結婚して10年。青木菖蒲(あおき あやめ)が青木克哉(あおき かつや)を愛して止まないということは、芸能界で誰もが知っていることだった。それだけ、愛が深かったからこそ、彼女はたとえ、克哉が結婚しているにも関わらず数々の馬鹿げたスキャンダルを起こしても、何一つ嫌な顔をせず、後始末をしてきた。例えば、克哉と小林綾(こばやし あや)がクラブでキスしているところを撮られた時、菖蒲はパパラッチのSNSの投稿を引用して、【克哉がキスしていた相手は私です】と投稿することで粉飾しようとした。また、ある時、克哉と綾のいかがわしい写真が流出した時も、「プライベートな撮影をしていただけです」と菖蒲は記者に説明した。さらに、克哉と綾が同じ部屋に3時間も二人きりでいた時は、「実はあの夜、私もその部屋にいました」と言ってのけた。こうして、菖蒲は克哉が繰り返すスキャンダルの後始末をひたすら行ってきたのだった。そして、世間から、最初は同情も買っていたが、いつしか「クズ男に尽くす追っかけなんて自業自得だ」と罵られるようになったのだ。だが、こうした騒ぎが続く中、克哉と綾の話題が99回も世間を騒がせた時、いつもなら真っ先に夫をかばうはずの菖蒲が、何の反応も示さなかった。そんな状況に、世間が驚いている矢先、菖蒲はSNSに一件の投稿をした。【みなさん、こんにちは。私の命はもうまもなく底をつきます。よければ、7日後のお葬式にでも、ぜひお越しください】……その、投稿をし終えると、菖蒲はスマホをソファに放り投げた。画面はまだ明るく、コメント欄は炎上していた。でも、彼女はそれを見る気にもならなかった。その時、ドアが激しい音を立てて開けられた。菖蒲がどうにか顔を上げて目線を向けると、入口に克哉がスマホを握りしめ、顔を怒りで歪ませながら立っているのだった。そして、克哉は靴も脱がず、高価な手織りのウールカーペットの上を土足でずかずかと歩いてきた。「菖蒲、また何かしようとしているのか?同情を引くためなら、そんなくだらない手まで使おうっていうのか?」そう言われて、菖蒲はゆっくりと顔を上げ、克哉の怒りに満ちた視線を静かに受け止めた。10年も愛してきたこの男の顔を見ていると、彼女はなんだか笑えてきた。菖蒲と克哉は、古い団地で一緒に育った幼馴染だった。
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