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第193話

作者: 小春日和
「あの女性は何者?」

「分からないわ。社長が直接出迎えてるし、かなりの大物みたいね」

「見た感じ、どこかのお嬢様が社会体験に来てるんじゃない?」

……

部下たちはまた小声で噂し始めた。

「浅井さんの能力は皆が認めるところです。どんな職位でもお選びいただけますよ!」

伊達社長は浅井に丁重に接した。

浅井は社長の椅子に座り、外のオフィスエリアに目をやった。真奈の姿を探していたが、見回しても見つからなかった。

「高い地位は必要ありません。私はあくまで学びに来たのですから。チームリーダーの職はまだ空いていますか?」

「もちろん!もちろんございます。ただ、チームリーダーではあなたの才能が埋もれてしまう。浅井さんなら当社の副社長職も十分務まりますよ」

浅井は微笑んで言った。「副社長は結構です。皆に噂されるのも困りますから」

「分かりました!問題ありません。冬城総裁にはご報告した方がよろしいでしょうか?」

伊達社長の言葉に浅井は一瞬動揺したが、こう言った。「今回の実習のことは司さんには内緒なんです。どうか秘密にしていただけますか。知られたら、私が言わずに働きに出たと怒られてしまいますから」

伊達社長はすぐに理解した。「なるほど、冬城総裁は浅井さんをとても大切にされていて、過労を心配なさっているんですね。ご安心ください、絶対に秘密にしておきます!」

この言葉を聞いて、浅井はほっとした。

そのころ、真奈と白石が会社の撮影現場から並んで出てきた。

この光景は、オフィスにいた浅井の目に偶然入った。

「浅井さん、問題なければすぐに契約を結びましょう」

「少し待ってください……」

浅井は下階の真奈と白石を見ながら言った。「あの社員は会社でどんな職位なんですか?」

「A大学からのインターン生です。ただの下っ端で、企画部所属だと思いますよ。普段は資料整理などを担当しています」

「私も企画部にとても興味があるんです。そちらに配属していただけますか?」

「もちろん可能です!ただ、浅井さんのような人材は財務部の方が適していると思いますが……」

浅井は黙っていた。

彼女は会社で派手に真奈を踏みにじる機会を待っていたのだ!

今や彼女と冬城は夫婦の関係になっているが、真奈はまだ知らないだろう。

もし真奈が知れば、きっと冬城と離婚するはず。

そうなれば、冬
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コメント (3)
goodnovel comment avatar
良香
これはーーーー。どうなる? まあ真奈ちゃんにとっては浅井の破滅行動は渡りに船って感じ?てか、無理やり関係持ったなら妊娠も視野に入れた方が良いかも。薬盛るような女は、そこまでするやろ。
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YOKO
なぜイイ子のヒロインの周囲には悪事を働く人間が居るのだろうか?可哀想過ぎる、
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kyanos
浅井ははなから真奈をみくびっていて、 潰す気なんだ。 冬城と夫婦になった? ただ強制的に関係をもったんだろ。
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