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第7話

مؤلف: 風待 栞
水琴の睫毛が、微かに震えた。

もし臣と出逢わなければ、自分は今頃、心理士として歩んでいたはずだ。だが、数年の空白がある。専門知識に錆びつきはない自信があるものの、本当にあの頃のように、自分が最も得意とした場所へ戻れるのだろうか。

蓮見は、彼女の心の揺らぎを見透かしたように、穏やかな声で語りかける。「焦る必要はないさ。だが、もし君にその気があるのなら、この老いぼれも喜んで力を貸そう」

「先生……ありがとうございます」

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

結婚してからの三年間、一度も顔を見せられなかったというのに、恩師はずっと自分を気にかけてくれていたのだ。

水琴は蓮見の体調を気遣い、しばらく昔話に花を咲かせた。

蓮見はよほど嬉しかったのか、夕食まで共にどうかと誘ってくれたが、それは丁重に断り、昼過ぎに蓮見邸を辞した。

明日は狩猟だ。水琴は一度マンションに戻ると、準備しておいた服と愛用の道具を車に積み込んだ。

翌日、鹿耶の運転する車で明山の狩猟場へと向かう。二人が到着したのはまだ早い時間で、ロッジには見知らぬ顔が数人いるだけだった。今回の狩猟は高遠家が主催しているだけあって、様々な人間が集まっているのだろう。水琴は誰かに挨拶する気にもなれず、まっすぐにロッジの奥にある更衣室へと向かった。

狩猟服に着替え、壁に立てかけられた得物の中から、しっくりと手に馴染む一丁を選ぶ。そして、部屋を出ようとした、その時。聞き覚えのある声が、ロッジのホールから響いてきた。

「臣さん、それに紗夜さんまで!どうしたんですか、お二人はこういうの、興味ないと思ってました」

「紗夜がここのジビエを食べてみたいと言うものでね。気分転換にちょうどいいかと思って」

水琴は一瞬動きを止め、静かにドアを開けて外へ出た。そこには、臣の友人が、親しげに二人と談笑している姿があった。

水琴の姿に気づいた友人は、驚いたように声を上げる。「あれ……水琴さん?どうしてここに……」

言った直後、彼はしまったという顔で、隣に立つ臣の表情を窺った。

水琴は長い髪を無造作に束ね、化粧気のない素顔を晒していた。しかし眼鏡はなく、代わりにコンタクトを入れた瞳は、迷彩柄の狩猟服と相まって、凛々しく、そしてどこか野性的な魅力を放っている。

臣は、初めて見る彼女のその姿に、思わず眉をひそめた。「……お前がなぜここにいる」

そこへ、同じく着替えを終えた鹿耶が追い付き、臣を睨みつけるように言い放つ。「あら何よ。あんたは愛人を連れて遊び呆けてよくて、私たちのミコトが気晴らししちゃいけないってわけ?」

「小林さん、臣さんはそういう意味では……」紗夜が、割って入る。その声はあくまで柔らかいが、棘を含んでいた。「ただ、お二人はもう離婚なさった仲ですのに、狩りもなさらない静沢さんがここまで追いかけていらっしゃるのは、少し……」

その言葉に、臣の目に明確な嫌悪の色が浮かんだ。周囲からもひそひそと囁き声が広がり始める。

鷹司家の跡取りである臣が、三年間、妻である水琴を公の場に一度も同伴しなかったこと、つまりは鷹司の嫁として認めていなかったことは、この場にいる誰もが知る事実だ。離婚した今になってまで付きまとうとは、なんと見苦しく、厚かましい女か、と。

「ふざけないでよ、あんた!」

鹿耶がカッとなって食ってかかろうとするのを、水琴はすっと袖を引いて制した。そして、まるで動じていないかのように、臣と紗夜に向かって静かに微笑む。「ご心配なく。追いかけてきたわけではありません。私は、本当に狩りに来たのですから……」

水琴は手にした猟銃に、カチャリ、と乾いた音を立てて弾を込める。その手つきは驚くほど滑らかで、淀みない。「ええ、得意なの。こう見えて、腕には自信があるわ。……信じられないなら、試してみますか?」

その挑発的な言葉に、辺りは水を打ったように静まり返った。その静寂を破ったのは、ゆったりとした足音。皆の視線が、一点に集まる。ロッジに着いたばかりの、高遠灼也だった。彼はまっすぐに水琴の方へ歩み寄ると、その口元に意味ありげな笑みを浮かべた。

スタッフが控えていた最新式の猟銃をこともなげに受け取ると、灼也はそれを水琴に差し出す。「最新式のものです。静沢さんの腕前、楽しみにしていますよ」

昏い瞳は吸い込まれそうなほどに深く、その笑みは妖しいほどに蠱惑的だ。

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