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第250話

Author: 似水
雅之は淡々と「君の友達が来たみたいだ。どんなプレゼントを持ってきたか、見に行ったら?」と言った。

優花は悔しそうに唇を噛み、里香を睨みつけてその場を去った。

里香はため息をつきながら、「あなた、私に恨みを買わせてるの?」とぼそっと呟いた。

雅之は「そうか?」と軽く返した。

里香は続けて、「このお嬢様、私を根に持ってるわよ。私をここに連れてきた以上、私の安全を守ってね。もし何かあったら、全部あなたの責任だから」と言った。

雅之は彼女をじっと見つめ、薄く微笑みながら「安心しろ、怪我はさせないよ」と笑い飛ばした。

里香は思わず首をすくめ、この話題を続けたくないと思った。バラの火山は確かに綺麗で、里香も見とれてしまったくらいだ。

雅之と里香は庭園を何度か歩き、美しい景色を楽しんでいた。やがて、二人が東屋に着くと、雅之のスマートフォンが鳴り始めた。雅之はそれを確認し、「ちょっと電話に出る」と言って外に出た。

里香は頷き、東屋でおとなしく待つことにした。ここは江口家の敷地だから、優花に嫌われていることもあって、変に動き回るのは危険だ。

雅之が電話をかけているのを見て、遠くで様子を見ていた使用人がすぐにそのことを優花に伝えた。

優花は手にしていたワイングラスを冷たい笑みを浮かべながら持ち上げ、使用人に何か耳打ちした。使用人はすぐに頷いて、指示を実行しに行った。

里香は東屋で暇を持て余していた時、使用人が黙って酒と軽食を運んできて、テーブルに置いて立ち去った。

里香は眉をひそめたが、手をつけなかった。

「雅之、なんでこんなに長いの?」と少し心配になり、雅之の立っている場所をちらっと見ると、彼はまだ少し離れたところで電話をしていた。

里香は立ち上がり、雅之の方に歩こうとしたが、東屋を出て花廊を通り抜けようとした瞬間、背後から急に足音が近づいてきた。次の瞬間、口を何かで塞がれ、鼻を突くような匂いが漂ってきた。里香は声を出す間もなく、意識を失った。

二人のボディガードが素早く里香を運び去った。暗い花廊で、すべてが静かに行われた。

優花は気絶した里香を見下ろし、冷笑して「後ろの犬小屋に放り込んで。あの犬たちに人間の味を教えてやりなさい」と命じた。

「かしこまりました」

ボディガードたちは応じ、里香を後庭の犬小屋へと運んで行った。江口家には何匹かの凶暴なチ
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