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第4話

Author: 砂糖菓子
母は彼に関わりたくなく、背を向けて立ち去ろうとした。隼人は母の腕を掴み、食い下がった。「莉子は原田邸にくるって話じゃ……どうして藤井様と結婚を?」

その言葉を聞いて、母は怒り狂って隼人の手首を振り払い、怒鳴った。「誰とそんな約束をしたの?私の大事な娘を正妻にせず、あなたの側室にするなんて、考えられるはずないじゃない!」

隼人は、福田莉子(ふくだ りこ)を側室にするという話は、自分の母と二人だけで相談した結果だったことを思い出した。

彼は、莉子は自分のことを好きだから、側室になっても喜んでくれると思っていたのだ。

彼女が藤井達也(ふじい たつや)に嫁ぐと思うと、胸の奥がぽっかりと空いたようで、思わず足を止め、後から慌てて追いかけた。

蛍は隼人の腕を掴み、「隼人さん、どこに行くの?」と尋ねた。

隼人はイライラしながら、「莉子に会いに行く。彼女を藤井様に嫁がせるわけにはいかない」と言った。

蛍は涙目で彼を見つめ、「どうして?私が病んでいる間に、莉子のことが好きになったの?」と尋ねた。

蛍の問いかけに、隼人はとっさに言い逃れた。「いや、そんなことは……ただ、藤井様は子をもうけられない体質で、前妻たちも皆、命を落としてしまったと聞くから、莉子が嫁ぐのは危険かと……」

蛍は隼人の腕をしっかりと掴み、優しく言った。「お父さんはちゃんと調べているわ。ただの噂よ。そうでなければ、お父さんも莉子を嫁がせたりしないわ」

「でも……」

蛍は彼の言葉を遮り、「隼人さん、莉子は私の妹よ。彼女が結婚したんだから、私たちの結婚もそろそろ具体的に考えよう」と言った。

隼人は蛍に連れられて、彼女の父親に結婚式の相談に行った。

私は輿に身を沈め、外から聞こえる小太鼓や笛の音色に包まれながら、不安な気持ちになっていた。

達也は幼い頃から病弱で、彼の顔を見た者はほとんどいない。恐ろしい顔をしていて、閻魔みたいだって噂もある。

生まれつき子供ができず、そのせいで気性が荒く、人をいじめるのが好きで、前の3人の妻もそれで亡くなったという噂もある。

いろいろ考えたけど、結局なるようになるさと開き直ることにした。最悪死んだっていい。一度死んだ身だ、怖いものなんて何もない。

輿は長い時間揺られ、ようやく止まった。

すらりとした指が輿の簾を開け、私に手を差し伸べてきた。私はその手を握り
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