All Chapters of 裏切りには、裏切りを: Chapter 1 - Chapter 10

30 Chapters

第1話

花房紗世(はなふさ さよ)視点「君の夫は、俺の妻と浮気している」口に含んでいた水が思わず吹き出しそうになった。私はテーブルの向かいに座る堂本楓己(どうもと ふうき)を見つめた。聞き間違いに決まっている。そうでなければ、今の言葉は悪い冗談としか思えなかった。夫の佐原理安(さはら りあん)が私を裏切るはずがない。「堂本さん」私はグラスを慎重にテーブルへ置いた。手が震えているのを悟られないよう、慎重に。「冗談ですよね?こんなの、笑えませんよ」「俺が冗談を言っているように見えるか?」そうは見えなかった。楓己は、いつだって真剣そのものだった。だからといって、彼の言っていることが正しいとは限らない。「理安は私を愛しています」私はきっぱりと言った。「彼は、そんなことをする人じゃありません」「分かっている」彼の声は静かで、疲れていた。「3か月前までは、俺も成良のことを、同じように信じていた」成良。その名前を聞いただけで、胸の奥が嫌な騒ぎ方をした。水谷成良(みずたに せいら)。私の、ずっと昔からの親友。私の結婚式で涙を流してくれて、毎日のように電話をかけてきて、「理安みたいな人と結婚できて、あなたは本当に幸せね」と言ってくれた人。私たちは、姉妹同然だった。「そんなこと、あり得ません」私はもう一度そう言ったが、今度は自分でも驚くほど弱々しい声になった。楓己は、気の毒な人を見るような目で私を見た。その目が、私は嫌だった。「何も気づかなかったのか?」「それは......」「もう半年だ、紗世」その期間を聞いて、私は思わず身を強張らせた。「......違う」「半年間、一度も疑わなかったのか?」「違うと言っているでしょう」私は立ち上がり、椅子が床を擦る大きな音を立てた。「私は夫を心から信じています。あなたが何を根拠にそんなことを言っているのかは知りませんが、きっと何かの誤解です」「落ち着け」「帰ります」「落ち着けって言ってる」その声に、私は足を止めた。大声でもなければ、威圧的でもなかった。ただ、絶対に逆らえない何かがあった。私は椅子に座り直した。彼は身を乗り出し、テーブルに腕を置いた。「6か月前、君と佐原理安の間で何か変わ
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第2話

午後5時、楓己が迎えに来た。車の中で、私たちはほとんど言葉を交わさなかった。いったい何を話せばいいというのだろう。これから彼の思い違いだったと分かるのか、それとも私たち二人の人生が根底から覆されるのか、そのどちらかしかなかった。ローズウッド・リゾートは街の外れに佇んでいた。ガラス張りの建物から柔らかな明かりがこぼれ、これ見よがしに誇示する必要のない、静かな品格と豊かさに満ちている。楓己の話によると、理安が東館を丸ごと貸し切っているため、一般客は立ち入れないらしい。けれど、楓己はすでに手を回していた。裏口では従業員が二人待っており、折り畳んだ札を何枚か渡すと、私たちを従業員用の通路に通し、東館にある宿泊客専用の庭園まで案内してくれた。1時間ほど前から、空では雷が鳴り続けていた。黒い雲が凄まじい速さで押し寄せ、雨の匂いが漂っている。「急ごう」楓己が小声で言った。私たちは木立に沿って進んだ。――きっと何も見つからない。誰もいない庭があるだけで、すべては誤解なのだ。自分は愚かではなかったと証明できる何かを持ち帰れるはずだと、私は何度も何度も自分に言い聞かせた。そのとき、彼の姿が目に入った。理安だ。私の夫が、庭園の2本の木の間に立っていた。仕事中とは到底思えないほどくつろいだ格好で、リネンのシャツの袖をまくり、片手にグラスを持っている。もう片方の腕には、そこが自分の居場所であるかのように成良が収まっていた。二人は笑っていた。まるで、この世界が二人にしか分からない幸福な物語であるかのように。私は足を止めた。両脚の感覚がなくなっていた。――嘘。頭の中で叫び声が響く。――嘘、嘘、嘘。楓己も隣で立ち止まった。彼が一瞬私を見たのが分かった。私がまだ立っていられるかどうか、気づかれないようにそっと確かめているような視線だった。私は辛うじて立っていた。震える手でスマホを取り出し、理安に電話をかけた。庭園の向こうで、理安が画面に目を落とした。彼が成良に何かを告げると、彼女は呆れたように目を回した。それから、理安が電話に出た。「もしもし、紗世」その声は優しく、楽しげで、いつもと何ひとつ変わらなかった。「ちょうど君のことを考えていたんだ」喉が塞がったように声が出なかった。そ
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第3話

楓己は私を家には送らなかった。私も何も言わなかった。言えるはずもなかった。雨は三歩先さえ見えないほど激しく降り続き、私は全身ずぶ濡れで、自分の身体を支えることすら難しいほど震えていた。楓己はリゾートの従業員に小声で何かを伝え、カードを差し出した。それから数分もしないうちに、私たちは西館のスイートルームへ案内された。部屋は暖かく、いかにも高級で、今夜の私にはあまりにも美しすぎた。私はまっすぐソファへ向かって腰を下ろし、そのまま動かなかった。濡れた服を脱ぐこともなく、ただ壁を見つめていた。窓を激しく打ちつける雨音を聞きながら、心の同じ場所が何度も壊れていくのを感じていた。楓己は静かに部屋の中を動き回っていた。暖房を調節する音や、ミニキッチンでマグカップが触れ合う音が聞こえる。彼が何も話しかけてこないことがありがたかった。今の私には、口にできる言葉など何ひとつなかった。楓己が、目の前のテーブルにコーヒーの入ったマグカップを置いた。私はそれを見つめた。「これを」冷たい言い方ではなかった。片手では震えて持てそうになかったため、私は両手でマグカップを包み込んだ。温もりがじわじわと手のひらに染み込み、まるでそれだけが、この世界に残された唯一確かなもののように握りしめた。私は長い間、声を押し殺して泣き続けた。何度拭っても涙が次から次へとあふれてくる。こちらの都合などお構いなしに流れ出し、止まってほしいと願っても決して止まらない、そんな涙だった。楓己は私の隣に座っていた。近づきすぎることなく、ただそこにいてくれた。暖房がついているのに、しばらくすると私は再び震え始めた。服はまだ湿っており、庭園からこの部屋にたどり着くまでの間に身体の芯へ入り込んだ冷気が、いつまでも消えずに残っていた。「こっちへ」楓己が言った。問いかけではなかったが、強引な響きもなかった。彼の言葉はいつもそうであるように、穏やかで迷いがなかった。私は何も考えずに彼へ身体を預けた。楓己は私の肩に腕を回し、そっと抱き寄せた。彼の身体は温かく、たくましかった。雨の匂いに混じって、清潔な香りがした。私はもう少しだけ泣いた。楓己は泣くなとは言わなかった。大丈夫だとも言わなかった。ただ私を抱きしめ、気が済むまで泣かせてくれた。それが今の私には、
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第4話

私は椅子を引いて立ち上がった。必要以上に心臓が速く脈打っている。「傷ついているから、こんなことを言っているだけかもしれない。でも、私たちが不倫していると知ったときのあの二人の顔を、見てみたいとは思わない?」楓己はドア枠から身体を起こし、ゆっくりと私へ近づいてきた。「不倫か」「ええ」私は彼の視線を受け止めた。「後腐れはなし。感情も持ち込まない。同じように裏切られた者同士で、お互いの伴侶にふさわしい報いを受けさせるだけ」彼は私の目の前で足を止めた。視線を合わせ続けるには、わずかに顎を上げなければならないほど近い。「具体的には?」シャツはまだ彼の手の中にあり、身につけようともしていなかった。私は笑った。けれど、それは少しも笑顔らしくなかった。「あの二人にできるなら、私たちにだってできる」そこで一度言葉を切った。「あなたに、その気があるなら」心臓が激しく脈打っていた。私にとっては、何もかもが未知の領域だった。24時間前なら、命に懸けて自分には絶対にできないと言い切っていたはずのことだ。楓己は長い間、私を見つめていた。彼のほうが冷静になり、何か真っ当なことを言って、崖っぷちに立つ私たち二人を思いとどまらせるのではないかと思うほど長かった。けれど次の瞬間、彼の手がゆっくりと伸びてきた。指が私の顎を包み、顔を上向かせる。一瞬、心臓が止まったように思えた。楓己の唇が重なった瞬間、頭に残っていた思考がすべて消え去った。私は目を閉じ、熱く迷いのない彼の口づけを受け入れた。すると突然、楓己が私の身体を軽々と抱き上げた。思わず声を上げて彼の肩につかまり、両脚をその腰へ巻きつける。彼はまるで私に重さなどないかのように、寝室まで運んでいった。昨日、成良を抱き上げた理安も、同じように感じていたのだろうか。その考えが根を下ろす前に、私は頭から追い払った。楓己にベッドへ放り出され、柔らかなマットレスの上で一度身体が弾んだ。私はすぐに上半身を起こした。全身が激しく脈打っていた。怖くて、傷ついていて、それでも恐ろしくなるほど強く、この先を求めていた。彼の腰からタオルが落ち、私は息の仕方を忘れた。彼はすでに硬く勃起していた。太く逞しいそれには血管が浮かび、先端には透明な雫がにじんでいる。その姿を
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第5話

楓己視点俺は、愛をそれほど重んじる男ではない。だが、信義は別だ。俺にとって、裏切らないことには何よりも価値があった。俺が生きてきたのは、さっきまで笑顔を向けていた男が、次の瞬間には肋骨の間へ刃物を突き立ててくるような世界だった。父は身をもってそれを思い知り、俺はそんな父の姿を見て学んだ。だから誰も信じなかった。常に慎重に行動し、付き合う人間を最小限に絞り、余計なことは口にしなかった。それなのに、なぜか成良だけは、そのすべてをすり抜けて俺の懐へ入り込んだ。父の命を狙った連中をあぶり出すには、人目につかないように姿を消す必要があった。目立たず、ひっそりと暮らし、誰も二度とは気に留めないような男になる。そのために最も手っ取り早い方法が結婚だった。妻を持ち、平凡な仕事をして、退屈な毎日を送る。誰も、退屈な男を疑ったりはしない。3年近く前、俺はあるバーへ入った。最初に見つけたのは、彼女だった。テーブルを囲んだ3人の女が、何かを話して笑っていた。何を話しているのかは聞こえなかったが、そのうちの一人に目を奪われた。柔らかな顔立ちと、控えめな笑顔。自分がそこにいるだけで周囲の空気を変えてしまうことに、本人だけが気づいていないような女だった。紗世。彼女が友人に何かを囁くと、三人揃って楽しそうに笑った。俺のことを話しているのだと分かったため、声をかけに行こうとした。そのとき、成良が俺の前へ現れた。自信に満ちた笑みと、自分が男にどんな影響を与えるのか熟知している目。彼女が自己紹介を終えた頃には、紗世はすでにバーから姿を消していた。そして、俺の頭からも消えた。その夜、俺は成良を家へ連れ帰った。彼女は俺が求めていた役柄にぴったりだった。派手で人目を引き、考えが浅いから余計な詮索をせず、俺が彼女を選んだ理由を誰にも疑われないほど美しい。俺は彼女に交際を申し込み、もう一人の女を記憶から消した。自分で成良を選んだのだ。付き合い始めて半年が過ぎた頃、成良は親友である紗世の結婚式について、しきりに話すようになった。相手は佐原理安という資産家で、誰もが羨む理想の結婚相手らしい。成良も、そんな暮らしを望んでいた。何度もそう聞かされた。俺は、3年待ってほしいと伝えた。だが、彼女は黙って待てるほど俺を愛してはいなかった
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第6話

これまで俺は、わざわざ理安に関わろうと思うほど、あの男に興味を持ったことはなかった。だが2日前、理安の化けの皮を剥いでやろうと決めた。成良と完全に縁を切る前に、佐原理安という夫が本当はどんな人間なのか、紗世に見せてやるつもりだった。子供じみた意趣返しかもしれない。だが、きっと胸がすくだろう。それに調べた限り、紗世は動かぬ証拠さえ見れば、その瞬間に結婚を終わらせる女だった。ただ、俺には紗世自身が予想外だった。彼女が俺の目をまっすぐ見つめ、あの二人と同じことをしようと持ちかけてくるなど、想像もしていなかった。そんな誘いを断れる男が、いったいどこにいるというのだ。紗世は美しかった。肌を隠しすぎるほど慎ましい服を着て、夫の名の陰に自分を隠していた。それでも俺は3年前、あのバーで彼女を見つけたとき、もう知っていた。彼女の柔らかな雰囲気の奥に、激しい炎が秘められていることを。そして今、彼女は俺にその炎へ触れることを許そうとしていた。後腐れも感情も一切なし。ただ身体を重ね、復讐を果たし、最後には何も残さず別れる。紗世は、自分でも気づかないうちに俺の世界をめちゃくちゃにした。そして俺は、彼女を抱いた。たまらなかった。快感に彼女の表情が変わっていく様子も、口から漏れる声も、俺を待ち続けていたかのように、俺を締めつけてくる感触も。紗世は何もしていないのに、存在そのものが男を誘惑する。しかも本人は、それにまるで気づいていない。そんな人を、一度抱いただけで満足できるはずがない。裸のまま頬を赤らめ、静かに隣へ横たわっている姿を見ていると、欲望はまた硬くなっていた。もう一度彼女の中へ入りたい。身体をひっくり返し、最初からやり直したかった。だが、少し時間を与えなければならない。彼女には息を整える時間が必要だった。そこで、ふと思い出した。俺は彼女の中に出していた。中に出していいか、事前に確かめていなかった。彼女は、最も信頼していた二人に心をずたずたにされたから、こんなことをしている。俺の恋人でもないし、そこまで許したわけでもなかった。「すまない」俺は口を開いた。「中に出してもいいのか......先に聞くべきだった」紗世は枕に頭を預けたままこちらを向き、しばらく俺を見つめた。「気にしないで
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第7話

理安の声を聞いた瞬間に萎えていた俺自身は、すでにまた硬くなっていた。俺は身体を下へ移し、両手で彼女の胸を包んだ。片方ずつ乳首を口に含み、強く、それでいてゆっくりと、たっぷり時間をかけて吸い上げる。紗世の口から、再び喘ぎ声が漏れた。理安は怒鳴りそうな声を上げた。「どういうことだ、紗世。今何をしてる?俺の質問に答えろ」「何を言ってるの?」彼女の声は激しく乱れ、瞳には欲望があふれていた。俺は構わず吸い続けた。「テ、テレビの音よ。私が家にいるのは知ってるでしょう?理安に会いたくてたまらないの。だから......気を紛らわせようとテレビをつけたの」「本当か?」平坦で、疑いに満ちた声だった。「本当よ」息を弾ませながら答えた彼女の口から、また小さな喘ぎ声が漏れた。「だったら、どうしてそんな声を出してる?何をしてるんだ?」「今、横になったところ」紗世は淀みなく嘘をついた。「少し前まで腹筋運動をしていたから」「そうか。じゃあ、テレビはちゃんと消せよ。ああいう下品な番組は見るなと言っただろう」「うん。愛してるよ、理安」彼女は喘ぐように言い、そのまま電話を切った。スマホがシーツの上に落ち、手の届かないところまで滑っていった。俺は胸元から顔を上げ、紗世を見つめた。24時間前まで完璧な妻だった、紗世を。「何?」紗世が笑顔で尋ねた。俺も笑い返した。「いや、大した女だと思ってな」彼女の笑みが消え、表情が真剣なものに変わった。「私は、一度始めたことは必ず最後までやり遂げるタイプなの」「それなら、このゲームのルールを教えてくれ。具体的にどう進めるつもりだ?」「簡単よ。これから私たちは何度もセックスする。私の家でも、あなたの家でも、少しでも痕跡を残せる場所ならどこでもいい。理安に私の浮気を疑わせたいの。わざと手がかりを残して、問い詰めてきたら、勘違いした自分が馬鹿だったと思わせるわ」紗世は一度言葉を切った。「自分の妻がほかの男に抱かれるところを目にする苦しみを、理安にも味わわせたい。だから最後の仕上げでは、理安と成良が、私たちのセックス現場を目撃するように仕向けるのよ」その声は一度も震えなかった。「二人がどんな顔をするのか、この目で見たい。そして理安が怒りをあらわにしたところで、
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第8話

俺は紗世を抱いたまま浴室へ足を踏み入れた。柔らかな天井照明に照らされ、白いタイルが艶やかに輝いている。浴室は広々としており、一泊の料金だけで、一般家庭の家賃一か月分を上回りそうなほど豪華だった。奥の一角には巨大な猫脚のバスタブが置かれ、ひときわ存在感を放っている。少し前に俺が浴びたシャワーの湯気がまだ鏡に残り、その縁を白く曇らせていた。紗世は俺の首に両腕を回したまま、胸元で楽しそうに笑っていた。腕の中にある身体は温かく、力を抜いて俺に身を委ねている。洗面台へ彼女を下ろすと、裸の尻が冷たい石に触れた。紗世は温度差に小さく息を呑んだが、俺を迎え入れるように両腿を自然と開いた。その間に立ち、両手で腰をつかんで手前へ引き寄せる。すでに太く硬くなり、疼いていた俺自身が、濡れた襞へ押し当てられた。彼女の身体は先ほどの名残で、まだ滑らかに濡れていた。内ももにはきらきらと光る愛液が残り、その光景だけで、喉が鳴るほど欲望をかき立てられた。裸で脚を広げ、浴室のカウンターに腰かけながら俺を待っている姿に、顎へ力が入った。「自分が俺をどれほど欲情させているか、君は何も分かっていない」俺の声は低くかすれていた。紗世が手を伸ばし、俺自身を指で包み込んだ。根元から先端まで、ゆっくりと撫で上げていく。意図的に焦らすような動きで、親指は先端を円を描くようになぞり、すでににじんでいた先走りを塗り広げた。俺は呻き声を漏らし、頭を前へ垂れた。彼女の手に包まれる感触は、たまらないほど気持ちよかった。きつく、それでいて扱い方を知り尽くしているような手つきにしばらく身を任せてから、俺はその手首をつかんだ。「浴槽の中で君を抱きたい。濡らしたまま、俺を締めつける感触を味わわせてくれ」紗世は何も言い返さなかった。俺は手を伸ばして蛇口をひねった。熱い湯が大きな音を立てながら白い浴槽へ流れ込み、濃い湯気が立ち上る。浴室は勢いよく流れる湯の音と、俺たちの乱れた呼吸で満たされた。温度を調節しながら浴槽の半分ほどまで湯を張り、蛇口を閉めた。最初に俺が浴槽へ入った。身体を沈めていくにつれ、熱がふくらはぎから太ももへ染み込んでくる。二人で入っても十分な広さがあり、曲線を描く浴槽の縁に背中を預けると、湯が胸元で静かに揺れた。俺は紗世へ手を差し出した。
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第9話

だが、俺はまだ終わっていなかった。紗世が息を整えるより先に、その身体を俺の上から持ち上げた。大きく湯を跳ねさせながら向きを変え、浴槽の壁へ両手をつかせる。手のひらに触れる白い陶器の冷たさが、熱い湯と火照った肌との鮮烈な対比を生んでいた。紗世は浴槽の中で膝をつき、背中を反らしている。尻は俺の腰へ押しつけられ、秘部は大きく開き、俺を待っていた。「今度は、このままだ」欲望でかすれた声で告げた。俺自身を再び彼女の入り口へ導き、先端だけで焦らす。濡れた襞の間を滑らせて愛液を絡め取ってから、クリトリスへ擦りつけた。紗世は切なげな声を漏らし、腰を後ろへ突き出した。自ら俺に貫かれようとしている。「まだだ」俺は腰を押さえ、その動きを止めた。「欲しいと懇願する姿を見せろ」紗世がわずかに顔を振り向かせた。欲望に潤んだ目と、薄く開いた唇。必死な表情を浮かべ、今なら俺に命じられたことを何でも受け入れそうだった。「お願い......」彼女は吐息交じりに囁いた。それだけで十分だった。俺は一息に腰を突き出し、根元まで深く埋めた。紗世は大きな声を上げ、壁を引っかこうとするように指を動かした。熱く、きつく、湯と愛液で滑らかに濡れた彼女の内側が、握り締める拳のように俺へ絡みついた。俺は容赦なく、激しい動きで突き始めた。浴槽の縁を越えて湯が飛び散る。一度突くたびに紗世の身体は前へ押し出され、胸が陶器の壁へ押しつけられた。彼女の喘ぎ声は途切れ途切れの息へ変わり、それが俺をさらに駆り立てる。濡れて光る俺自身が出入りする様子を見つめた。淡い色の襞が俺の太さに押し広げられ、動くたびに愛液が絡みついてくる。「まさか俺の全部を受け入れるなんて」両手で腰をつかみ、一度突くたびに強く引き寄せながら呻いた。「自分の姿を見てみろ。君のあそこ、俺を残らず呑み込んでる」片手を前へ回し、再びクリトリスを探り当てた。滑らかに濡れ、膨らみ、触れられることを求めている。後ろから激しく突き続けながら、指先で小さな円を描くように擦った。俺たちの周りでは、動くたびに湯が激しく揺れ、浴槽の外へ飛び散っている。「俺の名前を呼んでみろ」耳元で荒々しく言い聞かせた。「楓己さん......」紗世は喘ぎ、声を途切れさせながら答えた。「そ
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第10話

紗世視点私はゆっくりと目を覚ました。一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。けれど、すぐに思い出した。リゾート、楓己、浴室、そして浴室を出たあとのベッド。枕の上で顔を横へ向けた。楓己はまだ隣で眠っていた。仰向けになり、片腕を腹部に乗せている。シーツは腰骨の辺りまでずり落ちていた。私は彼を見つめた。これまで、彼の身体をじっくり見たことはなかった。彼に翻弄され、そんな余裕などなかった。けれど今は、心ゆくまで眺めることにした。広い肩、厚い胸板、平らな腹部と、その下へ伸びるくっきりとした筋肉の線。今の私は、その身体がどんな感触なのか知っている。何ができるのかも知っている。ベッド脇のテーブルでスマホが振動すると、楓己はいかにも彼らしい目覚め方をした。一瞬で完全に覚醒し、あくびも伸びもせず、目を開けたときにはすでに手を伸ばしていた。静かに電話へ出て、短く三言だけ告げると通話を切った。そして、私を見た。「腹は減ってるか?」「あんまり」「打ち合わせがある。家まで送ろうか?」「うん」会話はそれだけだった。楓己は見せつけるような仕草を一切せず、淡々と服を身につけた。私はその様子を眺めていた。一度だけ、見ていることに気づかれた。彼の口元がわずかに緩んだが、何も言わなかった。でも何も言わないところが、私は気に入った。――帰りの車内は静かだった。窓の外を流れていく街並みを眺めながら、私は何も考えなかった。あるいは、あらゆることを考えすぎて、何もかもわからなくなったのかもしれない。楓己は門の前に車を止めた。しかし外へ出ることも、こちらへ身体を寄せることもなく、ただ私を見た。「また連絡する」「うん」私は車を降りた。背後で門が閉まる。自宅の敷地を歩きながら、以前よりもすべてが小さくなったように感じた。――寝室へたどり着いたところで、脚から力が抜けた。私はベッドへうつ伏せに倒れ込んだ。激しい疲労が一気に押し寄せてくる。全身の筋肉、太ももの裏、顎、痛くなるとは思いもしなかった場所まで、すべてが重く疼いていた。スマホが鳴った。私は横向きになり、画面を見た。理安からだ。着信音が鳴り続けるのを、ただ見つめていた。画面の上で彼の名前が点滅して
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