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第7話

作者: ハル
一人で自宅へ戻ると、詩織から何十件ものLINEが届いていた。遥は短いメッセージを打ち込んだ。

【私は大丈夫。もう家に着いたから、心配しないで】

送信ボタンを押した後、彼女はトーク画面を戻り、ピン留めしている柊吾のチャットルームを見つめた。

彼からは安否を気遣うメッセージ一つなく、電話一本すらもかかってきてはいなかった。

どうやら、彼は自らの言葉通り、自分という存在を微塵も気に留めていないようだった。

その瞬間、遥のとうに砕け散っていた心は完全に燃え尽き、冷たい灰の山と化した。

それからの1週間、柊吾が帰宅することはなかった。

遥は彼がどこへ行ったのかを問うことはせず、ただ黙々と、離婚後の財産分与の確認と整理に専念していた。

時折、彼女が詩織のSNSの投稿を目にすると、旅行先の写真の端々に必ずと言っていいほど柊吾の存在を窺い知ることができた。

彼が料理を取り分けた際、何気なく写り込んだ骨ばった綺麗な手。

彼が詩織の写真を撮った際、彼女の瞳に反射して映り込んでいた彼の笑顔。

彼女が砂浜に絵を描いた際、その横に残されていた彼の名前のイニシャル……

遥はそれらの投稿を一つ一つスクロールしながら見つめ、無数の「いいね」を押していった。

一日また一日と時間が過ぎ去り、やがて弁護士から電話がかかってきた。

「星野様、財産分与などの離婚協議がすべてまとまり、役所への手続きも完了いたしました。いつ離婚届受理証明書を受け取りにいらっしゃいますか?」

遥はこの日が来るのを、あまりにも長く待ち望んでいた。

彼女はすぐさま家を出て、自分と柊吾の分の2通の離婚届受理証明書を受け取ってきた。

法律事務所を後にした彼女は、もう一通の証明書を柊吾に渡そうと考えていたが、彼より先に、彼の友人から電話がかかってきた。

「遥ちゃん、柊吾が酔い潰れちゃってさ。悪いんだけど、こっちまで迎えに来てくれないかな?」

遥は位置情報を聞き出し、その場所へと急行した。

個室の入り口にたどり着き、ドアを押し開けようとしたちょうどそのとき、ひどく酔いの回った柊吾の声が聞こえてきた。

「詩織と一緒に旅行に行っていたこの数日間が、俺の結婚生活の中で、一番幸せな時間だった。

俺の隣には彼女しかおらず、俺たちはもう芝居をする必要もなく、心の赴くままに互いへの愛を伝え合うことができた。

このまま永遠に時間が止まればいいと、どれほど願ったことか。そうすれば、詩織は永遠に俺のものになる。だが、俺が夢にまで見た願いは、絶対に手の届かない幻でしかないんだ」

彼の声に滲む隠しきれない絶望感に、聞いていた友人たちも皆、見るに見かねたような表情を浮かべた。

「柊吾、もう酔っ払って戯言を言うのはやめろ。遥ちゃんがもうすぐ来るんだぞ。彼女がお前のそんな言葉を聞いたら、絶対に深く傷つくはずだ。

彼女はあれほどお前を愛していて、お前のためにご両親と離れて東央市に残ったんだ。彼女にはもうお前しかいないんだから、裏切るような真似はしちゃ駄目だ」

「そうだよ。遥ちゃんはあの時、お前と結婚するために、やっと手に入れた海外留学のチャンスを諦めたんだ。

この数年間、お前に一途だったじゃないか。お前が深夜まで残業していれば、夜更かしして夜食を届けてくれたし、お前が交通事故に遭ったときは、1ヶ月間も不眠不休で看病してくれた。

お前が出張先で飲みすぎて胃を痛めたときだって、それを知るや否や一番の飛行機で駆けつけてくれたじゃないか……」

「お前の心の中に詩織ちゃんしかいないのは分かってる。でも、お前たちは兄妹なんだ。この先、絶対に結ばれることはない。

やっぱり、今そばにいてくれる人を大切にするべきだよ。そうしないと、彼女を失ってから、お前は絶対に後悔することになる」

彼らの忠告を聞いて、柊吾は静かに笑い声を漏らした。

「後悔だと?俺の人生で後悔していることは、ただ一つだけだ。3年前、俺は……詩織の言葉にほだされるべきではなかった。この結婚をするべきではなかったんだ。そうしていれば、俺と詩織には、まだ結ばれるチャンスがあったんじゃないのか?」

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