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第783話

Author: 似水
目の前のこの女性こそが、今回の事件の鍵を握っている。もしかすると、黒幕の正体を知る唯一の人物かもしれない。

だが、直接的な証拠がない以上、どうすることもできなかった。

会場の責任者は震えが止まらず、額には冷や汗がびっしょりだった。

「喜多野さん、二宮さん、私は本当に何も知りません! こんな大事な場で、そんなことを許すはずがないじゃないですか!」

かおるは冷笑しながら言った。

「でも、実際に起こったわよね? そんなこと言って、自分で恥ずかしくならない?」

マネージャーは何度も頷きながら、必死に訴えた。

「私の責任です。私の無能さゆえです。責任は取ります! でも、本当に何が起こったのか分からないんです! 私は潔白です!」

かおるは腕を組み、女性と責任者を交互に見つめた。

「二人とも関係ないって言うけど、じゃあこれはどうやって起こったの? まさか、ただの偶然とでも?」

女性は祐介を一瞥し、ゆっくりと口を開いた。

「もしかすると、二宮夫人と喜多野さんの間に何かあったんじゃないですか? ちょうど昨夜は人が多くて、隠れるには絶好の機会だったでしょう? だって、客室に長いこと閉じ込められていたんですから、何があってもおかしくないですよね?」

「よくもそんなことが言えるわね!」

かおるはその言葉を聞くなり、勢いよく彼女の頬を平手打ちした。

「あんた、実際に見たの? その場にいたの? それとも、最初から何が起こるか知っていたから、こんなことを堂々と言えるの?」

女性は頬を押さえ、顔色を曇らせた。

「そんなの、実際に見なくても分かるでしょ? 喜多野さんと二宮夫人が知り合いなのは、みんな知ってることよ! 二人の関係が曖昧なのも!」

かおるは怒りが収まらず、もう一度手を振り上げたが、里香がそれを止めた。

「やめて。こんなことしても、何も解決しないわ」

かおるは悔しそうに拳を握りしめたが、里香の言葉に従い、二歩後ろに下がった。

里香は女性の前に立ち、怒りに満ちた彼女の目をじっと見つめながら、淡々と言った。

「誰の指示を受けているのかは知らないが、どうやら私を狙っているみたいね。だったら、直接私の前に出てきたらどう? こんな陰湿なやり方ばかりしてると、まるで下水道に潜むネズミみたい。どんなに表向きは立派でも、本質は卑しいままよ」

女性は顔を引きつらせ
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