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第2話

Penulis: ちょうどいい
そう思って、菖蒲はゆっくりと体を起こし、テーブルの下の棚から銀色のライターを取り出した。

カチッと音を立てると、青い炎が診断書にたちまち燃え移り、紙は丸まりながら黒く焦げ、やがて一握りの灰になった。

まるで、燃え尽きた自分の10年間の愛のように。

それから、菖蒲は深く息を吸い、こみ上げてくる血の味をなんとか飲み込み、改めてスマホを手に取ると、画面には克哉が投稿した例の投稿が表示されたままだ。そのコメント欄は、ひどい言葉で埋め尽くされているのだった。

【キモ。菖蒲のヤツが本当の尻軽女だったとはね!】

【綾さんに謝れ!芸能界から消えろ!】

【独りよがりに尽くしても、思うようにならなかったのね!菖蒲のヤツ、ざまあみろ!克哉さん、早く離婚して!】

次々と増える悪質なコメントを眺めていても、菖蒲はもう痛みを感じなかった。心が廃れていくと、体も感覚を失うのかもしれない。

そう感じながら菖蒲は、ほとんど連絡を取ることのない番号に電話をかけた。

「陣内先生、すみませんが家まで来ていただけますか。遺言書を作成したいんです」

それから、弁護士の陣内浩平(じんない こうへい)はすぐに来てくれたが、彼は血の気もなく、まるで別人のように痩せこけた菖蒲の姿を見て、驚きを隠せないようだった。

記憶にある菖蒲は、いつも上品で落ち着いていた。どんなに大変な状況でも、気品を失わない人だったのに。どうしてこの数ヶ月で、こんなに死にそうなほど衰弱してしまったのだろうか。

「青木さん、あの……」

「私にはもう時間がありません、陣内先生」菖蒲は浩平の言葉を遮り、用意していた書類の草稿を渡した。

「私の個人資産はすべて、両親の遺産も、これまでの投資の利益も、私の名義になっているあの古い家の権利も、死後、すべて児童基金会に寄付します。問題がなければ、この通りに進めてください」

そう言われて、浩平はうなずいた。そして、何かを言いかけたとき、菖蒲の額に冷や汗がにじむのが見えた瞬間、彼が反応する間もなく、菖蒲は後ろへばったりと倒れ込んでしまったのだ。

菖蒲が再び目を開けると、そこは病院の白い天井だった。

「目が覚めたか?」克哉がベッドのそばに立っていた。そして、菖蒲を見下ろしながら、そう言う彼の声はひどく冷たかった。

「菖蒲、仮病を使うならもう少しマシな芝居をしろ。わざわざ病院に担ぎ込まれて、みんなの笑いものになりたいのか?」

菖蒲は何も言わなかった。

すると克哉は菖蒲のスマホを取り出し、ひどく苛立った口調で言った。

「お前の緊急連絡先から俺を外せ。今度からこういうことで、俺を呼び出すな。忙しいんだ」

「忙しい?」菖蒲の声は、病み上がりで弱々しかった。「小林さんの新作ドラマの稽古に付き合うのが忙しいの?それとも、彼女のスキャンダルの後始末が忙しいの?」

「お前には関係ないことだ」克哉は眉間にしわを寄せた。

「さっさと変更しろ。病院から電話なんて、縁起でもない」

その言葉を聞くと、菖蒲は自分のスマホを受け取った。そして、克哉の目の前で設定を開き、緊急連絡先の項目から「青木克哉」の名前を削除した。

菖蒲は顔を上げて克哉を見た。その瞳は、がらんどうのように虚ろだった。「これでいいでしょ」

克哉はその迷いのない手つきを見て、なぜか胸が詰まるのを感じた。しかし、その感情はすぐに苛立ちに変わった。

「お前はいつも物分かりがよくて助かるよ」

それから、病室は、静まり返った。

菖蒲は窓の外に揺れる木々の影を眺めながら、ふと、ぽつりとつぶやいた。それは克哉に問いかけているようでもあり、独り言のようでもあった。

「克哉、覚えてる?私の父と母の葬祭場で、あなたが言ってくれたこと」

すると、克哉は、はっと息をのんで固まった。

一方で菖蒲は顔を向け、初めてこれほどはっきりと克哉の顔を見つめたのだった。

「あなたはあの時こう言ったわ。『菖蒲、もしもいつか、お前を愛せなくなったり、裏切るようなことをしてしまったら、その時は俺に言ってほしい。お前の願いを三つ、なんでも叶えると約束する。そして、俺はお前の前から去る』って」

それを聞いて克哉は言葉を失ったように、口を開きかけたが、何も言えなかった。

「一つ目の願い」菖蒲は、克哉に考える時間を与えずに言った。

「私の地元に一緒に帰ってほしいの。今日、今すぐに」

克哉は眉をひそめた。「何を言ってるんだ?綾は俺がいないとダメなんだ、俺は……」

「どんな願いでもって、言ったわよね」菖蒲は克哉の言葉を遮った。

長い沈黙の後、克哉はついにゆっくりとうなずいた。「わかった」

地元まではそれほど遠くなく、高速を使えば2時間ほどの距離だ。

道中、二人の間に会話はなかった。

到着したあと、菖蒲が車のドアを開けて降りると、克哉も後に続いた。その間、彼の眉間に寄せられたしわは、ずっと消えないままだった。

一方で、菖蒲はあるマンションの前に置かれた石のベンチまで歩いていくと、そのざらざらした表面をそっと撫で、静かに言った。

「昔、あなたはいつもここに座ってたわね。私が学校を終えるのを待って、一緒にアイスを買いに行った」

克哉が菖蒲の視線の先を追うと、記憶の扉がほんの少し、こじ開けられたようで、ポニーテールの、いつも静かに自分の後ろをついてきた少女の姿が一瞬よぎったのだった。

しかし、その思い出はすぐに綾の明るく華やかな顔によって塗り替えられた。

「今さらそんな話をして、何の意味がある?」克哉は目をそらし、ぶっきらぼうに言った。

菖蒲は克哉を無視して歩き続け、ある壁の角で立ち止まった。

「ここで、私をいじめていた年上の子たちと喧嘩してくれたわね。おでこをケガして、血がたくさん出ていた」

克哉は無意識に額に手をやった。そこはもうすっかりきれいになっていて、傷跡一つ残っていなかった。

「菖蒲、いったい何がしたいんだ?」克哉はついに我慢できなくなり、問い詰めるような口調になった。「思い出に浸るつもりか?過去にすがりついて俺を縛り付けようったって、無駄だぞ!人は変わるんだ!」

菖蒲は立ち止まり、克哉を振り返った。その目はとても穏やかだった。

「あなたを縛り付けようなんて思ってないわ、克哉。

ただ、確かめにきただけ。かつて、私を幸せにすると言ったあの少年が、本当にもういなくなってしまったのかどうかをね」
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