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第345話

Author: 小春日和
彼女の記憶の中で、前世の瀬川家が財務面で不祥事を起こしたことなど、一度もなかった。

この件はあまりにも不気味だ。

「社長!」

大塚が慌てて飛び出してきたが、今は何もできず、ただ焦るしかなかった。

真奈はそんな大塚に向かって、静かに首を横に振った。

今は騒ぎを大きくしないことが最優先だ。このまま警察に同行し、冷静に対処するしかない。

彼女がやっていないことは認めない。

その頃、ネット上ではすでに「瀬川真奈、汚職と横領の容疑で逮捕」といった芸能ニュースが流れ始めていた。昨日まで彼女に同情的だった人々は、手のひらを返したように非難の声を上げていた。

【金持ちにまともな奴なんていない!そりゃあ旦那が離婚騒ぎ起こすわけだわ】

【何十億も横領したって噂だぞ。一生刑務所コースか?】

【瀬川社長って、結婚してるくせに男と関係持ちまくってたらしいよ。どうせろくでもない女だろ】

……

コメント欄の風向きは一方的だった。

その報道を目にした幸江は、あまりの焦りに足をバタつかせながら、すぐにMグループへ駆けつけた。「あの二人は!?遼介と智彦はどこにいるの!?」

「一日中連絡を取ろうとしましたが、黒澤様も伊藤様も、まったくつながらないんです!」

「こんな大事な時に見つからないなんて……!二人とも、何が起きてるのか分かってないの!?」

大塚は言った。「幸江さん、どうかご安心ください。すでに一流の弁護士チームに依頼をしています。それに、社長は何もやっていないのです。やってもいないことで捕まるなんて、そんな馬鹿な――」

「大塚さん!大変です!」

そのとき、会社の外から大塚の部下が駆け込んできた。「今、瀬川グループが全面的な調査を受けていますが……本当に、帳簿に不備が見つかったようなんです!」

「なんだって?」

大塚が前に出て問いただす。「引き継ぎのとき、もう調査は済んでるって言ったじゃないか。問題なかったって……」

「でもあれは、あくまで瀬川グループ側の自己調査だったんです。我々は形式上の確認しかしていませんでした。まさか本当に帳目に不正があったなんて……損失は、200億も出てます!」

「……200億!?」

大塚は一瞬固まった。

「まさか!」

幸江は眉をひそめて言った。「それは絶対に真奈がやったことじゃない。誰かが仕組んだに決まってる」

「しかし
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Comments (1)
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良香
うーん。これ叔父さんじゃない? 秦母子に帳簿を扱えないと思うんだよなあ。 このタイミングで出て来てるのが怪しいと言うか、幸江さんも訝しく思ってるよね。 てか、ネットニュース見てコメント書くやつってくそやな、って改めて思うわ。 これ後から冤罪、ってなった時どうするんかな?
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