特オタ令嬢は異世界で悪の秘密結社を作ります!~婚約破棄?はいはい、どうでもいいんでとりま書面にまとめてもらっていいっすか

特オタ令嬢は異世界で悪の秘密結社を作ります!~婚約破棄?はいはい、どうでもいいんでとりま書面にまとめてもらっていいっすか

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
Oleh:  瘴気領域Ongoing
Bahasa: Japanese
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公爵令嬢イザベラは、王子から唐突に婚約破棄を告げられた。ショックのあまり頭が真っ白になった瞬間、前世の記憶が蘇る。イザベラ・ヴラドクロウは令和日本からの転生者だったのだ。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームにそっくりであり、自分が悪役令嬢役だと気づいたイザベラは、断罪イベントを適当に切り上げて屋敷に帰る。 するとそこには、理不尽な婚約破棄をした王子を討とうと、兵を集めて気炎を上げる父親の姿が。このままでは【内乱エンド】で王国ごと破滅すると察したイザベラは、「自分に秘策があるので任せてほしい」となんとか反乱を食い止めるのだった。 その秘策とは―― ――悪の秘密結社を作り、王家に嫌がらせをしまくること!

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Bab 1

第1話 婚約破棄、そして前世の記憶復活

「イザベラ・ヴラドクロウ公爵令嬢、本日をもって婚約を白紙にさせてもらう!」

 貴族学校で開かれた夜会で、唐突にそんなことを告げられた。

 発言の主はイログールイ・ハレム殿下。このハレム王国の王位継承権第一位にして私の婚約者である少年だ。金髪碧眼きんぱつへきがんに整った顔つき。いかにも王子然とした風貌だが、親しく付き合うと小心なところが見えてくる。

 その彼が、なぜ突然にこんな大胆なことを?

「イログールイ殿下、それはどういうことでございましょう? まず、この婚約は家同士の約束。いくら殿下でも一存で覆せるものではありませんわ。そして、何より婚約破棄の正当な理由がどう考えても見当たりません」

「ふん、この期に及んでしらを切るか。ネトリー、こちらにおいで。イザベラに何をされたのか、正直に話すんだ」

 イログールイに呼ばれて前に出たのは桃色の髪をした少女だ。

 歩くたびにその大きな胸が揺れ、会場の男たちの視線を集めているのがわかる。彼女は平民だが、教会学校での成績が抜群であり、また魔法の才能もあったために特例で貴族学校への入学が認められた珍しい存在だ。

 正直、私にはそこまで才気走ったものは感じられなかったけれど……。

 それよりも問題だったのは、平民ゆえに貴族の礼儀や作法を知らなかったことだ。すでに婚約者がいる男性にも誰彼かまわず遠慮なく近づき、気軽に声を交わしていたりする。そういった態度はトラブルのもとだ。慎むように注意したことが何度もあった。

「あ、あの、じつは……言いにくいんですけど、イザベラ様は私がお嫌いなのか、いつも睨んできたり、嫌味を言ってきたり……」

 はあっ!? 私の注意は嫌味だと思われてたの!?

「あと、最近は持ち物がなくなってたり、汚されたりすることもあって……」

 そんなん知らんわ。自分の不注意だろ。

「それで、それで、気のせいだと思いたかったんですけど、つい昨日、階段から突き落とされそうになって……」

「ああ、僕が居合わせて受け止めなければ大怪我をするところだった。そして、犯人がいたであろう階段の上に残されていたのがこの証拠品、イザベラのハンカチだ!」

 イログールイは懐から1枚のハンカチを取り出して、夜会に集まった貴族子弟たちに見せびらかすように振った。それはいつだったか、私が使用人のひとりに下げ渡したものだ。その後は捨てようが売り払おうが知ったことではない。

「さあ、動かぬ証拠もある! 言い逃れはできないぞ! いくらネトリーが平民だと言っても、それを階段から突き落とそうなんて真似は――」

 イログールイが続けて何かを言っているが、ダメだ。頭に入らない。話している言葉自体はもちろんわかるが、内容がめちゃくちゃすぎる。なぜそれが動かぬ証拠になるんだ? それは私が手放した品物だし、ネトリーを突き落としたという犯人が落としたものだとも限らないじゃないか。

 いや、そもそもネトリーは本当に突き落とされたのか?

 イログールイの気を引くための狂言だったのでは?

 ついでに婚約者である私に濡れ衣をかぶせようとして――

 ここまで思考が至ったところで、ネトリーの顔を見た。

 そこには、あざけるような、見下すような、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

 思わずギリッと奥歯を噛む。

 目の奥が沸騰しているような感覚だ。

 怒り。

 呆れ。

 羞恥。

 悔しさ。

 さまざまな感情がないまぜになって、腹の下からせり上がり、濁流と化して頭の中に押し寄せてくる。馬鹿馬鹿しすぎて、何から口にすればいいのかわからない。視界まで霞んでくる。歪んだ景色の中で、イログールイがまだ何かを言い立てているが、同じ人間の言葉とは思えない。理解できない。気が遠くなる。比喩じゃない。この世から重力が失われたかのように、地面がふわふわと頼りないものになっていく。

 ――そのときだった。

 頭の中に、見たこともない――いや、しかしよく見知っている記憶が蘇ったのは。

 そこは令和の日本。窓から見えるビル群、机の上にはスマートフォンとさんざん苦労して自作したデスクトップパソコン、それを取り囲むフィギュアの群れ。あっ、これは正義戦隊ジャスティスイレブンだな。

 それと対峙しているのが斬殺怪人キルレイン様。ジャスティスイレブンの宿敵、悪の秘密結社ジャークダーの女幹部だ。鎧武者を連想させるが、それでいて女性的な曲線を持つ造形のバランスが実に美しい。

 それにあっちの棚にあるのは格闘戦隊バキレンジャーと忍者戦隊シノブンジャーの怪人たちなどなど。そして「普通のオタ活・・・・・・」にもチャレンジしようと買った乙女ゲームのパッケージ――

「あれ? ここ、乙女ゲームの世界?」

 思わず、そんな言葉が口から洩れていた。

「なんだ、何か申し開きがあるのか! それなら言ってみろ!」

「あー、ないっすないっす。婚約破棄? オーケーオーケー。それじゃ私……じゃなかった、わたくし、急用を思い出しましたので失礼しますね」

「なっ!? なんだその態度は!? ネトリーに対する謝罪はないのか!」

「ちょっと何言ってるかわかんなかったんで、あとで書面とかにまとめてもらえると助かるっす……ですわ。ですの?」

「おい! ま、待て! 本当に何も言うことはないのか!?」

 私はイログールイに背を向けて、さっさと夜会の会場をあとにした。

 会場のあちこちからクスクスと忍び笑いが聞こえた気がするが、いまの私にはどうでもいいことだった。

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第1話 婚約破棄、そして前世の記憶復活
「イザベラ・ヴラドクロウ公爵令嬢、本日をもって婚約を白紙にさせてもらう!」 貴族学校で開かれた夜会で、唐突にそんなことを告げられた。 発言の主はイログールイ・ハレム殿下。このハレム王国の王位継承権第一位にして私の婚約者である少年だ。金髪碧眼に整った顔つき。いかにも王子然とした風貌だが、親しく付き合うと小心なところが見えてくる。 その彼が、なぜ突然にこんな大胆なことを?「イログールイ殿下、それはどういうことでございましょう? まず、この婚約は家同士の約束。いくら殿下でも一存で覆せるものではありませんわ。そして、何より婚約破棄の正当な理由がどう考えても見当たりません」「ふん、この期に及んでしらを切るか。ネトリー、こちらにおいで。イザベラに何をされたのか、正直に話すんだ」 イログールイに呼ばれて前に出たのは桃色の髪をした少女だ。 歩くたびにその大きな胸が揺れ、会場の男たちの視線を集めているのがわかる。彼女は平民だが、教会学校での成績が抜群であり、また魔法の才能もあったために特例で貴族学校への入学が認められた珍しい存在だ。 正直、私にはそこまで才気走ったものは感じられなかったけれど……。 それよりも問題だったのは、平民ゆえに貴族の礼儀や作法を知らなかったことだ。すでに婚約者がいる男性にも誰彼かまわず遠慮なく近づき、気軽に声を交わしていたりする。そういった態度はトラブルのもとだ。慎むように注意したことが何度もあった。「あ、あの、じつは……言いにくいんですけど、イザベラ様は私がお嫌いなのか、いつも睨んできたり、嫌味を言ってきたり……」 はあっ!? 私の注意は嫌味だと思われてたの!?「あと、最近は持ち物がなくなってたり、汚されたりすることもあって……」 そんなん知らんわ。自分の不注意だろ。「それで、それで、気のせいだと思いたかったんですけど、つい昨日、階段から突き落とされそうになって……」「ああ、僕が居合わせて受け止めなければ大怪我をするところだった。そして、犯人がいたであろう階段の上に残されていたのがこの証拠品、イザベラのハンカチだ!」 イログールイは懐から1枚のハンカチを取り出して、夜会に集まった貴族子弟たちに見せびらかすように振った。それはいつだったか、私が使用人のひとりに下げ渡したものだ。その後は捨てようが売り払おう
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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第2話 記憶が戻って即内乱!?
「お嬢様、ご立派な態度でしたよ。普通、あんなことをされてはもっと取り乱されていてもおかしくはありません。それにしても、あのバカ王子ときたら……」 屋敷へ帰る馬車の中で、侍女のパルレがしきりに話しかけてきた。 私よりも2つ歳上なのだが、小柄で幼い顔立ちをしており、なんだか妹のように思えてしまう愛らしい女の子だ。きっと先ほどの事件で私がショックを受けていると思って、慰めてくれているのだろう。「気を使ってくれてありがとう、パルレ。でも、少し考えたいことがあるの。集中させてもらってもいいかしら?」「あっ、ごめんなさい、お嬢様。あたし、ついペラペラと……」「いえ、かまわないのよ。あなたの真心は本当にうれしいわ」「お嬢様……」 パルレは唇をかみ、つぶらな瞳にぐっと涙を溜め込んでいる。 なんとなくリスを連想させてかわいい。頭をナデナデしてやりたくなってくる。 あ、いやいや、いまはそれどころじゃない。まずは記憶と現状の整理だ。 ひとつ。 私はどうやら前世の記憶を持っていたらしい。その前世は、いまの世界よりもずっと文明が進んでいて、私はそこでごく普通の会社員として暮らしていた……と思う。自分の名前を含め、細かいところはどうも判然としなかった。なんというか、ずっと小さいころの思い出がふっと蘇ったような感覚だ。 ふたつ。 この世界は前世で私が遊んだことのある乙女ゲーム……タイトルはなんだったっけ? まあ、タイトルはどうでもいいんだけど、それにそっくりだった。そして、私はそのゲームの登場人物のひとり、イザベラ・ヴラドクロウである。 さまざまな分岐はあるものの基本的に敵役、いわゆる悪役令嬢というやつで、ゲーム中盤の婚約破棄イベントを経てからはどんどん闇落ちしていく。さきほどさっさと話を切り上げて夜会をあとにしたのは、居残るほど状況が悪くなるだろうと思ったからだ。 みっつ。 私はいわゆる「特オタ」と言われる趣味を持っていた。略さずに言えば特撮オタクである。怪獣ものも変身ヒーローものも好きだが、一番好きなのは戦隊ものだった。ヒーローたちも格好いいが、それ以上に個性豊かな悪役たちに魅了されていた。 特撮オタクの女子はそもそも少なく、そのうえ悪役の方が好きだなんてもはや珍獣を超えてツチノコ並みのUMAだ。ひとりさみしいオタ活に疲れ、少しは周
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第3話 悪の秘密結社づくり、はじまりはじまりー!
「では、話を聞こうか。この部屋であれば誰も聞き耳を立てられん」「えっと、お父様。その前に鎧くらいはお脱ぎになったらどうですの?」「ダメだ。お前の策に見込みがなければすぐに出陣せねばならん。そんな時間はもったいない」 あっさりと執務室についてしまって、少しでも時間を稼ごうとしたがダメだった。 くそう、仕方がない。それなら考えながら適当に内容をでっち上げつつ、プレゼンをしていくしかあるまい。会社の企画会議でも、そういうアドリブは得意だった。「ええ、まず、勝利条件を確認しましょう」「勝利条件? お前を侮辱したイログールイの首ではないのか?」 物理的ぃー! お父様は内政も商売もよくこなすのに、本質的には武人なんだよなあ……。歴史シミュレーションゲームで例えるなら、政治70、知略70、武力90って感じのキャラだ。どこでも活躍できるけれども、戦場でこそもっとも輝くタイプである。「いえ、違います。勝利条件はイログールイ、引いては王家への報復を為すことです。しかし、それは血を以って購う必要があるとは限りません」「ほう、それ以外にどんな方法があるのだ?」「彼奴らの名誉を傷つけ、名声を地に落としてやるのです。それこそ当家が被った傷以上に。それに奇襲によってイログールイを討ったとしても、王家の名誉はさほど傷つかないでしょう」「むう、それはたしかにそうかもしれぬ……」 よし、いい手応えだ。私の舌も回ってきたぞ。調子が出てきた感がある。「しかし、真正面から王家を非難したところで、世間からはしょせん王族と貴族のよくある揉め事としか見えないでしょう。いくら理路を整え、正義を訴えたところで、理屈と膏薬はどこにでもくっつくというものです」「そのとおりだ。舌戦などに決定的な効果はない。平民はともかく、貴族どもは勝ち馬につくだけよ」 お父様は顎髭をしごきながらうなずいている。 色々と計算をめぐらしているのだ。お父様は武人だが、決して話の通じない相手ではないのでやりやすい。それに引き換えあのイログールイの頭の悪さときたら……おっと、いまはそんなことを考えている場合じゃなかった。「して、ならばどうするのだ? 結局のところ武力に訴えるしかないように思えるが。いっそ日時を指定し、会戦を申し込むのか?」「会戦で勝利を収められればそれに勝
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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第4話 まずは求人募集から!
「お、お嬢様、やっぱり帰りませんか?」「なぁーに日和ってんのよう! ひっく、あんたも飲みなさい! あーあ、あのアレックスの馬鹿野郎ったら、ひっく、今度会ったらね、ただじゃおかないんだから……」 婚約破棄の夜から2週間後。『プロジェクト・ジャークダー』の詳細な計画立案を終えた私は、パルレと一緒に平民街の裏町にある居酒屋で酒を飲んでいた。二人とも平民風の変装をしている。 正確には飲んでいるふりをしているだけだ。いや、私はちょっと飲んでるけど……パルレは下戸なので一口も飲んでいない。 平民街でも貧民しか近寄らない安居酒屋だ。 そこらじゅうにコバエが飛んでいるし、床もテーブルもろくに掃除をしていなくてべったべただ。そしていまの私たちは、失恋してヤケになってそのへんを飲み歩き、ろくでもない店に迷い込んでしまった商家の娘とその付き人……という設定である。 そんな店なので、当然のこと客層が悪い。 ほとんどの客は、裾がぼろぼろにほつれた麻の服を身に着けている。薄汚れた革鎧で腰に短剣をぶら下げているのは冒険者ってやつだろうか? モヒカンでトゲトゲ付きの肩パットをつけてるのまでいる。内心で世紀末居酒屋と名付けることにした。 どうしてこんなところに来ているのかと言えば、悪の秘密結社の戦闘員となる人材のリクルーティングが目的だ。ヴラドクロウ家の私兵を使っては足がつくし、大っぴらに募集するわけにもいかない。また、まともな生業のある人間は戦闘員になんかなってくれないだろう。ならば裏町をうろついているチンピラたちを狙おうというわけだった。「げへへ、お嬢ちゃん方、こんなところでふたりで飲んでるなんてあぶねえよ?」「そうそう、お兄さんたちと一緒に飲もうぜい」「ひっ、けっ、けっこうです!」 おー、さっそく釣れた。やってきたのはモヒカン2人組だ。 どちらもいかにもゴロツキってな顔つきで、正直見分けがつかないレベルである。ひょっとして、双子? ま、そんなことはどうでもいい。怯えているパルレには悪いが、ここは作戦を続行しなければ。「へー、お兄さんたち、イケてる髪型じゃーん! その肩のトゲトゲ、超ウケるんだけどー! ねえねえ、触ってみてもいい?」「ちょっと、お嬢様、こんなのにかまっちゃいけませんよ!」「へいへい、ちっちゃいお嬢ちゃんよ。俺たちをこんなの扱いとはどう
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第5話 人生で大切なことは特撮から教わった
 扉の影で息を殺していると、3人の男が入ってきた。 2人は先ほどのモヒカン。もうひとりははじめて見る男だ。多少はよい身なりをしていることや、モヒカンたちの態度を見るに兄貴分か上部組織の人間といったところだろう。「おい、1人しかいねえぞ。ちゃんと縛ったのか?」「そ、そりゃもうぎっちりと……ぐわぁっ!?」「どっ、どうやって縄を解きやが……うぎゃっ!?」 私の姿がないことに気がついたモヒカンたちが動揺した瞬間、影から飛び出して一気に奇襲を加えた。1人目は延髄への飛び蹴り。2人目は間合いを詰めてから顎先に右アッパーを一撃だ。格闘戦隊バキレンジャーの動きを真似たものである。支援魔法による強化も相まって、効果は抜群だ! なお格闘戦隊バキレンジャーとは、その名の通り格闘をテーマにしたシリーズだ。 いかにも特撮然とした「映え」を意識した殺陣をやめ、本物の格闘技の動きを追求した異色の作品である。空手、ボクシング、柔道などのメジャーどころはもちろん、カポエイラ(蹴りを主体とした南米の格闘技)やカラリパヤット(インド南部の総合武術)、クラヴマガ(イスラエルの軍隊格闘術)など、マイナーな格闘技も登場する。 リアリティのある戦闘シーンは普段特撮を見ない格闘技ファンをもうならせるほどだったが……肝心の子どもたちと、ママ層のウケがひっじょーに悪く、24週で打ち切りになった不遇の名作だ。円盤も発売されていない。全話録画しててよかったぜ。そりゃ怪人に馬乗りになってパウンドを繰り返すヒーローとか――「おい、女。お前は何者だ!」「あっ、ええっと、はじめまして」 おっと、いかんいかん。つい特オタの血が暴走して脳内で早口語りしてしまっていた。ここからが本番じゃないか。 目の前では、兄貴分風の男がナイフを抜いて油断なく構えている。しかし、腰が若干引けているあたり、荒事は苦手な頭脳派タイプなのだろう。うん、ビンゴだ。「わたくしはとある高貴な方からの使い。名を……名を……」 いかん、偽名を考えてない。 肝心なところでつっかえてしまった。「くそっ! もったいつけてんじゃねえぞ! 早く名乗りやがれ!」「きっ、キルレインと申しますの」 こらっ、急かすんじゃない! 咄嗟にジャークダーの女幹部、斬殺怪人キルレイン様のお名前を借りてしまったではないか!「キルレインだとぉ? 
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第6話 黒百足のバハト=ニシュカ
 どんな怪しげなところに連れて行かれるのか……と想像していたら、行く先は予想に反して豪華なお屋敷だった。 高い塀で囲まれ、門番までいる。それだけ見れば貴族の屋敷と一緒だが、周辺に建っているのはいつ崩れてもおかしくないようなボロボロの家ばかりなのが異様である。 男は門番に何やら告げると、私たちを中へ通した。玄関を入ってすぐの大広間で待つように言われる。そして、男は吹き抜けの螺旋階段を登って2階に消えていった。 屋敷の内装も豪勢だ。壁紙にはシミひとつないし、そこかしこに彫像や壺などの美術品が飾られている。照明も魚油を燃やすランタンなどではなく、魔道具を使っているようで嫌な臭いもしない。これらを見るだけで、黒百足という人物の権勢が伝わってくるようである。「おう、お頭がお会いになるそうだ。2階に上がってこい」 階段の上から男が声をかけてきた。 私の感覚では、下まで降りてきてエスコートするのが普通なのだが……こういうところが本物の貴族とは違うということか。拗ねたところで仕方がないので、素直に階段を上っていく。 それから男の案内に従って広い廊下を進み、突き当りの扉の前までやってきた。「この中だ。念を押すが、くれぐれも妙な真似をするんじゃねえぞ!」「ふふふ、心配性さんなのね。お気遣いありがとう。でも、礼儀はわきまえていますからご安心なさって」「お、お嬢様何をされてるんですか!?」 私が人差し指で男の顎を軽く撫でてやると、パルレが血相を変えて止めてきた。 いかん、悪の女幹部ムーブに入り込みすぎていた。さすがに貴族令嬢としてはしたなかった。お父様には報告しないようパルレには口止めしておこう。 当の顎を撫でた男はといえば――「い、いいからさっさと中に入れ! お頭をお待たせするな!」 顔を真っ赤にしてうろたえていた。 うむ、存外にうぶでかわいい男なのかもしれない。 * * *「入りな」 ノックをすると、ぶっきらぼうな女の声が返ってきた。 厚い樫で出来た重い扉を押し開けると、文机の横に足を組んで座る大柄な女がいる。赤褐色のベリーショートに、浅黒い肌。南方の出身だろうか? その左頬には目尻から顎まで届く大きな傷跡が走っており、まるで百足が這っているように見える。なるほど、それで黒百足ってわけだ。「よう、あっしはバハト=ニシュカっても
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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第7話 決めろ、名ゼリフ!
「あんた、本当にあのイザベラ・ヴラドクロウなのか!?」「へっ!? あ、はい。あのかどうかはわからないですけど、イザベラ・ヴラドクロウですけど」 ニシュカはそれまでの雰囲気から一変し、椅子からガバッと立ち上がって赤銅色の目を輝かせた。 背が高い。体格が良い。見上げなければ目を合わせられない。身にまとう筋肉も厚く、体重は私の倍以上はあるだろう。「おうおう、えらい有名人が来てくれたじゃねえか。握手してくれよ、握手。なあ、いいだろ?」「も、もちろんかまいませんけれど……」 たくましい右手を握ると、ニシュカはさらに左手で包んで上下にブンブンと振った。たまらず身体が前後に揺れる。本気でやられたら、腕が引っこ抜けるんじゃないだろうか?「そ、それで、どうしてニシュカ様はわたくしをご存知なのですか? ヴラドクロウ家はともかくも、その娘にすぎないわたくしをご存知なのは少し解せないのですが……」「ああン? 自分が噂になってるのも知らなかったのかい? あのアホボン王子に一発かました豪傑令嬢だってすっかり評判なんだぜ!」「アホボン王子?」「イログールイのことよ。阿呆のボンボンだからアホボン王子ってな。わざわざ名前で呼ぶやつなんざ、少なくとも裏町にゃあ一人もいねえぜ」 イログールイはたしかに決して賢いタチではないが……平民にここまで悪し様に言われるとは、一体何があったんだろうか?「あー、その顔はわかってねえな? まあ、平民のことはお貴族様にはなかなか伝わらねえからなあ。3年前にひでえ凶作があっただろ? みんな飢える寸前で、明日のおまんまの心配をしてたときだ」 うん、それならおぼえている。 ヴラドクロウ家でも備蓄を放出し、領民たちに食料を配った。私も炊き出しに参加し、あの悲惨な光景を目の当たりにしたのだから忘れようもない。魔虫に食い荒らされた農地が見渡す限りに広がるさまは、まさに悪夢としか言いようがなかった。「そんときに、アホボンは何をしたと思う? 視察とか言いつつ、菓子を食いながら馬車でのんきにあちこちを回ってな、おまけに昼下がりになったらテーブルセットを広げて優雅にティータイムだ。ボロボロになった畑を見物しながらな!」 ニシュカの額に赤黒い血管が浮かんでいる。 当時のことが相当に腹に据えかねていたのだろう。しかし、バハト=ニシュカという
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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第8話 イログールイの苛立ち
 王城の一角、イログールイの寝室で、イログールイとネトリーがなにやら言葉を交わしている。例の婚約破棄事件以来、いまや珍しくもないことだ。イログールイは、月のうち半分はネトリーを寝室に招いている。 王位継承権を持つ王子の部屋に年頃の婦女子を連れ込むなど言語道断なのだが……イログールイはその横暴を以って苦言を呈すものたちを黙らせていた。 普通であれば側室にもなれない平民が、王子の種を孕んでしまえばどんな政争のタネになるかもわからない。周囲の者たちは気が気でならなかったが、イログールイもネトリーも、そんなことにかまっている様子は微塵も感じられなかった。 そんなふてぶてしいイログールイが、今夜はいつになく荒れている。「くそっ、くそっ! どうして僕がフラれたような話になっているんだ!」「まあまあ、落ち着いてよ、イル。しょせんは噂じゃないの」「そんなことはわかっている! だが、イザベラに婚約破棄を突きつけてやったのは僕の方だぞ! それがどうすれば僕が見限られたなんてことになるんだよ!」 ベッドに腰を掛け、苛立ちを隠さずに怒鳴っているのはイログールイだ。 自慢の金髪はかきむしったせいでぐしゃぐしゃで、サファイアにもたとえられる青い瞳も血走って台無しである。「みんな面白がっているだけよ。本心では誰もそんなことは思ってないわ。それに、イザベラだってあれ以来学校に来ないじゃないのよ。強がっているだけで、すっかりしょげかえっているに違いないわ」 隣に座ってイログールイをなだめているのはネトリーだ。 豊満な胸をわざとらしく押し付けながら、イログールイの乱れた髪を手ぐしで整えてやっている。「あの場で婚約破棄を告げれば、イザベラは狂乱して恥をさらし、やがてヴラドクロウ家をまるごと取り潰せる……そういう予言じゃなかったのか?」 ヴラドクロウ家は王国を支える大貴族のひとつであるが、それは同時に王家の権威を脅かす存在であるとも言えた。王家が新税の設立などをしようとすると、ヴラドクロウ家は決まってそれに反対してくる。 毎回判で押したように「それは民のためにならない」と言ってくるのだ。それ以外に言うことはないのかと腹が立ってくる。 民は王のためにあるものではないか。 王のために、民が血と汗を流すのが当然ではないか。 どうしてそんな簡単な理屈がわからないのか? 王国の
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第9話 右手を垂直に上げて、『イーッ!』と叫びなさい!
「右手をまっすぐ垂直に上げて、『イーッ!』と叫びなさい!」『いーっ!』「違う! もっとお腹から声を出して! 『イーッ!』」『イーッ!』「そう、その調子よ。次は人間とは違うものに改造されて、もう元には戻れない悲しみを込めて『イーッッ!』」『い、イーッッ!?』「あ、あのう、お嬢様、これは何をされておいでなんですか……?」 私が戦闘員たちの訓練に勤しんでいると、変装したパルレが差し入れを持ってやってきた。 パルレは料理が上手だ。彼女の焼いたクッキーやパイは私の大好物である。「総員、休憩! おやつがあるからな、マスクを脱いでもかまわないぞ!」「ひー、助かるぜ。これ息が詰まるんだよな」「頭が蒸れて……髪が……」「ぎゃははは! いまさら気にするほど生えてないだろうが!」 全身黒タイツの戦闘員たちがマスクを脱ぐと、中から姿を表したのは端からチンピラ、チンピラ、チンピラ……と見事に全員チンピラ顔だ。ニシュカに頼んで斡旋してもらったほどよくチンピラな10名である。凶悪すぎるやつはさすがに御しきれないし、おクスリどっぷりなやつもノーサンキューだしね。そこそこなチンピラ具合で選定してもらった。 戦闘員はエキストラなどではない。立派なスーツアクターだ。きちんと体が動き、的確なアクションができなければならない。健康で、訓練にもちゃんと取り組むやつが最低限の採用基準である。「ええっと、それで、あの『イーッ!』っていうのは何なんです?」「ふふ、よく聞いてくれたわ。あれはね、ジャークダーに改造された元犯罪者たちが、人間の声を失った悲しみと、それでもジャークダーには逆らえない無力感と、そんな自分たちを蹂躙するジャスティスイレブンへの怒りが入り混ざった心の声なのよ。まあこれは、30周年記念のジャングルプライム限定配信版だけの設定だから、正史じゃないっていう人も多かったけどね」「は、はあ……」 せっかく私が説明したのに、パルレはぽかんとするばかりだ。「それに、いくらなんでもそのお召し物はいかがなものかと……」 パルレの視線が、私の身体に注がれる。 いまの私の姿だが、まず額には兜飾りを模したサークレットをつけており、口元を面頬で隠している。胴鎧は日本の甲冑をモチーフにしたものだ。しかし、もちろんそのままではない。胸元は大胆に開いており、草摺はスカー
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第10話 悪の秘密結社、ジャークダー参上!
 新月の夜。 星々と家々から漏れるわずかな明かりだけを照らす道を、私たちは走っていた。「目標発見! 迅速に取り囲めっ!」『イーッッッ!!!!』 キルレイン様に扮した私と、全身黒タイツの戦闘員たちが屋根付き馬車を取り囲んだ。この時間に走っているということは、どこかの夜会に向かう途中だろう。車体に描かれた紋章は王家のものである。「何者だ! この馬車は高貴なる御方が乗っていらっしゃると知っての狼藉か!」 奇声、異装の集団に取り囲まれたことに驚いた御者が、馬車を止めて怒鳴り声を上げる。 私はそれに、高笑いとともに応えた。「フハハハ! 我らは悪の秘密結社ジャークダー! 闇より生まれ、闇に棲まうもの!」「ジャ、ジャークダー!? なんだそれは!?」「問答無用! かかれっ!」『イーッッッ!!!!』 号令一下、戦闘員たちが一斉に手にしたものを馬車に向かって投げつける。ガシャンガシャンと音が鳴り、辺りにむわっと生臭い臭いが充満した。「ぐわっ、臭い!? なんだこれは!?」「フハハハ! 贅沢に溺れた愚かな王族どもにはわかるまい!」 投げつけたのは、薄い素焼きの小壺に最低品質の魚油をたっぷり詰めたものだ。 馬車の中にもいくつか放り込めたようで、男の情けない悲鳴が聞こえてくる。 ひっひっひっ、魚油まみれの生臭い服のままでは夜会になど到底出られまい。大幅な遅刻は確定だ。「クククク……作戦は成功だ! 撤収!」『イーッッッ!!!!』 第一次作戦目標を達成した私たちは、その場を離れて逃げる。 王家の馬車を襲撃したのだ。すぐに衛兵が駆けつけてくるだろう。ひとまず手近な路地に入り、人目がないことを確認。それから地面の蓋を開けてその中に身を隠す。「いやー、やったっすね! あの御者の驚きようと言ったら、思わず笑っちまいそうでしたぜ!」「馬車ン中から聞こえてきた悲鳴も情けないったらなかった! 去勢された羊みてえな声がしたな!」「こんな上手くいくんなら、いっそ火でもかけてやりたかったなあ」「バカッ! そこまでしたら笑い話にならねえじゃねえか。王様連中を徹底的にコケにして、笑いものにしてやるのが今回の作戦のキモってやつなんだよ。ねえ、キルレイン様?」「うむ、そのとおりだ。作戦の狙いをよく理解しているな、偉いぞ」「へへへ、
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