花房紗世(はなふさ さよ)視点「君の夫は、俺の妻と浮気している」口に含んでいた水が思わず吹き出しそうになった。私はテーブルの向かいに座る堂本楓己(どうもと ふうき)を見つめた。聞き間違いに決まっている。そうでなければ、今の言葉は悪い冗談としか思えなかった。夫の佐原理安(さはら りあん)が私を裏切るはずがない。「堂本さん」私はグラスを慎重にテーブルへ置いた。手が震えているのを悟られないよう、慎重に。「冗談ですよね?こんなの、笑えませんよ」「俺が冗談を言っているように見えるか?」そうは見えなかった。楓己は、いつだって真剣そのものだった。だからといって、彼の言っていることが正しいとは限らない。「理安は私を愛しています」私はきっぱりと言った。「彼は、そんなことをする人じゃありません」「分かっている」彼の声は静かで、疲れていた。「3か月前までは、俺も成良のことを、同じように信じていた」成良。その名前を聞いただけで、胸の奥が嫌な騒ぎ方をした。水谷成良(みずたに せいら)。私の、ずっと昔からの親友。私の結婚式で涙を流してくれて、毎日のように電話をかけてきて、「理安みたいな人と結婚できて、あなたは本当に幸せね」と言ってくれた人。私たちは、姉妹同然だった。「そんなこと、あり得ません」私はもう一度そう言ったが、今度は自分でも驚くほど弱々しい声になった。楓己は、気の毒な人を見るような目で私を見た。その目が、私は嫌だった。「何も気づかなかったのか?」「それは......」「もう半年だ、紗世」その期間を聞いて、私は思わず身を強張らせた。「......違う」「半年間、一度も疑わなかったのか?」「違うと言っているでしょう」私は立ち上がり、椅子が床を擦る大きな音を立てた。「私は夫を心から信じています。あなたが何を根拠にそんなことを言っているのかは知りませんが、きっと何かの誤解です」「落ち着け」「帰ります」「落ち着けって言ってる」その声に、私は足を止めた。大声でもなければ、威圧的でもなかった。ただ、絶対に逆らえない何かがあった。私は椅子に座り直した。彼は身を乗り出し、テーブルに腕を置いた。「6か月前、君と佐原理安の間で何か変わ
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