INICIAR SESIÓN「BYC先生!」ウィリアム王子の声のデカさは航にも引けを取らないほどで、澪は鼓膜が破れるかと思った。「ウィリアム王子、とりあえず離してくれない?」澪にそう言われ、ウィリアム王子は自分がまた力加減を間違えたことに気づき、慌てて手を離した。「ああっ、申し訳ない!BYC先生ご本人にお会いできて、興奮のあまりつい……」澪とウィリアム王子が直接顔を合わせるのはこれが初めてだったが、二人は以前、エリザベス女王からの紹介を受けた後、メールで何度もやり取りを重ねていた。澪は毎回、仕事の話しかしていなかったが、ウィリアム王子はいつも話を脱線させ、プライベートな話題に持ち込もうとしていた。例えば、「先生にはボーイフレンドはいるのか?」と聞いてきたり、彼女の写真を褒めちぎったり、果ては「いい相手を紹介しようか?」とまで言い出す始末だった。澪の認識では、一国の王子というものは、もっと落ち着きがあり、王室らしい気品に満ちた人物のはずだった。しかし実際には、このウィリアム王子は恐ろしいほどの人懐っこさとゴシップ好きを兼ね備えていた。とはいえ、彼が自分よりいくつか年下であることを考慮し、澪は彼を弟のように扱うことにしていた。「先生なんてやめて、本名で呼んでちょうだい」「もちろん!喜んで!」ウィリアム王子は澪の目の前で、まるで熱狂的なファンが憧れのアイドルに会えたかのように飛び上がって喜んでいた。その光景を見て、美恵子は開いた口が塞がらず、顎が床に落ちるほど驚愕していた。「あの子、一体どうなってるの!?ウィリアム王子と知り合いだったっていうの!?」美恵子の隣に立つ業は何も答えず、ただただ眉を深くひそめている。泰臣たちは、澪が追い出されるどころか、ウィリアム王子と親しい友人であるのを見て、人知れずホッと胸を撫で下ろした。ダンスフロアで、踊らずに立ち尽くしているのは洵だけではなかった。愛生も同じだった。洵が彼女のパートナーである以上、彼が踊らないのに自分一人だけ踊るわけにはいかない。そんなことをすれば、ただピエロのように恥をかくだけだからだ。ウィリアム王子が澪を抱きしめた瞬間、洵は愛生の手を離し、王子に抱きしめられている澪を真っ直ぐに、瞬きもせずに見つめていた。今やすでに王子は澪から離れているというのに、洵は相変わ
「いくら林大臣でも、他人のプライバシーにまで踏み込んだ質問をするのはいかがなものかと存じますが?それとも、私は林大臣に逐一ご報告しなければならないような関係でしたでしょうか?」澪のその強烈な皮肉に、泰臣は言葉に詰まってしまった。傍らでは、雪代がうつむき、人知れず心を痛めているようだった。ピーターは、今日の澪の態度がどうにも理解できなかった。ただ一言「違いますよ」と答えれば済む話なのに、なぜあそこまで刺々しい口調で反撃したのか。それは、普段の温厚な澪のスタイルとは全く異なっていた。とはいえ、彼は不思議に思いながらも、澪のプライベートな事情に勝手に口出しするような真似はしなかった。「世の中にはね、大した実力もないくせに、プライドと気性だけは一人前の人間がいるのよ」美恵子は、澪が泰臣に盾突く態度がどうしても我慢ならなかった。「澪、林大臣が大人だからって、あなたを大目に見てくださってるのに調子に乗るんじゃないわよ!いいこと、このチャリティー晩餐会はZ国王室の主催なの。林大臣はZ国のウィリアム王子と大変親しい間柄なんだから。大臣を怒らせたら、ウィリアム王子にここから叩き出されることだってあるんだからね!」美恵子からすれば、澪はピーターの単なる同伴者、綺麗なだけの花瓶に過ぎなかった。その時、優雅な音楽が流れ始め、ゲストたちは次々とペアになってダンスフロアへと進み出ていった。「篠原社長、私と一曲踊っていただけるかしら?」愛生が自ら、洵に声をかけた。「いいわね、ダンスいいわね!洵、さあ早く行きなさい!」美恵子はウキウキしながら、洵の背中を押して愛生のそばへと促した。洵は悟られないように視線を動かし、澪の方をチラリと一瞥してから、低く静かな声で「分かった」と答えた。そして彼は愛生に腕を組むように合図した。愛生は自信に満ちた笑みを浮かべ、彼のエスコートに応じた。二人がダンスフロアへと歩みを進める最中、洵は振り返って澪の方を見た。澪は顔を背け、何やら不機嫌そうにしているように見えた。洵の美しい唇が、微かに弧を描いた。その微かな微笑みを間近で見た愛生は、片手で洵の腕を抱き、もう片方の手で赤いマーメイドドレスの裾を持ち上げながら、胸を張ってますます堂々と自信に満ちた足取りで進んでいった。愛生のドレスは元々
長年顔を合わせていなかったが、泰臣は確かに老けていた。しかし精神状態は良好なようで、髪をオールバックに撫でつけ、パリッとしたスーツを着こなすその姿には、政界の要人らしい威厳とオーラが漂っていた。雪代は若さを保つためのケアを徹底しているためか、年齢の痕跡はほとんど感じられなかった。澪が真っ先に気づいたのは、雪代の瞳に水晶のようにキラキラと光る涙が浮かんでいることだった。雪代は泰臣の腕をきつく握りしめていた。誰の目にも、彼女が必死にこみ上げる感情を抑え込んでいるのは明らかだった。しかし、その「感動の再会」の演技も、澪の目には何の価値もない茶番にしか見えなかった。澪は背を向けて立ち去ろうとしたが、泰臣に呼び止められた。「ゆ……澪……」泰臣が自分を呼ぶ声は聞こえていたが、澪は足を止めなかった。逆に、澪と腕を組んでいたピーターの方が驚いて立ち止まった。C国の外務大臣が、なぜ澪の名前を知っているのか不思議でたまらなかったのだ。「ちょっと!林大臣があなたを呼んでるのよ!」そこへ美恵子が足早に歩み寄り、まず澪をギロリと睨みつけてから、泰臣に向かって愛想笑いを浮かべた。「申し訳ありません、林大臣。この女、本当に礼儀知らずでして」泰臣の顔から、一瞬にして親しげな表情が消え失せ、氷のように冷たくなった。「篠原夫人は、澪をご存知なのですか?」「そりゃあもう、よく知ってますとも。私はかつて、彼女の……」美恵子が得意げに言いかけたその時、業が「ゴホン」とわざとらしく咳払いをした。美恵子は即座に口を噤んだ。彼女は危うく忘れるところだったのだ。自分たちが今まで、林家に対して「洵はかつて結婚していたが、今は離婚した」という事実を徹底的に隠蔽していたことを。業は、妻のこの口の軽さに本気で頭を抱えていた。泰臣は表情を変えずに業と美恵子をじっと見つめたが、その眼差しは先ほどまでの友好的で礼儀正しいものとは明らかに変わっていた。「澪。君は、篠原さんたちと知り合いなのか?」「知り合いだろうが赤の他人だろうが、あなたには関係ないと思います」澪のこの冷たく突き放すような態度は、泰臣を怒らせることはなかったが、逆に美恵子を激怒させた。「ちょっと、何なのその態度は!林大臣があなたに何か悪いことでもしたっていうの……!?」
だからきっと、泰臣と雪代も、私だとは気づかないはずだ。澪が背を向けて立ち去ろうとしたその時、彼女の視界にもう一人が入り込んだ。その人物は、ごく自然な動作で澪に向かって手を振ってきた。澪は一瞬呆然としたが、すぐに微笑み返した。傍らで澪のその反応を見ていたピーターの胸の中で、好奇心がますます大きく膨れ上がっていった。「君、林大臣の秘書と知り合いなのかい?」澪は視線を戻し、ピーターを見た。彼が非常に好奇心を掻き立てられているのは明らかだった。だが、林家とのドロドロとした因縁を彼に説明する気にはなれず、澪はただ「ええ」と短く生返事をした。ピーターは、澪がこれ以上語りたがらないのを察し、追及するのをやめた。二人が腕を組んだまま宴会場の奥へ進もうとしたその時、背後から美恵子の「林大臣!」という金切り声が響き、澪の耳を劈いた。振り返ると、業と美恵子の二人が、顔いっぱいに愛想笑いを浮かべて泰臣と雪代のもとへ直行していくところだった。双方は握手を交わし、上辺だけの挨拶を始めた。澪は少し離れた場所からその光景を眺め、微かにまぶたを上げた。美恵子があそこまで露骨に他人に媚び諂い、愛想を振りまくのを見るのは、これが初めてだった。そもそも、このようなチャリティー晩餐会に美恵子が同伴していること自体、澪にとっては意外だったのだ。澪の記憶では、業がこうした社交の場に妻である美恵子を連れてくることは滅多になく、代わりに若手の女優やモデルなどを同伴させることが多かったからだ。洵は、両親から少し遅れて、ゆっくりと泰臣たちの前に姿を現した。意図的に遅れたわけではなく、単に両親のように小走りで媚びを売りにいくような真似をしなかったため、遅れて到着したように見えただけだ。「こちらが篠原さんのご子息ですか。実に優秀ですね!」泰臣と雪代は申し合わせたように洵を値踏みし、その整った容姿と気品を口々に褒め称えた。洵はA国のビジネス界を背負って立つ若き才能であり、その名はC国にいる彼らの耳にも届いていた。傍らでその様子を見ていたピーターは、眉をひそめた。「まさか……篠原家は、篠原洵とあの林家の養女を政略結婚させるつもりなのか?」そう口にした直後、ピーターは慌てて澪の顔色を窺った。今の発言が彼女を刺激してしまったのではないか
美恵子は、憎悪に満ちた目で澪を睨みつけ、露骨に白目を剥いた。喉まで出かかった「ふしだらな女」という罵詈雑言は、口に出すことはできなかった。なぜなら、澪はすでに洵と離婚しており、もう篠原家の嫁ではないからだ。理屈から言えば、澪が新しい恋人を作ろうが誰と付き合おうが、彼らには口出しする権利など一切ないのだ。しかし、美恵子の心の中ではどうしてもその事実を受け入れることができなかった。澪のような身分の低い平凡な女が篠原家に嫁げたことは、何代にもわたる幸運の賜物であり、途方もない玉の輿だったはずだ。それなのにあの女は、恵まれた境遇に感謝するどころか、事あるごとに洵に離婚を突きつけ、ありとあらゆる騒ぎを起こし、何度も篠原家に迷惑をかけてきた。そして離婚した途端、すぐに別の男に乗り換えるなんて。美恵子は、澪のような軽薄で尻軽な女が許せなくて仕方がなかった。彼女は業の袖を引っ張り、澪を叱りつけるよう目配せをした。しかし、業は澪をチラリと一瞥し、その目に強い不満の色を浮かべるだけだった。篠原家の面々から放たれる刺すような視線には、いくら鈍感なピーターであっても気づかないわけがなかった。しかし澪は、最初から最後までピーターと楽しそうに談笑し続け、篠原家の三人には一切の視線を向けようとしなかった。双方の目的地は同じ――ロイヤル・ビクトリア号の第一宴会場だった。澪が宴会場に足を踏み入れた瞬間、彼女の両足は突然鉛を流し込まれたように、その場でピタリと動かなくなった。隣を歩いていたピーターは不思議に思い、澪の視線の先を追った。そこには、別の三人が立っていた。その三人もまた、家族のようだった。ピーターは瞬きをした。彼はC国の事情にそれほど詳しいわけではないが、C国最大の資本力を持つ林家の人間については、ある程度顔を知っていた。今この瞬間、澪が真っ直ぐに見つめているその先には、林家の人間がいた。男性はC国の外務大臣を務める林泰臣(はやし やすおみ)、女性はその妻であり、林グループの名誉会長にして一流のピアニストでもある楚原雪代(そはら ゆきよ)。そして、その二人の間に立っている若い女性。ピーターは、彼女こそが林家が最近迎えたという「養女」に違いないと推測した。林家の養女に関する噂は、ピーターも社交の場での雑談で耳に
千雪が好むような、あざといくらいピンク色を多用した少女趣味なメイクとも違う。かといって、愛生のように色気を前面に押し出した成熟したメイクでもない。かつて、洵は澪のことをこう評価していた。「白湯のような女だ」と。――味気なく、つまらない。結婚していた三年間、澪はずっと専業主婦として家にこもり、表舞台に顔を出すことはほとんどなかった。家ではメイクすらしないことも多かった。だから当時、航は澪のことを事あるごとに「おばさん」と呼んで揶揄していたのだ。社交の場で完璧に着飾る女たちと比べれば、当時の澪は確かに、白湯のように味気なかった。しかし……本当に喉の渇きを癒してくれるのは、白湯だけだ。どれだけ飲んでも体に害を与えないのも、白湯だけだ。そして、飲めば飲むほど、ほんのりとした甘さが染み渡るのも。「私たち、ずっとここに突っ立ってるつもりかしら?」洵が一向に口を開かないため、愛生の方からしびれを切らして声をかけた。「いや、レストランを予約してある」洵は淡々と答え、背を向けて歩き出した。愛生はその後を追い、洵の横に並んで歩いた。彼女は、大勢の人の中でも一目で人々を虜にするような圧倒的な美女だ。そのグラマラスで色気溢れるプロポーションに加え、「カーレースの女神」という肩書きまで持っている。サーキットを出るまでの間、数え切れないほどの人々が羨望の眼差しを彼女に向け、サインを求めてノートを差し出してくる者もいた。しかし、彼女の隣を歩くこの洵だけは、彼女を一度もまともに見ようとしなかった。「篠原社長が今夜私を誘ってくださったのは、プライベートのご用件かしら?それとも、ビジネス?」洵のインペリアルブルーのベントレーの助手席に乗り込みながら、愛生は探るように尋ねた。洵は冷たくも熱くもない視線で愛生をチラリと一瞥した。「君がどう受け取るかは、君の自由だ」愛生は一瞬呆然としたが、彫刻のように端正で冷酷な洵の横顔をじっと見つめ、やがて燃えるような赤い唇の端を面白そうに吊り上げた。……飛行機が離陸し、大空へと舞い上がった。今日、澪とピーターは飛行機に乗り、Z国で開催されるチャリティー晩餐会へと向かっていた。「僕たちの出品したジュエリー、最終的にどっちの方が高い落札額がつくと思う?」ピーターが興味