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第7話

Author: ホット兎
「義弟さん――」

その呼び方は、まるで毒針のように司の心臓を深く刺した。

彼は突然、汐梨の顎を掴み、無理やり顔を上げて自分と視線を合わせさせた。目の奥には、抑えきれない怒りが渦巻いている。

「汐梨、もう一度言ってみろ。俺に関して、全く記憶がないだと?信じられない!」

汐梨の下顎は痛みに耐えかねて震え、声も止まらず震えている。

「義弟さん……あなたと知り合ってから、まだ三日も経ってない……」

そう言いながらも、頭の中にはまるで再生ボタンが押されたかのように、十三年分の記憶の断片が洪水のように押し寄せた。

十歳の時、汐梨をいじめた子を追い払った際に見せた、彼の不器用な笑顔。

十五歳の時、雨に濡れて熱を出した汐梨の傍で、目を赤くして「バカ!」と叱った彼の姿。

二十歳の大晦日、彼は花火の下で汐梨を抱き、真剣に願い事をした様子……

ほとんど汐梨の人生の三分の二にあたる時間だった。

司は、彼女がまだ油断しない態度を崩さないのを見て、手をゆるめることにした。

「いいだろう、好きに装え」彼は冷く鼻を鳴らしたが、声の端には少しだけ柔らかさが混じる。「だが、美雪はどこにいるのか、必ず教えろ」

汐梨は彼を横目で睨みつけた。

「美雪がどこにいるかなんて知らないわ。ここで時間を無駄にするより、通報した方が早いんじゃない?」

司は拳を握り締め、指の関節が鳴った。「俺にどうしろって命令する資格が、お前にあんのか?」

彼は体を前に倒し、汐梨の顔の前で息を吹きかける。力強い圧迫感が伝わる。

「もう一度聞く。夜遅くに空港へ行くのは、寿樹に会いに行くためじゃないのか?そんなに急いでスイスに行くのは、やましいことでもなければあり得ないだろうが」

「私が何をしようが、あんたに関係ない!」

汐梨は負けじと視線を上げ、目には強い意志が宿っている。

司は突然笑みを浮かべた。その笑みには軽蔑の色が混じる。「やはりな、逃げる力なんてお前にはない」

彼の心の中では、十年以上の共に過ごした日々が骨身に刻まれており、汐梨が離れたら生きていけないと確信している。

「だが今のその強情な態度、少しも服従する気配がないな」

そう言い、彼は隣の部下に合図を送った。

数人がすぐに前に出て、汐梨を椅子から降ろし、再び車の中に縛り付けようとした。

その時、司のスマホが鳴った。彼は画面を確認し、緊張していた横顔が一瞬で柔らかくなる。

「美雪、今どこにいる?

この二日間、どこにいたの?心配してたんだよ、今大丈夫?」

電話の向こうから、美雪の気だるそうな声が届く。少し意図的に甘く響かせている。

「大丈夫だよ。ただちょっと試したくて。もし私が誘拐されたって言ったら、どれだけ焦るか見てみたくて」

司は安堵の息を吐き、無力そうに笑い、愛情たっぷりの口調で言った。

「よし、満足したか?次からはこんな冗談はやめろ、俺は本気にするぞ」

「じゃあ、ビデオ通話してよ」美雪はさらに甘えて言った。「今どこにいて、誰と一緒にいるのか見たいの」

司の視線が一瞬で汐梨に向き、その目に悪戯な色が浮かぶ。

彼はスマホを揺らし、受話器に向かって笑いかける。「美雪、嫌いな人がみっともない姿を見たら、嬉しいと思わないか?」

汐梨が反応する前に、司は彼女の肩を掴んだ。

その力は骨を砕くかと思うほど強く、彼女を椅子から引き倒し、床に伏せさせて背中をさらした。

そこには、鞭の跡は深くえぐられ、もはや血肉の区別もつかない。おぞましい傷痕が、暗闇の中で凄惨にむきだしになっていた。

「美雪、見てごらん、これは誰だ?」彼はスマホを近づけ、カメラを汐梨の背中に向けたまま固定する。

汐梨は極めて屈辱的な姿勢で冷たいコンクリートの床に押さえつけられ、顎は小さな石にぶつかり、血が滲む。

目の前は暗くなり、耳には美雪の茶目っ気たっぷりの声が鮮明に聞こえる。

「まあ、汐梨を捕まえてきたの?しかも殴ったの?まぁ、手加減なしね。

ざまあみろ、子供の頃から私をいじめてきたんだから。父親は同じなのに、どうしてあの子がお嬢様で、私は家政婦の娘なの?」

司はさらに美雪に向かって自慢げに言う。「俺、上手くやっただろ?満足か?」

「満足、満足」美雪の声は甘くて耳にくる。「早く帰ってきて、ちゃんとご褒美あげるから」

汐梨は、目の前がますます暗くなるのを感じた。

冷静に考えれば、彼女はこれまで一度も美雪をいじめたことはない。

幼い頃、美雪が他の子に「家政婦の娘」と嘲笑されると、背後に守ってあげた。

美雪がこっそり汐梨のドレスを着て雅美に叱られた時も、汐梨が「私が貸してあげた」と弁護した。

彼女はこのいわゆる「妹」を、共に育った大切な友人として扱っていたのだ。

しかし今、彼女の自尊心は、自分と共に育ったこの二人によって、まるでゴミのように地面に踏みにじられている。

絶望が潮のように押し寄せ、彼女はもがこうとするが、指一本すら動かせず、視界は徐々に闇に沈んでいった。

意識が消える最後の瞬間、彼女は司の部下の慌てた声を聞いた。

「ボス、彼女……血がたくさん出ています……どうやら気を失ったようです!」
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