Masuk「私は誰も助けないし、誰の優しさにも縋らない」 前世で理不尽に殺され、異世界で「忌み子」として冷遇される王女・アインに転生した桜。 自由なセカンドライフを勝ち取るため、彼女は己の魂を削り、切り札となる「勇者」リヒトをでっち上げる。 だが、召喚されたのは前世の因縁を追う、最悪で最強の「暗殺者」だった——。 言語の壁を盾に彼を飼い慣らそうとするアインと、彼女の正体を見抜き、不敵に笑うリヒト。 「ひねくれてるアンタのそういうところ、嫌いじゃないぜ」 互いの利益のために国を欺く、偽りの共犯者となった二人。 これは、誰も信じない冷徹な王女が、絶対的な味方と出会い自由を掴むロマンスファンタジー。
Lihat lebih banyakMia's POV
"Madam, are you sure you want to divorce Mr. Branson?"
The lawyer asked it gently, the way doctors ask if you understand the diagnosis. Rain traced slow lines down the window behind him, blurring the city into grey watercolor.
I looked down at my hands, folded in my lap. There was still a faint pink line across my palm where the pavement had torn it open. It would fade. Everything fades, if you give it enough time. That's what I had told myself for ten years.
"I'm certain," I said, and my voice only trembled a little. "I can't keep being a wife without dignity beside a husband who doesn't love me."
Saying it out loud hurt more than I expected.
I loved Kyle Branson. I had loved him since I was fifteen, from the back row of a party I wasn't welcome at, watching him laugh in his football jersey with his eyes fixed on someone else.
I had loved him quietly through college, through the years as his secretary, through three years of a marriage that existed only on paper and in the darkness of our bedroom.
The lawyer's pen scratched across the paper.
Two weeks ago, I had been happy. For one whole afternoon, I had been happy.
"Congratulations," Dr. Ray had said, "you're pregnant."
I blinked rapidly, trying to focus. Her smile never wavered as she guided my attention to the screen, pointing to two tiny dots pulsing in sync.
"Twins," she added. "You're having twins."
I had been so careful — the pills Kyle insisted on, the contract with its cold black text. Clause 6: Regular contraception required. No pregnancies permitted.
But staring at those two flickering lights, something warm and terrifying opened up in my chest, like a window I hadn't known was painted shut. Two lives. Two tiny beings growing inside me. Kyle's children. Our children.
I cried in the hospital parking lot, my forehead against the steering wheel, and I couldn't have said whether it was fear or joy. Maybe there's no difference, when you've wanted something for as long as I had wanted a family.
Would they look like me? Would they have my green eyes, or their father's dark, stormy gaze? The whole drive home, hope kept rising in me, impossible to ignore. Maybe this changes everything, it whispered. Maybe when he sees the picture. Maybe, maybe, maybe.
I should have known. Hope had never once kept its promises to me.
That evening, I stood outside his study with the ultrasound picture in my cardigan pocket. The door was ajar; lamplight spilled into the hallway in a thin gold line. I raised my hand to knock—
"You've been married three years, Kyle." Marcus's voice, lazy with whiskey. "She should be pregnant by now, right?"
I froze, knuckles an inch from the wood.
"There won't be a child." Kyle's voice was flat.
It's like standing in warm water and feeling it turn cold around you, inch by inch, while you're too stunned to move.
Marcus laughed. "True. Taylor's back in the country now — I bet all your attention is on her." Ice clinked against glass. "How was last night? A whole night of sweetness, I'd guess."
Last night I had crouched behind a parked car in an empty garage while a stranger's footsteps circled closer, my ankle screaming, my palm bleeding, my phone pressed so hard against my ear it left a mark. I called Kyle times.
He'll come. This time he'll come. I thought.
An old security guard found me. He shouted the man off, walked me to my car, and stood in the rain until my hands stopped shaking enough to drive.
Kyle's reply was waiting when I got home. One word, glowing in the dark bathroom while I wrapped my torn palm.
Busy.
Humiliation was a living thing crawled up my throat.
"So tell me," Marcus pressed, grinning audibly. "Which is better — the wife, or Taylor?"
Kyle didn't answer.
"Look at me asking," Marcus laughed. "How could a contract wife ever compare to a first love?"
I pressed both hands over my mouth so no one would hear me sob.
This is a deal, he'd said once, sliding the contract across his mahogany desk. I hope you don't have any other ideas. But I did. So I'd signed, clinging to the hope that time would help him see me differently. Three years later, that hope had proven as substantial as morning mist.
When there were no tears left, I took out the ultrasound picture and looked at my babies in the lamplight, two tiny dots, my two tiny dots.
"It's okay," I whispered, my thumb tracing the edge of the photo. "Mommy sees clearly now. We don't need him."
"All right, ma'am." The lawyer's voice drew me back. He capped his pen. "The divorce agreement will be sent to your email within five days."
Five days.
Outside, the rain had stopped. I stood on the courthouse steps and breathed, one hand resting lightly over my stomach.
Five days. And I'll be leaving him.
禍々しい雰囲気を漂わせ始めた『暴食の大鎌』を見やり、緊迫感のない表情でポリポリと頬を掻くリヒト。 次第に彼の手にしていた鎌から紫黒の瘴気が溢れ出し、蛇のようにリヒトの腕へと絡みつこうとする。(うげ、なんだコイツ!気持ち悪りぃな!!) ひょっこりと姿を現した美少年のコクライが、その瘴気のモヤを空中で蹴り飛ばし、容赦なく踏みつけた。『きひっ!? 痛いってのっ!! このちびガキ!!』「え……? あなた、今何か言ったかしら?」 どこからか、妙に癇に障る甲高い声が聞こえたような気がした。「いや、俺じゃないぞ……。爺さん、そういう質の悪い冗談は笑えないな」「はて? 声とは何のことですかな? ワシには何も聞こえませぬが」 首を傾げながら応えるマーリン。私たちの視線は自然と、コクライに足蹴にされている大鎌へと向かう。(誰がチビだと……? 消し飛ばしてやる! 灰塵になりやがれ!!) 額に青筋を浮かべてモヤを踏みにじるコクライの周囲に濃密な魔力が渦巻き、バチバチと黒い雷光が迸る。「こ、これは……! 遥か古の暗黒時代、地上を焼き尽くしたと言われる神話の『漆黒の雷』!? いや、まさか、そんなはずは……!」 マーリンが良くわからない大古の伝説を引き合いに出して狼狽え始めた。 マーリンには精霊であるコクライの姿が見えていないため、大鎌から直接雷が湧き出しているように見えているのだろう。 なんにせよ、これ以上コクライが暴れるのはまずい。 この塔が崩壊したら、マーリンの住処がなくなってしまう。『きひひっ! 上等ぢゃ〜ん! ちびガキ!! この宿主を食った後はお前の『存在』ごと喰い尽くしてやるわよっ!』 下品な笑い声とともに、溢れ出した瘴気の波がリヒトを覆い尽くそうと、その全身にまとわりつく。「あの、アイン様? 助けてもらったりなんか……」「嫌よ、自業自得でしょう?」「ですよねぇー……」 とはいえ、私自身の信条としても、私やマーリンの身に危害が及ばない限り、自ら「手助け」などという殊勝な真似をするつもりはない。 そもそも、私の宝物庫を踏み荒らしたリヒトが悪いのだから。 面倒くさい? ええ、そうね、否定はしないわ? 私、歪んでいるらしいし?「なんと禍々しい呪詛の力……! アイン様! ここはワシに任せてお逃げくだされ!」 瘴気と漆黒の雷光が周囲に満
離宮の見張り塔ほどもある高さだろうか。 私は今、我が離宮の北側にそびえる『賢者の塔』のバルコニーへ向け、ポチの背に乗って上空から降下している最中だった。「あら。本当に走って来ているわね」 城の私室からここまで、庭園の小道を全速力で駆けていく哀れな人影を視界の端に捉えたけれど、特に気にかけることもなくポチをバルコニーへ着陸させる。 吹き抜けの広大なバルコニーは、四方を優美な柱で囲まれているだけで、遮る壁も窓もない。私はそのまま、堂々と塔の内部へと足を踏み入れた。「これはこれは、アイン様。困りますなぁ。このマーリンが施した『反魔結界』を、毎回こうも易々とすり抜けられては。ワシ、その度に自信をなくして泣いてしまいそうなのですぞ」 魔術式を言葉ではなく「感覚」で構築できる私にとって、この程度の結界をすり抜けるのは、飛んでくる風船を避けるくらい容易いことなのだ。「あら、ごめんなさい。結界があることすら忘れていたわ」「忘れて……。ワシ、今日はもう立ち直れそうにありませんじゃ」 どんよりとした精神的な暗雲が老魔術師の周囲に漂っている気がするけれど、面倒なので無視することにする。「マーリンも大変よね。かつては宮廷魔術師の筆頭だったのに、こんな離宮の隅の塔に追いやられて。 ……半分は、私のせいでもあるのだけれど」「何を仰います。住み慣れればここも素晴らしい場所ですぞ。並の侵入者では辿り着くことすら困難な造りゆえ、夜も安心して眠れます。おかげでこの通り、お肌もツヤツヤですぞ!」 両手を頬に添えて年齢不詳な老魔術師のお肌のツヤをアピールされても、誰に対する需要もない。「……へえ、うん、すごいわね」 こんな人でも、私にとっては数少ない恩人だ。 内心で「気持ちが悪い」などと切って捨てるのは流石に心が痛む。……それ以上クネクネされると本当に、少々、大分気持ちが悪いけれど。「アイン様、表情が青ざめておりますが如何なされ――む、今度はワシの反魔結界に何かが引っかかったようですな」 途端に鋭い眼光を宿したマーリンが全身に濃密な魔力を纏わせ、颯爽と塔のバルコニーから階下へと身を躍らせた。「ああ――それは……」 この塔には実質、まともな出入り口が存在しない。 適切な手順を踏んで結界を解除しなければ、あらゆる殺意を孕んだ防衛機構が侵入者を迎撃する、かつての『重
「お兄様? 起きてください、お兄様」「んぁ……? ここは……アイン? はっ! 勇者様は!?」 私の、どこまでも柔らかく慈愛に満ちた声に目を覚ましたアルフレッドお兄様は、意識を取り戻すと同時にガバッとその場で飛び起き、 狼狽した様子で周囲に視線を巡らせた。 だが、今の彼の視界には、穏やかな笑みを湛える美しい妹の姿以外、何も映っていないはずだ。「勇者……様、が……?」「何のことですか? お兄様」 お兄様の背後、ベッドの上でのたうち回っている、シルクのシーツを幾重にも巻き付けられた人型の「す巻き」など、決して視界に入ってはいない。「い、いや……なんでもない、な」 底の知れない穏やかな笑みを浮かべたまま佇む私を見て、流石に察してくれたのだろう。 アルフレッドお兄様はそれ以上何も追及することなく、引きつった笑みを浮かべて私だけを見つめていた。それ以外の余計なものには一切視線を向けない、という明確な意思表示を伴って。「ところでお兄様? 先ほどのお話ですけれど」「ん? ああ、いや、やはり兄として、妹に縋るなどというのはあまりに――」「お受けいたしますわ」「へ?」 静かに即答して完璧な笑顔を向けた私に、アルフレッドお兄様はポカンと間の抜けた声を漏らした。「お兄様の危機ですもの。私にできることがあるのなら、喜んでお役に立ちたいですわ。 勿論、私だけでは戦場では力不足ですから、勇者様に同行してもらうという形で……。 お父様には私の方からお話を通しておきますわね。『勇者としての見聞を広める目的』と、今後のために『功績を立てる好機』だと説明すれば、きっと納得してくださるでしょう」 ――だから、後のことは分かるわね? そう無言の圧力を込めて微笑みかける私に、お兄様はゴクリと緊張に喉を鳴らした。「僕としてはこれ以上ない有り難い話だが……ただでさえ戦況は最悪だ。 そんな泥沼の状況に勇者様を送り込んで、もしものことがあれば……。 勇者様を召喚したという威光は、予想以上に我が国の貴族たちにも多大な影響を及ぼしている。 国王や上層部が、そんな貴重な人材をみすみす危険な場所に送り出すだろうか」 ……最初から勇者の武力をアテにして私を頼ってきたのでしょうに。 もしかして本当に、私個人に助けてもらうつもりだったのかしら? だとしたら、この人の中での私
この場にいるはずのない、あまりにも聞き慣れた男の声。 私は全身の毛が逆立つような衝撃に、弾かれたように背後を振り向いた。 同時に、恐怖に顔を白くしたアルフレッドお兄様が、あろうことか私の背中に隠れるようにして後ろから覗き込んでくる。 ——仮にも王族で、しかも一応兄が妹を盾に隠れるのは如何なものかしら。 そんな内心の毒づきさえ、次の瞬間の光栄によって消し飛んだ。 視線の先——ついさっきまで私が微睡んでいた天蓋付きのベッドが、モゴモゴと怪しげに蠢いている。 直後、豪奢なシルクのシーツが勢いよく撥ね除けられ、そこから一人の男が姿を現した。 「ぷはっ! やっとあの骨の地獄から生還できたぞ……! よぅ、アイン様? サプライズは成功したか?」 全身傷だらけで、衣服はボロ布のように裂け、もはや裸同然の格好をしたリヒトが、悪戯っぽく白い歯を見せて笑っていた。 なぜ、ここにリヒトがいるのか。……いや、考えるまでもない。 彼の影に潜む黒い思惑の気配——コクライの仕業だ。 この際、彼の言葉が酷く流暢なこちらの言語になっている驚きすら、今は後回しにするしかなかった。 最悪の状況だ。 「ゆう、勇者……様? 勇者様がなぜ、そのような……破廉恥な格好で、アインのベッドから……。まさか、お前たち、既に——」 アルフレッドお兄様の顔から完全に血の気が引き、哀れなほどに唇を震わせている。 私は即座に、彼の言葉を遮った。 「いたしていません! 断じて、何一つ、指一本たりとも! そのような不埒な事実はありませんわ!!」 声音に冷徹な魔力を乗せ、真っ直ぐに兄の瞳を射すくめる。 「あ、ああ、わかった……。信じる、信じるよ、アイン……」 お兄様は凄まじい勢いで視線を泳がせながら、チラチラとリヒトの無駄に引き締まった半裸の肉体を気にしている。 ——だめだわ、この男、一ミリも信じていない。 婚姻を控えた王族の乙女が、自身の私室のベッドに、半裸の異性を囲っている。 この事実だけでも、この世界の厳格な社交界の常識に照らし合わせれば一発でアウトだ。 最悪の場合、王室の不名誉として幽閉、あるいは永久追放すらあり得る。 「なぁ、あんたがアイン様の兄貴か? 俺は一応勇者だが、それ以上にアイン様とは『召喚』という深い、血よりも濃い絆で心も身体も結ばれて——ゴフゥッ!?
ここぞとばかりに言語の優位性を最大限に活かし、言外に「この勇者は私が管理する」と突きつけた私に、しかし国王は大手を振って喜び、玉座から立ち上がった。 「おお、まことか! 勇者殿が我らの味方となってくださるとは心強い! これで魔族との長い争いも終わりに——」「ちょっと待て。待ってくれよ、親父殿」 まとまりかけた空気を無遠慮にぶち壊したのは、今まで不機嫌そうに無言を貫いていた第三王子ヨシュアだった。 「……チッ」『おいおい、露骨に不快そうな顔をしているぞ。スマイル、スマイル』 うるさいわね。 あんたのせいでこっちはもう表情筋が限界を迎えているのよ。 それにしても、よ
私は一呼吸おいた後、目の前に座る麗しい容貌の男——我が勇者(仮)に向け、ふんわりと極上に可憐な微笑を湛えて日本語で語りかけた。 『改めまして、先ほどはお見苦しいところを。 突然の状況に混乱されていると思いますが、まずは自己紹介をさせてください』『……』 軽く会釈をして謝意を表情に表しつつ、可憐な王女を演じて低姿勢に言葉を紡ぐ。 見れば、男の端正な眉が僅かに跳ね上がった。意外そうな顔をしている。 (フフ、この見知らぬ異境で、唯一言葉が通じる可憐な美少女が手を差し伸べてくれたのだもの。 先ほどの無礼は水に流してあげるから、このまま私を頼り、私に心を委ねてくれ
私が前世の凄惨な経験から学び、今世を生きる上で魂に深く刻み込んだ決意が三つある。 一つ、人は絶対に助けない。 一つ、自分の利益以外は何も考えない。 一つ、自分の決断からは決して逃げない。 我欲に塗れた悪女だと謗られようが、知ったことではない。私のこの決意に文句があるなら、あの雨の日に逆恨みされ、歩道橋の階段から突き落とされてみればいいのだ。 あの、内臓まで凍りつくような死の恐怖は、二度と御免だ。 誰かのために自分が不幸になるのも、人生をめちゃくちゃにされるのも、理不尽な暴力を振るわれるのも、背後から突き落とされるのも、本当にすべて、金輪際勘弁だった。 だから私は、この先の人
——篠崎エリカ。 私を、殺した女。 冷たい風が、前世の記憶をなぞる。 イジメられていた春野美咲を助けた高揚感。 無条件で私を過大評価し、縋り付いてくる彼女との関係は、当時の私にとって唯一の安らぎだった。 美咲は、物語のヒロインを地でいくような純粋で抜けている少女。 私は、自分が勇気のある「ヒーロ」だと思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 イジメの中心人物ミオたちに呼び出され、私は……物理的にも精神的にも満身創痍にされた。 この時、私は悟ったのだ。 物語の主人公のように颯爽と人を助けるなんて、生半可な覚悟でできることではない。 私の心は、手遅れな程バキバキに折