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第3話

Auteur: 真夏の猫
結婚したばかりの頃、二人はゴールデンレトリーバーを飼っていたが、初めて別荘に訪れた心を怖がらせたため、蓮の手で安楽死させてしまった。

この犬小屋は、蓮が自分を愛していた証だと夕子は信じて、ずっと解体せずにいた。

「触るな!行かないわ!」夕子は鋭い声で怒鳴りつけた。

警護員は乱暴に彼女を引きずりながら進んだ。蓮が彼女を尊重しないからか、警護員までが彼女を見下すようになっていた。

無理やり犬小屋に押し込められた夕子がもがいていると、いつの間にか辰夫が現れ、犬小屋の前に立ちふさがった。

辰夫はバケツの水を彼女にぶっかけ、手を叩きながら笑い転げた。「ははは、びしょ濡れの鼠だ!」

「辰夫、お母さんにそんなことをしちゃダメよ」心は彼の頭を優しく撫でながら、目尻を下げて笑った。

「あの女、僕とパパに虐められるのが大好きなんだ。おばさんも水かけてみる?」辰夫は得意げにそう言うと、また夕子に冷たい水をぶっかけた。

夕子は全身が冷えきっていた。夜風が吹き抜け、彼女は震えが止まらなかった。

「もうやめなさい!辰夫!」彼女は歯をガチガチ鳴らし、目には冷たさしかなかった。辰夫も蓮と同じで、どれだけ努力しても、二人の心を温めることはできなかった。

辰夫は夕子に怒られたとたん、目を真っ赤にし、振り向くと走り去った。「怒鳴ったとパパに言いつけるぞ!」

辰夫が言葉を覚えてからというもの、夕子が少しでも気に入らないことがあると、すぐ蓮に告げ口し、仕返しをさせた。

辰夫が転ぶと、蓮はボディガードに何度も夕子を押し倒させ、彼女を傷だらけにさせた。辰夫は偏食だった。夕子が野菜を食べさせようとすると、蓮は彼女にアレルギー食材を無理やり食べさせ、窒息して気を失うまでやめなかった。

……

夕子は以前、蓮が自分への愛情を辰夫に移したから、あんなに甘やかすのだと思っていた。

なんて愚かだったのだろう。蓮が辰夫を愛したのは、あの子が彼と心の間に生まれた息子だからにすぎない。

「夕子、もう蓮さんと離婚したくせに、いつまで居座ってるの?この家にあんたの居場所なんてないわ」

心はついに本性を剥き出しにし、夕子を憎々しげに睨みつけた。「さっさと出て行きなさい。じゃないと容赦しないよ」

夕子は自嘲的に笑った。「出て行くよ。蓮とあなたが末永く幸せに、子だくさんでありますように」

蓮が出てきた途端、その言葉が耳に入った。彼の表情は一瞬で険しくなった。「夕子、お前は出ていくのか?」

夕子は黙ったままだった。すると心が突然犬小屋を開け、夕子を引きずり出した。

夕子がまだ体勢を整える間もなく、心は地面に座り込み、まだ膨らんでいない腹を手で押さえた。「姉さん、またこんな手で蓮さんに同情を引こうとしないで。犬小屋から出してあげたのに、どうして私を突き飛ばすの?私を憎むのは分かってる。戻ってくるべきじゃなかったし、蓮さんと一緒になるべきじゃなかったわ。私が出ていくから、全部姉さんに譲るよ」

「心、いつまで演技を続けるつもり?」夕子はしっかりと立ち、冷たい視線を向けた。

「あなたが奪えるものは、元々私のものじゃなかった。廃品回収が好きなら、勝手に持っていけばいい」

蓮は彼女の言葉を聞いて、不意に胸が騒ぎ、怒りが込み上げてきた。

心を抱き上げると、冷ややかに夕子を見下ろした。「人を押した上に悪口まで吐くとは、夕子、お前はもっと礼儀を学ぶ必要があるな」

「蓮さん、闘技場で犬の調教ショーがあるって聞いたの。姉さんは子供の頃から犬を飼ってたから、試しに行かせてみたら?ちょっとしたお仕置きとしてね」心は蓮の胸に寄り添い、甘えた声で囁いた。

「わかった、お前の言う通りにしよう」蓮の目から冷たさが消え、代わりに溺愛の色が浮かんだ。

夕子の心はどんと沈み、身を引いてボディガードの手を避けた。

「そんなことをしないで!細川お婆さんに私を大切にすると約束したでしょう。こんなことをするなんて許せない!」

蓮の表情は険しかった。「お婆さんがお前をかばっていなかったら、こんなに長く細川夫人でいられたと思うか?」

「行かないよ!彼女を押さなかったよ!」心が怒鳴り返した。「庭に監視カメラがあるから、確認してみればいいじゃない!」

蓮は心を抱き締め、夕子には一切目を向けなかった。「そんな必要はない」

夕子は雷に撃たれたように立ちすくんだ。彼は彼女が冤罪かどうかなど微塵も気にかけていない。心だけが視界に映り、その笑顔を守ることだけが彼の全てだった。

ついに彼女は獣闘檻に放り込まれた。

周囲には蓮の取り巻きたちが集まり、彼女を指差しながら賭け事を始めていた。彼女が何分持ちこたえるか、そういう賭けだった。

蓮は心を抱いて中央の席に座り、冷たい表情を浮かべていた。

夕子は蓮を見つめ、鉄格子に手をかけて立ち上がると、歯を食いしばった。「蓮、私も賭けていい?」

蓮は興味を引かれ、唇を歪めて彼女を見た。「何を賭けるんだ?」

「30分耐えられたら、実の娘の居場所を教えて!」夕子は拳を固く握りしめ、声を張り上げた。「あの時あなたは千葉家と組んで、私の娘をすり替えたでしょ。ただ居場所が知りたいだけだ」

蓮の表情が硬くなり、夕子を見る目が複雑になった。「でたらめ言うな?」

「蓮、でたらめかどうかはあなたが一番よく分かってるはずよ!教えてくれないなら、お婆さんに頼むまでだ」夕子は指先に力を込め、興奮で体が小刻みに震えた。

「脅しか?」蓮の周囲に冷たい空気が漂い、場が一気に静まり返り、無謀な夕子に視線が集まった。

夕子は恐怖を必死に押し殺し、真実を知るにはこれしかないと覚悟を決めた。「賭けてみない?ここはお前の手下ばかりだ。見縊るよ!」

蓮は彼女を鋭く睨みつけ、歯を食いしばって言った。「賭けてやる!」

蓮の仲間たちはやじを飛ばし、嘲り、中には彼女に向かって口笛を鳴らす者もいた。

「30分?この女、気でも狂ったか?」

「チベット犬と戦うなんて、1分も持つまい」

「蓮さん、賭けてやれ。どうやって耐えるか見物しようぜ」

「あははは、身の程知らずの馬鹿め」

「前に蓮さんを脅した奴はサメの餌になった。今度はお前が犬に食い殺される番だな!」

蓮がうなずくと、戦いが始まった。

黒い成獣のチベット犬が放たれ、緑色に光る目をしながら、入口で牙をむき出してうろついていた。だが、夕子にすぐに襲いかかる気配はなかった。

夕子は微動だにできず、両手で鉄格子を必死に握りしめていた。本能的な恐怖から涙がこぼれた。

一秒一秒と時が過ぎる中、チベット犬は相変わらず夕子を襲う素振りを見せなかった。

突然誰かが檻目がけてボトルを投げつけ、鉄格子に当たって粉々に砕けた。飛び散ったガラス片が夕子の顔を切りつけ、その大きな物音に刺激されたチベット犬が猛然と襲いかかってきた。

「きゃっ!」夕子は金切り声を上げ、檻をよじ登りながら体を小さく丸めた。足元ではチベット犬が跳び上がり、鋭い爪で彼女のふくらはぎを引き裂いた。激痛に全身が痙攣した。

周囲からは「降りろ!」、「戦え!」といった野次が飛び交った。

夕子の体は鉛のように重くなり、指先は血の気が失せ、鉄格子を握る力も徐々に奪われていった。

チベット犬は再び彼女のすねを襲い、その衝撃で彼女は転がり落ち、チベット犬の下敷きになった。

彼女は腕を上げてチベット犬の攻撃を防ごうとしたが、腕は噛み千切られてめちゃくちゃになり、前腕の皮肉が剥がれ落ちた。彼女の絶叫が場内に響き渡った。

蓮はなぜか胸が締め付けられるような感覚に襲われ、眉をひそめて命じた。「犬を外に連れ出せ!」

「蓮さん、まさか彼女を気にしてるんじゃないだろうな?」仲間が不満げに言った。「賭けはまだ途中だぞ。これで終わりにするのか?」

「あいつが死んだらお婆さんに説明がつかん。ここまでだ」蓮は冷たい視線で男を睨んだ。

男はしぶしぶ黙り込んだ。

夕子は全身血だらけだったが、チベット犬が引き離されるのを見て、精一杯声を張り上げた。「蓮、まだやれる。30分はまだ終わってない」

「ただの厄介者だ。欲しけりゃやるよ」蓮はイライラしてネクタイを引きちぎると、立ち上がってその場を離れた。

「厄介者じゃない……私たちの娘よ」

夕子は安堵の息を吐くと、血溜まりの中に崩れ落ちた。

蓮は彼女の呟きを耳にして、一瞬足を止めた。そして黙って大股で立ち去った。

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