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第1577話

Author: 小春日和
福本信広がその言葉を口にした時、瞳の奥には冷たい光が宿っていた。

福本陽子は慌てて首を振った。「そんなことないわ!絶対に洛城に居座ったりしないから!」

洛城なんて所は、昔からろくでもない場所だと聞いている。一度行けば十分で、二度と御免だというのが福本陽子の本音だった。

「行け」

福本信広が合図をすると、部下が荷物を運び込んできた。目の前に置かれたスーツケースを見て、福本陽子は目を丸くした。

「お兄さん、どうしてスーツケースまで用意してあるの?」

「洛城は俺の縄張りじゃない。まあ、あそこで俺のプリンセスに手出しできる奴などいないだろうが、何事も家の物を使うに越したことはないからな」

そう言いながら、福本信広は美しい蝶のネックレスを福本陽子の首にかけた。「前に、ここのデザイナーのジュエリーを気に入っていただろう?これは特別に作らせた新作だ。お前のお守り代わりだよ。いいか、絶対に失くすんじゃないぞ。さもないと、兄さんは非常に不機嫌になる」

福本陽子は、首元に揺れる蝶のネックレスを見つめた。

しばらくして、その顔にパッと喜びの色が広がった。「お兄さん、どうして私が蝶が一番好き
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