いた瞬間、殭屍は生者を襲っていった。  化け物である殭屍に対抗できるのは不思議な力を持つ仙人や道士だけ。しかし彼らもまた、一枚岩ではなかった。内輪揉めはもちろん、何の力を持たぬ人間すら巻き込む。    無断転載禁止です。

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Chapitre 1

黒に抱かれた白

 耳をそばだてて聞いた話をしよう。

 "月のない丑の刻こくになれば美しき銀の舞姫まいひめが現れ、使者に抱かれて空を飛ぶ。"のだと。

 そう、誰かが囁ささやいた──

「──怒らないでおくれよ」

 夜空にふたつの影がある。そのうちのひとつが、眉をひそめていた。

 それは闇夜に溶けてしまいそうな髪を、三つ編みにした男だ。月明かりがない暗闇のせいか、どんな表情をしているのかはわからない。

 ふと、隠れていた月が、ゆっくりと顔を出す。

 男が月明かりに照らされた瞬間、姿がはっきりと映しだされた。

 腰までの黒髪を三つ編みにしているのは、瓜実顔うりざねがおの美しい男だ。しかし目鼻立ちが整った男は、眉を少しばかり寄せている。

 男の両腕に抱えられているのは人形か……可憐かれんな、輪郭りんかくの整った、美しい者だ。何より、月光をそのまま落としたような……とても薄い髪色をしている。

「……ねえ小猫シャオマオ、機嫌なおしてくれないかい?」

 可憐な人物の機嫌を取ろうと、三つ編みの男は頼りなく声をかけた。

 薄い髪色の者は男か女か。可憐かつ、中性的な顔立ちの人物を見れば、心なしか頬を膨ふくらませているようにも感じた。

「……怒っているのかい?」

 暗い空を背に、三つ編みの男の眉が苦く曲がる。彼は目鼻立ち、それら全てが整っていた。けれど困惑を含む眉根だけは情けなさを持っている。

「いい加減、小猫シャオマオ呼びはやめてほしい。僕は、華 閻李ホゥア イェンリーって名前なんだから」

 横抱きに対する不満ではなく、呼び名への苦情。これには三つ編みの男は微笑みを通り越して、大笑いしてしまう。 しばらくすると笑い声は止まり、華 閻李ホゥア イェンリーの頬をつついた。もちもちとしている柔らかい頬に触れ、三つ編みの男は微笑する。

「……ふふ、ごめんごめん。でも私にとって君は守りたい者であり、唯一無二の存在なんだ」

 だから怒らないでと、愛し子の額に優しい口づけを落とした。

 華 閻李ホゥア イェンリーは乙女のように恥じらう。それでも彼の腕から逃れようとせずに、甘んじて優しさを受け入れているようだ。

「……ねえ、思スー。どうして僕を守ってくれるの?」

 おずおずと。大きな瞳を彼へと向ける。

 三つ編みの男は笑顔を浮かべた。何だ、そんなことかと微笑しながら再び華 閻李ホゥア イェンリーの額ひたいに口づけを落とす。

「──私の目的は達成されたんだ」

「目的?」

「君に会って、ともにいる事。どんな時でも小猫シャオマオを守れるだけの力、そして権力を身につける事。それが私の目的だ。だけど、それはもう果たせたからね」

 微笑みを落とし、指を子の長い髪に巻きつけた。

「果たせたの?」

「うん、そうだよ。私は君の側にいる。誰にも渡さない。それが私の願いだ」

 笑顔を浮かべた美しい顔は、宝石のように煌きらめく。それは愛し子へ向けられた至高しこうの笑みであり、偽いつわりのない瞳だった。

「……変なの」

「あはは、そうかい? あ、そういう小猫シャオマオはどうなのさ?」

 華 閻李ホゥア イェンリーの膨ふくらんだ頬をつついた。心なしか子の耳は、先っぽまでタコのように真っ赤になっている。

「……僕は、終わらせたい」

 ふと、愛し子の表情に影が生まれた。儚はかなげで脆もろい。そんな影である。

「國くにの為じゃなく、僕自身の為に。彼らが命をかけて守ったものを、悪用させない為に!」

 大きな瞳はまっ直ぐ、三つ編みの男を見据みすえていた。

 三つ編みの男は頷き「じゃあ、頑張らないとね」と、華 閻李ホゥア イェンリーとともに夜空を舞まう。

 そんな二人は赤い衣に身を包んでいる。

 三つ編みの男は漢服かんふくを。可憐かれんな見目の華 閻李ホゥア イェンリーは、下半身がふわりとした漢服かんふくを着ている。そのどちらにも、金色の刺繍ししゅうが施されていた──

 ┳ ┳ ┳ ┳ 

 宥損ゆうそん三百八年。世界で最も膨大ぼうだいな領土を誇る禿とく王朝は、豊かな國くにであった。

 しかしかつては領土が小さく、名すら知られてはいない國くにであった。けれど初代皇帝が國くにの外へと貿易ぼうえきを広げたことにより、多くの者たちに知られるようになる。

 國くににとって幸であったのか、不幸であったのか。誰にもわからぬまま時は過ぎていった。

 やがて初代皇帝が死す。

 死因は不明。死体の行方もわからず。

 同時に、*直人ただびとでは解決できぬことが生まれていった。

 死した者が動き、人を食らう。人ならざる者が、生きた存在の魂を食いつくすなど。どう足掻あがいても、直人ただびとが解決できるとは思えないものばかりだった。

  そんななか、人の身でありながら空を飛び、化け物へと立ち向かう者たちがいる。不思議な力を持った仙道せんどうだ。彼らは人のため、世のために力をふるう。

 されど彼らは価値観などの違いから、一筋縄ひとすじなわではいかぬ者たちばかり。

 それでも彼らは、何の力も持たぬ直人ただびとにとっては救世主であった── 

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黒に抱かれた白
 耳をそばだてて聞いた話をしよう。 "月のない丑の刻になれば美しき銀の舞姫が現れ、使者に抱かれて空を飛ぶ。"のだと。 そう、誰かが囁いた──「──怒らないでおくれよ」 夜空にふたつの影がある。そのうちのひとつが、眉をひそめていた。 それは闇夜に溶けてしまいそうな髪を、三つ編みにした男だ。月明かりがない暗闇のせいか、どんな表情をしているのかはわからない。 ふと、隠れていた月が、ゆっくりと顔を出す。 男が月明かりに照らされた瞬間、姿がはっきりと映しだされた。 腰までの黒髪を三つ編みにしているのは、瓜実顔の美しい男だ。しかし目鼻立ちが整った男は、眉を少しばかり寄せている。 男の両腕に抱えられているのは人形か……可憐な、輪郭の整った、美しい者だ。何より、月光をそのまま落としたような……とても薄い髪色をしている。「……ねえ小猫、機嫌なおしてくれないかい?」 可憐な人物の機嫌を取ろうと、三つ編みの男は頼りなく声をかけた。 薄い髪色の者は男か女か。可憐かつ、中性的な顔立ちの人物を見れば、心なしか頬を膨らませているようにも感じた。「……怒っているのかい?」 暗い空を背に、三つ編みの男の眉が苦く曲がる。彼は目鼻立ち、それら全てが整っていた。けれど困惑を含む眉根だけは情けなさを持っている。「いい加減、小猫呼びはやめてほしい。僕は、華 閻李って名前なんだから」 横抱きに対する不満ではなく、呼び名への苦情。これには三つ編みの男は微笑みを通り越して、大笑いしてしまう。 しばらくすると笑い声は止まり、華 閻李の頬をつついた。もちもちとしている柔らかい頬に触れ、三つ編みの男は微笑する。「……ふふ、ごめんごめん。でも私にとって君は守りたい者であり、唯一無二の存在なんだ」 だから怒らないでと、愛し子の額に優しい口づけを落とした。 華 閻李は乙女のように恥じらう。それでも彼の腕から逃れようとせずに、甘んじて優しさを受け入れているようだ。「……ねえ、思。どうして僕を守ってくれるの?」 おずおずと。大きな瞳を彼へと向ける。 三つ編みの男は笑顔を浮かべた。何だ、
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