Share

第571話

Author: ちょうもも
二人は本当の恋人でもないのに、嫉妬する理由なんてあるだろうか。

それに、こういう場面こそ彼女が先に役に入り込むべきじゃないのか。

悠良は片手で串を持ちながら、もう片方の手でスマホを操作し、必死に葉からのメッセージに返信していた。

【何を言ってるの、完全にナンセンスだよ】

そう打ち込むと、スマホをテーブルに伏せて置き、恐る恐る伶を窺った。

彼は下を向いたまま焼き鳥を食べ続け、一言も口を開かない。

その顔つきはまるで嵐が来る前の空模様のように暗い。

まさか本当に怒ってる?

悠良は試しに話しかけてみる。

ご機嫌を取るように、自分が一番好きな牛肉串を彼の前に差し出した。

「これ食べてみて。すごく美味しいから」

伶は気だるそうに視線を上げ、冷ややかに一瞥してから、少し間を置いて手を伸ばした。

「さっきの若い連中にも、牛肉串を分けてあげたらどうなんだ」

その一言に悠良は固まった。

頭の中で、さっき葉が言ったことがよみがえる――

まさか本当にヤキモチ焼いてる?

彼女は冗談めかして問いかけた。

「もしかして、ヤキモチ?」

伶は聞き流すように、目尻で彼女を冷たくなぞった。

「さっき若い男たちに持ち上げられて、もうアホに進化したのか」

その毒舌ぶりに、やっぱり自分の思い違いだと悟る。

けれど、そう思うと逆に気が楽になった。

第一、伶が自分を好きになるなんて、どう考えてもあり得ない話だ。

その後、伶は何も言わなくなり、悠良も言葉を見つけられず、ただスマホを手に取った。

さっき自分をフォローした若い男たちのページを覗いてみると、どんどん夢中になり、口元に笑みが浮かんでしまう。

自分でも気づかないほどだった。

なるほど、若者の遊び方は本当に多彩だ。

筋肉自慢や、腹筋ショーまで......

そんな彼女の陶酔した顔を見て、伶はどうにも我慢ならず、箸でテーブルをコツコツと叩いた。

「食べ終わっただろ。行くぞ」

悠良はやっと我に返り、慌ててスマホをしまうと、席を立って彼の後を追い、駐車場へと向かった。

助手席のドアを開けようとした瞬間、伶に手で制された。

「どうしたの?」と首を傾げる。

「タバコを買ってきてくれ。スマホが電池が切れた。会社の用事を少し処理しないといけない」

悠良は深く考えもせず、会社のことならいつでもあり得ると受け止
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第625話

    三人はそのままエレベーターに乗り込んだが、ちょうど入口にいた玉巳に見られていた。玉巳は心の中で首をかしげる。悠良って入院してるんじゃなかった?どうしてホテルに......あの葉ならもちろん知ってるけど、隣の若い男は誰?見たこともないわ。そう思った瞬間、玉巳の胸に計略が浮かぶ。広斗の件もまだ片付いていないのに、悠良はまた知らない男とホテルへ。真昼間から、ずいぶん元気なこと。伶は怪我をして、しばらくはああいうことはできないはず。年を重ねた女って、そういう面ではかえって旺盛になるって聞くし。玉巳の目尻がわずかに上がり、思惑を含んだ笑みが浮かぶ。本人が気にしていないなら、自分がひと押ししてあげればいい。そうすれば史弥も、あんな女に未練なんて完全に断ち切るだろう。彼女はスマホを取り出し、史弥に電話をかけた。声はカナリアのように甘く柔らかい。「ねえ、私が今、ホテル・フミシゲの前で誰を見かけたと思う?」史弥は、ここ数日ずっと会社のことで忙しかった。しかも玉巳とは結婚してもう何年も経ち、彼女の本性はとっくに見抜いている。むしろ昔の悠良がますます懐かしく思えるほどだった。人間って結婚すると本当に二つの顔を持つんだな、と今になって実感する。玉巳は結婚前と結婚後ではまるで別人。昔はその声を聞くだけで、ねこの爪が胸をくすぐるような、温かくて心地いい気持ちになった。だが今は口を開けば不快で、作り物めいていて、彼女本来の姿じゃないように思える。毎日することといえば金の無心か買い物。仕事のことでは何ひとつ役に立たない。悠良がいた頃は、こんなに苦労する必要なんてなかった。彼女ならちょっと言葉をかければすぐに意図を汲み取り、仕事でも完璧に息が合ったのに。思い出してしまうと余計に後悔が募り、史弥は肝を煮えくり返らせる。手にペンを握り、企画案を修正している最中で、玉巳に付き合う気はさらさらなかった。「知らない。今忙しいんだ。用件があるならさっさと言え」「悠良さんを見かけただけじゃないのよ。隣の若い男が誰かは知らないけど......二人が真昼間にホテルに入って行くなんて、何をすると思う?」男の話を聞いた瞬間、史弥の手が止まった。「どんな男だ」「知らないけど、とにかく若いの

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第624話

    二人は当然のようにすぐ病室へ駆けつけた。病室に入ろうとしたとき、葉は同じタイミングで現れた律樹の姿を見て、思わず足を止めた。その顔立ちは嫌でも目を引く。鋭さを帯びた双眸は攻撃的で、どうにも近寄りがたい印象を与える。輪郭はややシャープで、だが整った五官をしており、どこか小生意気な色気が漂っていた。二人はほんの一瞬視線を交わしただけで、葉はすぐに目を逸らした。彼女はその場でわずかに間を置き、律樹を先に病室へ通した。律樹は中へ入ると、ベッドの上にいる悠良を見て、ぎこちなく声をかけた。「悠良さん」悠良はすでにベッドから降り、荷物をまとめている最中だった。振り返った顔には柔らかな笑みが浮かぶ。「律樹、久しぶりね」律樹は自ら腕を伸ばし、悠良を抱きしめた。その光景に、入口で立ち尽くす葉は唖然とした。この男......悠良の知り合い?彼女は最初、西垣家が問題を起こしに送り込んできた人間かと思っていた。というのも、その顔つきはどう見ても用心棒のようだったからだ。温厚とは正反対の雰囲気に見える。悠良は背伸びをして、彼の頭を軽く撫でた。「少し痩せたみたいね。どこか調子悪いの?」「いや、ただ一人だと退屈なだけです」律樹がほんの少し不満げな表情を浮かべ、その様子に葉は驚きを隠せなかった。不良っぽさ全開で、反骨心の塊のように見える青年が、まるで大きな理不尽を抱えた子供のような顔をするなんて。そうだ、ギャップ萌え!まさにそんな感じだ。悠良は彼の肩を軽く叩いた。「大丈夫よ、そのうち嫌でも忙しくなるわ。退屈なんて言ってられなくなる程に」律樹は彼女の前ではすっかり牙を引っ込め、素直そのものに見えた。「はい!だから悠良さん、もう二度と僕をどこかへ飛ばしたりしないでください。用があろうがなかろうが、いつも傍に置いてほしいです」悠良は口元をゆるめた。「安心して。たとえい律樹が出て行きたいと言っても、私が行かせないから。これからのことは律樹が必要なんだから」律樹はそれを重荷だとは思わず、むしろ嬉しそうに受け止めた。「はい。悠良さんのためなら何でも......!あのとき悠良さんが大金を出して勉強させてくれなかったら、僕は今でも工場で日雇いしてる程度の人間でした」彼には幼い頃から両親

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第623話

    悠良はまったく知らなかった。伶が彼女を理解し始めたのは、今こうして一緒に過ごすようになってからではない。ずっと前、まだ幼い頃、初めて出会ったその時から、彼は彼女を見守り続けてきたのだ。彼女が気づかぬところで、そっと視線を注いでいた時期もあった。伶は片手で頬杖をつき、悠良の言葉に少しも腹を立てることなく、むしろどこか楽しげだった。狭く深い瞳が、甘やかすように彼女を見つめる。「いいよ。本当に占いでもさせたいなら、俺の怪我が治ったら屋台開くのを手伝って」悠良は軽口を叩いただけだった。それに、この男の整った骨相、輪郭のはっきりした顔立ち、高い鼻梁、淡い赤みを帯びた唇――どこを取っても非の打ち所がない。もし本当に占いの屋台を出したなら、女たちが寄ってくるのは「占いのため」ではなく、間違いなく「顔目当て」だ。悠良は顔をそむけて突き放した。「その話は破産してからにして」すると伶は、いつもと違う、やけに哀れっぽい顔をしてみせた。潤んだ瞳で悠良をじっと見つめ、普段の冷淡さとはまるで違う。「じゃあもし本当に破産したら、君が俺を養ってくれるのか?」悠良には、彼が芝居をしているのが手に取るようにわかった。だから逆に彼の手を取り、わざとらしく感慨深げに言った。「大丈夫よ。最悪、出前から始めればいいわ。絶対に飢えさせたりしないから」伶は喉の奥で低く笑い、彼女の手を振り払った。「それは嫌だ」悠良はつい笑ってしまう。「演技を始めたのは寒河江さんでしょう?私は合わせてあげただけよ」伶はふっと気持ちを切り替え、いつもの落ち着きを取り戻すと、彼女の手を握り、ざらついた指先で手の甲をなぞった。「教えてくれよ。和志に何を言ったんだ?あの人を病院送りにするなんて」悠良は少し言葉を選びながら答える。「別に。どうせ寒河江さんを簡単に許すはずないと思ったから、もう投げやりにその場で言いたいことをぶつけただけ。たぶん『広斗を甘やかしすぎだ』ってしつこく言い過ぎたから、あの人、頭に血が上っちゃって、そのまま倒れたんでしょうね」伶も特に疑わずにうなずいた。「確かに、和志は広斗を大事にしてる。西垣家唯一の跡取りだからな。だが彼は現実を見ようとしない。あんな風に甘やかしてる限り、百年後に西垣家の全財産を受け

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第622話

    医者が振り向いて悠良に言った。「過度に神経を使うようなことをしなければ、大きな問題にはならないでしょう。外傷ですから、内傷よりはずっとマシです」悠良もそれを聞いて納得した。外傷は筋や骨を傷めなければ、大きく動かなければ問題になりにくい。医者が去ったあと、伶は改めて悠良を見つめて尋ねた。「さっき、本当は何を考えてた?」悠良はいつもの調子で答える。「別に」伶は平然と袖をまくり、たくましい腕をちらりと見せる。「悠良ちゃん、言わないなら実力行使するよ?」悠良は本当にこの男にはかなわないと思った。彼はどうして、たった表情や仕草だけで隠していることを見抜けるのか。自分の挙動がそんなに露骨だっただろうか。もう隠しても仕方がないと判断した悠良は、いっそはっきり言うことにした。遅かれ早かれバレることだ。「数年前のあの火事、私を助けてくれたのは寒河江さんだったのね?」伶の漆黒の瞳が一瞬だけ陰ったが、すぐに笑みを浮かべて戻った。「覗き見してたのか」その鋭い視線に、悠良は白状したくなった。まるで悪事を現行犯で見つかったかのような気まずさだ。「うっかり見ちゃっただけよ」だが伶は彼女の言い訳を信じず、眉を上げて問い詰める。「本当に『うっかり』見ただけ?わざとじゃなくて?」「それは......」悠良の防御は少しずつ崩れていった。伶のあの目を前にすれば、誰だって堪えられない。彼の眼差しは、人の目の奥底まで覗き込むような力がある。彼の前では秘密はほとんど露わになるのだ。伶は頬を軽くつまんで言った。「嘘はいつかバレるものだよ」悠良は不服そうに反論したくなる。「寒河江さんだって嘘をついてたでしょ?本当は数年前に私を救ったのは寒河江さんなのに、どうして隠すの?最初から教えてくれればよかった。史弥が助けたってことにして、長い間黙っていたのはなぜ?」悠良が最も納得できなかったのはそこだ。救ってくれたのに隠した理由。何年も、史弥は一言もそれを伝えなかった。伶という名を背負って自分を騙しておきながら――思い出すだけで気分が悪くなる。伶はやや気だるげに椅子にもたれ、顎に手をやる。「当時はあまり深く考えてなかった。君の母親が俺に親切にしてくれたし、娘さんが危ない目

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第621話

    「そろそろ薬を替えましょう」医者が外から軽くノックした。悠良は反射的に素早く伶を押しのけ、乱れた髪を慌てて整える。医者はまるで見慣れているかのように平然と中へ入り、伶の前に立った。「ガーゼを替えますよ。今夜は外出したみたいだし、薬ももう染み出しているはずです」伶は素直にベッドへ横になった。「お願いします」医者はカーテンも閉めずに、手を伸ばしてズボンを下ろそうとした。だが伶は腰帯を掴んで止める。「待って。カーテンを閉めてもらえますか」医者は思わず笑った。「なんですか。恋人同士なのに、今さら隠すなんて」悠良は黙ったまま。むしろカーテンを閉めないでほしい。そうすれば彼の腿の付け根に本当に傷痕があるかどうか確認できるからだ。前にやっとの思いで機会を得たのに、結局見られなかった。伶は口元を押さえて小さく咳払いする。「うちの彼女は大胆なんです。今の俺の状態、先生ならわかるでしょ」声は小さく、医者だけに聞こえる程度。その言葉に医者は一瞬ぽかんとし、それから思わず悠良へ視線を向けた。怪訝な視線を受けた悠良は反射的に尋ねる。「何か?」医者は口元を引きつらせて苦笑した。「いえ、何でもありません」そう言って二人の間にカーテンを引いた。突然のことに悠良は呆気に取られる。どういう意味?さっき伶、医者の前で一体何を言ったのか。考えるまでもなく、ろくでもないことだろう。だが、見せないなんてあり得ない。こっそり見ればいい。悠良は指先でそっとカーテンの端をつまみ、少しだけ隙間を開けた。視界に飛び込んできたのは、引き締まった伶の腿。無駄のない流麗なライン。何度もその体を見てきたはずなのに、やはり息を呑む。こんな脚を持つ男、雲城中探しても二人目はいない。悠良はぶんぶんと頭を振った。今は脚を眺めてる場合じゃない。伶も医者も、彼女の視線に気づいていない。悠良はもっとよく見ようと、さらに隙間を広げた。医者が身を屈めて処置している傷は、痛々しいものだった。広い範囲で皮膚が破れ、肉が露出し、あちこちに痣が残っている。その惨状に、悠良の胸はぎゅっと締めつけられる。彼が広斗の手下と揉み合っていたことは知っていた。だがここまで深刻な怪我とは思いもしなかっ

  • 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!   第620話

    悠良は心中で見通しを立てていた。「大丈夫。資金を出すだけじゃなく、寒河江さんのために仕事も引っ張ってこれる。新しい取引先さえつけば、会社の運営はもう止まらないわ」光紀は少し困った顔をした。「ですが今は西垣さんが言い放っているんです。我々と取引するのは西垣家に刃向かうことだと」「構わないわ。よく考えてみて。取引先の連中は西垣家を恐れて避けたい気持ちもあるでしょうけど、それ以上に稼ぎたいと思うはず」彼女は数々の業者の腹の内を知っている。口では仁義道徳を並べながらも、金と権力の前では平然とひざまずき、旧友を裏切る。盟友どころか、金の誘惑が十分なら、兄弟同然の仲でも平気で背中に刃を突き立てるのだ。悠良の自信に満ちた態度に、光紀も「この人なら何か手を打てる」と感じた。そして深々と頭を下げる。「小林さん、寒河江社長に代わって礼を言います。やはり寒河江社長の目は間違っていませんでした」悠良にはひとつだけ条件があった。「でもこのことは秘密にしてほしいの。今のところ、絶対に寒河江さん本人には言わないで。村雨さんは彼のそばに長年いるから、私以上に彼の性格を知ってるはずでしょ」光紀は小さくうなずいた。「わかりました」......伶は医者と話し合い、どうにか一時退院の許可を取りつけた。ただし条件は、二日に一度は病院に戻って炎症がないか確認すること。それも、しつこく食い下がった旭陽が押し切ったからでなければ、伶は病院に戻ることすら億劫がったに違いない。彼は一度仕事に入ると、まるで機械のようになるのだ。病室に戻ると、悠良はベッドの上に座り、膝にノートパソコンを置き、点滴を受けながらもキーボードを叩いていた。思わず眉をひそめ、彼はその手を押さえる。顔を上げた悠良の瞳は、冷ややかだった光がほんの少し和らいでいた。「戻ったのね。どうだった?」「話はついた。二日に一度は検査に戻ることになった」悠良は大きくうなずく。伶のような頑固者には、このくらい厳しくするのが一番だ。「後であのお医者さんに表彰状を渡さなきゃね。本当に責任感のある先生でよかった」伶は彼女の細い腰を抱き寄せ、伏し目がちに、蝶の羽ばたきのように震える睫毛を見つめる。「うちの悠良ちゃん、最近は皮肉まで覚えたんだな。要するに、俺み

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status