Short
跡継ぎのない親王様に嫁いだら、幼馴染は絶望に堕ちる

跡継ぎのない親王様に嫁いだら、幼馴染は絶望に堕ちる

Par:  砂糖菓子Complété
Langue: Japanese
goodnovel4goodnovel
8Chapitres
6.7KVues
Lire
Ajouter dans ma bibliothèque

Share:  

Report
Overview
Catalog
Scanner le code pour lire sur l'application

姉が認知症になった後、原田邸との縁談は私に回ってきた。 憧れの少年に嫁げると胸を高鳴らせていたが、祝言の夜、彼は寝所に現れなかった。花嫁をひとり置き去りにするなど前代未聞の恥辱。翌日には噂が広まり、私はみんなの笑いものとなった。 やがて私は、姉が抱える秘密に気が付き、彼女に帯で首を絞められ、井戸へと突き落とされ、そのまま命を落とした。 次に目を開けたとき、私はまだ縁談を取り交わした日にいた。 原田隼人(はらだ はやと)は、認知症を患った姉を抱きかかえ、その指先にそっと口づけた。 「蛍、どんな姿になっても、俺の最愛の女性だ」 私は迷わず決心し、姉と隼人を後にして、跡継ぎを持つことができない親王の縁談を受け入れた。 今度こそ、皆の前で姉の秘密を暴き、二人に幸せな未来を歩ませはしないと、そう決意した。

Voir plus

Chapitre 1

第1話

姉が認知症になった後、原田邸との縁談は私に回ってきた。

憧れの少年に嫁げると胸を高鳴らせていたが、祝言の夜、彼は寝所に現れなかった。花嫁をひとり置き去りにするなど前代未聞の恥辱。翌日には噂が広まり、私はみんなの笑いものとなった。

やがて私は、姉が抱える秘密に気づいてしまい、彼女に帯で首を絞められ、井戸へと突き落とされ、そのまま命を落とした。

次に目を開けたとき、私はまだ縁談を取り交わした日にいた。

原田隼人(はらだ はやと)は、認知症を患った姉を抱きかかえ、その指先にそっと口づけた。

「蛍、どんな姿になっても、俺の最愛の女性だ」

私は迷わず決心し、姉と隼人を後にして、跡継ぎを持つことができない親王の縁談を受け入れた。

今度こそ、皆の前で姉の秘密を暴き、二人に幸せな未来を歩ませはしないと、そう決意した。

……

親王邸の人々を見送った後、母は慌てた顔で私を見た。

「藤井親王様は子を残すことができないの。これまで既に三人の正妻を続けて亡くしているのよ」

父は眉をひそめて言った。「莉子、恐れることはない。たとえ親王とはいえ、無理やり君を嫁がせる事はないだろう。俺が直接陛下に申し入れて、この縁談を取り消してもらおう」

そう言って、父は立ち上がり、外へ歩き出そうとした。

私は父を見て、落ち着いた声で言った。「藤井様は、私が結婚すれば、名医にお姉さんの治療をさせてくれると約束してくれた」

父の足は止まり、すぐに態度を変えた。

「親王妃になれるなんて、どれだけの人が望んでも叶わない幸せなんだ。今日から、大人しく結婚の準備をするように」

母はそばで目を潤ませながら言った。「でも、藤井様は子をもうけられず、これまで何人もの正妻も若くして亡くしているのは、王都では誰もが知っていることよ。莉子が嫁ぐということは、まるで呪われた縁に飛び込むようなものではないの?」

父は冷ややかな顔で、怒鳴った。「そんなのは、ただの噂話だ。女のくせに何がわかる!」

そう言うと、父は袖を払って出て行った。

父の変わり身の早さには、もう慣れていた。

父は私にも愛情を注いでくれてはいたのだろう。しかし、福田蛍(ふくだ ほたる)への愛情の百分の一にも満たない。

蛍の母は父の最愛の人で、二人が最も愛し合っていた年に亡くなった。

私の母は父の再婚相手だ。だから父は、母が蛍を虐待するのではないかと常に恐れ、良いものは何でも蛍に与えようとした。

幼い頃から、蛍と私が揉めるたび、父は必ずと言っていいほど蛍の味方をした。

私は母の涙を拭い、慰めるように言った。「お母さん、心配しないで。藤井様に嫁いで親王妃になるのだから、むしろ喜んでくれるべきよ」

「でも……」

「大丈夫、心配しないで」

名医の腕は確かで、たった2日で蛍は正気に戻った。

父は喜び、盛大な宴を開いて皆にこの朗報を伝えようとした。

父は私を見て、指示した。「莉子、原田邸に行って、今晩の宴の招待状を渡してくれ」

炎天下の中、私は一人で原田邸へ行き、門口で使用人に伝言を頼んだ。

しばらくすると、隼人が邸から出てきて、開口一番私を叱責した。「莉子、俺が結婚を承諾したからといって、好き勝手にまとわりつくな!」

彼の嫌悪に満ちた顔を見つめ、私は落ち着いた声で告げた。「お姉さんの認知症が治ったの、お父さんは今晩、祝宴を開く予定よ」

隼人の目に、驚きが浮かんだ。「蛍が、本当に正気に戻ったのか?」

私は青白い顔で頷いた。

隼人はすぐに満面の笑みを浮かべ、私の手から招待状を受け取った。「必ず行く」

今になって、自分がいかに愚かだったか思い知った。隼人が私と蛍に対して、こんなにも態度が違うことに気づかなかったなんて。
Déplier
Chapitre suivant
Télécharger

Latest chapter

Plus de chapitres

Commentaires

Pas de commentaire
8
第1話
姉が認知症になった後、原田邸との縁談は私に回ってきた。憧れの少年に嫁げると胸を高鳴らせていたが、祝言の夜、彼は寝所に現れなかった。花嫁をひとり置き去りにするなど前代未聞の恥辱。翌日には噂が広まり、私はみんなの笑いものとなった。やがて私は、姉が抱える秘密に気づいてしまい、彼女に帯で首を絞められ、井戸へと突き落とされ、そのまま命を落とした。次に目を開けたとき、私はまだ縁談を取り交わした日にいた。原田隼人(はらだ はやと)は、認知症を患った姉を抱きかかえ、その指先にそっと口づけた。「蛍、どんな姿になっても、俺の最愛の女性だ」私は迷わず決心し、姉と隼人を後にして、跡継ぎを持つことができない親王の縁談を受け入れた。今度こそ、皆の前で姉の秘密を暴き、二人に幸せな未来を歩ませはしないと、そう決意した。……親王邸の人々を見送った後、母は慌てた顔で私を見た。「藤井親王様は子を残すことができないの。これまで既に三人の正妻を続けて亡くしているのよ」父は眉をひそめて言った。「莉子、恐れることはない。たとえ親王とはいえ、無理やり君を嫁がせる事はないだろう。俺が直接陛下に申し入れて、この縁談を取り消してもらおう」そう言って、父は立ち上がり、外へ歩き出そうとした。私は父を見て、落ち着いた声で言った。「藤井様は、私が結婚すれば、名医にお姉さんの治療をさせてくれると約束してくれた」父の足は止まり、すぐに態度を変えた。「親王妃になれるなんて、どれだけの人が望んでも叶わない幸せなんだ。今日から、大人しく結婚の準備をするように」母はそばで目を潤ませながら言った。「でも、藤井様は子をもうけられず、これまで何人もの正妻も若くして亡くしているのは、王都では誰もが知っていることよ。莉子が嫁ぐということは、まるで呪われた縁に飛び込むようなものではないの?」父は冷ややかな顔で、怒鳴った。「そんなのは、ただの噂話だ。女のくせに何がわかる!」そう言うと、父は袖を払って出て行った。父の変わり身の早さには、もう慣れていた。父は私にも愛情を注いでくれてはいたのだろう。しかし、福田蛍(ふくだ ほたる)への愛情の百分の一にも満たない。蛍の母は父の最愛の人で、二人が最も愛し合っていた年に亡くなった。私の母は父の再婚相手だ。だから父は、母が蛍を虐待
Read More
第2話
夜、家での宴が始まると、父は興奮した様子で酒杯を掲げ、皆に向かって告げた。「蛍の結婚が間近だ。俺の名にある土地も店も、すべて彼女の嫁入り道具として贈ろう」蛍は顔を輝かせた。母は不満げに口を開いた。「莉子は?莉子だってもうすぐ結婚するのよ」父はためらうことなく言った。「莉子の相手は藤井様だ。無事かどうかも分からんのに、嫁入り道具など考えるな」自分は父の心の中では、姉の指一本にも及ばないことは分かっていた。しかし、命さえどうでもいいかのように言われ、心が痛んだ。その言葉を聞き、母は目に涙を浮かべ、何か言いたげにしていた。私は母の腕を掴み、「お母さん、もういいの。何もいらない」と言った。宴の途中、隼人が華やかな衣装で現れた。皆の前で、彼は鮮やかな緑色の翡翠の腕輪を取り出し、蛍の手元にそっと差し出した。「蛍、この腕輪を贈る。快癒を祝してだ」蛍は目を輝かせ、腕輪をに視線を落としながら遠慮がちに言った。「隼人さん、これはあまりにも立派すぎるわ」隼人は直接彼女の腕に腕輪をはめ、「お前より大切なものはない」と言った。目ざとい人は、それが原田家の嫁に代々受け継がれる腕輪だと気づいた。「この腕輪は原田家の嫁の証だろう。それを蛍さんに贈るとは、莉子さんはどうなるんだ?」「原田さんと蛍さんは相思相愛だ。蛍さんの病気が治った今、原田家の正室の座は当然彼女のものになるだろう」「では、莉子さんは婚約破棄されるのか?」皆の話し声が耳障りで、私は一人で宴席を抜け出し、裏庭へ出た。しかし、蛍も私の後をつけてきていた。月明かりの下、彼女は腕の腕輪を弄びながら、私を蔑むように言った。「私のものは、結局私のものよ。私が病気になってる間に盗もうなんて、夢のまた夢よ!」だが彼女は間違っている。この人生では、もはや彼女の何かに手を触れようとは思わない。ただ静かに、彼女が自ら破滅していく様子を見ていたい。「お父さんから聞いたわ。もうすぐ、跡継ぎを持てないと言われている藤井様に嫁ぐのね」蛍はため息をついた。「もうあなたをいじめる楽しみがなくなるなんて、残念だわ」これ以上彼女と関わりたくなかったので、私はすぐに踵を返した。しかし、蛍は突然私の腕を掴み、その手を放すと自分だけ池に飛び込んだ。「助けて!誰か!」彼女の叫び声がすぐに皆の注
Read More
第3話
母はすぐに答える。「この簪はすでに私が買って、莉子にあげたものよ」蛍は涙を浮かべ、隼人を見つめた。「隼人さん、もし実の母が生きていたら、きっと嫁入り道具を揃えてくれたでしょ」隼人はその場で顔色を引き締め、私と母の方を向いた。「実の母ではないゆえの態度だろう。蛍が幼い頃からどれだけ辛い思いをしてきたか言わずと知れる」そして、懐から札束を取り出し、机の上に叩きつけた。「ここにある全ての宝飾品、俺が買って蛍に贈る」母は彼らを見て、怒りで体が震えた。私は母の手を取った。「お母さん、もういいの。どうせ私、元々こういうものはあまり好きじゃないし」母の手を引いて御宝蔵を出ると、蛍と隼人もすぐ後ろからついてきた。市の通りを走る荷馬車が制御を失い、私たちに突進してきて、蛍のすぐそばまで迫った。隼人は素早く反応し、私を前に押しのけて蛍をかばった。私は頭を荷馬車の硬い木枠にぶつけ、意識を失う直前だった。隼人が心配そうな表情で私に駆け寄ってくるのが見えた。しかし、蛍は彼の腕を掴み、彼の胸に体を預けた。「隼人さん、怖い!」すると隼人は迷わず蛍を抱きかかえ、その場を去った。再び目を開けると、私は家の寝床に横たわっており、母は枕元に座って涙で赤く腫れた目をしていた。「なんて酷いの?あなたを突き飛ばして、蛍の盾にするなんて」私は顔面蒼白になり、母に手を伸ばして涙を拭った。「お母さん、もう泣かないで。どうせ彼と結婚するつもりはないんだから。これからは彼らとは距離をとるつもりよ」母はさらに激しく泣きじゃくった。「お父さんはまだあの女の味方をしているのよ。あなたが倒れてから一度も見舞いに来ないんだから」父が蛍ばかり可愛がるのにはもうとっくに慣れていた。翌日、隼人が訪ねてきて、木の簪を差し出した。「莉子、昨日のことはわざとじゃないんだ。ただ、焦ってしまって……」私は自嘲気味に笑った。「蛍が馬車にひかれそうになって、焦ったから、私を前に突き飛ばしたの?」彼は少し申し訳なさそうに説明した。「確かに軽率な行動だったと認める。だが、今後蛍をいじめるのをやめると約束するなら、原田邸に来ても不自由はさせない」私は眉をひそめて彼を見つめた。「原田邸に入るって?」隼人は私の言葉を遮った。「蛍が正気を取り戻した以上、蛍との婚約は当然継続
Read More
第4話
母は彼に関わりたくなく、背を向けて立ち去ろうとした。隼人は母の腕を掴み、食い下がった。「莉子は原田邸にくるって話じゃ……どうして藤井様と結婚を?」その言葉を聞いて、母は怒り狂って隼人の手首を振り払い、怒鳴った。「誰とそんな約束をしたの?私の大事な娘を正妻にせず、あなたの側室にするなんて、考えられるはずないじゃない!」隼人は、福田莉子(ふくだ りこ)を側室にするという話は、自分の母と二人だけで相談した結果だったことを思い出した。彼は、莉子は自分のことを好きだから、側室になっても喜んでくれると思っていたのだ。彼女が藤井達也(ふじい たつや)に嫁ぐと思うと、胸の奥がぽっかりと空いたようで、思わず足を止め、後から慌てて追いかけた。蛍は隼人の腕を掴み、「隼人さん、どこに行くの?」と尋ねた。隼人はイライラしながら、「莉子に会いに行く。彼女を藤井様に嫁がせるわけにはいかない」と言った。蛍は涙目で彼を見つめ、「どうして?私が病んでいる間に、莉子のことが好きになったの?」と尋ねた。蛍の問いかけに、隼人はとっさに言い逃れた。「いや、そんなことは……ただ、藤井様は子をもうけられない体質で、前妻たちも皆、命を落としてしまったと聞くから、莉子が嫁ぐのは危険かと……」蛍は隼人の腕をしっかりと掴み、優しく言った。「お父さんはちゃんと調べているわ。ただの噂よ。そうでなければ、お父さんも莉子を嫁がせたりしないわ」「でも……」蛍は彼の言葉を遮り、「隼人さん、莉子は私の妹よ。彼女が結婚したんだから、私たちの結婚もそろそろ具体的に考えよう」と言った。隼人は蛍に連れられて、彼女の父親に結婚式の相談に行った。私は輿に身を沈め、外から聞こえる小太鼓や笛の音色に包まれながら、不安な気持ちになっていた。達也は幼い頃から病弱で、彼の顔を見た者はほとんどいない。恐ろしい顔をしていて、閻魔みたいだって噂もある。生まれつき子供ができず、そのせいで気性が荒く、人をいじめるのが好きで、前の3人の妻もそれで亡くなったという噂もある。いろいろ考えたけど、結局なるようになるさと開き直ることにした。最悪死んだっていい。一度死んだ身だ、怖いものなんて何もない。輿は長い時間揺られ、ようやく止まった。すらりとした指が輿の簾を開け、私に手を差し伸べてきた。私はその手を握り
Read More
第5話
思わず彼の美しさに驚いてしまった。王都一と言っても過言ではないくらいの容姿だ。そして、すぐになんとも言えない恥ずかしさに襲われた。始めて会った夫にお菓子をつまんでいる所を見つかってしまった。穴でもあればすぐに潜りたい気分だった。平気を装ってお菓子を元の場所に戻し、何事もなかったかのように振る舞った。短く軽やかな笑い声が響き、達也が私の前まで歩み寄り、和菓子を乗せたお皿を私の前に差し出した。「一日何も食べていないんだろう?遠慮せずに、好きなだけ食べろ」彼の顔を見上げて、言葉の裏を読もうとした。和菓子を食べた途端「作法がなっていない」と言って罰するつもりなんだろうか?蛍と一緒に育った私は、何度も彼女の策略に翻弄され、人を疑う癖がついてしまった。しかし、達也は和菓子を一つ手に取り、私に渡すと、隣の椅子に腰掛けた。「2年前、荒れた道端で名も知らぬ怪我人救おうとしたお前が、菓子一つに怯えるのか?」彼の言葉で、2年前の記憶が蘇ってきた。私は蛍とともに王都を離れた神社へお参りに行った事があったが、帰り道、彼女に荒れた道端にひとり取り残されてしまった事がある。夜になり、辺りは誰もいない。恐怖に震えていた時、かすかな助けを求める声が聞こえた。しばらく怖くて動けなかったが、様子を見に行くことにした。そしたら、倒れてる人を発見した。まだ息があることに気づき、少しほっとしたのを覚えてる。どこからそんな力が湧いてきたのか分からないが、彼を運びながら夜道を辿り、やっとの思いで街に出た。蛍のせいでよく怪我をしていた私は、いつも薬を持ち歩いていた。それで彼の命を救うことができた。翌日、彼の部下が迎えに来て、彼を連れて帰った。帰る間際、彼は私の名前を尋ねた。そうか、あの時の人だったのか。驚きと喜びで、思わず達也を見つめた。「あの時助けたのは、あなただったんですね?」本当に驚いた。命の恩人という立場なら、私の命も助かるだろう。達也の顔に笑みが浮かんだ。「ああ、そうだよ」思いがけない縁と、噂ほど恐ろしい人ではないことが分かり、緊張が解けてきた。私たちは夜通し、朝まで話し込んだ。さすがに眠気に耐えられなくなり、髪飾りを外して顔を洗い、床についた。達也は子ができない体質だと聞いていたので、安心してすぐに眠りに落ちた。しかし、私が
Read More
第6話
話を聞いた隼人は、すぐに蛍を探しに山へ向かった。確か裏山に小さな小屋があったはずだ。もしかしたら、蛍があまりにも遅くまで墓参りをしていたので、そこで休んでいるのかもしれない、と考えた。記憶を頼りに小屋に辿り着くと、中から淫らな喘ぎ声が聞こえてきた。隼人は足を止め、小屋の窓の隙間から中を覗き込んだ。小屋の中では、蛍が他の男と裸で抱き合っていた。男の手は遠慮なく蛍の体の上を彷徨い、「蛍様、しばらく来ないので、私のこと忘れちゃったのかと思いましたよ」と言った。蛍は男を色っぽい目で見つめ、「だって、前にあなたにもっと楽しむ為に変な薬を飲まされて、あれのせいで、病気なったんじゃない」と甘えた声で言った。「今日で最後にしましょう。原田家に嫁いだら、もう会えなくなるわ」と続けて言った。男は蛍の上に覆いかぶさり、「じゃあ今日は、じっくり楽しませてもらいますよ、『奥様』」と囁いた。隼人は、小屋の中の男が以前福田邸にて学問を教えていた者であると気づき、抑えきれない怒りが込み上げてきた。この淫乱女め、他の男と密会しておきながら、原田家に嫁いで家を辱めようとするとは。絶対に許さない。隼人は怒りに燃えながら踵を返し、屋敷に戻るとすぐに側近を呼び、低い声で指示を出した。翌日、屋敷に戻った蛍は、隼人から王都で一番大きな料亭に招待された。彼女を喜ばせたいと、何かしらの用意をしているとのことだった。今日は自分の誕生日だから、隼人は盛大に祝ってくれるに違いない、と蛍は思った。夜、蛍は高価な着物を身に纏い、簪を挿し、友達を大勢引き連れて料亭へと向かった。料亭で、蛍はゆっくりと近づいてくる隼人を見て、顔を赤らめた。隼人は微笑みながら、「蛍、誕生日おめでとう。素敵な贈り物を用意したよ」と言った。蛍の目は期待と喜びで輝き、「隼人さん、そんな気を遣わなくても。気持ちだけで十分嬉しいわ」と答えた。隼人は手を叩き、ボロボロの服を着て、血だらけの男を連れてくるように命じた。男は蛍の姿を見るなり、すぐに土下座して叫んだ。「蛍様、助けてください!お願いです、助けてください……」自分の愛人だと気づいた蛍は、ひどく動揺したが、冷静を装って尋ねた。「隼人さん、これはどういうこと?」隼人は蛍を冷たい視線で見つめ、「お前はこの男と密通しておきながら
Read More
第7話
三日目の里帰りの日、母に手を引かれ、隼人と蛍の出来事を事細かに聞かされた。「莉子の言うとおりだったわ。あの女、とんでもないことをしでかしたのよ。結婚前に男と密通するなんて、恥知らずもいいところね」私が14歳、蛍が16歳の時、父が私たちのために学問を教える者を雇った。最初の頃は、よく才能があるとその者に褒められていた。しかし、いつからか、彼の態度は豹変し、父の前で私をわがままで手に負えない子だと告げ口するようになり、私はよく父に叱られた。今思えば、あれは蛍が私をはめるために、彼と肉体関係を持ったからなのだろう。前世では、私と蛍は同時に原田邸に嫁いだ。結婚後も蛍はその者と関係を続けていて、私はその秘密に気づいた途端、彼女に殺された。今度こそ、この秘密を使って、彼女に自業自得の報いを受けさせてやった。「お父さんもそれで倒れてしまってね。今日、あなたと藤井様が里帰りしていなかったら、まだ寝込んでいたかもしれないわ」道理で、さっき食事をしていた時、父の顔色がひどく悪かったわけだ。さも無理もないことだ。自分が心を尽くして育ててきた娘が、恥も外聞もなく、しかも父の面目を王都中の人々の前で汚すとは。あの面子を何より気にする性格の父のこと、この先しばらくは外に出ようともしないだろう。私は母の手をぎゅっと握りしめ、言った。「お母さん、蛍の過ちは、もう取り返しがつかないわ。お父さんの前で彼女の悪口を言って、とばっちりを受けないようにね」母は微笑んで頷いた。「大丈夫よ、分かっているわ。それより、藤井様は噂ほど恐ろしい方ではないみたいね。さっきの食事の時も、あなたにとても優しくされていたわ。親王邸での暮らしは順調なの?」顔が赤くなるのを感じながら、「お母さん、世間の人はすぐに噂話を尾ひれ背びれ付けて広めるものよ。親王邸では何も問題ないわ。心配しないで」と答えた。「それは良かった。藤井様には子供ができないという噂も、嘘なんでしょう?」ここ数日、達也とは毎日同じ寝床で寝ているのに、何もしてこない。あの噂は本当なのかもしれない。しかし、母を安心させるために、私は頷いて言った。「藤井様はとても健康、あれもただの噂よ」私の言葉を聞いて、母はすっかり安心したようだ。それからもしばらく母と話をし、日が暮れてきたので、親王邸に戻る準備を始め
Read More
第8話
「それは過去のこと、今の私は親王妃。私が愛するのは、当然夫だけ。言動にはくれぐれも注意して」しかし、隼人はまるで気が狂ったように私を抱き寄せた。「藤井様は子も生めない体じゃないか、そんなの廃人同様だ。一緒になっても幸せにはなれない!莉子、愛してる。一緒に遠くへ逃げるんだ!」達也への侮辱に、私は激しい怒りを覚え、隼人の腕を振りほどき、平手打ちを食らわせた。「隼人、よくもこんなところで親王様を侮辱してくれたわね!」「王都で知らない者はいない事実を言ったまでだ!藤井様は子もおらず、妻もみんな亡くしている!」私はもう一度隼人に平手打ちを食らわせた。「もう一度、夫を侮辱するようなことがあれば、容赦しないわ!」隼人が何か言いかけた時、達也が家来たちを引き連れてやってきた。「莉子、待たせたな」達也の姿を見て、私は安堵の息をつき、急いで彼の元へ駆け寄り、手を握った。「この人は酔っていて、姉のことを思い出して、少しお話をしていたまでで、それで少し遅くなってしまいました」達也は私の乱れた髪を優しく撫でながら言った。「構わない」彼は隼人の方を向き、家来に命じた。「原田さんが酔っているようなので、送ってやれ。くれぐれも丁重に」家来たちはすぐに隼人を抱え上げた。そして、彼らが向かったのは原田邸とは違う方向だった。しかし、それは私には関係ない。隼人は過ちを犯したのだから、どんな罰を受けても当然だ。夜、達也と夕食を済ませ、いつものように寝室に戻った。すると、温かくて滑らかな手が私の腰に触れた。私は少し戸惑ったけれど、恥ずかしがりながらもそれに応じた。そして、私の手が硬い物に触れた時、驚きの声が漏れた。「あ……あなたは……」達也は私を抱き寄せながら笑った。「どうだ、安心したか?」私が何か言いかける前に、彼は私の唇を塞いだ。障子越しに柔らかな光が差し込み、室内は静かで甘い空気に満ちていた。翌日、達也は私に、子供が生めないと言う噂は、自分の都合で意図的にで流したものだと話してくれた。今の陛下は何かと疑い深い。彼に子ができないという噂を広めてしまえば、陛下も安心するだろう。私は達也の胸に抱かれながら尋ねた。「妻を亡くしてしまう、という噂もあなたが流したのですか?」達也は首を横に振った。「それは違う。前の妻たちは皆、俺が本当に
Read More
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status