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裏切りには、裏切りを
裏切りには、裏切りを
Author: Rosa Kane

第1話

Author: Rosa Kane
花房紗世(はなふさ さよ)視点

「君の夫は、俺の妻と浮気している」

口に含んでいた水が思わず吹き出しそうになった。

私はテーブルの向かいに座る堂本楓己(どうもと ふうき)を見つめた。

聞き間違いに決まっている。そうでなければ、今の言葉は悪い冗談としか思えなかった。

夫の佐原理安(さはら りあん)が私を裏切るはずがない。

「堂本さん」

私はグラスを慎重にテーブルへ置いた。手が震えているのを悟られないよう、慎重に。

「冗談ですよね?こんなの、笑えませんよ」

「俺が冗談を言っているように見えるか?」

そうは見えなかった。

楓己は、いつだって真剣そのものだった。

だからといって、彼の言っていることが正しいとは限らない。

「理安は私を愛しています」

私はきっぱりと言った。

「彼は、そんなことをする人じゃありません」

「分かっている」

彼の声は静かで、疲れていた。

「3か月前までは、俺も成良のことを、同じように信じていた」

成良。

その名前を聞いただけで、胸の奥が嫌な騒ぎ方をした。

水谷成良(みずたに せいら)。私の、ずっと昔からの親友。

私の結婚式で涙を流してくれて、毎日のように電話をかけてきて、「理安みたいな人と結婚できて、あなたは本当に幸せね」と言ってくれた人。

私たちは、姉妹同然だった。

「そんなこと、あり得ません」

私はもう一度そう言ったが、今度は自分でも驚くほど弱々しい声になった。

楓己は、気の毒な人を見るような目で私を見た。

その目が、私は嫌だった。

「何も気づかなかったのか?」

「それは......」

「もう半年だ、紗世」

その期間を聞いて、私は思わず身を強張らせた。

「......違う」

「半年間、一度も疑わなかったのか?」

「違うと言っているでしょう」

私は立ち上がり、椅子が床を擦る大きな音を立てた。

「私は夫を心から信じています。あなたが何を根拠にそんなことを言っているのかは知りませんが、きっと何かの誤解です」

「落ち着け」

「帰ります」

「落ち着けって言ってる」

その声に、私は足を止めた。

大声でもなければ、威圧的でもなかった。ただ、絶対に逆らえない何かがあった。

私は椅子に座り直した。

彼は身を乗り出し、テーブルに腕を置いた。

「6か月前、君と佐原理安の間で何か変わったことはなかったか?」

私は口を開きかけて、閉じた。

6か月前。

押し込めようとする私の意思に反して、記憶が次々と蘇ってきた。

成良が突然、以前より頻繁に家へ来るようになったこと。週に2度、3度、多いときには4度。しかも、いつも理安が家にいる時間だった。

私はそれを嬉しく思っていた。

私たちの友情が、さらに深まったのだと。彼女が私に会いたがっているだけだと思っていた。

そして理安も、相変わらず優しかった。

毎朝、花を贈ってくれて、日中は何度も愛の言葉をメッセージで送ってくれた。帰宅するたび、私を何よりも大切なもののように抱きしめ、キスしてくれた。

ただ、夜は違った。

最後に彼が私に触れてから、もう3か月。

「今日はもう疲れた」

「この仕事が終わったら、ちゃんと埋め合わせするから」

「あと1年頑張れば、俺たちがずっと欲しかったものを全部手に入れられる」

そんな言葉を3か月もの間、私は信じ続けていた。

――やめて。

私は浮かんだ考えを振り払った。

これでは、楓己の思うつぼだ。

「たとえ私と理安の間に何か変化があったとしても」

私は慎重に言葉を選んだ。

「それだけで、浮気の証拠にはならないでしょう」

楓己は何も言わず、スマホを取り出した。

そして画面を私のほうへ向けた。

何を見ているのか理解するまでに、しばらくかかった。

写っていたのは、高級会員制クラブの個室だった。

薄暗く、いかにも高級そうな、二人きりの親密な空間。

理安と成良が、二人で一緒にいる。

胃がひっくり返るような感覚に襲われ、その場で吐いてしまいそうになった。

「先週撮った写真だ」

楓己は淡々と言った。

「違う」

私はスマホを押し返した。

「そんなはずありません。先週、理安は海外にいたんです......仕事の出張で。私が眠るまで、毎晩ビデオ通話をしてくれました」

楓己は反論しなかった。ただ私を見つめていた。

「電話してくれたんです」

私はもう一度繰り返した。声がわずかに震えた。

「しかも毎晩ですよ」

「知っている」

彼はスマホを手元へ戻した。

「彼は、そういうところまで徹底している」

「徹底している」という言葉が、私のいちばん脆い部分を深く抉った。

傷口を容赦なく抉られたような痛みだった。

「それでも疑うなら、自分の目で真実を確かめればいい」

そう言われて、私は目尻を素早く拭った。自分が泣きそうになっていることが悔しかった。

「どういう意味ですか?」

「明日から4日間出張に行くと、今朝、彼に言われたはずだ」

私はぴたりと動きを止めた。

「......どうしてそれを......」

「俺の妻も、4日間母親のところへ行くと、俺に話したからな」

彼の口元に乾いた笑みが浮かんだ。だが、その目は少しも笑っていなかった。

「でも実際、あの二人はどこにも行かない。ローズウッド・リゾートの東館を丸ごと予約している。4日間、彼ら二人きりで過ごすつもりだ」

視界がぐらりと揺れた。

今朝の理安は、確かにそう言っていた。

出勤する前、まだ眠気の残る顔で私の額にキスをして、「紗世と離れたくないな」と。

いつも通りの朝だったのに。

「明日の夕方、一緒に来い。これは誤解かどうか、そこで分かるはずだ。もし俺の言っていることが正しかったら......」

彼は最後まで言わなかった。

言葉にする必要などなかった。

私は、自分が彼と行くことに同意したのかさえ覚えていない。

それでも、気づけば頷いていた。

そして、どうやって運転して帰ったのかも分からないまま、自宅へ戻っていた。

――

帰り道ずっと、胸に重いものがのしかかり、息をすることさえ苦しかった。

私は何度も自分に言い聞かせた。

――あれは本当じゃない。あの写真は偽物だ。

楓己は、私と理安の関係を妬んでいるだけ。

嫉妬に駆られて、常軌を逸したことをする人だっている。

理安は私を愛しているんだ。

その日の夕方、理安が花を手に帰ってきた。

いつも私を見るときと同じ、柔らかく温かな目をしていた。

その瞬間、胸の奥で何かがひび割れた。

――ほら。こんな人があなたを裏切るはずないでしょう。

キッチンで、彼はゆっくりと深く私にキスをした。

私も同じように強く彼に応えながら、何かを探していた。

嘘の証拠。不自然なところ。楓己の言葉を裏付ける、何か。

けれど、何も見つからなかった。

彼は私の一日について尋ねてきた。

私は何もなかったかのように笑顔を浮かべ、必死に嘘をついた。

その夜、私はもう一度試した。

ベッドの中で彼に身体を寄せ、指先を彼の胸へ這わせると、彼は私の手を優しく取った。

「紗世」

その声は柔らかく、疲れ切っていて、それでいて本物のように聞こえた。

「約束するよ。この仕事が終わったら、毎晩ちゃんと君との時間を作るから」

「......分かった」

私は小さく囁いた。

「愛してるよ、紗世。本当に」

「うん......」

彼は私の額にキスをすると、背を向けて横になった。

私は暗闇の中で横たわり、彼の寝息を聞きながら、どうすれば人はこんなにも上手に嘘をつけるのだろうと考えた。

もしかしたら、彼は嘘をついていないのかもしれない。

嘘をついているのは、楓己なのかもしれない。

私はその考えに命綱のようにしがみつき、朝を待った。

――

朝、私は眠ったふりをしていた。

理安が私の頬にキスをする。

「愛してるよ、紗世」

私は玄関のドアが閉まる音が聞こえるまで、目を開けなかった。

そして、正午になるまで、一歩も動けなかった。

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