Share

第717話

Author: タロイモ団子
紬の姿を目にした瞬間、美咲はようやく安堵の息をついた。

腕を組み、静かに口を開く。

「皆さんがこのコンペの公正性を疑うというのなら、いっそのことNirvana本人に直接話を聞いてみましょう」

ランディと信彦は怪訝そうに顔を見合わせた。

「どういうことですか?」

美咲はステージの方へ視線を向けるよう促す。

「あそこにいるのが、Nirvanaの創設者・綾瀬紬さんです」

美咲が自分の名を口にしたのを聞き、紬は迷うことなくステージへと歩み出た。

司会者へ軽く一礼すると、自ら名乗る。

「初めまして。綾瀬紬と申します。Nirvanaの創設者です。

本日は、このデザイン画に関する問題についてご説明し、視聴者の皆様、そして審査員の皆様にきちんと釈明するために参りました」

紬がステージへ上がる姿を見て、画面の向こうでは馨が赤い唇をゆっくりと吊り上げた。

――実に面白い。この紬という女、思った以上に肝が据わっている。

デザイン画の問題が起きた途端、自ら火消しに乗り出してくるとは、対応もずいぶん早い。

一方、会場のステージ下では、雅乃たちもネット上の動向を絶えず追っていた。

X
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第731話

    成哉は慌ただしく帰宅し、ベッドの上でぴくりとも動かない芽依の姿を目にした瞬間、胸の奥から言いようのない憐れみが込み上げてきた。なぜなのか、自分でも分からない。ただ、胸を締めつけられるような鋭い痛みだけが走る。成哉は冷たい声で問いただした。「一体、何があったんだ」彼はこの二人の子どもに特別な愛情を抱いていたわけではない。それでも、だからといって傷ついてほしいと望んでいたわけでもなかった。望美は唇を震わせ、いかにも自分を責めているような表情を浮かべた。「成哉、ごめんなさい。全部、私の不注意なの。この家で子どもたちの心のケアを十分にしてあげられなかったのよ。芽依ちゃん……きっとママに会いたくてたまらなくて、それで食事もろくに取らないまま、とうとう倒れてしまったのね」医師は望美の言葉を受け、彼女の鋭い視線と目が合うと、その意図を察したように口を開いた。「成哉様、望美さんのおっしゃる通りです。芽依お嬢様はここ最近、栄養状態があまり良くなく、それが突然の失神につながったのでしょう。数日ほど点滴を続ければ回復すると思われます」「そうか。それならいい」成哉はそれ以上追及することはなかった。芽依の傍らを片時も離れようとしない悠真は、そのやり取りを聞きながら、心の中で冷ややかに笑っていた。――僕たち、本当に愚かだった。あんな蛇のように恐ろしい女のために、あれほど僕たちを愛してくれていたママを捨ててしまったなんて。今のこの境遇は、まさにその報いなのだ。だが、芽依が何度も何度もこんな仕打ちを受ける姿を見続けるうちに、悠真の中からこの屋敷への未練は完全に消え去っていた。ならば、この悪女の嘘に乗ってやるのも悪くない。医師は部屋を出ると、額に滲んだ冷や汗をハンカチで拭った。名家の内輪揉めとは、ここまで陰惨なものなのか。あの子どもの首に残る痣を見た瞬間、それが誰かに首を絞められてできたものだということは一目で分かった。しかも、今回が初めてではないことも。継母に虐げられ、親の愛にも恵まれず、記憶を失った父親に守られることもない子どもたち。家庭医はこれ以上深入りすることを避け、そのまま足早に屋敷を後にした。部屋の中では、望美が相変わらず献身的な仮面をかぶり、自分を責め続ける芝居を演じていた。その

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第730話

    望美は妊娠中とはいえ、まだお腹はほとんど目立たず、妊娠初期だった。大人の力があれば、幼い子どもをねじ伏せることなど造作もない。芽依の顔が酸欠で紫色に変わっていくのを目の当たりにした悠真は、胸を締めつけられるような痛みに襲われた。「芽依ちゃんを離して!望美さん、もう二度と悪口なんて言わない!本当にごめんなさい!」芽依の抵抗が次第に弱まっていくのを見て、悠真は、いつでも望美に飛びかかって体当たりで突き飛ばす覚悟を決めた。その瞬間、望美はふっと手の力を緩め、芽依を突き放した。芽依は床へ崩れ落ち、苦しそうに荒い息を繰り返した。白く細い首には、指の跡がくっきりと赤い痣になって残っている。悠真は慌てて駆け寄り、芽依の肩を抱き起こした。「芽依ちゃん、大丈夫か!今すぐお医者さんを呼んでくる!」「そんなこと、させると思う?」望美は冷ややかな目で二人を見下ろした。「たかが子ども一人に、お医者さんなんて大げさじゃない?この家にそんな余裕があると思っているの?」「望美さん!」悠真は声を張り上げた。「僕たちだって天野家の人間だ!妹の手当てを受けるくらい、当然の権利じゃないか!」その瞳には、獲物を狙う幼い狼のような鋭い光が宿り、真っすぐ望美を射抜いていた。その眼差しに、望美の胸は一瞬だけどきりと跳ねる。彼女は何事もなかったように胸元を軽く撫でながら、意味ありげに口を開いた。「あら。この家に、まだあなたたちの居場所があるとでも思っているの?」そう言うと、望美は薬指にはめた、鳩の卵ほどもある大きなダイヤモンドの指輪を見せつけるように掲げた。「これは、あなたたちのパパが私に贈ってくれたものよ。もうすぐ私は、この家の本当の女主人になるの」彼女は指輪をはめた指で床に座り込む二人を交互に指し示し、気だるそうに続けた。「あなたたちは、パパにも見放され、ママにも縁を切られた、行き場のない子どもなの。天野家の財産は、全部このお腹の子のものになるわ」そう言って望美は愛おしむように自分のお腹を撫で、二人を挑発するように見つめた。まだ幼い子ども二人など、彼女にとって恐れる相手ではなかった。芽依は、ただでさえ泣きすぎて喉を傷め、苦しそうに息をしていた。だが、その指輪を目にした瞬間、絶望で目の前が真っ暗になった。

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第729話

    渉は大きく息を吐いた。「それで、一体何をするつもりなんだ」「最近のコンペ、見ていないの?」喜久子が問い返す。渉は戦慄した。「まさか、一次予選の騒動も姉さんの仕業なのか?」「もちろんよ」喜久子は拳を強く握り締めた。「チャンスをみすみす逃すつもりなんてないわ。次は二次予選でしょう?あの子がこのまま好き勝手に振る舞うのを、黙って見過ごせるわけがないじゃない」「姉さん、そんなことをしたら、理玖に知られるのが怖くないのか」「だから何だっていうの!」喜久子はきっぱりと言い放った。「私はあの子の母親よ。たとえ知られたところで、あの子に何ができるっていうの。渉、私はあんたのたった一人の姉なのよ。あんたは私の味方をするの、それともしないの?」「……わかったよ」渉はしばらく逡巡した末、とうとう折れた。「それで、どうすればいい?」「簡単なことよ。これから計画を送るから、あとはあんたが人を使って、その通りに動けばいいだけ」渉が承諾すると、喜久子の声は先ほどまでの氷のような冷たさから一転し、上機嫌なものへと変わった。電話を切った渉は、送られてきた計画に目を通すと、結局その通りに動くことを選んだ。彼はすぐに人を手配し、紬が提携している工場へ潜り込ませた。――天野家の邸宅。悠真と芽依はテレビの前に並んで座り、新古典主義デザインコンペの再放送に見入っていた。「ひどい!一体誰がママを陥れたの!」芽依は悔しそうに拳を握り締め、紬の代わりに怒りを爆発させた。「大丈夫だよ。ママは誰よりもすごいんだから」悠真はしみじみと呟いた。「ちゃんと証拠を残してくれていて、本当に良かった。そうじゃなかったら、黒幕の思う壺だったよ」「お兄ちゃん、ママって本当にすごい!」芽依は目を輝かせながら画面を見つめた。「専門的なことはよく分からないけど、ママのデザイン画、本当にきれい!」「僕もそう思う。ママのデザインが服になったら、絶対すてきな一着になるよ!」悠真の声にも喜びがあふれていた。服の話になると、芽依は長いまつ毛を伏せ、大きな瞳に涙を滲ませた。「お兄ちゃん、私たち、本当に馬鹿だったよね。ママが作ってくれたパジャマなのに、あの頃は少しも大事にしてなかった」悠真は芽依の柔らかな頭を優しく撫

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第728話

    今回のコンペでは、スタッフによる不正は二度と起こさせない。美咲からの連絡を読んだ紬は、感謝の言葉を添えて返信を送った。二次予選を前に、彼女はこれまで以上にこのコンペへ心血を注いでいた。紬は賢人に連絡を取り、二着の衣装サンプルを工場で急ぎ仕立ててもらえるよう手配した。「綾瀬さん、安心して任せてください。私が現場でしっかり目を光らせますから、絶対にミスは起こさせません」賢人は力強く請け負った。「ネットでの騒動も少しは見ましたよ。今回は、明らかに誰かが君を狙って動いていますね。他のことまでは保証できませんが、服作りに関してだけは、この私が責任を持って完璧に仕上げてみせます」その言葉に、紬の胸はじんわりと温かくなった。「ありがとうございます、高橋さん。あなたたちにお任せできるなら、本当に安心です」「何を言ってるんです。お礼なんて必要ありませんよ」紬は賢人へデザイン画を送り、細部についても丁寧に指示を伝えた。「今回のモダン・コルセットは、生地にシルクを使ってください。それから袖口の切り替え部分は、地縫いで仕上げていただきたいんです。細かいお願いばかりで申し訳ありませんが、ご協力いただけますか」「もちろんです。任せてください」賢人は何度も念を押すように約束してくれた。電話を切った紬は、ようやく肩の荷が下りたような気持ちになった。ここ数日、この日のために走り回ってきたのだ。すべてを賢人に託せたことで、ようやく心から安堵することができた。賢人は工場へ戻ると、信頼できる部下へデザイン画を手渡し、厳しい口調で言い聞かせた。「これは綾瀬さんのデザイン画だ。生地選びから縫製、縫い糸に至るまで、すべてお前が責任を持って担当してくれ。絶対に気を抜くな」工場の秘書は真剣な表情で頷き、その言葉を胸に深く刻み込んだ。その頃、紬が賢人の工場と提携したことを聞きつけた喜久子は、口元をわずかに歪めて薄く笑った。理玖からの警告など、彼女はまるで意に介していなかった。喜久子はスマートフォンを取り出し、渉へ電話をかける。「渉、ちょっと頼みがあるの」その一言を聞いた瞬間、渉の胸に嫌な予感が走った。「姉さん、まさかまた紬さんの件じゃないだろうね?」「話が早くて助かるわ」喜久子が話を切り出そうとしたその時、渉は

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第727話

    「放っておけ。いつものことだ。それより、自分たちの仕事に集中しよう」そんな二人のやり取りが、ふわりと清彦の耳に届いた。清彦は黙り込む。――自分は普段、ここの従業員たちから一体どんな人間に見られているのだろうか。一方、電話を切った雅乃も、しばらくは高鳴る鼓動を落ち着かせることができずにいた。胸が激しく上下する。届いたメッセージ。そして、耳の奥にいつまでも残る彼の問いかけ。雅乃の瞳に、うっすらと影が差した。確かに清彦の言う通りだ。彼は何不自由なく恵まれた人だ。家柄も、育ちも、非の打ちどころがない。けれど、自分と彼とでは、あまりにも釣り合わない。――二次予選の日が、刻一刻と近づいていた。馨はその間も、ネット上の世論を注意深く見守っていた。投稿の大半が紬を支持する内容で占められていることは、誰の目にも明らかだった。馨は椅子に深く身を預け、気だるげに頬杖をつきながら、もう片方の手でリズムを刻むようにテーブルを指先で叩いていた。傍らに立つ哲夫は、この令嬢の機嫌を測りかねていた。今の状況は、どう見ても彼らに不利だ。このまま突き進めば、待っているのは火を見るよりも明らかな敗北だった。哲夫は意を決して口を開く。「馨様、ネットの反応はご覧の通りです。今の段階でNirvanaと真っ向から競り合うのは、あまりにも分が悪すぎます」馨も、そのことは十分理解していた。だが、理玖のあの凛とした佇まい、近寄りがたい高嶺の花のような気高さを思い出すたび、胸の奥で抑えきれない執着が激しく渦巻くのだった。彼女は鋭い視線を哲夫へ向けた。「何よ。紬なんかにできることが、この私にはできないとでも言いたいの?」「そのような意味では……」哲夫は彼女の圧に押され、冷や汗を流しながら言葉を探した。「じゃあ、どういう意味?私が紬より劣っているとでも言うつもり?」馨が声を荒らげると、哲夫は思わず身をすくませた。――本当に厄介なお嬢様だ。「滅相もございません!」哲夫は必死に言葉を紡ぐ。「ただ、向こうのスタジオと張り合う必要はないのではないか、と申し上げたかっただけです。私どもは自社ブランドに集中すべきではないでしょうか」何しろ、紬のデザイン画を目にした今となっては、その才能が並外れていることは疑

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第726話

    部屋を出た清彦は、ふうっと大きく息を吐いた。甘い恋なんてものは、一体いつになったら自分の番が回ってくるのだろう。ふと、雅乃の姿が脳裏をよぎる。あの穏やかな小顔。笑えば三日月のように細くなる目元。そして、怒ると少しだけ頬を膨らませる、あの愛らしい仕草。衝動に駆られた清彦は、そのまま彼女へLINEのメッセージを送った。【何してるの?】待てど暮らせど返信はない。清彦の胸の内には、名もない苛立ちがじわじわと募っていく。追い打ちをかけるように、彼はもう一通メッセージを送った。【返事をくれないなら、今すぐ君の家の前まで行くからね】ネット上の世論の動向や、デザインコンペに関する対応に追われていた雅乃は、最初のメッセージはそのまま流していた。だが、ほどなくして再び通知音が鳴る。二通目のメッセージを目にした瞬間、雅乃は思わず頭を抱えた。すぐに人を脅すこの悪い癖は、相変わらず何ひとつ治っていないらしい。【何のご用ですか。最近、本当に忙しいんです】そのメッセージを見た清彦の瞳が、わずかに曇る。彼は長い指を滑らせ、有無を言わせず通話ボタンを押した。スマートフォンの着信音が鳴り響く中、雅乃は慌ただしく仕事を続けていた。画面に表示された名前を見つめ、出るべきか、それとも無視するべきかと指先が迷う。そうして逡巡しているうちに、着信は自動的に切れた。雅乃がほっと胸をなで下ろしたのも束の間、清彦は間髪入れずに再び電話をかけてきた。もう逃げられないと悟った雅乃は、意を決して通話ボタンをスライドさせる。彼女が口を開くより早く、受話口からは清彦の不満げな声が飛んできた。「最近、一体何にそんなに忙しいんだ?電話にも出ないし、本当にそんなに時間がないのか?メッセージだってろくに返してくれないし、いい加減、俺から逃げるのはやめてくれないか」「逃げてなんかいません」雅乃は一瞬の迷いもなく、きっぱりと言い返した。そのあまりに迷いのない返答に、清彦は逆に言葉を失い、しばらく呆然としてしまう。ようやく状況を飲み込むと、奥歯を噛み締めながら吐き捨てた。「君、まさかまだあの男に未練があるんじゃないだろうな」「それは私自身の問題です」雅乃は淡々と切り返した。「他にご用がないなら、失礼します」雅乃が通

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status