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226.母の真相、父の告白②

last update Last Updated: 2025-10-07 21:57:52

華side

五分後―――――

状況を全く知らない花村が恐る恐るドアを開けて中に入ってきた。私と父が並んで座る姿を見て、ただ事ではないと察したのだろう。その表情には、緊張と困惑が浮かんでいた。

「失礼いたします。旦那様、何かありましたでしょうか」

「今、華に母の死因について聞かれたんだ。花村、私は花村を長い間苦しめていたな。すまなかった」

父は膝に手をつき、深々と頭を下げた。その謝罪に、花村は全身を震わせている。長年の忠誠心と隠し続けてきた真実の重みに、彼は言葉を失っていた。

「旦那様……」

「華、三上君に聞いたとおりだ。今まで病死と言っていたが、本当の死因は事故死だ。いや、事故ではない。ぶつかった場所や速度からしても命を狙った犯行に近かった。当時、まだ幼い華に本当のことを伝えられなくてずっと黙っていた。花村にも、黙っているように私が口止めしていたんだ。本当のことを黙っていて申し訳ない」

父の声が震えていた。三上のことを私も子どもたちに伝えなかったこともあり、父の気持ちも分かる。ただ、真実を知るなら、出来ることなら父の口から一番最初に聞きたいと思う気持ちもあり、複雑だった。私は、ただ静かに頷くことしかできなかった。

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