天才召喚魔術師で王女の私は、完全に自己都合で勇者様を召喚します

天才召喚魔術師で王女の私は、完全に自己都合で勇者様を召喚します

last update最後更新 : 2026-05-26
作者:  シロノクマ剛剛更新
語言: Japanese
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故事簡介

ラブコメ

ハッピーエンド

魔法

勇者

貴族

お嬢様

王族

転生

初恋

前世で人生の全てを失った王女アインの目標は、誰にも縛られず、自力で自由かつ優雅な人生を送ること。そのために「完璧な勇者」を召喚しようとするが、現れたのは性格も素行も最悪な「欠陥勇者」だった。 アインは彼を「仮の勇者」として冷徹にこき使うと決めるが、泥沼の権力争いや戦争を共に生き抜くうちに、二人の間には計算外の強い絆が芽生え始める。 彼のストレートな好意を「従属刻印のバグ」だと必死に否定しつつも、理想と現実の間で揺れ動くアイン。これは、運命を書き換えようとした王女が、最悪なはずの勇者との間で計算外の「愛」に気づいていく。 異世界で私を待ち受けていたのは、ただの初恋だった。

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第 1 章

1話:私の為だけの勇者様

結婚して2年、水瀬一花(みなせ いちか)が引き出しの整理をしている時、婚姻届受理証明書がうっかり破けてしまった。

それで再度発行してもらおうと役所へ行き、申請すると、職員が困惑して言った。「申し訳ございません。既婚である事実は確認できませんが」

「そんなまさか、結婚してもう2年なんですよ?」一花はそう言うと、真っ二つに破けてしまった婚姻届受理証明書を職員に渡した。

職員はしっかりと三回確認して、パソコン画面を見つめながら一花に言った。「本当に結婚手続きされた記録は確認できません。それに、この判子も役所のものとは少し違うようです……おそらく、偽物でしょう」

あまりの出来事に気が動転して役所を出てきた一花のもとに、一本の電話がかかってきた。

「水瀬様でいらっしゃいますか?こんにちは、私はお父様からご依頼を受けた弁護士です。財産相続の件でサインをいただきたいので、河野総合法律事務所までお越しいただきたく存じます。お時間ございますでしょうか?」

詐欺電話かと思い、一花が電話を切ろうとしたその瞬間、相手が突然こう言った。「水瀬様、お母様の水瀬雪乃(みなせ ゆきの)様が、20年前に水瀬様を市内のひかりの丘学園の前に置いていかれました。調査した結果、あなたは南関市のトップに君臨する財閥家出身である西園寺匠(さいおんじ たくみ)の血を引いている唯一の娘様だったのです」

それを聞いた瞬間、一花はその場でピタリと体の動きを止め、すぐに弁護士事務所へと向かった。

彼女は弁護士から今までの人生において、最も衝撃的な話を聞かされたのだった。

彼女の実の父親は西園寺匠であり、西園寺家は莫大な資産を持つ財閥家である。彼は先月亡くなり、彼名義の株、不動産、会社を全て合わせると余裕で兆を超えていた。そして一花は彼の血を引く娘だったのだ。

あまりの衝撃で頭が追いつかない中、弁護士が突然質問してきた。「水瀬様はご結婚されていますか?お子様は?」

その瞬間、夫のあの顔が脳裏に浮かび上がった。

それからカバンの中の偽造された婚姻届受理証明書のことを思い出し、彼女はペンを持つ手に力を込めた。「2時間ほど待ってもらえませんか。少し確認したいことがあるんです」

弁護士事務所を出ると、一花はまっすぐに夫の会社へと向かった。

夫である黒崎慶(くろさき けい)のオフィスのドアは少しだけ開いていて、一花が押し開けようとした時、大人の女の甘ったるい声が聞こえてきた。

「慶、私たち結婚して5年よ。一体いつになったら、みんなに公表してくれるの?」

一花は瞬時で固まってしまった。

この声には聞き覚えがある。大学時代の指導教員である柏木綾芽(かしわぎ あやめ)だ。

綾芽は慶よりも6歳年上なのだが、年上であるだけでその美貌やスタイルはまさに女優並みだった。

大学の中で綾芽は男女問わず人気があった。さらに大学で一番の指導教員だとも謳われていた。

一花が息を殺し、音を立てないようにしていたその次の瞬間、夫のあの常に優しく魅力的な声が響いてきた。

「会社はもうすぐ上場するだろう。まだまだ彼女には力になってもらわないといけないんだ。それに、じいちゃんが昔残した遺書には、君を黒崎家に入れるなとある。もし、今俺たちの関係を公表してしまえば、きっとばあちゃんから君がひどい目に遭ってしまうよ。それじゃ俺はとても耐えられないよ……」

一花はもう頭の中がパンクしてしまい、口元をしっかり手で押さえて、喉元からあがってくる嗚咽を漏らさないように必死に堪えていた。

あの破れた婚姻届受理証明書を恐る恐る繋ぎ合わせて、まるで大事な宝物のようにそっとカバンの中になおした。

初めから彼女はこの二人の手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。

そして一花は急いで会社を出ると、すぐに電話をかけた。彼女は深呼吸し、さっきとはまるで別人のように冷静な声でこう言った。

「河野弁護士、財産相続の書類に今すぐサインします。

それから、私は未婚で子供もいません。すべての遺産を私一人で相続します」

その手続きを済ませると、一花は家まで車を走らせた。その途中ずっとぼうっとしていて、うっかり後ろから衝突されてしまい、額に軽い傷ができてしまった。

病院で傷の手当てをしてもらい、何かを思い立ったかのようにそのまま産婦人科へと向かった。

検査結果を受け取り、一花はようやく憂いがなくなりスッキリした。

「つまり……子宮には何も問題がない、ということですよね?」

「そうですよ。検査結果を見ると、お体はとても健康そのものです」

「妊娠できますか?」

「もちろんですよ」

「じゃあ、夫婦の夜の営みにも影響はないってことですよね?」

一花のその言葉を聞いて、五十過ぎの女性医師は少し気まずそうにしていた。「そこまで説明する必要がありますかね?」

しかし、結婚前の検査では、慶が彼女の検査結果を見て子宮に大きな問題があり、妊娠できないだけでなく、性行為をすると体は取り返しがつかなくなるほどダメージを受けると説明したのだ。

「それでも、君と結婚したいんだ」と当時、慶は一花の手を握りしめて優しい決意の眼差しで見つめてきた。「一生、君しかいないよ」

その誓いのために、二人は猛反対する黒崎家に立ち向かったのだ。

一花は直に義父が湯飲みを激しく床に叩きつけ、怒鳴り散らすのを目の当たりにした。「世継ぎを生めないような女なんかと結婚する気か」

慶の母親は家族が集まっている中、親戚に泣きながら訴えた。「うちの慶はとんでもない女に騙されてしまったわ」

しかし、毎回彼は笑顔で言っていた。「家族の言うことは聞かなくていい、俺がいるからね」

2年という結婚生活の中、義母はことあるごとに一花を責めた。「子供を生めない役立たず」だの「子供が生めないくせに、結婚して何になるっていうのよ?」という言葉がまるで呪いのように一花を苦しめ、彼女は長きに渡り不眠の夜を過ごした。

一花が交通事故にあったという知らせを受けて、慶はすぐに病院まで駆けつけてきた。

真っ白なシャツを着た、一メート八十を超えるスラリとした長身の彼が勢いよく駆けてくるのを見て、一花は6年前の彼との出会いをふいに思い出した。

二人が初めて出会ったのは、指導教員である綾芽のオフィスで、同級生の代わりに書類を持って来た時のことだ。その時、慶はちょうど綾芽と何かを話し合っていて、視線を上げると一花と目が合い、礼儀正しく会釈だけした。

それからというもの、4年に渡り彼から猛アタックされたのだ。

慶は誰もが認める大学のアイドル的存在だった。そのルックスは言うまでもなく、成績優秀で、家柄も申し分ない男だった。

それに彼は女性を口説く時は非常に積極的で、誰に対しても優しく穏やかな性格をしているものだから、そんな彼を拒否できる女の子などほとんどいなかった。

そして一花も例外ではない。

彼女は孤児として育ち、性格はクールで誰かとグループを作って群れることなく一匹狼だった。そんな彼女でも、他の女の子たちと同様に、慶からの猛アタックには負けてしまった。

病院に駆けつけてきた慶は一花に何を話しかけても反応が返ってこなかったので、彼女が事故でショックを受けていると勘違いした。そしてすぐ一花を抱き寄せた瞬間、彼女は反射的に彼を力強く押し退け、立ち上がった。

「行きましょ」

短くそう吐き捨てると、一花は慶の横をスッと通り過ぎていった。

以前とても落ち着ける場所だった彼の懐は、今ではただ不快でしかなかった。

車に戻ると、慶はやはり一花の状態を心配していた。

「何があった?今までは運転にはかなり気をつけていたのに、今日は一体どうしてしまったんだ?」

「……」

一花は慶に返事はせず、自分の手に視線を落とした。すると指にはめられた大きな輝くダイヤの指輪が目障りに映った。

一花に無視されても慶は全く意に介さず、自然に彼女の手を握った。

そしてまた、一花はその手を避けた。

「なんで怒ってるんだ?分かったよ、言いたくないなら無理に聞かないから。

今日うちに重要なお客様が来たんだよ。家政婦さんには君の好きな料理をたくさん作ってもらってるんだ。君のご機嫌がそれで直るといいんだけど」

一花にこのような態度をされても慶は非常に優しかった。しかし、彼にこう優しくされればされるほど、一花は笑いたくなってくる。

「気持ちを切り替えて、怒らないで、ね。今忙しいのが終わったら絶対君と一緒にいる時間を長くするから。最近会社は上場する準備で、とっても忙しいんだよ」

慶は一花の機嫌が少し直ったと思い、笑顔を見せた。

「そうね、怒ってないで気持ちを切り替えなくっちゃね、私って本当に彩り豊かな人生を送っているわ」

一花のその言葉に隠れた意味を、慶は理解していなかった。

黒崎家の豪邸は、南関市の一等地である峰葉ヒルズにあり、その敷地面積は150坪以上だ。

しかしそれは、一花が大学を卒業して自分の事業を諦め、彼の会社に尽力した結果得られたものだった。

家に到着してすぐ、楽しそうな笑い声が二階から聞こえてきた。

男の子に、それから優しい女の声だ。

男の子は、一花と慶が結婚してすぐに養子として迎えた子で、今年5歳、名前は黒崎颯太(くろさき そうた)と言う。

一花が視線を上げると、そこには5年間会っていなかった綾芽の姿があった。今やそれを見てもまったく驚くこともない。

綾芽はブルーのニットスカートに、ウェーブがかったロングヘア姿だ。30歳を過ぎているが、まだ20歳を少し超えたくらいの若々しい顔で、輝くオーラを放っていた。

「一花、一体誰が遊びに来たと思う?」

横から聞こえる慶の低いその声からは喜びがにじみ出ていた。

一花は初めてこの横にいる男がここまで気分を向上させているのを見た。

普段、彼がいくら一花を気遣い、優しくしてくれたとしても、今のようにここまで嬉しそうに気持ちを興奮させることはなかった。

それは無意識のうちに溢れ出す、男が愛する女性へ向ける時の情熱のエネルギーなのだろう。

「柏木先生?」一花はわざと眉を寄せて驚くふりをしておいた。

しかし、内心は嫌悪で満ち溢れている。

この時、目の前にいるこの綾芽は大らかで優雅、さきほど会社のオフィスで見せていた甘ったるい様子など微塵も見せなかった。

「水瀬さん、お久しぶりね」

綾芽はすぐに颯太の手を繋ぎ、二階から降りてきて、心を込めて一花に挨拶をした。

そして一花は颯太のほうを見た。

慶は結婚後すぐに一花に相談してきて、以前彼女が暮らしていたひかりの丘学園から男の子を養子として迎え、黒崎颯太と名付けたのだ。

この子を養子とすれば、黒崎家の年配陣の要求に応えることができ、二度と一花に子供のことで責めることはないという名目だった。

その時、一花は慶が自分のためにそう考えているのだと思い、すぐに同意したのだ。

それがまさか、颯太を養子として世話をしてきた2年、ここまで苦労するとは思ってもいなかった。

この子は気性が激しく、何か面白くないことがあると、まるで彼女に敵意があるかの如く、すぐに何か物を一花に投げつけてくるのだ。

しかもある時、彼は一花のいる目の前で、慶に本物の母親を返せと騒いだこともあった。

一花の我慢が限界に達し、慶に養子として育てるのはやめたいと訴えたことがあるが、彼はいつも彼女をどうにか説得してきた。

颯太には母親がいなくて可哀想だから、一花にはもっと寛大な心で受け止めてやってほしいと言うのだ。そして一花も小さい頃に両親に捨てられたじゃないかと、孤児であることを思い返させるのだ。

そして今、颯太がしっかりと綾芽の手を握っている光景を見て、慶が自分に対して行ってきた態度を合わせると、全てが繋がった。

慶と綾芽は結婚してもう5年、颯太は5歳だ。

黒崎家は綾芽を嫁として迎え入れる気はなかった。それで……慶は一花を騙し、うまく利用してきたということなのだろう。

食事の間、慶と颯太はひたすら綾芽におかずを取り分けてあげ、この三人で楽しい雰囲気を作り上げていた。そして傍でただ黙々と食べている一花は蚊帳の外だった。

「一花、柏木先生はね、最近育児に関する書籍を執筆中なんだ。先生は静かな環境で集中したいそうで、ちょうど会社のほうも忙しいし、君がやることも多いだろう。だからさ……」

そしてタイミングを見計らって、慶は茶碗と箸をテーブルに置くと、一花に向かってこう言った。

「それで、柏木先生には暫くの間ここで暮らしてもらおうかなって。彼女も忙しい君に代わって颯太の世話をしてくれるって、この子も先生のことがとても気に入ってるみたいだしね」

それはもう滑稽でしかない。

こそこそと裏で結婚し5年もの間好き勝手楽しむのに飽きたらず、今度は正当な理由をつけて、この女をここに住まわせようということか?

一花はまるでその言葉など聞こえなかったかのように、ゆったりと食事を続けた。

その場の空気は瞬時に凍り付いた。

慶は少し気まずそうに声を小さくして彼女に注意した。「一花、君に話しかけてるんだよ」

すると、一花が茶碗をテーブルに置く音がカチャンと響いた。

一花が口を開く前に、綾芽がすぐに声を出した。

「ごめんなさいね。私のせいだわ。あなた達を困らせちゃって。水瀬さん、慶君はただちょっと提案してくれただけなのよ。彼もあなたが仕事が忙しいうえに、家のこともしないといけないから、それを心配しているの。それに颯太君のお世話だって、とても大変だろうし、私がお手伝いを……」

「嫌だ!僕は綾芽さんにいてほしいの!」

そう言うと、綾芽の隣に座っている颯太がすぐに不満を漏らした。

綾芽が話している途中で、彼はすぐに箸を投げ捨ててテーブルを叩き始めた。

「颯太君、そんなことしちゃダメよ……」

「颯太、はしたないわよ!」

彼の様子を見てすぐに止めに入った綾芽と、普段の癖で颯太を叱責する一花の声が同時に響いた。

すると颯太は一花をギロリと睨みつけ、腹を立ててコップに入った水を一花にぶちまけた。
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1話:私の為だけの勇者様
 最後に見た景色は、冷たい雨に濡れる歩道橋。その手すりにそっと添えられた、誰かのための花束だった。 舞い上がる傘。 遠ざかる意識。 情報の濁流に呑まれながら、視界の端に映った「自分の死体」を見て、私は思わず苦笑した。 ああ、本当にあっけない人生だった。十五年しか生きていない前世の記憶なんて、ただの呪いに過ぎなかったのに。 ——プツンと、世界が消えた。 ***「ふふふん、ふふふ〜ん♪」 私は今、すこぶる機嫌がいい。 十五年かけてようやく辿り着いたのだ。 この閉鎖的で、私を「子供を産む道具」としか見ない腐った王国の片隅で、私が手に入れた最強の武器。「これはアイン王女殿下。本日はご機嫌なようで何よりです。いつ見てもその見事な銀髪はお美しい。アイン様の燃えるような緋色の瞳が、実に映えますな」 声をかけてきたのは、長く白い髭を蓄えた老人。 宮廷魔術師筆頭であり、私の師でもあるマーリンだ。前世の映画に出てくる偉大な魔法使いを絵に描いたような風貌をしている。「……ねえマーリン。私の髪と目のこと、私がどれだけ呪わしく思っているか知っていて言ってる? 次それ口にしたら、一ヶ月は口聞いてあげないからね」 私がジロリと睨むと、マーリンは「おっと」という顔で大袈裟に身をすくめた。 このガルムス王国において、銀髪と緋色の目は『不吉な魔術の申し子』として忌み嫌われる特徴だ。 王族でありながら私が冷遇されている理由の一端でもある。「い、以後気をつけます……。しかし殿下、その抱えられている箱は?」「ふふ、聞いて驚かないでね? やっと手に入れたのよ。——転移コウモリの羽!」 瓶詰めにされた幻の素材を見せると、マーリンは驚愕のあまり白髭を震わせた。「まさか、本当に仕留めなさるとは。見つけた瞬間に空間を跳ぶあの厄介な魔物を、どうやって……」「私の召喚術の前には、空間の壁なんて無意味だってこと。……まぁ、高度数百メートルの上空に強制転移させられた時は、本気で二度目の死を覚悟したけどね」 私はこう見えて、王国内では密かに『稀代の天才』と噂される召喚魔術師なのだ。「これで『時空花』と『転移コウモリの羽』が揃った。あとは『空創の断片』さえあれば、ついに……異界から“勇者”を召喚できるわ」 私の胸の中で、心臓が爆ぜるように高鳴る。 前世で誰にも必要とされなかっ
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2話:三度目の正直
「ポチ、ここでいいわ。終わったらまた呼ぶから、塔の周りで適当に遊んでいて。あっ、塔の職員やマーリンは食べちゃダメよ?」「グルゥ、グルゥア」 私がバルコニーへ降り立つと、赤炎竜ポチは喜ぶように空へ駆け出した。 賢者の塔。マーリンの私邸であり、私の秘密の実験場だ。 かつて、王家から疎まれ、将来の全てを絶望に塗りつぶされていた私に「魔術」という唯一の武器を授けてくれた恩師。 私が無詠唱の才を隠し持っていることを知る、世界で唯一の理解者でもある。「おお、アイン様! 赤炎竜がまるで愛玩動物のようですな。常人があれを召喚すれば数十人の術士が命を懸けても成功するかどうか……恐れ入ります」「あら、教え方が良かったおかげよ。……それより、魔石の準備はできている?」 マーリンは恭しく頷き、祭壇へと案内してくれた。 国王も、兄も、姉たちも、私を単なる「十番目の出来損ない」としか見ていない。 有用性が認められている間だけ、こうして自由に外出が許されている……いわば、私は王家の飼い殺しだ。 だが、今の私には「それ」で十分だ。 彼らが私を甘く見ているうちに、私は伝説の勇者を召喚する。 そして、私だけを愛し、私だけを守ってくれる「絶対的な運命」を手に入れるのだ。(王家の権威なんて、勇者様さえいればひっくり返せる。私は、もっと高い場所へいく。あの無能な五番目以上の王族たちが、私に跪く未来を掴み取るのよ)「準備はよろしいですぞ、アイン様」 祭壇には、私が数年かけて集めた『転移コウモリの羽』と『時空花』、そして古の遺跡で読み解いた『空創の断片』が整えられていた。 これを煮詰め、魔石に刻み込む。それは廃れてしまった魔術体系であり、私とマーリンにしか扱えない禁忌に近い技術だ。「……いくわよ。私の人生をかけた、最初で最後の博打なんだから」 台座に魔石を置き、私は前世の記憶から引き出した「理想の勇者」のイメージを、限界まで膨れ上がらせた魔力に乗せて注ぎ込んだ。 マーリンが額の汗を拭いながら、封印の魔術を重ねていく。「……出来ましたぞ、四個目。……はぁ、本当に四回もやるのですか」「当たり前でしょ? 一度で本命が来るとは限らないもの。価値観が合わなかったら即リリース。ストックは重要よ」 顔は絶対に大事、中身も当然大事。 私の召喚に妥協の二文字はないわ! 召喚して
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3話:姫神桜という過去
「……ッ、ぐぅッ!」 心臓を抉り取られるような激痛。魔力だけでなく、私の生命そのものが霧散していく感覚。 意識がプツリ、プツリと途切れる中、私は最後の魔力を絞り出した。(今度こそ……今度こそ、私を救ってくれる“運命”を……ッ!) その時、私を包み込んだのは柔らかな温もりだった。 起きたマーリンがこの絶体絶命の儀式を察知し、魔力を注ぎ込んでくれたのだ。「マーリン、ありがとう」「何をこれしきっ、あまり無理をなさらんでください」  眩い光の粒子が収束し、魔法陣の中心から現れたのは。 息をのむほどに端正な容姿を持つ、黒髪の男だった。(……っ!! 綺麗な顔、前世でもあんな整った顔の人、見たことない) あまりの魔力消費に視界が激しく明滅し、今にも倒れ伏しそうになりながらも、私は完璧な召喚の成功に歓喜の笑みを浮かべようとした。 だが、その刹那。 男の群青の瞳が、冷酷な獣のように私を捉えた。「——っ!?」 魔力の揺らぎも、気配すら一切ない。 物理的な法則を無視したかのような無音の踏み込み。 私が悲鳴を上げる暇すらなく間合いを詰められ、気付けば私は床に組み伏せられていた。 同時に、私の首筋に冷たく、鋭利な感触が走る。 それは、私が護身用にドレスの袖口に忍ばせていた、薄刃のナイフ。 いつの間に奪われたのかすら、私の目では追えなかった。『お前は何者だ、どうやって俺をここに連れてきた?』 低く、よく響く日本語の声音。 けれどその温度のない響きと、一切の躊躇なく急所を押さえてみせた異常な手慣れ方に、私の生存本能が全力で警鐘を鳴らしていた。(この男、絶対に普通の人間じゃない……っ!)『俺を元の場所に戻しやがれ!! やり残した“仕事”がある!!』(な、何よこれ……。私の勇者召喚、大失敗じゃない……!!) 首筋に突きつけられた冷たい刃の恐怖と、押し寄せる圧倒的な魔力枯渇の疲弊。 私は最悪の救世主(仮)の顔を見上げたまま、今度こそ完全に意識を手放し、暗闇へと堕ちていった。 *** ——夢を見た。 いつも見る、明らかに夢だとわかる夢だ。 私は今、異世界の豪華絢爛なドレスを着た美少女『アイン』の姿のまま、前世の私『姫神桜』を見つめている。 当然、前世の私から今の私は見えていない。 まあ、地味な日本の女子高生の記憶の中に、こんなドレッ
last update最後更新 : 2026-05-26
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4話:自己都合な覚悟
 ——篠崎エリカ。 私を、殺した女。 冷たい風が、前世の記憶をなぞる。 イジメられていた春野美咲を助けた高揚感。 無条件で私を過大評価し、縋り付いてくる彼女との関係は、当時の私にとって唯一の安らぎだった。 美咲は、物語のヒロインを地でいくような純粋で抜けている少女。 私は、自分が勇気のある「ヒーロ」だと思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 イジメの中心人物ミオたちに呼び出され、私は……物理的にも精神的にも満身創痍にされた。 この時、私は悟ったのだ。 物語の主人公のように颯爽と人を助けるなんて、生半可な覚悟でできることではない。 私の心は、手遅れな程バキバキに折れていた。 学校に行く勇気もない。 友達に合わせる顔も、ない。 そんな私に、ある時何も知らない美咲が助けを求めてきた。「イジメがエスカレートしている、助けてほしい」と。 その時、口からこぼれたのは救いの言葉ではなく、最低な男が口にする言い訳のような台詞。「——正直、重い。もう関わりたくない」 私はヒロインを追い詰めるだけの、「悪役」だった。 数ヶ月後、美咲は————歩道橋から身を投げて死んだ。 事件後、美咲の「親友」を自称して現れた篠崎エリカに、私は責め立てられた。「あんたがミサキを殺した。責任取ってあんたも死になよ」と。 彼女はいつも美咲の近くにいた風を装っていたが、実際は美咲がエリカの名前を口にしたことなど一度もなかった。 彼女は、私の孤独と罪悪感をエサにして、私を破滅の淵へと突き落とした。 あの日、雨の降る歩道橋。 勇気を出して外に出た私は、美咲が身を投げたという『現場』へと足を向けた。 階段を上り切り、花を添えようと屈んだところで背中を強く押された。 体が宙に浮く。 激しい痛みと共に転げ落ちる最中、不思議とゆっくり流れた私の世界で不気味な笑みを浮かべたエリカと、視線が交差する。 私の手は空を泳ぎ、階下へ転がり落ちていく自分の身体を、「今の私」はエリカの隣で見下ろしている。 あの時の、彼女の満足げな笑みを、私は今も忘れない。「ぁ」 激しい戦慄とともに目を覚ますと、そこには湿り気を含んだ、王宮の夜の空気があった。 額からは滝のような汗が流れている。「アイン様! お目覚めになられましたか!?」 至近距離で顔を覗き込んできたのはマーリ
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