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第7話

Penulis: ちょうどいい
その瞬間、照明が一斉に灯された。眩しい光の中で、克哉は思わず目を細めた。

菖蒲は薄汚れたシーツの上に横たわっていた。顔は血の気がなく、真っ青だった。口の端からは血が流れ、彼女の周りにはおびただしい量の血だまりができていた。

すると、ベッドのそばでは、男優の一人が股間を押さえ、苦痛に顔を歪めている。

「こいつ……俺に噛みつきやがって!そのあと急に血を吐き始めたんだ!どうなってんのか、さっぱりわからねえ!一発ヤれると思ったのによ、とんだ災難だぜ、まったく!」

その言葉を聞いて、克哉は眉をひそめ、不快感を露わにした。

しかし何も言わず、ただアシスタントに菖蒲に服を着せるよう指示し、救急車を呼ぶよう電話をかけただけだった。

しばらくして、病院の救急処置室の外で、克哉は長椅子に座っていて、手には、乾いてこびりついた血痕が残っているのだった。

それは、医者に手伝いを頼まれた時に、うっかり触れてしまったものだった。

そこへ、菖蒲のマネージャーである夏川杏(なつかわ あん)が慌てて駆けつけた。杏は克哉の顔を見るなり、無言で思いきり平手打ちを見舞った。

「克哉さん、この人でなし!どうして菖蒲にあんな酷いことができるんですか?菖蒲がどれだけ……」

彼女がそう言いかけていると、「杏さん、もうやめて。克哉には帰ってもらって」か細い声が、救急処置室のドアの向こうから聞こえた。

そして、看護師がストレッチャーを押して出てきた。その上には、血の気のない真っ青な顔をした菖蒲が横たわっていた。

菖蒲はうっすらと目を開け、虚ろな瞳で克哉を見つめていた。

「克哉、もう帰って」

その言葉に、杏はベッドに駆け寄り、目を赤くしながら言った。「菖蒲、どうして?」

一方、克哉は立ち上がり、拳を握りしめて言った。「菖蒲、これもお前の芝居か?」

「克哉さん!」そこへ綾が駆けつけ、克哉の腕に自分の腕を絡めた。「外に記者がたくさん来ている!誰かが情報を漏らしたみたいで、今、ネット中が菖蒲さんが私のヌードの代役だったってことで持ちきりよ!今日の撮影現場でのことも、全部暴露されて!」

克哉の表情が険しくなる。彼は菖蒲をさらに冷たい目で見つめた。「お前がやったのか?」

菖蒲は目を閉じ、何も答えようとしなかった。

「菖蒲さんがやったかどうかはともかく、今はまずこの一件を解決するのが先決よ」綾は必死に訴えた。「克哉さんは有名人なんだから、こんなスキャンダルでイメージを傷つけるわけにはいかない。菖蒲さんに外へ出て、すべて誤解だったと説明させないと!」

杏は怒りで全身を震わせた。「あなたたち、それでも人間なんですか?菖蒲がどんな状態か、見てわからないのですか!」

克哉はベッドに歩み寄り、菖蒲を見下ろしながら言った。「立て。記者の前に出て説明しろ」

「克哉さん、菖蒲、さっきやっと峠を越したのですよ!」杏がベッドの前に立ちはだかった。

だが、「立てと言っている」克哉はそう言って、菖蒲の腕を掴もうと手を伸ばした。

その瞬間、菖蒲はまたもや激しく咳き込み、口の端から溢れ出る血に、真っ白なシーツはみるみるうちに赤く染まった。

すると、看護師が慌てて駆け寄ったが、克哉に突き飛ばされてしまった。

「いつまで芝居を続ける気だ?」克哉の声は極めて冷酷だった。「今日、お前は外に出て釈明するんだ。さもなければ、以前約束したことはすべて覆してやるからな。俺を本気で怒らせたらどうなるか、知ってるだろう」

その言葉を聞いて、菖蒲は力なく笑った。「ええ、わかったわ。行くよ」

その頃、病院の玄関にはすでに大勢の記者が詰めかけ、無数のカメラが出口に向けられていた。

克哉が、衰弱しきった菖蒲を半ば引きずるようにして姿を現すと、夥しいフラッシュが一斉に焚かれた。

菖蒲はまともに立っていることすらできず、克哉の腕に全体重を預けていた。

「青木さん、菖蒲さんと本当に離婚されたというのは事実ですか?」

「菖蒲さんに、小林さんのヌードシーンの代役を強要したという話は本当ですか?」

克哉はアシスタントからマイクを受け取ると、無表情に口を開いた。「メディアの皆様、ご関心をお寄せいただき感謝します。本日、俺たちの婚姻関係が終了したことを、正式にご報告いたします」

克哉は一度言葉を切り、腕に支えられた体が微かに震えるのを感じた。

「離婚の理由は、菖蒲が長年のセックス依存症であり、この10年もの間、その事実を隠し続け、裏で様々な男性と関係を持っていたためです。これが、この結婚生活を破綻させた原因です」

その言葉に、会場は騒然となった。記者たちの質問の矛先は、一斉に菖蒲へと向けられた。

「菖蒲さん、本当にそんなに男好きなんですか?」

菖蒲の体はぐらりとよろめいた。何かを言おうと口を開いたが、喉から出たのはかすれた息の音だけだった。

すると、群衆がざわめき始め、誰かが菖蒲を突き飛ばした。

「土下座して謝れ!

克哉さんを騙して、裏切るなんて、恥知らずめ!」

菖蒲は膝から崩れ落ち、その場に倒れこんだ。

混乱の中、誰かの平手が菖蒲の顔を打ち、乾いた音が騒音の中に鋭く響き渡った。

「もうやめてください!」杏が菖蒲を庇おうと飛び出したが、警備員に阻まれてしまった。

克哉はその場に立ち尽くし、菖蒲がボロ切れのように突き飛ばされ、辱められるのを眺めながら、胸の内に得体の知れない苛立ちがこみ上げてくるのを感じていた。

ふと見ると、菖蒲が顔を上げ、人々の隙間から自分のことを見ていた。その眼差しは、恐ろしいほどに穏やかだった。

そして菖蒲は、口の端に血を滲ませたまま、ふっと笑い、声もなく何かを言った。

10年を共に過ごしたからだろうか。克哉には、菖蒲の唇の動きが読み取れた。菖蒲はこう言ったのだ。「克哉、あなたは後悔するわ」と。

その後の3日間、菖蒲はずっと集中治療室で過ごした。

膵臓がんが急速に全身へ転移し、危篤通知は何度も出され、医者は即刻手術が必要だと言うが、それには家族の署名が必要だった。

そこで、仕方なく杏は震える手で、克哉の電話番号をタップした。

長いコール音の後、ようやく電話が繋がったが、聞こえてきたのは克哉の声ではなかった。

「どなた?」綾の甘ったるい声がした。

「克哉さんをお願いします、急用です!」杏は切羽詰まった声で言った。

「克哉さんは今、忙しいんです。結婚式場を選んでいるところなんですよ」綾はクスクスと笑った。「ここがいいかな。3週間後の聖ペテロ教会は?克哉さんはどう思う?」

すると、電話の向こうから、克哉の低い声がかすかに聞こえた。「お前が好きなところでいい」

「克哉さん!」杏は受話器に向かって叫んだ。「菖蒲が危篤なんです!手術のサインが必要なんですよ!早く病院に来てください!」

しばしの沈黙の後、再び綾の声が響いた。「夏川さん、克哉さんが言っています。『もう菖蒲とは何の関係もないから、そういうことは彼女の家族に頼んでくれ』と」

「菖蒲に家族なんて、もういないじゃないですか?克哉さん、あなたって……」

電話は、一方的に切られた。

杏は力なくその場にへたり込み、涙で視界がぼやけていった。

杏は知らなかった。その瞬間、集中治療室のベッドの上で、菖蒲が最後の力を振り絞り、SNSの送信ボタンを押したことを。

一つ目の投稿は、末期の膵臓がんの診断書だった。

二つ目は、克哉と綾の、10年間にわたる不倫の証拠。

三つ目は、一本の録音データ。そこには克哉の冷たい声がはっきりと残されていた。

「菖蒲と結婚したのは、若気の至りというか、責任感からだ。あいつは両親がいないし、俺以外に引き取り手なんていなかったからな。だから、今回あいつがお前の代わりにヌードシーンをやり終えたら、さっさと捨てて、お前と結婚するさ」

そして最後の投稿には、ただ二文字だけが記されていた。【訃告】

添えられていたのは、一枚の、菖蒲の遺影だった。
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