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第1103話

Author: 小春日和
なんなの、これ……?

真奈は封筒を指先で探ると、中に小さな鍵が入っていることに気づいた。

それを取り出し、もう一度紙に書かれた住所を見た瞬間、

息をのんだ。

――これって……家?

真奈がお城を出た時には、すでに立花の姿はどこにもなかった。門の前には一台の車だけが静かに停まっていた。

黒澤がその車から降りてきた。黒いシャツ一枚のままで、上着を羽織る時間もなかったらしい。真奈の姿を見つけると、そのまま彼女を強く抱きしめた。

黒澤の体から漂う酒の匂いで、今日どれだけ飲んだのかすぐにわかった。「もう、やめて。みんな見てるわよ」

「見られたって構わないさ」黒澤は低い声で囁いた。「どうせ、俺みたいにいい奥さんをもらったやつなんていないんだから」

「もう、ほんとにやめて……」

運転手の視線が二人に向けられているのを感じ、真奈は思わず黒澤を押しのけた。だが次の瞬間、黒澤は彼女の腰に腕を回し、そのままひょいと抱き上げた。

「遼介!酔っ払って暴れてるの?」

「酔ってない」

黒澤は隠そうともしない笑みを浮かべ、「ただ、愛しい妻を大事にしてるだけだよ」と言った。

そう言って、彼は真奈を抱いたまま車へと乗り込んだ。

運転手は軽く咳払いをし、何も見なかったふりをしてエンジンをかけ、二人をホテルへと送り届けた。

一方、結婚式場では。

「まだ終わりじゃないぞ!新郎新婦はどこ行った!」

福本英明と福本陽子はすでに新郎新婦の姿を見失っていた。二人はそれぞれ介添え人として散々酒を勧められ、頬を真っ赤に染めていた。

「ううっ、兄さん、もう飲めないよ……!人生でこんなにお酒を飲んだの初めて!」

「俺だって同じだ!黒澤おじいさん、絶対おかしいって!テーブルごとに酒を並べるなんて正気の沙汰じゃない!百卓分を飲み干せる人間がいるかよ!」

福本英明は心底後悔していた。調子に乗って介添え人を引き受けるんじゃなかった、と。

その頃、伊藤と幸江が更衣室から出てきて、二人の様子を見てあきれ顔で言った。「まだ飲んでたの?私たち、もうそろそろお開きにするところよ」

福本英明は驚いて言った。「え?ずっと飲み続けるんじゃなかったのか?」

「遼介と真奈はもう行っちゃったのに、あなたたち二人だけが真面目に延々と乾杯してるなんて!」

「……」

福本陽子と福本英明の顔がみるみるうちに暗く
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