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第1164話

Author: 小春日和
「この晩餐会は3年に一度開催されるって聞いたの。厳しい選考を通った本物の令嬢しか参加できないのよ。あなたも知ってるでしょ?このブランド、海外では超有名で、私たちの界隈でもラグジュアリーブランドとして扱われてるの。参加できるのは18歳から25歳までの女性限定で、それを過ぎたらもう入れないのよ。身長・体重・体型まで、全部細かく管理されてるんだから」

福本陽子は、こういう晩餐会に参加することが何よりの楽しみだった。

一方、真奈の視線は、会場の入り口付近をさまよっていた。気がつけば、周囲の令嬢たちは全員、黒いイブニングドレスに身を包んでいる。その中で、自分だけが白いドレス、群衆の中でひときわ目立っていた。

「瀬川、ねえ、私の話聞いてた?これ、あなたのために教えてあげてるのよ!」

「はいはい、続けてどうぞ」

真奈は口だけで返事しながら、視線で会場の様子を探った。

そして案の定、会場外を見回っている数人の黒服の男たちの姿を発見する。彼らの胸には、立花家の家紋がある。それを確認して、真奈はようやく少し安心した。

けれどその安心も束の間。すぐに別の不安が胸をよぎった。

ここは、楠木家の縄張りだ。

楠木達朗は利益さえあればどこへでもなびくような、風見鶏の男だ。もし彼が裏切るようなことになれば、立花の部下たちは……

一方その頃。

立花はすでに身支度を整え、晩餐会に向かうため車へと乗り込んでいた。

馬場がドアを開けて送り出し、立花が車に乗り込んだあと、何気なく尋ねた。「手配は全部済んだか?」

「はい、すべて完了しております」馬場は即座に答えた。「うちの人間が密かに瀬川さんを護衛しています。それに、会場は楠木家のゴールデンホテルですから、問題は起きないはずです」

「そうか」

立花は短く頷いた。

楠木家の会場であれば、ある程度は安全だろう。

背後にいる連中が本気で何か仕掛けようとしても、この洛城が誰の縄張りか――まずはそれを弁えてからにすべきだ。

その時、馬場の携帯が鳴り出した。彼は即座に応答し、Bluetoothスピーカーをオンにした。

スピーカー越しに、護衛の一人の声が響く。「馬場さん、うちの者がゴールデンホテルの入り口で止められました。中に入れません」

「マネージャーに言って、立花家の者だと名乗れ」

「もう口が酸っぱくなるほど言ったんです!でも
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