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第927話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第927話
その絵は、なんと『星月夜』と全く同じだった。どこからこんな偽物が？水谷苑は一人で来たわけではなかった。傍らには太田秘書と、九条グループから選りすぐられた50名の屈強なボディーガードが付き添っていた。皆、一人で10人の一般人を相手にするほどの腕前だ。佐藤潤は目を細めた。水谷苑は佐藤潤の前に進み出て、手に持った『星月夜』を掲げながら、毅然とした声で言った。「これが真作だよ！。美術館で焼失した作品は......偽物だったの」その場にいた全員がどよめいた。佐藤潤は冷ややかに笑った。「なぜお前を信じなければならない？市美術館に展示されていた方が、『星月夜』の真作だ」彼は目で合図を送った。遠藤秘書はすぐに意図を汲み取り、水谷苑に近づいて言った。「苑様、私たちは今、大事な話をしてます！一旦お家でお休みになってはいかがでしょうか。こんな暑い日ですから、体調を崩されては、潤様がご心配なさいます」水谷苑は軽く手を挙げた。そして、真剣な表情で言った。「ここは冗談を言う場所じゃないくらい、わかってる！この真作を私が持ってきたんだから、確信があるに決まってる......そして、ここから立ち去るつもりもない。夫がぬれぎぬを着せられ、閉じ込められているのを黙って見てるなんて、できないんだわ」彼女は周囲を見渡し、力強く言った。「私が持ってきたのは『星月夜』の真作だけじゃない。A国のN市の専門家、ジョンさんも連れてきた。彼は『星月夜』の真作の修復家で、世界に24枚しかない資格証を持ってる......彼以上に『星月夜』の真作を見極められる人間はいない！」会場は再びどよめいた――めったに姿を現さないジョンを、水谷苑はB市まで呼び寄せたのだ。九条時也の心境は一変していた。先ほど水谷苑が言った言葉が、彼の胸に強く響いていた――彼女は、自分を「夫」と呼んだ。彼女は、自分を「夫」と呼んだのだ。彼は輝く瞳で水谷苑をじっと見つめ、光り輝く彼女を目に焼き付けた......もし他に人がいなかったら、今すぐにでも彼女を強く抱きしめ、二度と逃がさないだろう。それは、男女の愛とは違う、もっと深い所有欲だった。尊敬と憧憬が混ざり合った、男女の愛よりも深い感情だ。九条時也の胸が高鳴る中、佐藤潤は依然として信じられずにいた。『星月夜』の真作を模
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第926話
火の手は小さかったが、状況は深刻だった。名画の『真作』は、火事で真っ黒焦げになり、額縁は壁から落ちて粉々に砕け散り、まるでゴミの山と化してしまった。美術館の館長が、2階から駆け下りてきた。床に散らばる残骸を呆然と見つめていた。しばらくして、九条時也の方を向き、「名画がこんな状態になってしまっては、どう説明すればいいですか？私はこれで終わりですよ！」と叫んだ。男泣きするもんじゃないと言われるが、館長は人前で大泣きしてしまった。これは大変な事態で、彼と九条時也の二人では、とても隠しきれるものではなかった。彼は九条時也の手を取り、今後の対応を相談した。A国の人間からの追及にどう対処すべきか、と。すると九条時也は、「館長、これは私が責任を持って対処します！あなたに迷惑はかけません」と力強く言った。石川館長は驚き、そして喜んだが、同時に申し訳ない気持ちにもなった。結局のところ、二人の責任なのだから。石川館長が何か言おうとしたその時、入口から聞き覚えのある声が聞こえた。「九条社長、あなたが責任を持つと言うなら、私と一緒に行ってもらいましょうか！」九条時也が振り返ると、そこにいたのは遠藤秘書だった。現場はあっという間に人だかりができた。遠藤秘書は九条時也に近づき、申し訳なさそうに微笑みながら言った。「九条社長、申し訳ありません。私も命令に従っているまでです。A国の名画の件は重大な問題なので、私と一緒に来てください。実は、すでに特別捜査班が......」九条時也は遠藤秘書の言葉を遮り、「九条グループに乗り込んで、俺を陥れるための証拠を捏造し、あの役立たずの玲司を釈放させるつもりか？」と尋ねた。遠藤秘書は言葉を失った。少し間を置いて、遠藤秘書は小声で言った。「潤様があなたと話がしたいそうです」九条時也は遠藤秘書をじっと見つめた。そして、彼は床に散らばる焼けた絵を拾い上げ、堂々と入り口に停まっている車に乗り込んだ。遠藤秘書も車に乗り込み、にこやかに言った。「潤様とよく話し合うといいです。家族なんですから」「家族......」九条時也は冷笑した。「彼は俺のブレーキパッドをすり替え、俺を殺そうとしたんだ！俺たちにはもう和解の余地はない」遠藤秘書は何か言いたそうだったが、口をつぐんだ。この時、遠藤秘書の心
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第925話
九条美緒は彼の頬にキスをした。3階、仕事部屋の入口。九条時也は少しだけドアを開けて、九条美緒に見せた。仕事部屋の中は温かみのあるオレンジ色の光で満たされ、深夜にもかかわらず水谷苑はまだ絵を描いていた。高価な服ではなく、シンプルなワンピースを着て、長い黒髪はフィッシュボーンに編まれ、胸元まで垂れていた。真剣な表情の彼女は、とても美しかった。九条美緒が見たいと言ったのだが、見惚れていたのは九条時也の方だった。深夜、ドアの外に立ち、彼女の美しい姿を見つめていると、彼女が自分の妻であることを、これほど強く実感したことはなかった。そして、彼女を誇りに思った。窓から夜風が吹き込み、九条時也の黒髪を乱した。九条美緒が風邪を引かないように、彼は子供を抱いてその場を離れた。九条時也が仕事をしている間、九条美緒は子猫のように彼の膝の上で大人しくしていた。いい子だ。まるで、あの4年間の毎晩のように。共に支え合って生きてきたあの夜、九条美緒は既に彼の生きる理由の一部になっていた............三日後の朝。8時ちょうど、九条時也は仕事部屋のドアを開けた。電気がまだついていた。水谷苑は一晩中絵を描いていたのだ。彼女は九条時也が入って来るのを見て、微笑みを浮かべながら、イーゼルにかかっていたキャンバスをめくった......九条時也の目に飛び込んできたのは、名画の『星月夜』だ。専門家でなければ、本物と見分けがつかないほどだった。九条時也は若い頃、絵を習っていたことがあった。少しだけ心得がある程度だった。彼はその絵にそっと触れ、色調や筆使いをじっくりと鑑賞した......本当に素晴らしい。水谷苑は微笑み、「額装が決まれば、もう完成みたいなものよ」と言った。九条時也は絵を手に取り、澄んだ瞳で水谷苑を見つめた。そして、彼女の唇にキスをしながら、低い声で言った。「全部終わったら、ちゃんと礼をするから」彼の感謝の言葉の意味は、水谷苑にも分かっていた。ベッドの上でのことだ。彼女は洗面所に行きながら言った。「幸い商業用だから、普通の人には見分けがつかないわ......早くその絵を持って行って。くれぐれも気を付けて」九条時也は彼女の後を追いかけた。そして、バスルームの入り口に寄りかかり、明るい声で言った。「お前は三日三
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第924話
太田秘書は近づいて尋ねた。「九条社長、どうされましたか？」九条時也は書類を彼女に手渡しながら言った。「外務省がA国のN市と提携して、A国の名画の『星月夜』がB市で一週間展示されることになった。商業利用なので、警備は九条グループが担当することになったんだ」そう言って、彼はタバコに火をつけた。太田秘書は一瞬、きょとんとした顔になった。「九条社長、家ではタバコを吸わないと仰っていましたよね？」九条時也は意味深な目つきで言った。「これは特例だ！」そして続けた。「話を戻すが、これはきっと潤さんの仕業だ。展示中に絵が盗難または破損でもしたら......彼はそれを口実に九条グループを徹底的に追及してくるだろう。下手したら、前回のように特別捜査班を送り込んでくるかもしれない」太田秘書は緊張した様子で言った。「では、断りたいとお考えですか？」九条時也は書類を軽く叩きながら言った。「公印が押されている以上、断れるわけがないだろう。彼は、相当な覚悟でやってるんだ。太田さん、この件の処理、もうちょっとじっくり考えたいんだ......こうなったら俺がつきっきりで見張るしかないか」書斎のドアをノックする音が小さく響いた。水谷苑が入ってきて、コーヒーを書斎の机に置いた。九条時也は彼女を心配させたくなくて、コーヒーを一口飲んで笑って言った。「お前が淹れてくれたコーヒーは格別だな。香りが最高だ」太田秘書は口元に笑みを浮かべた。水谷苑はソファに座り、手にとった本をパラパラとめくりながら言った。「実は高橋さんが淹れたのよ。後であなたに褒められたって伝えたら、きっと毎日淹れてくれる」九条時也は言葉を失った。水谷苑はソファに寄りかかり、視線を落として言った。「さっき名画の『星月夜』の話をしていたけど、どうしても断れないなら引き受けたらいいわ。絵は絶対に無事だし、九条グループにも何の問題もない......それどころか、あの人を逆に追い詰めることができる」九条時也の目は輝いた。彼は水谷苑の隣に座り、目を輝かせて言った。「一体どうするつもりなんだ？詳しく聞かせてくれ！」水谷苑は静かに尋ねた。「絵はあと何日で届くの？」九条時也は答えた。「三日後だ」水谷苑は少し考えてから、力強く言った。「それならきっと間に合う」何が間に合うというのだろう
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第923話
「母を死なせたくない！」......佐藤玲司は無表情で言った。「時也から金をもらったのか？」小林墨は唇を震わせた。何も言わなかったが、真実は明白だった。佐藤玲司はそれ以上何も聞かなかった。聞くだけ無駄だと思ったからだ。ただ、小林墨に一つだけ尋ねた。「俺と、こんなに一緒にいたのに......少しも、好きになったことはなかったのか？」「ない！」小林墨は即答した。「ただの取引よ！本気で好きになったことなんてない！玲司さん、恋愛なんてね、権力者たちのゲームなの。私たちみたいな取るに足らない人間には、関係ないなの......あなたを好きになったことなんて、一度もない。一瞬たりとも」そう言うと、彼女は彼の視線の中で立ち上がった。そして、出口へと歩き出した。彼女は16億円の小切手と、高価な宝石の入った鞄を抱えていた。しかし、目尻には涙が浮かんでいた......彼のことを好きでなかったはずがあるだろうか。何度も体を重ねた夜、男に深く抱きしめられた時、少しも心が動かなかったはずがない、何も感じなかったはずがない。彼女だって人間だ。感情だってある。しかし、立ち去るまで、小林墨は彼が無事だということを口にしなかった。そして、自分が妊娠していること、彼の子供を身ごもっていることも、伝えなかった。ただ遠くへ行ってしまった。小林墨は分かっていた。自分と佐藤玲司は住む世界が違う。彼が気に入っていた小林墨は、九条時也が作り上げた幻でしかない。本当の自分は、つまらなくて貧乏で、彼に釣り合う人間ではない。小林墨の姿は、次第に小さくなっていった......佐藤玲司はただ静かに座っていた。小林墨が腕の中で「私は玲司さんが好きなの。玲司さんと一緒にいたい」と囁いた時のことを、今でも覚えている。あの時は信じていたのに、まさか、全部嘘だったんだ。佐藤玲司は小さく笑った。小林墨、二度と俺の前に姿を現すな、と佐藤玲司は心の中でこう呟いた。小林墨は拘置所を出ると、太田秘書が車の中で待っていた。彼女が車に乗り込むと、太田秘書はパスポートを渡した。「ヨーロッパ全域、5年間ビザなしで行けます！小林さん、しばらく国内には戻らない方がいいでしょう！」小林墨は少し迷ったが、パスポートを受け取った。そして、太田秘書は運転手に指示を出し
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第922話
水谷苑は誰だか察しがついた。過ぎ去ったこととはいえ、思い出したくもない嫌な記憶......とても楽しい気分になれるはずがない。彼女は彼の胸に手を当て、もう一度求められるのを拒んだ。九条時也の肩に顔をうずめ、彼女はかすれた声で言った。「下に降りて、彼女に会ってくる！」九条時也は彼女の腰に手を回した。そして、静かに手を離した......簡単に身支度を整えると、水谷苑は寝室を出て階下へ降りていった。高橋は彼女の傍らで励ました。「奥様、心配いりませんよ。今更彼女が何を言ってきたって、どうってことありませんから......九条様だって会おうとしていません！」水谷苑は軽く微笑んで言った。「彼女は時也に会いに来たんじゃないわ」高橋は頭を掻いた。「それもそうですね！」1階のロビーには、小さなスーツケースを持った田中詩織が、今にも出発しようとする様子で立っていた。2階から足音が聞こえてきた。顔を上げると、水谷苑がゆっくりと階段を降りてくるのが見えた。水谷苑の顔はほんのり赤く、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。大人なら誰でも、彼女がたった今何をしていたのか察しがつくだろう......田中詩織はハッとした。九条時也は家にいるのだ。しかし、すぐに安堵の笑みを浮かべた――彼女がここに来たのは、水谷苑に別れを告げ、謝るためだけだ。九条時也が家にいようがいまいが、関係ない。水谷苑が降りてくる間も、彼女は座ろうとはしなかった。彼女は水谷苑に静かに言った。「私はもう二度と戻らない。苑、いろいろありがとう......それと、今までごめんなさい」彼女の命は、水谷苑が救ったのだ。水谷苑は何も言わない。九条時也は彼女に構わないだろうし、構うこともできない。田中詩織は水谷苑に深々と頭を下げた。顔を上げた時、彼女の目には熱いものがこみ上げていた。水谷苑の許しを得ることはできなかったようだ。彼女は多くを望まず、スーツケースを持って踵を返した。水谷苑は許しを告げなかった。彼女は田中詩織の遠ざかる背中を見つめ、静かに尋ねた。「どこへ行くの？」田中詩織は足を止め、低い声で言った。「P市......D国のP市に行く」彼女は約束の場所へ向かう。もう二度と戻ってこない。そして、九条時也は、ここに残って、永遠に愛する女性と共に過
