天才召喚魔術師で王女の私は、完全に自己都合で勇者様を召喚します

天才召喚魔術師で王女の私は、完全に自己都合で勇者様を召喚します

last updateHuling Na-update : 2026-07-17
By:  シロノクマIn-update ngayon lang
Language: Japanese
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「私は誰も助けないし、誰の優しさにも縋らない」  前世で理不尽に殺され、異世界で「忌み子」として冷遇される王女・アインに転生した桜。  自由なセカンドライフを勝ち取るため、彼女は己の魂を削り、切り札となる「勇者」リヒトをでっち上げる。  だが、召喚されたのは前世の因縁を追う、最悪で最強の「暗殺者」だった——。  言語の壁を盾に彼を飼い慣らそうとするアインと、彼女の正体を見抜き、不敵に笑うリヒト。 「ひねくれてるアンタのそういうところ、嫌いじゃないぜ」  互いの利益のために国を欺く、偽りの共犯者となった二人。  これは、誰も信じない冷徹な王女が、絶対的な味方と出会い自由を掴むロマンスファンタジー。

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Kabanata 1

1話:私の為だけの勇者様

 最後に見た景色は、冷たい雨に濡れる歩道橋。

 その手すりにそっと添えられた、誰かのための白い花束だった。

 不意に、背中に受けた強い衝撃。

 舞い上がる傘。

 遠ざかる意識。

(……ああ、私は、誰かに突き飛ばされたんだ——)

 情報の濁流に呑まれながら、視界の端に映った「自分の死体」を見て、私は心の中で猛烈に毒づいた。

 ふざけないでよ。

 十五年しか生きていない前世の記憶なんて、ただの未練と呪いに過ぎなかったのに。

 私はあいつのために——。

 ——プツンと、世界が消えた。

 

 ***

「ふふふん、ふふふ〜ん♪」

 私は今、すこぶる機嫌がいい。

 この世界に転生し、物心ついてから十数年。

 私を「政略結婚の駒」か「子供を産む道具」としか見ない腐ったガルムス王国の片隅で、隠れて磨き続けた私の最高で最強の武器。それがようやく形になろうとしている。

 

「これはアイン王女殿下。本日はご機嫌なようで何よりです。いつ見てもその見事な銀髪はお美しい。アイン様の燃えるような緋色の瞳が、実に映えますな」

 

 王宮の中庭に続く廊下で声をかけてきたのは、長く白い髭を蓄えた老人。宮廷魔術師筆頭であり、私の魔術の師でもあるマーリンだ。前世の映画に出てくる偉大な魔法使いを絵に描いたような風貌をしている。

 

「……ねえマーリン。私の髪と目のこと、私がどれだけ呪わしく思っているか知っていて言ってる? 次それ口にしたら、一ヶ月は口をきいてあげないからね」

 

 私がジロリと睨むと、マーリンは「おっと」という顔で大裟裟に身をすくめた。

 このガルムス王国において、銀髪と緋色の目は『不吉な魔術の申し子』として忌み嫌われる特徴だ。王族でありながら私が第十王女として冷遇され、日陰に押し込められている最大の理由でもある。

 

「い、以後気をつけます……。しかし殿下、その抱えられている箱は?」

「ふふ、聞いて驚かないでね? やっと手に入れたのよ。——ほら、転移コウモリの羽!」

 

 小瓶に詰められた幻の魔法素材を見せると、マーリンは驚愕のあまり白髭を震わせた。

 

「まさか、本当に仕留めなさるとは。見つけた瞬間に空間を跳ぶあの厄介な魔物を、どうやって……」

「私の召喚術の前には、空間の壁なんて無意味だってこと。……まぁ、高度数百メートルの上空に強制転移させられた時は、本気で二度目の死を覚悟したけどね」

 私はこう見えて、王国内では存在を隠匿されている『稀代の天才召喚魔術師』なのだ。

 

「これで『時空花』と『転移コウモリの羽』が揃った。あとは私の私室にある『空創の断片』さえ合わせれば、ついに……異界から“勇者”を召喚できるわ」

 

 私の胸の中で、心臓が爆ぜるように高鳴る。

 前世では理不尽な逆恨みにあい、不遇な死を迎えた私。

 今世でも誰にも愛されず、疎まれて生きてきた私。

 そんな私の人生を、この閉塞した王室から救い出し、私の存在すべてを肯定してくれる——そんな「理想の勇者」を、私は召喚術でこの世に引っ張り出すのだ。

 

「絶対に召喚する。あっちの世界から、私だけを見つめて、私のために戦ってくれる最高の盾を。

 ……クフフ、あははは!」

「で、殿下、高笑いが完全に悪役のそれでございますぞ……」

 

 マーリンが呆れたように息を吐く。

 しまった。また王女らしくない顔をしてしまったわ。

 その時、廊下の向こうから嫌な足音と、ツンと鼻を突く高級な香水の香りが近づいてくるのが分かった。

 橙色の豪奢なドレスを纏い、これでもかと宝石を着飾った美女。

 私の異母姉、シルヴィア姉様だ。

 

「アイン? 何よその薄汚い格好。卑しい身なりでうろつかないで頂戴。王宮の空気が穢れるわ」

「……申し訳ありません、シルヴィアお姉様」

 

 私は手ぐしで髪を整えながら、形式的に頭を下げた。

 シルヴィアは私を『床を這う虫』とでも言うような目で見下してくる。

「貴女みたいな呪われた者でも一応は王族の端くれなのだから、最低限の品位くらい弁えなさい。例え、十番目に生まれた出来損ないの末端だとしてもね」

「はい、シルヴィアお姉様。有り難きお言葉、胸に刻みます」

 

 シルヴィアはフンと鼻を鳴らして、私の横を通り過ぎざまに、扇子で口元を隠しながら冷酷に言い放った。

「貴女ももうすぐ成人ね。

 いくら魔術の才能があろうと、十番目の王女の役割なんて一つしか用意されていないわ。王家のために、少しでも値打ちのある殿方の目に留まること。

 その貧相な身体でも、男の子の一人くらいは産めるでしょうからね。

 せいぜい、高く売れるといいけれど」

 去っていく彼女の背中を見つめながら、私はドレスの裾を破れんばかりに強く握りしめた。

 

(……絶対に、全員まとめて後悔させてやる)

 

 それが、私が産声をあげた瞬間から決まっていた、この世界の絶望的なルール。

 元女子高生の精神を持つ私に、顔も知らない男に買われて世継ぎを産むだけの奴隷のような生き方が、受け入れられるわけがない。

 無理、絶対に拒絶する。

 人生が詰んでいるなら、世界のルールごとひっくり返してやる。

 私には、それを可能にする『力』があるのだから。

 シルヴィア姉様の足音が完全に遠のいたことを確認し、私はようやく荒い息を吐いた。

 震える指先を隠すように、胸の奥から溢れ出る熱い感情を爆発させる。

 

「——お喋りはここまでよ、マーリン。私は今すぐ儀式を始めるわ。来なさい、ポチ!」

 

 開け放たれた中庭に向けて左手をかざすと、瞬間、不可思議な紅蓮の光の紋様が円を描き、直径三メートルを超える巨大な魔術式が瞬時に組み上がった。

 

「グルゥウァアアッ!!」

 

 咆哮とともに中空から現れたのは、見るものを圧倒する赤肌の巨大な翼竜。

 伝説級の魔物ですら、私にとってはただの飼い犬であり、私の手足だ。この圧倒的な暴力だけが、理不尽な世界の中で私を繋ぎ止めてくれる唯一の味方。

 

「ポチ、私のテラスまでひとっ飛びよ!」

「グルゥア!」

 

 愛らしい名前に似つかわしくない猛々しい翼が広がり、地を蹴って一気に大気へと踊り出る。

 激しい風の中に身体を預けながら、私はゾクゾクとするような高揚感に唇を歪めた。

 

(待っていなさい、私の勇者様)

 

 王家が私を道具にするというのなら、私は異世界から『最強の運命』を召喚して、この国の喉元に刃を突きつけてやる。

 冷たい風を切り裂きながら、私はどこまでも高く、天へと昇っていった。

 ——これから召喚するその男が、まさか自分の前世の因縁をすべて握る「最悪の男」だとも知らずに。

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1話:私の為だけの勇者様
 最後に見た景色は、冷たい雨に濡れる歩道橋。  その手すりにそっと添えられた、誰かのための白い花束だった。    不意に、背中に受けた強い衝撃。  舞い上がる傘。  遠ざかる意識。   (……ああ、私は、誰かに突き飛ばされたんだ——)    情報の濁流に呑まれながら、視界の端に映った「自分の死体」を見て、私は心の中で猛烈に毒づいた。 ふざけないでよ。 十五年しか生きていない前世の記憶なんて、ただの未練と呪いに過ぎなかったのに。  私はあいつのために——。   ——プツンと、世界が消えた。     ***    「ふふふん、ふふふ〜ん♪」    私は今、すこぶる機嫌がいい。 この世界に転生し、物心ついてから十数年。 私を「政略結婚の駒」か「子供を産む道具」としか見ない腐ったガルムス王国の片隅で、隠れて磨き続けた私の最高で最強の武器。それがようやく形になろうとしている。  「これはアイン王女殿下。本日はご機嫌なようで何よりです。いつ見てもその見事な銀髪はお美しい。アイン様の燃えるような緋色の瞳が、実に映えますな」   王宮の中庭に続く廊下で声をかけてきたのは、長く白い髭を蓄えた老人。宮廷魔術師筆頭であり、私の魔術の師でもあるマーリンだ。前世の映画に出てくる偉大な魔法使いを絵に描いたような風貌をしている。  「……ねえマーリン。私の髪と目のこと、私がどれだけ呪わしく思っているか知っていて言ってる? 次それ口にしたら、一ヶ月は口をきいてあげないからね」   私がジロリと睨むと、マーリンは「おっと」という顔で大裟裟に身をすくめた。 このガルムス王国において、銀髪と緋色の目は『不吉な魔術の申し子』として忌み嫌われる特徴だ。王族でありながら私が第十王女として冷遇され、日陰に押し込められている最大の理由でもある。  「い、以後気をつけます……。しかし殿下、その抱えられている箱は?」 「ふふ、聞いて驚かないでね? やっと手に入れたのよ。——ほら、転移コウモリの羽!」   小瓶に詰められた幻の魔法素材を見せると、マーリンは驚愕のあまり白髭を震わせた。  「まさか、本当に仕留めなさるとは。見つけた瞬間に空間を跳ぶあの厄介な魔物を、どうやって……」「私の召喚術の前には、空間の壁なんて無意味だってこと。……まぁ
Magbasa pa
2話:三度目の正直
「ポチ、ここでいいわ。終わったらまた呼ぶから、森の周りで適当に遊んでいて。 あっ、近くの警備兵は食べちゃダメよ?」「グルゥ、グルゥア」    私がバルコニーへ降り立つと、赤炎竜ポチは嬉しそうに夜空へ駆け出した。    ここは王宮の最果てにある、私の私宮——通称『日陰の離宮』。 国王も、兄も、姉たちも、私を単なる「十番目の出来損ない」としか見ていないからこそ、滅多に人が寄り付かない。 有用性が認められている間だけ許された、この自由。 いわば王家の飼い殺しだけど、今の私にはそれで十分だ。    彼らが私を甘く見ているうちに、私は伝説の勇者をでっち上げる。 そして、私だけを愛し、私だけを守ってくれる「絶対的な運命」を手に入れるのだ。  (王家の権威なんて、勇者様さえいればひっくり返せる。  私は、もっと高い場所へいく。あの高慢な姉たちが、私に跪く未来を掴み取るのよ)   「おお、アイン様! お戻りをお待ちしておりましたぞ。 赤炎竜をまるで愛玩動物のように手懐けるとは……。常人があれを召喚すれば数十人の術士が命を懸けても成功するかどうか。相変わらず恐ろしい才能だ」   バルコニーの奥、薄暗い室内に設えられた祭壇の前で私を迎えたのは、先ほど先回りさせたマーリンだった。 かつて、王家から疎まれ、将来の全てを絶望に塗りつぶされていた私に「魔術」という唯一の武器を授けてくれた恩師。 私が『無詠唱召喚』の才を隠し持っていることを知る、世界で唯一の理解者でもある。  「あら、教え方が良かったおかげよ。……それより、魔石の準備はできている?」   マーリンは恭しく頷き、祭壇へと案内してくれた。 そこには、私が数年かけて集めた『転移コウモリの羽』と『時空花』、そして古の遺跡で読み解いた『空創の断片』が整えられていた。 これを煮詰め、特殊な魔石に術式を刻み込む。すでに廃れてしまった古代の魔術体系であり、私とマーリンにしか扱えない禁忌の技術だ。  「……いくわよ。私の人生をかけた、最初で最後の博打なんだから」    台座に魔石を置き、私は前世の記憶から引き出した「理想の勇者」のイメージを、限界まで膨れ上がらせた魔力に乗せて注ぎ込んだ。 マーリンが額の汗を拭いながら、封印の魔術を重ねていく。  「……出来ました
Magbasa pa
3話:姫神桜という過去
「……ッ、ぐぅッ!」    心臓を抉り取られるような激痛。 魔力だけでなく、私の生命そのものが霧散していく感覚に襲われる。 意識がプツリ、プツリと途切れる中、私は執念だけで最後の魔力を絞り出した。   (今度こそ……今度こそ、私をこの泥沼から救ってくれる“運命”を……ッ!)    その時、凍えそうな私の身体を、限界を察知したマーリンの温かな魔力が包み込んだ。 「何をこれしきっ、アイン様、あまり無理をなさらんでください!」 「マーリン、ごめん……ありがとう……!」  視界を埋め尽くした眩い光の粒子が、爆発的な勢いで収束していく。  魔法陣の中心。光の霧の向こうから現れたのは——。   息をのむほどに端正な容姿を持つ、黒髪の青年だった。  (……っ!! なんて、綺麗な顔。前世の記憶をひっくり返しても、あんなに整った人は見たことがない)    魔力の過剰消費で視界が激しく明滅し、今にも倒れ伏しそうになりながらも、私は完璧な召喚の成功に歓喜の笑みを浮かべようとした。    だが、その刹那。  青年の群青の瞳が、冷酷な飢えた獣のように真っ直ぐ私を捉えた。  「——っ!?」   魔力の揺らぎも、気配すら一切ない。 物理的な法則を完全に無視したかのような、無音の踏み込み。 私が悲鳴を上げる隙すらなく間合いを詰められ、気付けば私は硬い床に強く組み伏せられていた。    同時に、私の首筋に冷たく、鋭利な感触が走る。 それは、私が護身用にドレスの袖口に忍ばせていたはずの薄刃のナイフ。 いつの間に奪われたのか、私の目では全く追えなかった。  『お前は何者だ。どうやって俺をここに連れてきた』   低く、耳に心地よく響く、明確な日本語の声音。 けれど、その声に込められた一切の温度のない響きと、躊躇なく急所を押さえてみせた異常な手慣れ方に、私の生存本能が全力で警鐘を鳴らしていた。  (この男、絶対に普通の人間じゃない……っ! 勇者どころか、本物の人殺しの目だ……!)  『俺を元の場所に戻しやがれ。やり残した“仕事”があるんだ』  (な、何よこれ……。私の理想の勇者召喚、大失敗じゃない……!!)   首筋に突きつけられた刃の恐怖と、押し
Magbasa pa
4話:自己都合な覚悟
 ——篠崎エリカ。  私を、殺した女。 冷たい風が、前世の記憶をなぞる。 イジメられていた春野美咲を助けた高揚感。 無条件で私を過大評価し、縋り付いてくる彼女との関係は、当時の私にとって唯一の安らぎだった。 美咲は、物語のヒロインを地でいくような純粋で抜けている少女。 私は、自分が勇気のある「ヒーロ」だと思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。  イジメの中心人物ミオたちに呼び出され、私は……物理的にも精神的にも満身創痍にされた。 この時、私は悟ったのだ。 物語の主人公のように颯爽と人を助けるなんて、生半可な覚悟でできることではない。  私の心は、手遅れな程バキバキに折れていた。 学校に行く勇気もない。 友達に合わせる顔も、ない。 そんな私に、ある時何も知らない美咲が助けを求めてきた。「イジメがエスカレートしている、助けてほしい」と。  その時、口からこぼれたのは救いの言葉ではなく、最低な男が口にする言い訳のような台詞。「——正直、重い。もう関わりたくない」 私はヒロインを追い詰めるだけの、「悪役」だった。  数ヶ月後、美咲は————歩道橋から身を投げて死んだ。 事件後、美咲の「親友」を自称して現れた篠崎エリカに、私は責め立てられた。「あんたがミサキを殺した。責任取ってあんたも死になよ」と。 彼女はいつも美咲の近くにいた風を装っていたが、実際は美咲がエリカの名前を口にしたことなど一度もなかった。  彼女は、私の孤独と罪悪感をエサにして、私を破滅の淵へと突き落とした。  あの日、雨の降る歩道橋。 勇気を出して外に出た私は、美咲が身を投げたという『現場』へと足を向けた。 階段を上り切り、花を添えようと屈んだところで背中を強く押された。 体が宙に浮く。 激しい痛みと共に転げ落ちる最中、不思議とゆっくり流れた私の世界で不気味な笑みを浮かべたエリカと、視線が交差する。 私の手は空を泳ぎ、階下へ転がり落ちていく自分の身体を、「今の私」はエリカの隣で見下ろしている。 あの時の、彼女の満足げな笑みを、私は今も忘れない。「ぁ」 激しい戦慄とともに目を覚ますと、そこには湿り気を含んだ、王宮の夜の空気があった。  額からは滝のような汗が流れている。 「アイン様! お目覚めになられましたか!?」  至近距離で顔を覗き込
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5話:三つの決意と、お腹の黒い家族たち
 私が前世の凄惨な経験から学び、今世を生きる上で魂に深く刻み込んだ決意が三つある。 一つ、人は絶対に助けない。  一つ、自分の利益以外は何も考えない。  一つ、自分の決断からは決して逃げない。 我欲に塗れた悪女だと謗られようが、知ったことではない。私のこの決意に文句があるなら、あの雨の日に逆恨みされ、歩道橋の階段から突き落とされてみればいいのだ。 あの、内臓まで凍りつくような死の恐怖は、二度と御免だ。 誰かのために自分が不幸になるのも、人生をめちゃくちゃにされるのも、理不尽な暴力を振るわれるのも、背後から突き落とされるのも、本当にすべて、金輪際勘弁だった。 だから私は、この先の人生で自分以外の誰かが困っていても絶対に手を差し伸べない。 徹底的に自分のためだけにこの命を使う。 他人からの助けも期待しないし、ハナから求めるつもりもない。 私の人生は、私の力だけで掴み取っていく。 そう決めたからこそ、今日まで天才と謳われる才能に溺れず、死ぬ気で努力して魔術の力を付けてきた。 他人に打ちのめされても、今度こそ自分の力でねじ伏せるために。 まずは、この国からの〝自由〟を手に入れる。  生まれ変わってまで、誰かに飼い殺されるだけのカゴの鳥で終わるつもりはない。 だからこその〝勇者〟だ。 アレはこの世界に生まれてから十数年間、私が積み上げてきた努力と執念の結晶なのだ。 絶対、あの傲慢な兄姉なんかに渡さないし、渡せるはずがない。 「贅沢なドレスや、お飾りの侍女なんて、今の私には必要ないわ」  激しい夜風に銀髪をなびかせながら、私は自身のボロボロになったドレスを一瞥した。 儀式による煤がつき、汗をかいて乱れている。 王族の晩餐会に出るには、あり得ないほど不敬で無様な格好だ。 だけど、それがどうした。  私の価値を決めるのはドレスじゃない。 私の背後にある、この圧倒的な『暴力』だ。 「いくわよ、ポチ! あいつらの度肝を抜いてやりなさい!」 「グルゥァアアッ!!」  赤炎竜の猛烈な咆哮が、静まり返った王城の夜空に木霊する。 目指すは、一層激しい光が漏れ出す王城の最上層——晩餐会が催されている『太陽の間』の巨大テラスだ。 突如として夜空から襲来した伝説の巨大竜に、テラスを警備していた近衛騎士たちが「な、なんだアレは!?」「敵襲ーーッ
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6話:歪んでいる二人
 私は一呼吸おいた後、目の前に座る麗しい容貌の男——我が勇者(仮)に向け、ふんわりと極上に可憐な微笑を湛えて日本語で語りかけた。  『改めまして、先ほどはお見苦しいところを。 突然の状況に混乱されていると思いますが、まずは自己紹介をさせてください』『……』    軽く会釈をして謝意を表情に表しつつ、可憐な王女を演じて低姿勢に言葉を紡ぐ。 見れば、男の端正な眉が僅かに跳ね上がった。意外そうな顔をしている。  (フフ、この見知らぬ異境で、唯一言葉が通じる可憐な美少女が手を差し伸べてくれたのだもの。 先ほどの無礼は水に流してあげるから、このまま私を頼り、私に心を委ねてくれればいいのよ)   だが、私が〝転生者〟であることを明かすつもりは毛頭ない。 日本語を解する理由は、後ほど魔術的な方便で押し通す予定だ。 あくまで私は、異世界に召喚されて困惑する勇者に寄り添う、世界で唯一の理解者。 そして、不遇な王女の境遇を知った勇者は、次第にその心を私へと傾けていく——我ながら完璧な青写真だ。一分の隙もない。    初手の不遜な態度は気に食わないが、ポチの乱入で私の実力は誇示できた。 こうして引きずり出した以上、この男には私の都合の良い切り札として動いてもらう。   『詳しい説明の前に、まずは私から名乗らせていただきますね。私の名前はアイン——』『本当の名前は?』    突然、異国の言語で親密そうに語り合い始めた私たちに、周囲の王族や騎士たちが怪訝な表情を浮かべる。 だが、それ以上に男が遮るように放った一言が、私の貼り付けた笑顔を完全に凍りつかせた。   『……本当の名前、と仰いますと?』  『ああ、そういう態度を取るわけか。 いきなりこんな訳の分からない場所に放り込んでおいて。 ドラゴンを乗り回して、ボロボロのドレスのまま、いかにも『中身は同郷です』って目を隠そうともしないお前が、一番奇妙なんだよ。 なぁ、その分かりやすく嘘を貼り付けた笑顔で、これからも俺に接し続けるつもりか? 主犯格のお前が』    男の群青の瞳が、私の顔をじっと値踏みするように射抜く。   『……勘弁してくれ。 とにかくお前や、この愉快でもない茶番の相手をしている暇はないんだ。 簡潔に現状を説明しろ。できるなら、今すぐに元
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7話:名付けの儀と、最悪な彼に贈る偽りの光
 ここぞとばかりに言語の優位性を最大限に活かし、言外に「この勇者は私が管理する」と突きつけた私に、しかし国王は大手を振って喜び、玉座から立ち上がった。 「おお、まことか! 勇者殿が我らの味方となってくださるとは心強い! これで魔族との長い争いも終わりに——」「ちょっと待て。待ってくれよ、親父殿」  まとまりかけた空気を無遠慮にぶち壊したのは、今まで不機嫌そうに無言を貫いていた第三王子ヨシュアだった。 「……チッ」『おいおい、露骨に不快そうな顔をしているぞ。スマイル、スマイル』  うるさいわね。 あんたのせいでこっちはもう表情筋が限界を迎えているのよ。 それにしても、よりによって一番面倒な単細胞がしゃしゃり出てくるとは。 「ヨシュア、お父様の前ですよ。口を慎みなさい」  第二王女アリエルが冷ややかな流し目でヨシュアを制しようとするが、思慮の浅い男にそんな言葉は意味をなさない。 「いやいや、兄貴も姉貴もおかしいだろ!  存在したかどうかも分からない勇者なんて御伽話の存在がいきなり現れました、なんて誰が信じられるかってんだ。 しかも、あの不吉な〝アイン〟が連れてきたんだぞ?  なんなら言葉も訳が分からないし、態度もこちらを見下しているようで気に食わねぇ! ! 勇者というのが本当なら、相応の証拠の一つでも見せてもらわねぇとなぁ!」  どうして男という生き物は、こうも血気に逸れた展開が好きなのか。 ちなみに、上から三番目までの兄姉はすべて第二夫人の子供たちだ。 このあたりで満足しておけば良かったものを、我が父ながら、いくら正妻に子供ができないからといって側室を娶りすぎではないかしら。  ああ、忌々しい。 権力に溺れて後宮を広げる男など、これだから反吐が出る。 寵愛の薔薇色に染まっていられるのは最初の一瞬だけ。 その後に待っているのは、血で血を洗う骨肉の相克、終わりなき泥沼の宮廷闘争劇だというのに。 『なんか、俺を見るアイツの目が険しいんだが。もしかして「勇者としての力を示せ」とでも要求されている感じか?』  ……なぜ、言葉が通じないはずなのに正確に察知できるのよ。 異世界転移の加護かとも思ったが、どうやら違う。 その視線を追えば、相手の眼球の動き、筋肉の緊張、自分に向けられる敵意の指向性を注意深く観察
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8話:勇者の証明
「そうか、リヒト殿。改めて私はアレクサンダー、お見知り置きを」  完璧な微笑を浮かべて向き直ったアレクサンダーは、言葉が通じないことを承知の上で礼儀正しく挨拶を述べ、その白皙の手を差し出した。  烏間改め——リヒトが、その意図に合わせるように穏やかな笑みを貼り付けて握手に応じる。 だが、その唇の端からは、私にしか聞こえない日本語の毒が漏れていた。 『おい。俺の意志を無視して、先に名前を教えただろう。それはどうかと思うぞ?』  まあ、確かに。 だって、あの張り詰めた空気の中で、あなたの名前はリヒト——なんて自分が付けた名前を自分で呼ぶのは、少し気恥ずかしかった。  当面は心の中だけで呼ぶことにして、ひとまずは名前の強行突破について言い訳をしておくことにする。『……心の中で謝っておくわ。 それに、あなたの元の名前、黒だの烏だの、昏い色彩ばかりでジメジメしていたでしょう?  だから、これからは少しは〝明るく〟生きなさいよという意味を込めて、光を宿す名にしたのよ。 どう? もう兄たちに紹介してしまったから、今更訂正なんてできないけれど』 『……』  流石に前世の名前を貶めるような物言いは不躾だったかしら——と、僅かな気まずさを覚えてリヒトを盗み見た。  だが、リヒトは小さく目を見開いたまま、じっと私を見つめていた。 その瞬間、薄暗い深海に月光が溶け込んだような、彼の深い群青の瞳が、見たこともないほど激しく揺らいだように見えたのだ。  恐らくは日の当たらない世界で生きてきたであろう人間。 完全に私の憶測ではあるけれど、そんな人間を無理やり光の中へと引きずり出すような、傲慢で、無垢な名付け。 底知れない夜の海のような瞳が、酷く儚げで、けれど息をのむほど美しく私を捉える。 気がつけば私は、引き込まれるようにその眼差しを見つめ返していた。 胸の奥が、妙にドクドクと落ち着かなく跳ねる。『あ、ああ、リヒト……そうか。まさかそんな風に、真剣に意味を考えてもらえるとは思っていなかった。少し驚いたが——嫌いじゃない。俺は今から、リヒトを名乗る』『そ、そう。別に、本人が気に入ったのなら……それでいいんじゃない』 ハッと我に返り、慌てて視線を逸らす。なんなのよ、今の妙な空気は。 そんな私たちの微かな雰囲気の変化を察知したのか、第一王子アレクサンダ
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9話:偽りの主従契約
 無事にリヒトのお披露目の夜を乗り越え、彼を「勇者」としての立ち位置に据えることには成功した私たちは、今後の具体的な方針を話し合うため、リヒトのために用意された広大な客室へと移動していた。 これで彼が私の〝理想の勇者様〟であったなら、何一つ問題はなかったのだけれど。 ……外見だけは極上なのに中身が最悪なリヒトでさえなければ、と心底思う。 『さっきは流石に肝を冷やしたぞ。まさかこの目で本物の『妖精』を見て、それが人の姿へ実体化する瞬間まで特等席で拝むことになるとはな。本当に異世界なんだな、ここ』『妖精って……ピカリンはあんたの百倍は強くて尊い存在なんだから、その不遜な態度には気をつけなさいよ? ね? ピカリン』(うんっ! ボクもアインちゃんのお役に立てて嬉しかったな、ピカ!)『ピカ、か……。その高位精霊というのは、向こうの世界で言えばどれほど規格外の存在なんだ?』  豪奢な部屋の中央で、どうにも落ち着かないのかリヒトは立ったままだった。 それに比べて、私は仮にも『勇者』を前に不遜なほど優雅にソファーへ腰掛け、肩に乗る精霊ピカリンを見つめたまま問いかけに応じた。 あの晩餐会の最中、私を介して〝精霊との簡易的なパス〟をリヒトの霊子にも繋げておいた。 だから今の彼には、ピカリンの姿も、脳裏に響く少年のような可愛らしい声もはっきりと聞こえているはずだ。 『そうね……。  例えるなら、街をぶらりと歩いていたら、偶然天界から降臨された、白銀の長髪でおそろしく長い漆黒の太刀を持った、片翼の美しい大天使様——に出会ってしまうくらいには有り得ない奇跡よ』『いや、全然例えになってないんだが。前世のゲームの知識に偏りすぎだろ』  なぜ伝わらないのかしら。完璧な例えのつもりだったのだけれど。 『とにかく……この世界には魔術があって、その力の根幹的な概念が具象化した神域の存在が高位精霊なのよ。本体が塊で目の前に出てきたら、誰だって腰を抜かすわ』『あぁ、霊的事象の顕現的な驚きか。最初からそう言えよ』  なぜそっちの現実的な説明のほうが呑み込みが早いのよ。本当に調子が狂う男だわ。 『まったく……。まあいいわ。ねぇ、ピカリン? パスを通じて何か分かった? 実際、この男の潜在的な力ってどう思う?』(んーっとね、魔術の才能はこれっぽっちも感じないかな!!  それ
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10話:胸の痛み
 妙に熱っぽい視線を向け、世迷言を垂れ流していた男を一撃のもとに沈めた私は、額に浮かんだじっとりとした汗を拭った。 未だに衣服の裏でうるさく跳ねている鼓動を深呼吸で押さえ込みながら、冷静に状況の整理を試みる。 そもそも、考えるまでもなく原因は『従属の刻印』のバグだ。 彼の本心の意志や感情などではなく、単なる術式の副効果に過ぎない。 本来なら魔獣が主に対して抱くはずの「絶対的な帰依と盲従の好意」。 それが、知性を持つ人間の精神に、それもピカリンの言う「中身が空っぽな鉄の器」のような男に強引に適用された結果、術式が異常な化学反応を起こし、あのような脳を焼かれた溺愛の台詞に変換されてしまっただけ。 ただのシステム上のエラー。分かっている。分かっているのに。 (……あれ。なんだろう。なんだか、ひどく虚しいな)  私の身勝手な都合で、彼の精神を歪めてしまったことへの罪悪感か。 それとも、彼が私に向けたあの熱い眼差しと言葉が、偽物の魔術によって生み出されたものだという事実に対する——ひどく身勝手な、寂寥感か。 「「「ガルゥ……?」」」 「グルゥァ」  俯く私の顔をミケの三つの頭が順番に覗き込んできた。 ポチも大きな鼻先を私の肩へと寄せ、慰めるように微かな熱を帯びた息を吹きかけてくる。 そうだ。この子たちが私に向けてくれるのは、魔術の強制力などではない。 私がこの世界で十数年間、血の滲むような日々の果てに築き上げた、本物の信頼と絆なのだ。 「……ありがと。励ましてくれて嬉しいわ、ミケ、ポチ」(ピカリンもアインちゃんのこと、世界で一番大好きだよぉ! ピカ!!)「ええ、ありがとうピカリン。あなたたちは、私の誇りよ」  本当に愛おしい私の味方たち。 ひとまず、気が済むまでミケの豊かな毛並みを十分に愛でてから、彼らには別空間の召喚領域へとご帰宅いただいた。 客室には一応、私の直接の護衛として、少女姿の光の精霊ピカリンだけに残ってもらう。 (アインちゃん、この転移者の人間、どうするピカ?)  私のストレートがよほど綺麗に顎に入ったのか、豪華な絨毯の上で手足を投げ出し、完全に伸びきっているリヒトを見下ろしながら、ピカリンが不思議そうに首を傾げた。 「どうするって言ってもね。 ……私の理想に叶う完璧な勇者様を再召喚するその日まで、予定通り当面
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