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第186話

Author: タロイモ団子
あまりにも急な展開だった。

拉致犯がこれほどまでに命知らずで、死なばもろともと紬を道連れにするなど、誰ひとり予想していなかった。

現場には、立て続けに銃声が鳴り響く。

常に沈着冷静だった成哉の佇まいも、もはや見る影もなく崩れ去っていた。

「よせ!やめろッ!」

彼は咆哮し、紬が落ちた海域へと駆け出そうとした。

しかし、望美と駆けつけた秘書が必死に彼を羽交い締めにし、体を押さえつけて制止した。

望美は悲痛な声をあげて泣き叫んだ。

「成哉さん、落ち着いて!紬さんは泳ぎが得意なんだから、きっと大丈夫よ!」

秘書もまた必死に説得する。

「救助隊がこちらへ向かっています。どうか彼らを信じてください。人命救助はプロに任せるべきです」

成哉の鼓動は激しく暴れ回っていた。

海へ落ちる瞬間、紬が見せたあの静かな瞳。

そこには、死への恐怖も怯えも見当たらなかった。

それはまるで、生への執着が完全に断ち切られてしまった者のようだった。

しかし、彼はすぐにその思考を振り払った。

――いや……そんなはずはない。

たとえ紬が自分にどれほど不満を抱いていたとしても、子供たちを放り出す
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