Mag-log inカリナは産んだばかりの子を奪われ、逃げた先で帝国のアイリー公爵家のレベッカに救われる。程なくして、カリナの子はロバート国王とエミリアーナ王妃の子として発表された。カリナに執着するロバート国王から彼女をを守る為、ランスロット・アイリーは契約婚を持ちかける。
view more湖畔に佇むガラス張りの皇宮のチャペル。 湖に太陽の光が反射してバージンロードの先にいるランスロット様を照らしていた。あまりの美しい光景にここが天国なのではないかと錯覚しそうになる。 レベッカ様がバージンロードを私と腕を組んで一緒に歩いてくれる。 パイプオルガンの重厚な音と共に一歩一歩ランスロット様に近づいて行く。大好きな人と愛する人の元へたどり着いた瞬間を私は一生忘れないだろう。 神官の低い落ち着いた声がしても、私は心臓の鼓動が早くなるのを抑えられなかった。「ランスロット、アイリー。そなたは、カリナ・ブロワを妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、妻を想い添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」 「はい、誓います」 ランスロット様が穏やかな声で、偽りでも私との永遠の愛を誓ってくれる。 私を見つめる琥珀色の瞳が優しい光を放っている。「カリナ・ブロワ、そなたは、ランスロット・アイリーを夫とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、夫を想い添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」「はい、誓います」 幸せな気持ちで胸がいっぱいになりながら、私は嘘偽りのない彼に捧げる永遠の愛を誓った。 彼の迷惑になるこの気持ちを消せる自信がない。 私を守ってくれる優しい人。私と一緒にいてくれるのは彼のノブレス・オブリージュだろう。 少し寂しい気持ちを覚えながらも、私は幸せを噛み締めていた。 淡いターコイズブルーのベルベットにキラリと光る結婚指輪が2つのせられていた。グローブを外し彼が私の左手の薬指に指輪を嵌めてくれる。私は緊張しながら、彼の左手の薬指に指輪を嵌めた。 彼と夫婦になれた喜びで涙が溢れそうになるのを必死に堪える。 結婚の誓約書に震える手でサインをした。愛する彼の名前に自分の名前が並んでいる。 自分に好きな人ができて、その人
カリナは再び夢の中に居た。 結婚式を終え夜を迎える。 緊張しながら寝室で待つカリナの前に、ガウンを着たランスロットが現れた。 カリナは深呼吸をして、自分の思いの丈を伝えることにした。 彼を愛する気持ちは秘めると誓ったが、今宵だけでも彼の本当の妻になりたかった。『ランスロット様⋯⋯初夜なので、私に触れては頂けませんでしょうか? 私はあなた様のことを⋯⋯』 彼女は彼が自分に触れないように気をつけている事に気がついていた。 腫れ物のように扱われるのは、彼女にとって悲しい事だった。 確かにロバート国王に傷つけられはしたが、その傷はランスロットに守られる事により少しずつだが癒えて来ていた。『了解した。君の要望により、夫の役目を果たそう。夜着を脱いで、ベッドに横たわるが良い』 淡々と義務的なランスロットを見てカリナは酷く虚しい気持ちになった。『手を繋いで眠るだけで良いのです。ランスロット様のお手は煩わせません。ただ、私に触れて欲しいだけなのです』 涙で視界が滲んだところで、目が覚めた。 夢は辛い日常を送っていた彼女にとって、心の回復の場だった。 それなのに、今、見た夢は彼女にとって悲しい夢だった。 カリナは目が覚めるなり、自分が涙を流している事に気がついた。 今日は彼女がランスロットと結婚する日で、結婚式が皇宮のチャペルで行われる。 その為、前日から皇宮に寝泊まりしていた。 ♢♢♢ 「今のは予知夢?」 私は涙を拭きサイドテーブルにある呼び鈴を鳴らす。 メイドが洗面の為のぬるま湯が入った桶を持ってきた。「ありがとう。下がって良いわ」 いつも洗面桶を持ってくる側だったので慣れないが、世話をされる側になれないとならない。 控え室に行き、純白のウェディングドレスを着せて貰う。 自分には縁がないような美しく繊細なドレスに見惚れた。 ドレスの胸の辺りには私の瞳の色に合わせたアメシストがあしらってある。「
カリナはガーデンパーティーに参加するにあたり、肖像画と照らし合わせて参加者の名前を全て覚え話題に事欠かないよう綿密に下調べをした。 宝石の名前を言う度に、彼女はエミリアーナと過ごした時を思い出した。 その記憶は辛いものではなく、幸せなものばかりだった。 色を表現する度に、彼女はランスロットとの会話を思い出していた。 彼を思い出す時は決まって彼女は切ない感情に襲われた。 彼女は自分を助けてくれたランスロットをはじめとするアイリー公爵家の人間に恥をかかせないよう必死だった。 これを機に彼女に恥をかかせようとする者もいたが、人の悪意に鈍感な彼女の性格が功を奏した。 彼女は気分が悪そうで顔が真っ青だったレベッカをヘンゼル皇太子が連れ出してくれて安心していた。 そして、2人の間に結婚前にはなかった甘い空気があったのを感じていた。 ♢♢♢ 金木犀の優雅な香りを感じて振り返ると、プラチナプランドにルビー色の瞳をした背の高い美女が立っていた。「初めまして、メアリー嬢」 メアリー・アーデン侯爵令嬢、ランスロット様と5年婚約していた女性だ。2人は恐らく多くの時間を共有したのだろう。 私は味わった事のない、心臓を柔らかく握られるような淡い痛みを胸に感じていた。 「初めまして、カリナ嬢。時に、カリナ嬢は開かない扉を叩きた続けた事はありますか?」 急な質問に動揺してしまう。 脳裏に浮かんだのは、監禁されていた王妃の部屋での時間。私は1度も内側から扉を叩かなかった。叩いた所で意味がないと本当は知っていた。 切なそうな目で私に語りかけるメアリー嬢は、自分とランスロット様の過去の関係性を思い出しているのだろう。(『私も愛を求めて来る女性は苦手だ』) ランスロット様の言葉を思い出し、彼の心の扉を悲壮な表情で叩き続けたメアリー嬢の姿が浮かんだ。「そのような顔をさせるつもりは、ありませんでした。ヴァイオレット・ダイヤモンド⋯⋯素敵な婚約指輪ですね。私はそろそろ失礼しますわ」 長いまつ毛を伏せなが
クリスティーナ王妃はカリナを蔑むと同時にエミリアーナ王女の血筋も貶している。 (側室の子だから? なんて嫌味ったらしいの!) 私はカリナを騙したエミリアーナ王女を憎んでいるが、少し同情した。 私が口を開こくより先に、カリナは天使のような微笑みを浮かべながら口を開いた。「私は亡くなった母譲りのこの髪色を気に入ってます。エミリアーナ様は私よりも光沢のあるパールグレーの髪色で、私はいつも月の女神様の髪を梳かしている気持ちでした」 カリナは自分を騙した悪女を女神と言ったのだろうか。 クリスティーナ王妃はカリナの事情を知っていそうだ。 明らかに彼女の返しに驚き過ぎて絶句している。 確かに自分を陥れた相手を嬉しそうに褒めちぎっている彼女の感覚は私も理解できない。 「クリスティーナ王妃殿下のライラック色の髪は艶やかで美しいですね。春の女神様のようです。そのピンクルビーの髪飾りも素敵ですわ」 カリナは優しく微笑みながら彼女を褒めた。(あの髪飾りについている石はピンクサファイアじゃないの?) サマルディー王国にはサファイア鉱山が沢山あり、有名なサファイア産出国だ。「ふっ、この髪飾りは夫からのプレゼントなの」「クリスティーナ王妃殿下の誕生石ですものね。素敵な夫婦関係ですね」 どうやら、本当にピンクルビーだったらしい。 私は傷ついた天使のようなカリナを守らなければならないか弱い存在だと決めつけていた。実際の彼女はとても強い子だったみたいだ。(カリナ⋯⋯宝石鑑定士の過去もあるのかしら⋯⋯) 私はクリスティーナ王妃が離れたのを見計らってから、カリナに話し掛けた。「カリナ、私は何の女神かしら」「レベッカ様は私を救ってくれた太陽の女神様です。改めてご結婚おめでとうございます」 真っ直ぐに私を見つめる澄んだ彼女の瞳を見ていると心が洗われるようだった。 貴族同士の足の引っ張り合いが嫌いで、距離を置いて人と付き合ってきたがカリナには私の近くにいて欲しい。 主催者の私
退屈な時間を終えて、セーラの部屋に向かおうとした時に悲鳴が聞こえた。「いやー、やめてー」 セーラは静かな子で、大声をあげない。 そのような子が必死に助けを求めている。 彼女の声は澄んでいて天使のようで特徴がある。 私が聞き間違える訳がない。 私は護身用の短剣を握りしめ、部屋の扉を勢いよく開けた。 ロバート・スペンサー国王がベッドにセーラを押し倒していた。 彼は私の中で良識ある人間だったが、それは覆された。(この野蛮人が!) 彼を追い出しセーラに向
私が拾った天使さんの名前はカリナ・ブロアだったらしい。 彼女の真実を聞いた時、私は言いようのない怒りと憎しみの感情に襲われた。 彼女は純潔を強引に奪われ、子を孕まされ奪われ、殺されそうになって逃げた。 それなのに彼女からは憎しみや復讐心を感じない。 普通に生活していたら経験しないような不幸な目に合っているのに、ひたすらに自分のせいだと語る彼女に違和感を感じた。 カリナが天使のように見えたのは負の感情が欠落しているから? 私は今すぐにでもロバート・スペンサーの首を掻っ切りに行きたい。 たとえ彼を勢い余
身を捩っても抜け出せないくらいの強い力でロバートが抱きしめてくる。「ロバート国王陛下、おやめください。今の私は婚約者がいる身です」 自分の発言に、なぜランスロット様が私なんかを婚約者にしたのか気がついてしまった。 彼は私を愛しているから婚約者にしたのではなく、私の事情を知り同情しロバートから守る為に婚約者にしたのだ。 彼の優しさに気がつき明らかに彼に惹かれ始め、一緒になれると心が浮ついていた。 心が急速に沈んでいく。 よく考えれば、私なんかをランスロット様のような方が愛してくれる訳がない。
「エミリアーナ! カリナを逃したのか?」 僕は急いでエミリアーナの部屋に向かい問い詰めた。 産婆はカリナの行方を頑なに吐かなかったが、隠し通路の方に血の跡が続いていた。 エミリアーナは赤いベロアのソファーに腰掛け足を組み、グラスを傾けながら赤ワインを飲んでいた。 随分と長い時間飲んでいるのか、彼女からむせ返るような強い酒の匂いがした。 彼女は僕の問いかけに慌てるそぶりもなく、唇の端をあげてニヤリと笑った。 「カリナを逃したのは産婆ですわ。ただ、カリナに騙された事を認識させ長い通路を抜けた先で