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2話 心の繋がり

last update Last Updated: 2025-10-02 00:28:46

遊莉とメッセージのやり取りを数回して、彼女がいる場所を教えてもらった。私の実家で会う事も考えたが、近くのコンビニで待ち合わせをする事にした。

九時が回っている事もあり、人が少ない。いつもなら車が沢山行き交っているけど、この時間帯になると、殆ど見る事はなかった。

周囲は田んぼに囲まれている。遊莉の家は少し離れた所にある。二年生になった時に転校生として紹介された、あの時の事を思い出しながら、自転車を漕《こ》ぎ始めた。

「今日からこのクラスの一員になる源《みなもと》遊莉さんです。皆! 仲良くしてあげてね。源さんも一言、挨拶どうぞ」

「初めまして。東京から越してきた源遊莉です。よろしくお願いします」

紹介が終わると、男子生徒達が高らかに声をあげる。同性の私でさえ見惚れてしまう程の美少女なのだから、当然だろう。

「それじゃあ、神楽《かぐら》さんの隣の席を使ってね。神楽さん、色々教えてあげて」

「はい」

私の隣の席が空いていた。何故だかこの席だけ空席だったのを覚えている。もしかしたら遊莉と仲良くなる為に、用意されたものなのかもしれない。

人と話す事が苦手な私は、彼女の顔色を確認しながらオドオドと会話をしている。他の女子は私の態度が気に入らないらしく、距離を置かれる事が多かった。

そんな私にふんわりと天使のような笑顔を見せながら「よろしくね」と言葉を向けてくれる。私はただ頷く事しか出来ずに、ドキドキしていた。

今思えば、あの時から彼女の事を意識していたのかもしれない。原因不明の不安定さも、動悸《どうき》も、全て遊莉と会話を交わす時に起きていた。

一目惚れなんてした事のなかった私の心を掴んで離さない。そんな彼女の眼力《がんりき》に吸い込まれていった。

あの時の衝撃を思い出しながら、風をきっていく。これ以上、彼女を待たせたくない私は、全速力で目的地へと到着する。

コンビニの駐車場は異様に大きく、広い。トラック専用の駐車場も完備されている。使っている所を見た事はないが、長距離運転手の為に作ったのだろう。

店の前に視線を流すが、誰もいない。もしかしたら店内で待ってくれているのかもしれない。そう思った私は、息を切らしながらも、駐輪場に止め、店内へ足を進めた。

グルグルと中を確認すると、ぼんやりとジュースが置かれている棚を見つめている遊莉がいた。やっと出逢えた事で安心した私は、勇気を振り絞って彼女の肩をちょんちょんとつついた。

「待たせてごめんね」

「美穂、来てくれてありがとう。私こそ九に呼び出してごめん」

「いいの。遊莉からの連絡嬉しかったし」

学校ではぎこちなかった私は、いつもとは違う空間でならすんなり話す事が出来た。急いで漕いできたからかもしれない。頭で考えるよりも、感情で動いた感じがする。

彼女を恋愛対象として意識する前の自分に戻った気がする。私は最初から彼女に惹かれていたのに、その事実を実感したのは一週間前からだ。

どれだけ自分の感情に鈍感なのだろう。

「最近美穂と話せなかったから、寂しくて。近くまで来たから会いたくなっちゃったの」

遊莉は照れくさそうにそう言うと、私の頬に手を伸ばした。どうやら化粧のラメが残っていたらしい。気づかれないように、薄く化粧をしたはずが、間違って派手なラメを使っていたようで、恥ずかしくなる。

「私の為に化粧してくれたんだね。ありがとう」

「うっ……」

つい心の叫びが声に出てしまった。そんな笑顔を見せられたら、トキめいてしまう。遊莉は自分の笑顔がどれ程魅力的で破壊力を持っているのか、知らない。

「今日さ、誕生日だったでしょ? 学校でプレゼント渡そうと思ったんだけど……タイミングがなかったから」

私の手のひらにコロンと転がったのは小さな香水瓶だった。どの匂いが一番いいのかを吟味して選んでくれたらしい。

持ち物検査があったら、速攻バレていただろう。気づかれなくてよかったと今更思う自分がいる。

「誕生日おめでとう、美穂」

「ありがとう」

コンビニの中でヒソヒソと話ながら、互いに笑い合う私達。本当の意味で心が繋がった瞬間だった。

そんな私達の姿を歩道から見ている人物がいた。中睦まじそうに笑いあっている、その姿を目に焼き付けながら、グッと拳に力を入れる。

まるで嫉妬心をかき消すように──

遊莉と一緒に過ごしたのは30分くらいだった。コンビニで買い物をして、近くの公園で話をしていた。今までの距離を取り戻す勢いで、彼女との会話を楽しんでいた。

彼女の親が迎えに来てくれるそうで、背中を見送りながら、家へ帰宅しようと自転車を跨いだ。

「……美穂?」

暗闇の中で聞こえてくる声は、よく知っている音をしている。私は目を凝らしながら、恐る恐る近付いて行った。

木々の影が重なって人物の姿を隠している。近くに行くと、ほんのり光る街灯が彼女の顔を照らしていた。

「実崎《さんざき》先輩! どうしてここに?」

先輩の家はこの場所から三駅離れた所にあると聞いた事があった私は、まさかこんな所で出会うなんて考えもしない。

遊莉と話していた所を見られたかもと言葉を飲み込んでいく。傍から見たら友人と話しているだけだが、どうしても隠しておきたい。

先輩の事だから事実を知ると、私をからかうだろう。それはどうしても嫌だった。先輩、後輩の垣根《かきね》を超えて、いい関係性を保っているから余計に。

「友達の家がこの近くでさ。今日泊まりに来てるのよ」

ただの偶然だったようで、安心した。私はさっきの光景を心の奥底に仕舞いながら、笑顔で応えていく。

彼女が私と遊莉の密会を見ていた事に気づく事なく、月夜が煙に巻かれていった。

あの時の事を懐かしく思い出しながら、ワインを嗜《たしな》むと、彼女も嬉しそうに微笑んでくれる。

あの青春があったからこそ、私達はこうやって本当の意味の恋人になれたのかもしれない。

「貴女と出会ってよかった」

「それは私の台詞だから……」

久しぶりの彼女とのディナーは思っていた以上に楽しく、心地いい。あの時の私達は沢山誤解し、すれ違い、その一瞬を一生懸命生きていたのかもしれない。

「ここのレストラン、素敵だね」

「気に入ってもらえたようでよかった」

「ふふ。また来ようよ」

「勿論」

私の目の前にあの時の微笑みが姿を見せる。当時のようなトキメキは薄れたが、この笑顔が安心を与えてくれる。

「そう言えば、あの時……」

全ては彼女の一言から始まった物語を私達は楽しみながら、疑似体験していく。

全てが輝いていたあの頃に忘れてしまった大切なものがある事を隠してーー

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