結婚して三年。今夜、澪は初めて洵の書斎にあるパソコンを開いた。もし緊急で送信しなければならない重要な書類がなければ、澪は一生、目の前にあるこのファイルを見ることはなかっただろう。洵のパソコンにあるフォルダは一見して会社のプロジェクトだと分かる。だが、一つだけ特殊なものがあった。名前はたった二文字のアルファベット。ST。澪は純粋な好奇心から、そのフォルダをダブルクリックした。中にはエクセルファイルが一つだけあり、その名前は――復讐。澪は母子家庭で、母親は入院中だ。家柄だけ見れば、上場企業である篠原グループの御曹司と結婚できたのは、明らかに高望みだった。洵との出会いはまるでドラマのようで、その後の展開もドラマのようだった。当時、洵は交通事故に遭い、ひき逃げされた。彼を病院まで運び、命を救ったのが澪だった。それから突然ある日、洵が澪の大学の校門の前に現れた。その日はバレンタインデーで、洵はピンクローズの花束を澪に贈り、彼女に告白した。当時、花の価格が高騰しており、さらにバレンタインデーが重なったため、その花束は少なくとも数十万円はしたはずで、大学中で大騒ぎになった。澪はその花束を大切にベッドサイドに飾った。そのせいで入院することになったにもかかわらず。澪は花粉アレルギーだった。しかし、そのことを洵に話したことはなかった。だから、洵はデートのたびに澪にピンクローズの花束を贈った。大学を卒業する前に、澪は洵と結婚し、専業主婦になった。洵は仕事が忙しく、家事一切を完璧にこなす女性を必要としていた。義母も、洵は胃が弱く、家で手作りのものを食べた方が健康的だと言っていた。それに、家政婦は所詮他人で妻の代わりにはなれなく、妻の務めは家事を切り盛りし、良妻賢母になることだ、などとも。だから、澪は昼間は食事の支度や洗濯、家事をこなし、夜は洵との夫婦生活に応じていた。二人の間に交流は多くなかった。目の前のファイルは、洵を理解するためのチャンスのように思え、澪がファイルを開くと、次々と写真がポップアップした。ファイルは二列だけで、文字は少なく、ほとんど写真だった。左側の列の一番上には、フォルダ名と同じ文字が書かれている。ST。澪は何度見ても、それがどの単語や名前の頭文字なのか見当もつかない
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