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第1118話

Auteur: 小春日和
しばらくしても、立花の耳には階下から何の物音も届かなかった。

立花はようやく尋ねた。「瀬川と黒澤は、まだ入ってこないのか?」

「もう入っているはずです」

「じゃあ、なぜ誰も報告に来ない?」

「ボス……出迎えには行かないと、おっしゃっていたじゃないですか」

馬場は最近、立花が何を考えているのかまったく読めなくなっていた。ここ数日、立花は矛盾そのもののようで、口では不機嫌そうに言いながらも、結局は素直に真奈と黒澤の結婚式に顔を出していた。

今回も、珍しく黒澤を傷つけるつもりなどなかったのに、口ではあえてわざとだと言い張っていた。

二人を屋敷に呼んで療養させることさえ、言葉とは裏腹に本心は正直だった。

「そんなこと、俺の知ったことか。住みたきゃ住めばいいし、嫌なら勝手に出て行け」

立花は立ち上がり、冷ややかな声で言った。「腹が減った。食事の用意をさせろ」

「……はい」

立花が階下へ降りると、リビングにはやはり真奈の姿はなかった。

桜井がまだ掃除をしている。立花はちらりと彼女を見て尋ねた。「瀬川と黒澤はもう部屋に入ったのか?」

「……はい、入りました。ただ……お二人とも、同じ部屋に」

真奈と黒澤が一つの部屋に入ったと聞き、立花の眉がぴくりと動いた。「二部屋用意しろと言ったはずだ。なぜ一緒の部屋にしている?」

「瀬川さんがおっしゃるには、黒澤さんとは夫婦なので、一緒の部屋にいるのが当然だそうです。それで……」

「もういい。二人を呼んで食事をさせろ」

そう言って立花はテーブルの前に腰を下ろした。桜井は困ったように言った。「先ほど瀬川さんから、もうお食事は済ませたので夕食は結構ですと。それに黒澤さんはお怪我をされていますから、しばらくの間はお部屋で食べるとおっしゃっていました」

「……ずいぶん考えが行き届いてるな」

立花は怒り混じりに笑い、途端に食欲をなくした。

真奈は食事のことにまで抜かりがない。本気でこの屋敷を無料の療養院とでも思っているのだろう。

そう思うと、立花は立ち上がり、冷ややかに言った。「食事は俺の部屋に運べ」

厨房では、ちょうど馬場が料理を運んできたところだった。立花が階段を上がろうとするのを見て、馬場は目を丸くし、尋ねた。「ボス、ここで召し上がらないんですか?」

「もう腹は減ってない。上に運んでくれ、部屋で食べる」

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