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第612話

作者: 桜夏
――つまり、自分は雅人のことを完全に誤解していた、ということか。

「わかった。代わりに……」

蓮司は眉間を押さえた。雅人に礼を言うよう伝えようとしたが、どうしてもその言葉が口から出なかった。

「もういい、何でもない。切るぞ」

礼を言う必要があるのか?雅人が特効薬を探したのは、蓮司のためではない。お爺さんのためだ。だから、礼を言う必要はない。

蓮司は舌先で頬の内側を押した。殴られた傷がまだ少し痛む。相手に殴られたことは、まだ忘れていない。

その頃、助手席では。

特効薬が見つかったことで、大輔は理恵からの言いつけを忘れず、すぐに彼女へ事の次第を報告した。

まだ起きていた理恵は、メッセージを見て大喜びし、急いで兄に、もう人脈を辿って特効薬を探す必要はない、透子が助かった、と伝えた。

兄の聡はメッセージを受け取ると、尋ねた。

【新井家はそんなに仕事が早いのか?もう国内に届きそうなのか?】

【大輔が言うには、橘雅人っていう人が手伝ってくれたみたい。きっと新井蓮司の友達なんでしょ】

「橘雅人」という名前を見て、聡は動きを止めた。

橘雅人……他にどの橘雅人がいるというのだ?
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