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第47話
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離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第371話
冬城おばあさんの装いは、ひと目でただ者ではないとわかるものだった。彼女がひと声上げると、たちまち病院の門の外には人だかりができ、あちこちでざわめきが広がった。「なにあの人、曾孫を誘拐するなんて！」「あんなに綺麗なのに、どうしてそんなことをするのよ」「子どもにまで手を出すなんて、あの女、どうかしてるわ……」……真奈に向けられた非難の声は止むことなく、あたりに充満していた。冬城おばあさんは、前に世論の圧力を思い知らされてからというもの、今回はそれをこれでもかというほど利用していた。真奈のために水を汲みに行っていた幸江が戻ってきたとき、病室の前には人があふれ、看護師が何度声をかけても誰ひとり動こうとしなかった。「何してるの、あなたたち！」美琴が語気強く言うと、冬城おばあさんは彼女の姿を認め、眉をひそめながら口を開いた。「幸江さん、あなたもこの海城じゃ名の知れた方でしょ？まさか、あんな女の肩を持つつもりじゃないよね？」「冬城おばあさん、私たちはどちらもそれなりの立場の人間ですよ。そんな人が、大勢引き連れて病院で騒ぎを起こすなんて、あまりにも品がないと思いません？」もともと幸江は、冬城おばあさんのいかにも上流ぶった偉そうな態度が我慢ならなかった。冬城おばあさんは鼻で笑いながら言い返した。「真奈がうちの孫嫁を連れ去らせたのよ。お腹にはまだ子どもがいるっていうのに、あの女、嫉妬に狂ってるんじゃないの？孫嫁のお腹の子を狙ってるのかもしれないわよ」「真奈があなたの孫嫁を誘拐したですって？ずいぶんと笑わせてくれる話ですね」幸江は冬城おばあさんを見据え、皮肉たっぷりに言った。「あなたの孫嫁予備役が新しい男を連れて真奈を責め立てる姿、冬城おばあさんはご覧になってないんでしょうね。男を見つけるの、ずいぶんと早いこと。あなたも少しは目を光らせたらどうです？」「なにを馬鹿なことを！うちの孫嫁が他の男と付き合うなんて、あるわけがないでしょう！」冬城家の未来の孫嫁が男と駆け落ちしたなんて話が広まれば、冬城家は一生、世間に顔向けできなくなる。「本当かどうかは、自分で調べたらどうです？どうしてここに来て真奈に難癖をつけるの！」幸江はさらに追い打ちをかけるように言葉を続けた。「そうそう、まだご存じないんですよね。浅井が見つけた後釜の男、彼は浅
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第370話
出雲家と田沼家は昔から親しい間柄であり、当時、田沼夫人は夕夏という女の子を出産した。だがその後、夫である田沼拓郎（たぬま たくろう）の不倫が発覚し、激怒した田沼夫人は幼い夕夏を連れて、遠くへと姿を消した。以来、母娘ともに行方知れずとなった。田沼拓郎は長年にわたって娘の行方を探しており、もともと出雲家とは幼なじみ婚約を交わしていたものの、その話も自然と立ち消えになっていた。だが、出雲家の実権が出雲蒼星の手に渡ると、彼はあらゆる手段を講じて田沼夕夏の行方を追い続けた。どんな手を使ってでも、かつて約束された婚約者を見つけ出すつもりだった。そんな一連の経緯を報じた記事を目にしたとき、幸江は思わずため息をつきながら呟いた。「ほんと、金持ちの家って情に厚い男が必ずいるもんね……」だが、すぐにふとした疑問が頭をよぎる。彼女は顔を上げ、真奈に目を向けて問いかけた。「でもさ、真奈。どうして出雲が田沼家のために動いてるってわかったの？」その一言に、真奈は一瞬だけ固まった。少しだけ間を置いてから、真奈は何気ないふうを装って言った。「たまたま以前、記事を目にしただけよ。あのとき、出雲家の当主ってずいぶん一途な人なんだなって思っただけ」「そんな一途な人間、そうそういるわけないでしょ。わたしたちみたいな家柄の人間にとって、愛だの情だのって、所詮は全部利害関係の上に成り立ってるのよ」幸江は言い切った。「だって、出雲蒼星と田沼夕夏って、実際に会ったことなんて一度もないのよ？そんな相手のために命までかけるなんて、正直、信じられないわ。きっとこれは、出雲家と田沼家が世間の注目を集めるために仕掛けた芝居よ。お互いの立場を守るための、上手い演出ってだけ」真奈は黙り込んだ。彼女はもう、前世のようにただ冬城の後ろを追いかけていた小娘ではなかった。田沼家と出雲家の利害関係はあまりにも明白。どう見ても、出雲が浅井を庇っているのは、彼女個人のためではなく、田沼家のためだ。「そうだ、伊藤に私の顔が傷ついたことを言わないでね」「わかってる。まだ言ってない。でも……長くは隠しきれないと思うわ」真奈の顔に傷ができている。そして今、黒澤はすでに海城に戻ってきている。彼が真奈をどれほど大切にしているかを考えれば――一週間も顔を見ない、なんてことがあるはずもなかった。
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第369話
「そうだ。それがどうした？」出雲の態度は強硬だった。幸江は冷笑した。「出雲さんは臨城で長いこと王者気取りだったから、海城にも海城のルールがあるってことを知らないんでしょうね。瀬川家が破産したって、私がついてる。遼介が守ってる。それに伊藤家全体が面子を支えてるのよ。今日、あんたが浅井に肩入れして真奈に手を出したら――明日、海城の門を無事に出られると思わないことね」「……蒼星を脅しているの？」背後に強大な後ろ盾を得た浅井は、もはや遠慮も配慮も忘れ、堂々と顔を上げて美琴を見据えた。「幸江。真奈とあなたに一体どんな関係があるの？どうしてそこまでして彼女を庇うの？あの人は司さんとの離婚を引き延ばしてるくせに、あなたの弟には色目を使って――本当ならあなたが一番嫌うべき人間じゃないの？」「その汚い口を閉じろ！」幸江の激しい気性は、一度火がつくと誰にも止められない。真奈はすぐに一歩前に出て、必死にその場を制そうとした。「浅井さん、怒らないで。赤ちゃんに何かあったら、それこそ取り返しがつかないでしょ」そのひと言で、周囲の視線が自然と浅井の腹部に集まる。浅井が冬城の子供を妊娠しているというニュースは、全国に知れ渡っていた。子どもに話題が及んだことで、浅井は出雲の腕をさらに強く握りしめた。「真奈、仲を引き裂こうなんて無駄よ。私はもう妊娠のこと、蒼星に話してるの。蒼星は言ったわ。私の子どもなら、たとえ誰の子であろうと、自分の子として育てるって――！」「へえ、少し前までは冬城に命かけるほど恋してたくせに？冬城夫人の席にしがみついてたあなたが、今は新しい男ができた途端、前の男を捨てるってわけ？」幸江は冷ややかな目で出雲を見据え、皮肉を込めて言った。「出雲さんは、まさに理想的な後釜だね。ただ……彼女のどこに惹かれたのか理解できない。浅井なんて、嘘ばかりつく女じゃない。あなたの趣味、なかなか独特だね」その言葉に、出雲は眉をわずかにひそめただけだった。だが、その小さな動きに応じるように、彼の部下が素早く前へ出て、ためらいもなく真奈の右頬を平手で打ちつけた。真奈の頬はすぐに赤く腫れ、唇の端には血が滲んだ。幸江は思わず怒鳴り声を上げた。「出雲！」「さっき言ったはずだ。幸江社長には手は出さない。しかし瀬川なら――俺の手でどうにでもできる」「あなた
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第368話
浅井は冷笑を浮かべながら一歩前に出ると、何のためらいもなく真奈の頬を平手で打ちつけた。その音は鋭く響き、鮮やかな一撃だった。隣にいた幸江は一瞬呆然とし、すぐに我に返ると浅井に同じように返そうと前へ出た。だが、みなみの護衛にあっさりと遮られてしまう。「浅井！正気なの！真奈に手を出すなんて……！」真奈の唇の端にはうっすらと血が滲み、耳元ではブンブンと唸るような音が鳴っていた。それだけ、浅井の一撃には容赦のない力が込められていた。浅井は嘲るように口を開いた。「瀬川家なんてもう破産してるのよ？お嬢様って肩書きだけで、中身は空っぽ。そんなのに遠慮する理由がどこにあるっていうの？」浅井は高慢ちきな態度を取っていた。幸江は冷たく睨み返しながら言い放った。「たとえ瀬川家が潰れたとしても、私がいる。あんたが真奈に張ったその一発、明日には百倍にして返してやるわ」「恐らく、あなたにはその資格はないでしょう」浅井の口角がわずかに上がった。「私にその資格がない？」幸江は鼻で笑った。彼女は幸江家の実権を握る者であり、さらに黒澤家の血縁者でもある。この海城で、幸江の名に逆らえる人間など、そうそういない。だが、彼女が前に一歩踏み出そうとしたそのとき――レストランの入口から、さらに10人のボディガードが雪崩れ込むようにして現れ、店内を一気に取り囲んだ。幸江は、彼らの身に付けている家紋が臨城の出雲家のものであることに気づいた。臨城の出雲家の者が、どうして突然海城に現れたのか？幸江は眉をひそめた。浅井の顔に得意げな笑みが浮かんだ。真奈は、先ほどからずっと違和感を感じていた。浅井がいくら腹の子を頼りにしているとはいえ、冬城家の人間をこれほど動かせるはずがない。もし冬城おばあさんが、浅井がこんな風に挑発をしていると知れば、絶対に彼女に肩入れするようなことはしないだろう。そして今、ここに集まっている男たちはどう見ても冬城家の警護ではなかった。その時、背が高く、彫りの深い顔立ちで、スーツを着た男がゆっくりと入ってきた。彼の声は落ち着いており、冷たさを帯びていた。「遅れてしまった」その顔を初めて見る幸江は、即座に警戒を強めた。「蒼星、来てくれたのね」みなみは出雲蒼星（いずも そうせい）の腕に親しげに手を回した。その名を聞い
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第367話
今、彼女は地面の割れ目にでも入りたい気持ちだったが、黒澤に完全に塞がれており、後退する余地はなかった。「真奈、答えてくれ」黒澤はじっと彼女の目を見つめ、視線をそらさせないようにしていた。真奈が見上げたその瞳には、真剣さと強い思いが込められていた。「私……まだ離婚してない……」真奈は小さな声でそう言った。「離婚したら、そのときちゃんと答えるわ」黒澤はそっと手を伸ばし、真奈の頬を優しく撫でた。彼の手のひらは熱を帯びていて、低く落ち着いた声で言った。真奈はドアを開けて部屋を出ようとした――その瞬間、外でこっそり聞き耳を立てていた幸江と伊藤の姿が目に入る。真奈の顔は一気に真っ赤になり、これまでにないほどの動揺を見せた。そしてバッグをつかむと、そのまま逃げるように立ち去ってしまった。「送るよ！」幸江は慌てて彼女のあとを追った。残された伊藤はそっと部屋に滑り込むと、着替え中の黒澤に向かって呆れたように言った。「お前、ほんと隠れロマンチストだな。なんでこのタイミングで告白なんてすんだよ！見ただろ、真奈、逃げ出しちゃったじゃん！」黒澤は黙ってシャツのボタンを留めながら、伊藤の言葉に返事をせず、寝室を出ていった。「おいおい、こっちは話してんだけど？さすがに焦りすぎじゃないか？」黒澤は淡々と言った。「今言わなかったら、本当に彼女が離れていってしまう気がしたんだ」「離れていくって……真奈がどこに逃げるっていうんだよ」「分からない」黒澤の声は低く沈んでいた。彼はただ、真奈の心の扉があまりにも堅く閉ざされていて、誰もその中に踏み込めないことを知っていた。たとえ冬城がすべてを捨てて彼女のために尽くしても、真奈の気持ちは一瞬たりとも揺らぐことはなかった。黒澤は恐れていたのだ。もし言葉にするのが遅ければ、真奈の心は完全に閉ざされ、自分が入り込む隙すらなくなるのではないかと。一方その頃、真奈が黒澤の家を出たばかり。幸江が真奈をMグループへ送り届ける途中、狭い路地で一台の黒い車が行く手を遮った。その車からは数人の黒服の男たちが降りてきて、無言のまま二人の車を取り囲んだ。幸江は車から降り、眉をひそめて問いただす。「あなたたち誰？何のつもり？」真奈も車から降りてきて、落ち着いた声で言った。「ここ一帯、監視カメラだらけよ。も
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第366話
「ヒッ——！」黒澤が息を吸い込む音に、真奈は慌てて前のめりに駆け寄った。「さっきは力を入れなかったのに」真奈の緊張を見て、黒澤の顔にわずかな笑みが浮かんだ。その表情を見て、真奈はすぐに自分がからかわれたことに気づき、むっとして睨みつけた。真奈が立ち上がって行こうとすると、黒澤はすぐに腕を伸ばし、彼女を抱き寄せた。寝室の雰囲気は曖昧で、真奈の顔は火照っていた。彼女は黒澤を押しのけようとしたが、黒澤の傷を悪化させることを恐れ、一瞬、部屋は静まり返り、お互いの鼓動が聞こえるようだった。「ああ、押さないで、押さないでよ！」そんな中、幸江の押し殺した声が突然ドアの外から聞こえてきた。その物音に反応して、真奈はすぐに黒澤の膝から立ち上がる。見ると、伊藤と幸江がドア口からよろめくように入ってきた。伊藤は気まずそうに目を逸らしながら言った。「お、俺、今帰ったばかりで……ほんとに今戻ってきたばかりで……」手にはまだスーツケースを提げている。幸江は思いきり伊藤を睨みつけた。「全部あなたのせいよ！台無しにしたじゃない！」「どうして俺のせいなんだ、俺にはわからないよ！」言い終わる前に、伊藤は黒澤の冷たい、まるで刃のような視線に気づいた。その瞬間、言葉を飲み込み、すぐさま切り替えた。「俺、ただ着替えに来ただけなんだ。まさか二人が……ね？うん、じゃあ俺は外で着替えるから！ごゆっくりどうぞ、ね！」そう言って、伊藤は幸江を引っ張って外に出て行き、真奈と黒澤だけが静かに部屋に残された。重たい沈黙がしばらく続いたあと、黒澤がようやく口を開いた。「瀬川家の件は……」「もう片付けた」黒澤は少し黙り込んだあと、再び口を開いた。「美琴さんから聞いた。デビューするつもりだって」「……そういう考えがあるだけだよ」「芸能界は君が思ってるほど甘くない。でも、もし本気でやる気があるなら……俺が道を作る」瀬川エンターテインメントはこれまで白石一人にすべてのリソースを注ぎ込み、金の力で彼をトップに押し上げてきた。だが今の海城には、豊富なリソースと成熟したビジネスモデルを持つエンタメ企業が無数にある。もし以前、真奈が白石を引き止めていなかったら、彼はきっと別のステージでとっくに輝いていただろう。真奈自身も、それはわかっていた。もし本当に自分がデビュー
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第365話
真奈の手に持っていたコーヒーが床に落ち、黒澤はすぐに身をかがめて、真奈のハイヒールの汚れを拭き取った。「遅れてごめん」黒澤は声を低くした。真奈は黒澤がこんな風になるのをあまり見たことがなかった。卑屈で、声を詰まらせ、目には後悔の色が浮かんでいた。そしてすぐに、彼の手に細かな傷があり、手首には包帯が巻かれていることに気づいた。明らかに負傷していた。真奈は手を伸ばし、黒澤の腕をつかんで傷を確認した。この世で黒澤を傷つけられる者などいるのだろうか？真奈はそう思った。「けがしてる？どういうこと？今回、智彦も一緒だったんでしょ？彼はどこ？」幸江は周囲を見回したが、伊藤の姿はどこにもなかった。その瞬間、彼女の顔がさっと青ざめた。「まさか……まさか智彦が……」黒澤は淡々と言った。「あいつは飛行機の中。まだ降りてきていない」「……」幸江の高まっていた感情は、一気にしぼんだ。「早くそう言ってよ。智彦のような計算高い奴が、あなたに付き添って命を落とすなんて、そんなの絶対ありえないと思ってたよ」真奈は問いかけた。「白井家の旧勢力を処理していた。危険だったから、戻るのが遅れた」幸江は眉をひそめ、事の重大さを感じ取っていた。「でも、もともと白井社長は白井家のすべてをあなたに引き渡したんじゃなかった？白井家の旧勢力なんて、あの当時からの荒くれ者ばっかりでしょ。もう全部片付けたの？」白井家とは、海外にある闇の産業組織で、その内部の人間は誰もが手ごわく、関わるだけで命に関わるような存在だった。昔、白井社長が白井家を遼介に任せたのは、遼介を巻き込みたかったからに他ならない。真奈はじっと黒澤を見つめながら、静かに問いかけた。黒澤は声を低く落として答えた。「あいつらは、最初から生かしておくべき存在じゃなかった。真奈のそばにいたいと思うなら、君に安らぎを与えられる場所と、清らかな俺自身を差し出さなきゃならない」海城の内外で、黒澤の名を知らぬ者などいない。彼は閻魔大王であり、羅刹鬼であり、命を奪いに来た死神だ。すべての汚れ仕事を、彼はやってきた。殺人、略奪、放火といったことも、彼はすべてやってきた。だがそれは、すべて生き延びるためだった。今や彼はすべてを手に入れ、真奈のそばにいたいと思っている。過去との繋がりを断
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第364話
もし真奈が権限を握る立場のまま芸能界にデビューするなんてことになったら、周囲はどれだけ疲弊することか。真奈は重い責任を任せながら立ち上がり、大塚の肩を軽く叩いて言った。「これらはあなたならきっと処理できるって信じてる。年末ボーナス、倍にするから」大塚はまったく喜べなかった。まったくもって、嬉しくなんかなかった。午後、真奈は幸江と一緒にビルの下にあるカフェでアフタヌーンティーを楽しんでいたが、幸江は思わずコーヒーを吹き出した。「あなたがデビューするって？！」美琴は口元を拭いながら言った。「冗談言ってるんじゃないでしょうね？」真奈は眉をひそめた。「どうしてそんなに驚くの？」「たとえ瀬川家が破産したって、あなたにはMグループがあるじゃない。わざわざデビューなんかして、周りに噂される必要ないでしょ」一般人の目には、芸能人は月のように輝く、最も華やかな存在だ。けれど彼女たちのような上流社会の人間にとって、芸能人はただの商品、手のひらで弄ぶ玩具のようなもの。家に少しでも面子がある者は、自分の子供が芸能界デビューすることを望まない。芸能人は彼らにとって最も低い存在だ。真奈は気にも留めずに言った。「私がデビューするのは、ただの思いつきじゃない。今、瀬川家が破産して、Mグループにも少なからず影響はある。けど、ちょうど今ネットでは私のデビューを望む声が高まってる。だったらこの機会を、いい感じに利用すればいいって思っただけ」それを聞いて、幸江は舌打ちしながら言った。「それ、ほんと正しい判断よ。今後Mグループがグローバル展開する時に、あなたと白石がいれば、宣伝費もかなり浮くんじゃない？」幸江が話し終えると、興味津々に尋ねた。「あなたがデビューするって、遼介は知ってるの？」真奈は何も言わず、無表情のままお茶を一口飲んだ。「彼は知らない」その表情を見て、幸江は自分のあの愚かな弟がきっとまた何かやらかしたと察し、思わず口にした。「人はいつも他人に頼ることはできないし、彼もいつも私のそばにいるわけじゃない。何を怒る必要があるの？」前世を経験して、彼女はこの道理を理解した。二度目の人生で、彼女は黒澤に出会い、彼は例外だと思っていたが、この二日間を経て、黒澤もいつも彼女のそばにいるわけではないことに気づいた。「遼介はきっと何か事情
離婚協議の後、妻は電撃再婚した 第363話
翌日、真奈は帳簿上から1000億円をそれぞれ株式を手放した取締役たちの口座に送金した。そして、瀬川グループは正式に破産を発表した。そのニュースは瞬く間に世間を駆け巡り、各メディアが競って報道。真奈本人のコメントを求めて、連日取材合戦が繰り広げられた。その日、真奈は専用車から降り、Mグループへの出勤のためエントランスへと歩いていた。メディアの記者たちは彼女の周囲に群がり、マイクが今にも顔に届きそうな勢いで突き出される。「瀬川さん、瀬川グループの破産について、何かコメントはありますか？」「瀬川会長が数十億円を横領し、200億円の公金流用があったと報道されています。長期刑は免れないとのことですが、これについてどうお考えでしょうか？」「瀬川さん、冬城総裁との復縁が噂されていますが、事実でしょうか？」……記者たちの質問が次々と飛び交うが、真奈は一切立ち止まらず、静かにMグループの社屋に向かって歩みを進めた。「申し訳ありません、社長は現在、取材対応はしておりません！」大塚がすぐさま記者たちを制止に入る。その中の一人の記者が言った。「今、瀬川家は破産しましたが、瀬川さんはMグループでどのような役職を務めているのでしょうか？」「また、瀬川さんとMグループの実権者・最上道央氏との関係が取り沙汰されています。さらに、冬城総裁との結婚中にお互い不倫していたという噂もありますが、それについてのご説明は？」……過激な質問が続く中、真奈は一瞬立ち止まり、サングラスを外してカメラを正面から見据えた。そして、静かに微笑みながらこう答えた。「瀬川グループは破産しましたが、私はMグループで自分の職務に専念しています。どうか、業務に支障が出ないよう、これ以上の取材はご遠慮ください。ありがとうございました」真奈の言葉は堂々としており、その凛とした姿が瞬く間に多くの人の心をつかんだ。【仕事に行くのに記者に邪魔されるなんて、この記者たちはおかしいんじゃない？】【瀬川グループの不良債権まで全部彼女の責任にするなんて！破産は仕方ないけど、彼女は彼女で輝いてる！】【だからお願い！デビューして！こんなに美人で、しかもカメラ映えがすごすぎる！】……オフィスでコメントを見ていた真奈のもとへ、大塚が入ってきた。「退株を申し出た株主たちへの支払い
