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第819話

Auteur: 小春日和
福本の言葉が終わるか終わらないうちに、外から大きな衝撃音が響いた。

庭の外から十数人の黒澤家のボディガードが家の中に突入してくるのが見えた。

こんな光景は初めての福本は、思わず立ち上がり声を震わせた。「あ、あなたたちは何者なの!何をするつもり!」

ボディガードたちの服に縫い付けられた黒澤家の紋章を見て、白井の顔色はさらに険しくなった。

「遼介……遼介が来たの……」

白井は立ち上がり、黒澤を探しに出ようとしたが、扉から入ってきたのは黒澤ではなく幸江だった。

幸江の姿を認め、白井は一瞬呆気に取られる。

幸江は冷ややかな笑みを浮かべた。「白井さん、そんなに急いで飛び出すなんて……遼介を探しに行くつもり?」

「遼介……遼介はなぜ来ていないの?」

白井はなおも周囲を見回し、黒澤の姿を探そうとした。だが、この場にいるのは幸江と黒澤家のボディガードだけで、ほかには誰もいない。

黒澤……来ていない!

「遼介はあなたのそんな顔など見たくもないわ。今日から、彼はあなたの父親への約束を無効にすると言っていた。これからは亡き父親の名を利用して黒澤家に来て遼介を煩わせるのはやめなさい。さもないと、私は容赦しないから」

幸江の声音は鋭く、白井は慌てて首を振った。「そんなはずがない……遼介が私にそんなことをするわけない……遼介は前に約束してくれたのに、遼介……」

「もういい!白井、あなたが海城に来てから、遼介はずっと人を付けて面倒を見させてきた。でもあなただって、自分が何をしてきたか分かってるでしょう?他人に遼介の最愛の女だと誤解させたり、黒澤家のつながりを利用して芸能界のリソースを好き勝手に使ったり……そんなことは遼介も黙認してきた。けれど、真奈を傷つけることだけは許さない!」

幸江は冷ややかに言い放った。「遼介があなたを好きになるはずがないだけじゃない。私も、祖父も、あなたを好まない。あなたが黒澤家の嫁になることなんて、絶対にあり得ないわ」

その言葉に、福本はすぐさま立ち上がり、声を荒げた。「幸江!何様のつもり?あんたは幸江家の人間で、黒澤家のただの親戚じゃない!ここで威張り散らすのはやめなさい!」

「そうね、私は幸江家の人間よ。でも、海城の幸江家を、あなたたちは敵に回せる?」

その言葉と同時に、幸江の背後にいたボディガードたちが素早く動き、福本家の警備員た
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