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月の宿

last update Dernière mise à jour: 2025-03-07 19:10:06

「ちょっと早く着いちまったか。ヨール、明日の初心者講習でも予約してきたらどうだ?」

 人だかりから逃げるようにラシードさんのパン屋を後にした為、約束よりも早くギルドに到着してしまった。

「そうですね、予約してきます」

 冒険者達は今頃依頼をこなしているのであろう。

 朝の喧騒が嘘のようにギルドは静まり返っていた。

「あのー、さきほど冒険者登録をしたヨールです。初心者講座を予約したいのですが、次の開催はいつでしょう?」

 朝と同じ受付嬢に声をかけた。

「はーい。最短ですと、明日の夕方になりますがどうされます?」

 感じのいいお姉さんだ。それに美人ときた。冒険者からの人気も高いんだろうな。

 お金もそんなに持っているわけじゃないし、講座を受けるのは早いほどいい。

「では明日でお願いします。何か準備するものはありますか?」

「そういったことも踏まえての初心者講座ですので、手ぶらで構いませんよ。今くらいの時間には来ておいて下さいね」

 俺は、なるほどと横手を打って感心した。

 一から教えてくれるなんて、ずいぶんと手厚いんだな。せっかく冒険者になってくれた人が、何も分からず無茶をして死んじゃったら大変だもんね。

「さて、ギルド長に会いに行こう」

「では、ご案内致しますね」

 冒険者の数が少なかったからか、受付嬢がギルド長の部屋まで案内してくれた。

 予定よりは早いが、何か動きがあったかもしれない。遅れるよりはいい。

「エミル殿、丁度良かった! さあ掛けてくれ」

 俺達がソファーに座るとギルド長が話を続ける。

「調査が終了したよ。森にオークの集落は無かった。しかし、計13頭のオークが見つかってね、何らかの異変が起きているのは間違い無いと思う。例えば、新しいダンジョンが発現する前触れ……とかね。可能性を挙げだしたらキリがないが、しばらくは森のパトロールが必要となりそうだ。ということで、森にあった5頭分のオークの素材を差し引いて、請求は金貨9枚と大銀貨50枚でどうだろうか」

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     わたしは今光の中にいる。足が地についた感覚はないけれど、どういう原理か立っている。歩こうと思えば歩けるし、座れもする。 今日は夏休み初日で、古文の補習があった。教室で先生を待っていたら、菊ジイこと菊田先生と、スーツ姿のイケメンが入ってきた。 そのイケメンは、ぱっと見ただけで分かるほど高そうなブルーのダブルスーツを着ていて、艶やかな黒髪のオールバックに、金縁の丸メガネをかけ、燃えるような赤い瞳をしていた。彫りの深い欧米人のような顔立ちで、顔のパーツの一つ一つが大きく、作り物のように整った顔立ちはどこか浮世離れしていた。おそらく外国の方だと思う。 菊ジイは虚な目でずっと下を向いたまま何も喋らず、ただ教壇の後ろに立ち尽くしていた。「こんにちは、お嬢さん。お名前を教えて頂いても?」 まさか外国人だと思ってたイケメンから流暢な日本語が発せられると思わなくて、びっくりして噛んでしまった。「は、八王子 麻里恵(はちおうじ まりえ)でひゅ……す」「麻里恵さん、よろしくお願いしますね」 イケメンが優しく微笑みかけてくる。なんて尊さ。(教育実習生なのかな? だとしたら全力で推していきたいところね! 後で一緒に写真を撮ってもらってカナコちゃんに教えてあげよっと!) 色々と妄想をしていると、ドサッという音がした。菊ジイが倒れたようだ。定年近いと聞いていたし、夏の暑さにやられてしまったのかもしれない。「菊ジイ、大丈夫!?」 慌てて駆け寄り肩を叩くが反応はない。かろうじて呼吸はしているようだ。 イケメンが菊ジイを抱き上げ、日陰に移動して横にさせる。「大丈夫ですよ、安心して下さい。麻里恵さん一緒に来ていただけますか?」 なんだろう、保健室だろうか。「はい、大丈夫です!」 わたしは光に包まれた。 で、今ってわけなんだけと……。「麻里恵さん、気づいたみたいだね」 振り返ると爽やかな笑顔のイケメンがいた。歯がキランと光るエフ

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   鑑定 side武藤 零ニ

    (人か……?) 道を挟んで反対側の森から、身長1メール程の二足歩行の犬といった見た目で、右手に木の棍棒を持った生き物がキョロキョロと辺りを見回しながら出てきた。子供の犬獣人かもしれない。「おいガキ! ここはどこだ?」 茂みから出て眼光鋭く睨みを効かし、近づいていく。「ワン!」 威嚇するように吠えると、二足歩行の小型の犬は棍棒を振り上げこちらに走ってきた。「おい止まれ!」 注意を促すが、止まる様子はない。こちらの左脇腹を狙い棍棒を横薙ぎに振るってきた。子供なのになかなかの身体能力なのは獣人だからであろうか。 2回バックステップをして距離を取る。「おいガキ! 次はねえぞ、止まれ!」 再度注意を促すが、再び棍棒を振り上げ襲いかかってきた。 乱暴に振り下ろされた棍棒を左にサイドステップでかわし、棍棒を持つ手の手首を右足で蹴り上げ、棍棒が手から離れたのを確認してから、右のストレートで顔面を殴りつけた。「キャイン!」 二足歩行の犬は、金切声のような悲鳴をあげて地面に倒れると、脳が揺れているのか立とうとするが膝が笑っており力が入らずなかなか立てないようだ。 右手で棍棒を拾い上げ、トントンと右の肩を叩く。「アホが、痛い目見て分かったか? ここがどこか教えろ!」 話しかけるが返事はない。 ようやく軽い脳震盪から回復したのか、ゆっくりと立ち上がり噛みつこうと大口を空けてこちらに向かってきた。 右手の棍棒て下顎を打つと、顎が外れて大きく頭を傾け、走っていた勢いのまま地面に受け身をとれずに頭から倒れた。「お、おい! 大丈夫か?」 慌ててかけよると、白目を剥いて舌を出し、泡を吹いてガクガクと体を震わせていた。体を揺するが反応は無い。まだ息はあるので死んではいないようだ。目を覚ますまでしばらく待つとするか。 時々肩を叩いて呼びかけるが反応はない。15分くらい経っただろうか、近くの茂みがガサガサと音をたてると、中から透明な水風船を地

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