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第3話

Author: 茶島
強い衝撃に、美織はまったく身構える暇もなく、激しく地面に倒れ込んだ。

額のあたりをどこかに強く打ったらしく、鋭い痛みとともに視界がぐらりと暗くなる。しばらくしてようやく顔を上げると、目の前にいたのは――軽音だった。

久しぶりに見る彼女は、相変わらず華やかな顔立ちのままだが、その表情には、これから母となる女特有のやわらかさが滲んでいた。

だが今、彼女は地面に座り込み、顔を真っ青にして下腹を押さえていた。

「軽音!」

ほぼ同時に、二つの人影が駆け寄ってくる。

先頭にいたのは鎮臣だ。彼は慎重に軽音を抱き起こす。そしてその後ろから来たのは――紛れもなく、凌雅だった。

彼は片手に様々な検査結果の書類を持ち、もう片方の手にはミルクティーを提げている。それは、軽音がいつも好んで飲んでいる味のものだ。

美織は、ふと笑いがこみ上げてきた。

彼の言う「大事な会議」とは、これのことだったのか。軽音の産婦人科検診に付き添うことが、そんなに大事だったとは。

「鎮臣……お腹、痛いの……」

軽音は唇を噛みしめ、目にいっぱいの涙を溜めている。

鎮臣はすぐさま彼女を横抱きに抱え上げ、診察室へと足早に消えていった。

凌雅は一歩出遅れ、伸ばしかけた手を宙で止めた。

その手がゆっくりと握り締められ、手の甲には青筋が浮かぶ。その仕草の端々には、抑えきれない悔しさが滲み出ていた。

だが美織には、もうそれを気にかけるだけの余裕はなかった。

額には冷や汗がにじみ、下腹の鈍い痛みは刻一刻と強くなっていく。声を出そうと口を開きかけた、その瞬間――突然、頭上から大きな袋がかぶせられ、全身を覆い尽くされた!

あまりに突然の出来事に美織は混乱し、叫ぼうとしたが、それより先に、腹部へ強烈な蹴りが叩き込まれた。

激痛に、声は喉の奥で押し潰された。彼女は身を丸めることしかできない。

かすかに聞こえてきたのは、凌雅の、凍りつくほど冷酷で陰鬱な声だった。

「この目障りな女を地下駐車場に連れていけ。たっぷり思い知らせてやれ。誰にでもぶつかっていい相手じゃないんだってな。一番上手くやった奴には、今年のボーナスは十倍だ」

ボーナス十倍――それは紛れもない大金だ。

数人の部下は一瞬顔を見合わせると、すぐに我先にと群がり、大きな袋に入れられた美織を引きずって地下駐車場へと連れていった。

手術を終えたばかりの彼女は体調が優れず、マスクとキャップで顔をすっぽり隠していた。だから、凌雅は彼女だと気づかなかったのだ。

美織はめまいと激痛に耐えながら必死に抵抗し、声を上げて説明しようとする。だがその瞬間、容赦なく地面に踏みつけられた。

次の瞬間、鈍い音とともに、硬い棒が背中を強く打ち据える。

部下たちは殴りながら雑談を交わし、その口調には感心したような響きすら混じっている。

「うちの社長、園田さんにガチで惚れてるな。ちょっと突き飛ばされたくらいで、あそこまでブチ切れるなんて。正妻の藤原さんよりよっぽど大事にされてんじゃね?」

「そりゃそうだろ。知らないのか?当時、藤原さんが離婚のために受けた鞭の罰、あれだって社長が藤原家に提案したんだぜ。

しかもわざわざ棘付きの鞭に替えさせたんだとよ。離婚をグズグズ長引かせて園田さんをイライラさせた罰だって話だよ!」

雷に打たれたような言葉が、耳の奥で炸裂した。

美織は、まるで足元の大地が音を立てて崩れ落ちていくかのような衝撃に襲われた。

――あの時、命を半分持っていかれるほどだった九十九回の鞭打ちが、陸川凌雅の提案だったというの。

視界が揺らぎ、光が歪んでいく。

彼女はぼんやりと、鞭打ちを受けたあとの光景を思い出した。

凌雅が大勢を引き連れて藤原家のドアを蹴破り、彼女を抱き上げた、あの場面を。

その目には深い痛ましさが溢れ、今にも涙がこぼれ落ちそうだった――

「美織、すまない……こんなに苦しませちまって……俺、陸川凌雅の名にかけて誓う。もう二度と、お前に傷ひとつ負わせないと」

あのとき、全身は耐えがたい痛みに苛まれていたのに、それでも美織は思ったのだ。これでやっと、すべてが報われた、と。

だが今になって、思い知らされた。

彼女が味わった苦しみは、すべて彼の手によるものだったのだと。

それを「救い」だと信じていた自分が、滑稽すぎて笑えてくる。

美織の瞳に、かろうじて残っていたわずかな光が、ゆっくりと消えていく。

喉の奥に、血の味がじわりと広がる。

彼女の世界はその瞬間、果てのない闇へと沈んでいった。
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