LOGIN美貌の外科医、二階堂神楽31(にかいどうかぐら)と1年間の契約結婚をした片桐紅29(かたぎりべに) 理想の妻を演じ、きっかり1年後、契約満了で豪邸を出て行った。 ところが……残された神楽の心に残る紅。 実は契約結婚は紅で3度目の神楽。 以前の妻たちは契約を守らず、神楽を愛し、体を開いた。けれど紅は思い通りにならない。 それが神楽は悔しくてならない。 実は紅も、神楽との契約結婚には、ある思いを持って臨んでいた。 神楽は覚えていないものの、2人は因縁の関係で、この契約結婚は、紅とって復讐、そしてやり返しの意味があったのだ。 離婚しても形を変えて2人は繋がり続け、攻防戦は激しさを増していき、結果、2人の着地点は…
View More「片桐社長は、妻である私の母の名義を無断で使用し、借入書類を作成していました。母の実家から多額の資金を調達しながら、それを母個人からの貸付であるかのように処理していたのです。しかも母本人は、その事実を知らされていませんでした」紅の言葉に役員たちは顔を見合わせ、囁きあった。「何が悪いっ?! 咲子の実家はトオキ屋のために喜んで金を出した! 咲子の名前を借りただけだろうが! 俺は会社を守るためにやったんだ!」「実家の両親は、私のためを思って出してくれたんです。……政略結婚に近い結婚をした私を不憫に思って、少しでも私がつらい思いをしないようにって……」母の青白い頬に涙が伝い、役員たちの表情が沈む。紅は母に寄り添い、その細い手を握った。「……聞けば聞くほどカッコ悪い話ですね」神楽が薄笑いで父を見つめた。「他人の財産と妻の名義を利用しなければ維持できない会社を、ご自分の手腕で守ってきたとお考えですか。……実に興味深い経営哲学ですね」「なんだと?……きさま、娘を嫁に欲しいというなら、」「別にあなたのお許しはいらないと思いますよ?」「……くっそ……っ!」父がよろよろと神楽に近づき手を振り上げた。まさか手を挙げる気か……?紅はとっさに神楽をかばおうと前に立とうとした。ところが逆に神楽は紅を庇い、振り上げた父の手を難なく掴む。「こんなに強そうな腕をお持ちだったのに……妻も娘も守れないなんて、宝の持ち腐れですね?」「貴様……!人の会社で勝手なことを言いやがって……」「社長」光世の静かな声が、会議室に響いた。「ここはあなた個人の所有物ではありません。株式会社トオキ屋の取締役会です」「何を偉そうに……!」「議事を進めます」光世は父の言葉を遮り、役員たちを見渡した。「社長の長女、紅によって明かされた不正な資金調達とその責任については、資料をご確認いただいたとおりです。これ以上、現社長に経営を任せることはできないと考えます」光世は一呼吸置いた。「そこで、片桐社長の代表取締役解職を議案として提出します」父の顔から、みるみる血の気が引いていった。……そして力なく膝をつく。「……これが、あなたのやってきたことです。役員の判断を受け入れてください」母の体力の限界を感じた紅は、光世と視線を交わし、神楽に守られながら会議室を後にした。父は失脚を免れ
「……それでは、株式会社トオキ屋、臨時取締役会をはじめさせていただきます」光世が席を立ち、取締役たちに向かって丁寧に頭を下げた。その穏やかな態度が、昔から気に入らない。……毎回イライラさせられる。「……芹沢さんがまだ来てない。あの人は忙しいからな、到着まで待つぞ」「彼なら来ませんよ」こちらを見ずに手元の資料に目をやり、光世が軽い調子で言った。「何を言ってる……?今日は新会社代表取締役の、正式な調印も兼ねた会だろう?」「何か誤解なさっているようですが、それは違いますよ?」光世が手元のパソコンを操作してスクリーンに映し出したのは「トオキ屋海外事業の移管反対について」という文字。「残念ですが社長、本件については、すでに複数の取締役から反対意見が寄せられています。本日は正式に採決を行います」「どういうことだ?」立ち上がり、役員を端から睨みつけた。「海外事業の移管と芹沢さんが代表取締役になることは決定だ。トオキ屋本体に手を付けるわけではない。世襲制度だって守ってやっただろう」腹の底から声を張り上げ、大きな身ぶりで話せば……だいたいの役員は目を伏せ、従ってきたのに……「……っ!?」……誰ひとり下を向かない。それどころか、強い視線を返してくる。「海外事業の移管には反対します!」「新会社設立にも納得できない!」「世襲制度を守ればいいというものではない!」口々に上がる批判の声に耳を疑いながら、その声をかき消すよう声を張り上げた。「……黙れっ!社長である俺の言うことが聞けないのか?!」「反対意見とぶつかったところで、海外事業移管の承認について採決を行います」光世が静かに告げた。……ふざけるな。俺の意向を無視して、勝手に話を進めるつもりか。だが、俺の怒りなど意に介さず、役員たちが次々と反対の意思を示した。「……反対多数。よって、本件は承認されませんでした」「ちょっと待てっ!そんなことは許さんぞ?」「伯父さん、トオキ屋には定款も社内規程もあります。まさかご存じなかったんですか?お祖父ちゃんのあとを継ぐまで、勉強する時間は十分あったはずなのに」「生意気なことを言うなっ!これからは社長である俺の判断で経営していく!」「だったら改正案を出して議論しないと。トオキ屋は個人のものではありませんから」光世は立ち上がり、役員たちに言った。「
「紅」母の病室を出ると、そこに神楽が壁にもたれて待っていた。……白衣を着ていないところを見ると、今日の勤務は終わったのだと思う。でも、こんなに早く終わる予定だったか……「京香に、ここにいてやれって言われてさ。颯真にも早上がりを命じられたよ」紅は2人の配慮に感謝しながら、神楽の胸に頬を寄せる。……緊張していた糸が緩んだような感覚を覚えた。「……父の計画を止める方法?」「あぁ……ただし、確実に止められるかどうかは、これからの話次第だ」神楽の運転でトオキ屋本社に向かいながら、神楽は考えた方法をざっくり紅に説明した。到着した2人はトオキ屋本社の会議室で光世と3人で顔を合わせた。「これが、トオキ屋の社内規程です。……昼間連絡をもらって、コピーしておきました」「ありがとうございます。光世さん。海外事業をTOOKIコーポレーションへ移す件ですが、取締役会で正式に承認されたんですか?」「いえ、それはまだ……議案にも上がっていません。……そもそも私だって昨日の臨時役員会で初めて知ったくらいなので」「だったら、まだ間に合いますね。……そこで、この社内規程です」首を傾げる紅に、神楽は小さく笑った。「会社の重要な事業を他社へ移す場合、取締役会での承認が必要だと書いてある」「それって……社長が独断で進められる話じゃないってことだ」光世が資料を手に取り、目を細めた。「確かに……海外事業の移管となれば、相応の規模だ。社内規程の対象になるでしょうね」それにもうひとつ……と言いながら、神楽は次の資料を差し出した。「芹沢さんが代表取締役に就任する予定のTOOKIコーポレーションですが……まだトオキ屋との正式な事業譲渡契約は締結されていないようです」「えっ……?」「契約が成立していない以上、移管の手続きを止める余地がある」紅は思わず光世を見た。光世はじっと神楽を見つめ、確認するように言った。「つまり……今のうちに取締役会で移管を認めないと決めれば、少なくとも、社内での手続きは進められない可能性がある」神楽は静かにうなずいた。「ただし、取締役会で多数の賛成を得なければならない。そこは光世さんにお願いしたい」「……なるほど」光世は腕を組み、しばらく考え込んだ。「実は昨日、臨時役員会が終わってから、何人かの取締役に海外事業の話を初めて聞いたと詰め寄ら
「紅……あなた少し、痩せたんじゃない?」翌日。仕事を終えた紅は、母が入院する病棟へと足を運んだ。「全然……!それよりお母さんこそ、」顔色が悪い、と言いそうになってとっさに言葉を止める。「今日はね、お母さんに聞きたいことがあって来たの」どんなことを話すかについて、紅は事前に京香に相談していた。……それは、話を聞いて体調が悪くなったらどうしようという、紅の恐れからの行動だった。話を聞いた京香は反対はしなかった。けれどこう言ったのだ。「調子を崩すようであれば、責任を持ってフォローします」と……母にとって、心穏やかではない話なのはわかりきっている。……けれど。「どうしたの?お母さん、最近調子がいいのよ。どんなことを聞いても心配ないから、安心して言ってごらんなさい」「うん。あのね……トオキ屋、お父さんの会社のことなんだけど」やはり。青白い顔からさらに血の気が引いたとわかる。「……会社が、どうしたの?」「お母さんの実家が、資金援助していたって……知ってた?」「……」答えない様子から、知らなかったと受け取る紅。……だとすると、この先の話は母には酷すぎる。紅は母を巻き込むことを早々にあきらめ、やはり自分が母の盾になろうと決めた。「……そうみたいなんだけど、ごめん。変な話をしちゃった。……気にしないで」「紅、あなたはまた……1人で背負い込もうとして」「え、お母さん?」……紅は母の行動に驚いていた。話をやめて帰ろうとする紅の手を取り、ベッドから降りて、その細い体で紅を抱きしめたのだ。「お母さんは、そんなに頼りない?……これでも、少しは強くなったのよ」青白いながらも、母は優しい笑顔を向けてくれた。これまでに知った父の暴挙を思い出し、紅の目に涙が滲んでいく。「もしかしたら……とは思ってた」結局、父の不正らしき行動についてすべて打ち明けた紅。「あの人との結婚は、政略結婚に近かったのよ。……はっきり嫌だと言えなかった自分が悪いと思って、つらい結婚生活について両親に言えなかった。あの人はそれを利用したのね」母の話で、父は結婚当初に母に銀行口座を作らせ、それを自分で管理していたことがわかった。「資金援助を頼んだのなら、その口座が使われたんじゃないかしら。……両親も、私を無理に嫁がせたって……負い目があったのかもしれない。せめて私が少し
「英語は大丈夫だけど……」『じゃあ歌ってみる?ラバークラブMiAってガールズバーなんだけど』「うん。期間は?」『まずは一晩、2回ステージ。バラードを歌ってほしいみたいよ』亮子はクラブやBARの起ち上げやプロデュースをする仕事をしている。その関係で、こういうバイトの情報が早い。亮子が関わった店なら大丈夫だろう……その日の夕方、紹介された店に行ってみた。「亮子さんに聞いてます!まずは一曲、聞かせてもらえますか?」面接は歌のみ。難なく合格をもらった。手渡された衣装はシルバーグレーのシンプルなドレス。ヘアメイクはプロが入ってやってくれた。呼ばれるまで待機するよう言われ、若い女の子た
「紅か……?」神楽との契約結婚を終え、まず向かったのは実家だった。「……お久しぶりです」手を止めず、顔も向けずに返事を返す娘に、父はわかりやすくイラ立つ。「はんっ!久しぶりに来たと思えば……なんだ?泥棒のマネごとか?」「お母さんの服を取りに来ました。そろそろ暑くなるので」「お前は、口を開けば母さんのことしか言わないな?」……あんたが口にしないからだ。今日も、ギリギリのところで言葉を飲み込む。父と言い争ってスッキリした事など一度もない。むしろ逆……怒りと悲しみ、そして絶望。父は昔から、私にそんな感情しか教えなかった。「……多分、今回持ち出せば、この家からお母さんの私物はなく
「君が契約結婚を引き受けたのは、俺への復讐か?香織と同僚だったってことは、当時から俺の話を聞いていた?」「香織さんは、別れた夫とセフレ関係になってつらいって言ってました。だから契約結婚を終えてからの相談ですね」「俺と出会ったのは偶然?……それとも探し出して、」ずいぶん話が意外な方向へ行くので……らしくもなく、動揺していた。それにまさか、梨沙子のことも知っているとは。「香織さん、夫の名前は伏せてましたよ。でもある日酔った勢いで「神楽」って名前と医者だって漏らして。あの料亭で出会ったのは偶然です。めずらしい名前だったからピンと来たんですよね」紅はソファから立ち上がり、携帯に表示される
「荷物、それだけだったか?」やがて、契約満了の日。見せつけるようにスーツケースを転がし、神楽の目の前に置く。「はい。このお宅にはすべてそろっていたので、ありがたく使わせていただきました」枕、毛布、シーツ、バスタオル、バスローブ……「引っ越し先の住所を教えてくれたら送るよ?使い慣れたものは手放したくないだろ?」「……あなたはそうかもね」使い慣れた契約妻を、今も時々美味しくいただいてる。「……え?」「……使わせてもらった枕、抱きしめて寝てくれません?私のことを思い出して」不思議そうな顔に作り笑いを返した紅に、今度は驚いた顔をするので、本気で吹き出してしまった。「冗談ですよ!
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