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第6話

Penulis: ちょうどいい
役所の前で、乾いた平手打ちの音が響き渡った。

殴られた衝撃で克哉の顔は横を向き、左の頬がみるみる赤く腫れ上がった。

克哉はその場に凍りつき、信じられないという表情で目を見開いていた。

この10年、菖蒲は彼に一度も声を荒らげたことがなかった。ましてや手を上げるなんて、ありえないことだ。一体どうして?

そこへ綾が悲鳴を上げて駆け寄ってきた。「克哉さん、大丈夫?」

綾は心配そうに克哉の頬を撫でると、向き直って菖蒲を睨みつけた。

「頭おかしいんじゃないの?」

菖蒲の手はまだ小刻みに震えていた。でもそれは後悔からじゃない。痛みと怒りが入り混じったせいで、体が勝手に反応しているだけだ。

菖蒲は目の前の二人をまっすぐ見つめた。その眼差しは氷のように冷ややかだった。

「頭がおかしいのはそっちでしう。克哉、あなたがここまで恥知らずな人間だとは思わなかったわ」

それを聞いた綾はすぐに警察に通報した。「人前で殴るなんて立派な犯罪よ。克哉さん、絶対にこのままにしちゃダメ。あなたは有名人なのよ。もし誰かに動画でも撮られて、元妻からDVされてるなんて広まったらどうするの……」

克哉は、そんな綾を止めようとしなかった。

二十分後、警察署の一室。

綾は克哉に寄り添うように座り、甘ったるい声を出した。

「おまわりさん、見てください。克哉さんの顔、まだこんなに赤いんですよ。これは立派な傷害事件です。法律に従って、ちゃんと罰してほしいです」

中年の警察官が菖蒲に尋ねた。「殴ったことは認めますか?」

「はい、認めます」菖蒲は落ち着いた声で答えた。

「どうして殴ったんですか?」

菖蒲は顔を上げ、克哉と綾に目をやり、ふっと鼻で笑った。

「この人は、殴られて当然だからです」

綾がすぐに立ち上がった。「おまわりさん、聞きましたか?まったく反省してないんですよ!こんな人は留置場に入れるべきです!」

警察官は眉をひそめた。「菖蒲さん、あなたが謝って、相手の方が許してくれれば……」

「謝らないし、許してもらう必要もありません」菖蒲は話を遮った。「捕まる方がましです」

それを聞いて、克哉が不意に口を開いた。

「実はもう一つ、選択肢がある」

菖蒲は無表情のまま、克哉に視線を向けた。

「契約通りなら、お前は今日の午後には撮影に参加するはずだ」克哉の声には感情がこもっていなかった。

「もし今から契約通り撮影に来るなら、この平手打ちのことは水に流してやってもいい。それに、お前の両親の墓や実家を荒らすような真似も二度とさせないと約束しよう」

「克哉さん!」綾が不満そうな声をあげた。

克哉は手で綾を制すると、視線を菖蒲に固定したまま言った。「選べ。留置場か、撮影現場か」

菖蒲は、克哉が思わず目を逸らしそうになるほど、長い時間、彼をじっと見つめていた。

「撮影現場に」菖蒲はついにそう答えた。

克哉の胸が、なぜかチクりと痛んだ。だがすぐにその奇妙な感覚を押し殺し、警察に頷いてみせた。

「告訴は取り下げます」

綾は信じられないという顔で克哉を見た。「克哉さん、このまま許すの?あなたを殴ったのよ!」

「行くぞ」克哉は立ち上がり、菖蒲を見下ろした。

「今日の午後3時だ。遅れるな。さもないと、お前は到底払えない額の違約金を請求されることになる」

それを聞いて菖蒲の体は、ぴくりとこわばった。

そして、警察署を出る前、綾が菖蒲の耳元に顔を寄せて、囁いた。

「克哉さんがどうして許してくれたか分かる?このあと撮影現場で、あんたにたっぷりお返しをするつもりだからよ。そうそう、共演する男優たち、みんな大物俳優の元奥さんと絡めるって聞いて、すごく……興奮して楽しみにしてるみたい」

午後2時50分、撮影現場。

菖蒲は二人のスタッフに、まるで連行されるようにスタジオへ連れてこられた。

そこは、古びた安宿の一室のように飾り付けられていた。壁には暗い赤色のカーテンがかかり、部屋の中央には汚れたベッドが一つ。そして、あたりには無数のカメラが設置されていた。

何より菖蒲を息苦しくさせたのは、部屋の中にすでに5人の上半身裸の男優たちが立っていたことだ。

彼らは、遠慮のない視線で菖蒲の体をなめ回すように見ていた。

克哉はモニターの後ろに座っていた。ダークスーツに身を包んだその姿は、この汚い部屋の雰囲気とは全く不釣り合いだった。

克哉は台本に目を落としたまま、顔も上げずに言った。「着替えさせろ」

女性スタッフの一人が、ほとんど透けているような薄い衣装を持って菖蒲に近づいた。

「こんなものは着ません」菖蒲は一歩後ずさった。

克哉は立ち上がり、一歩一歩、菖蒲に近づくと、彼女の胸ぐらを掴んで冷たく言い放った。

「お前に拒否権はない!」

ビリッ、薄いシャツが乱暴に引き裂かれ、ボタンが床に弾け飛んだ。

菖蒲は悲鳴をあげ、とっさに両手で胸元を隠した。

「克哉、やめて!」

「やめる?」克哉は鼻で笑い、さらに菖蒲の服を引き裂いた。「菖蒲、今さら綺麗事を言うな。ここに来ると決めた時点で、こうなることは分かっていただろう?」

こうして、静まり返ったスタジオに、布が裂ける音がやけに響いた。

菖蒲は歯を食いしばってもがいたが、弱りきった体では克哉に敵うはずもなかった。

まもなく、菖蒲は克哉によって汚れたベッドの上に突き飛ばされた。

克哉の合図で、広いスタジオは一瞬にして暗闇に包まれた。

荒い息遣いがだんだんと近づいてくる。菖蒲は、無数の手が自分の体に触れてくるのを感じた。誰かに顎を掴まれ、赤く光るカメラの方へと無理やり顔を向けさせられる。

克哉が高画質の暗視カメラを近づけようとした、その時。ふいに、強い血の匂いが漂ってきた。

続いて、男優の一人が恐怖に満ちた声で叫んだ。

「大変だ、人が死んだぞ!」
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