幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる

幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる

last updateLast Updated : 2026-02-11
By:  酔夫人Updated just now
Language: Japanese
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十七年前のあの日、「聖女」は死んだ。 でも「私」は生きている。 私は父伯爵に異母妹ラシャータの代わりに彼女の婚約者アレックス・ウィンスロープ公爵に嫁げと言われた。 彼は異母妹の自慢の婚約者だったが、魔物との戦いで呪われたという。 二十歳、初めての外の世界。 そこにはたくさんの「愛」があった。

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Chapter 1

1

「遅いわよ、この愚図ぐず!」

父伯爵の書斎に入ると、異母妹のラシャータの怒声が飛んできた。

甲高い声にレティーシャは耳がキンッと痛む。

そしてインク壺が飛んでくる。

しかし、ラシャータは物を投げるのが下手。

だから、レティーシャによける必要はない。

レティーシャの予想通りだ。

レティーシャは動かなかったのに、ラシャータの投げたインク壺は離れた壁にぶつかって、割れた。

インク壺の中から、インクが飛び出る。

インクが壁や床に飛び散った。

毛足の長い絨毯にも、インクがしみ込んでいく。

(当たったほうが良かったかもしれない)

ガラスの壺が当たれば痛い。

でも、この飛び散ったインクの後始末をするのは、どう見ても骨が折れる。

(後始末が困るものばかりを選んで投げている気がするわ)

手元にあるからで、パッと取っているようだが、ラシャータの選ぶものは後片付けや後始末が大変なものばかり。

わざわざこれを選ぶラシャータの趣味のよさ・・

レティーシャは、内心ため息を吐いた。

(今回はインクで、前回はドーナツ)

ドーナツのときは壁に丸い形の油染みができ、さらに床板の隙間に入り込んだ砂糖にアリが群がってしまい、後日もうひと騒ぎ起きてしまった。

「ラシャータ、それ・・に構う必要も時間もない」

「はあい、お父様」

父伯爵はラシャータに向けていた優しい目から一転、冷徹な目を『それ』扱いのレティーシャに向けた。

何かしただろうかと、レティーシャは考えた。

何かをした覚えは、ない。

(いつもこんな目つきかもしれない)

レティーシャは気にしないことにした。

父伯爵の目は、実の娘に向ける目ではない。

でも、レティーシャは慣れている。

「国王陛下から御手紙をいただいた」

「はい」

なぜそんな大事な手紙を自分に見せるのか。

不思議だが、それを問うことはレティーシャに許されていない。

レティーシャに許されているのは「はい」のみ。

「ウィンスロープ公爵家に直ちに嫁ぎ、当主アレックスを治すようにとの王命だ」

「はい」

ウィンスロープ公爵家は、武家の名門。

王家の信頼も厚い。

歴代の当主は『王の槍』と呼ばれ、王国騎士団の騎士団長を務めている。

当代のアレックス・ウィンスロープ公爵も、王立騎士団の団長様だ。

(……治す)

アレックスの不調に、レティーシャは心当たりがあった。

半年前に起きた魔物の大流出で、アレックスは多くの騎士を率いて魔物の討伐に向かった。

魔物は無事に掃討されたが、作戦中にアレックスが重傷を負った。

これは、レティーシャも知っていた。

(閣下は順調に回復していると新聞にあったけれど……やはり嘘でしたのね)

アレックスはこの国の槍である。

それと同時に、この国の盾である。

アレックス・ウィンスロープの存在が他国をけん制して、武力を退けさせて、この国を守っている。

この国の安寧のために、アレックス・ウィンスロープは順調に回復していなければならない。

しかしスタンピードから半年たったいま、まだ姿を見せないアレックスに『回復』を疑う声が出てきている。

新聞の記事はコントロールできても、国民の口はコントロールできない。

(嘘なのは薄々分かっていましたけれど)

レティーシャは顔を動かさず、目線だけをラシャータに向けた。

アレックスはラシャータの婚約者だ。

神が贔屓したと言われるほどの容姿を持つアレックス。

彼と共に夜会にいき、注目を集めて羨望の眼差しを浴びたいラシャータは、いつもアレックスに夜会のエスコートを強請っていた。

しかし、アレックスからは公爵の仕事と騎士団の仕事で忙しい。

多忙を理由に毎回断られ、貴族のご令嬢たちには自慢できない。

そのフラストレーションの解消に、ラシャータはアレックスのことをレティーシャに自慢していた。

アレク様が。

アレク様と。

事実とラシャータの願望がごちゃまぜになった話を、レティーシャはたくさん聞かされていた。

でも、最近はそれがなかった。

ラシャータがアレックスに茶会や夜会のエスコートを頼んだ様子もない。

ラシャータに呼ばれて、アレックスの自慢話を聞くこともなかった。

ラシャータ自身が屋敷に籠もって出かけていないわけではない。

元気だなとレティーシャが感心してしまうくらい、ラシャータは毎日どこかに出かけている。

療養中だから、誘っていないのか。

一般的にはあり得る気遣いだが、ラシャータにはあり得ない。

断られると分かっていて誘い、「断るなら代わりに誠意をみせてほしい」と言って、お詫びの宝石やドレスを強請るのがラシャータ。

(公爵家からお詫びの品も届いていないし、手紙さえも私の知る限りはなかった)

レティーシャは、気づいた。

(なぜ伯爵様は、これを私に話しているのかしら?)

「お前、『ラシャータ』としてウィンスロープ公爵家に嫁げ」

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