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45.離婚後、子どもたちとの生活

last update 最終更新日: 2025-07-07 20:57:26

長野の別荘での生活は、時間が止まったかのように穏やかだった。都会の喧騒から隔絶されたこの場所で、私は、慶と碧というふたりの希望に囲まれて暮らしていた。あれからもう3年の月日が流れていた。

別荘の窓からは、四季折々の美しい自然が広がっている。春には芽吹く新緑が目に鮮やかで、夏には木々の隙間から爽やかな風が吹き抜ける。秋には燃えるような紅葉が山々を彩り、冬には静かに降り積もる雪が世界を白一色に染め上げる。この別荘は、父が私に残してくれた最後の優しさだった。そして、この場所が私と子どもたちを守ってくれる唯一の場所でもあった。

慶と碧は、広い庭を駆け回り笑い声を響かせている。

慶は私に似てパッチリとした二重に濃いまつ毛が印象的な男の子で、性格も控えめで何をするにも慎重的だった。碧は特に目元が瑛斗によく似ていて切れ長で涼しげな顔立ちの女の子。性格も碧の方が積極的で負けず嫌いだった。二卵性の双子は、性格も見た目も対照的で、それもまた愛おしかった。

「ママー!、お花!」

二人が庭で小さなタンポポを見つけて、目を輝かせ私の元へ駆け寄ってくる。そのたびに、胸いっぱいの喜びが込み上げてきた。

「ありがとう。お花キレイだね。そろそろおやつにしようか」

「やったー!食べるーーー!」

私が声をかけると、二人は嬉しそうに振り返って勢いよく私の腕の中に飛び込んでくる。小さな二人の身体を抱きしめるたびに温か

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