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第714話

Author: 似水
里香が言った。「眠れなくて、ずっと映画観てたの」

かおるが近寄ってきて、里香の隣に座ると、腕をそっと抱きしめながら頭を肩に乗せて言った。「里香ちゃん、私ね、月宮と付き合うことになったんだ」

「えっ?何それ?」里香が驚いて目を丸くし、かおるを見つめた。

かおるは少し事情を話した後、笑いながら続けた。「自分でも、彼がこんなあっさり認めるとは思わなかったよ」

里香は眉を寄せ、「本当にちゃんと考えたの?」と問い詰めるように言った。

かおるは肩をすくめて苦笑いしながら答えた。「だって、どうしようもないじゃん。彼を本気で怒らせたら困るのは私でしょ?だったら、もうこの状況を楽しむしかないじゃない。なんでわざわざ辛い方を選ぶの?」

里香は少し考えてから、「まあ、それも一理あるかもね」と静かに言った。

かおるは里香の少し真剣な顔を見て、くすっと笑いながら言った。

「大丈夫だって、ちゃんと分かってるからさ。もしかしたら、この3ヶ月で本当に気持ちが芽生えるかもしれないし。もし月宮が『君じゃなきゃダメだ』なんて言い出したら、私の大勝利でしょ?」

里香は短く沈黙した後、「まあ……幸運を祈るよ」と言った。

かおるは吹き出して笑いながら立ち上がり、「じゃあ、私シャワー浴びてくるね。里香ちゃんも早く寝なよ」と言った。

「うん」

里香は頷き、かおるが部屋に入っていく姿を静かに見送った。

心が、少し複雑だった。

蘭と祐介が結婚したから、しばらくの間、月宮は婚約を先延ばしにできる状況になった。そう考えると、月宮とかおるが付き合っても大した問題にはならない気がする。

でも……月宮は本当に約束を守るのだろうか?

3ヶ月経ったとき、かおるを解放するなんてことが本当にあるのか?

胸の奥に、淡い不安が過ぎった。

あの日から、里香は病院と家を行き来する日々が続いていた。なんだか病院と妙に縁があるみたいだ。そうと分かっていれば、最初から医療系の学科を選んでおけばよかったとさえ思う。

杏の腕は日に日に回復していった。細くて儚げだった彼女の体にも少し肉がつき、顔色もずいぶん良くなってきた。

杏と会うたび、彼女の瞳はきらきらと輝いて見えた。

その日、里香は杏の腕の今後のリハビリについて医者に相談しに行ったのだが、そこで星野にばったり会うとは思ってもみなかった。

「え?なんでこんな
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