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第767話

Penulis: ちょうもも
松倉は伶の言葉に歯ぎしりしながら吐き捨てた。

「いいだろう、そっちが大人しく済ませたくないなら、もう容赦しねぇ!」

その時ちょうど電話を終えた磯崎が戻ってきた。

顔色はどこか険しい。

だが松倉はそんな変化に気づくはずもなく、目の前の「獲物」をどう料理するか、それしか頭にない。

「兄貴、こいつらサインしねぇってよ。いつも通り拘留でいいだろ?」

「拘留?証拠ならここにある。調べもせずに拘留って、どんな理屈だ」

伶は最初から落ち着き払っていた。

微動だにしないその横顔には、一切の怯みも焦りもない。

普通の人間では到底出せない圧がそこにはあった。

「証拠」という一言に松倉は即座に反応し、動揺を隠しきれない。

「は?どんな証拠だよ?どっから持ってきた?......あ、わかった、でっち上げだな!全部俺をハメるための――」

「でっち上げかどうかは、見ればわかる」

伶が書類を取り出そうとしたその瞬間、磯崎がそれを押さえた。

態度も声色も、まるで別人のように一変していた。

「寒河江社長、先ほど確認しました。完全に松倉の非です。ご安心を。必ず公正に対処します」

その言葉に、伶の手が一瞬止まる。

「証拠を見なくていいのか?冤罪だと思われるのは俺も困るが?」

磯崎は慌てて首を振る。

「いえ......!大丈夫です。これは我々の落ち度です。確認の必要はありません」

その様子を目にした松倉は、呆然としたまま声を上げた。

「ちょ、兄貴?何言ってんだよ!電話一本で何があったんだよ?なんか勘違いしてるだろ!?あいつらに証拠なんてあるわけ――」

パァン!

乾いた音と同時に、磯崎の手のひらが松倉の頬を打った。

「黙れ!こんな下らん件で騒ぎを起こしやがって!周りの商売人を買収して偽証させただと?よくもしてくれたな!」

それでも松倉は食い下がる。

「俺はそんなことしてねぇ!どうしたんだよ兄貴!さっきまで普通だったろ!?なんでそっちの言い分信じてんだよ!」

だが磯崎はもう取り合わない。

少しでも早く火消しをすることしか頭にない。

「いいから黙ってろ!猥褻未遂でも強姦未遂でも、然るべき拘留をしろ」

警察署の職員たちは顔を見合わせて固まった。

何が起きた?

さっきまで全然違う流れだったはずなのに。

しかし上の命令には逆らえない。

二人は無言で松倉
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