「マリアローズはいないのか?公務の山がいくつも出来上がっているではないか!」
「おそれながら陛下」
「うむ、発言を許す」
「我が妹のマリアローズは先日よりベリルル帝国を視察に城を出ています」
「うーむ、なんとかこの量の公務をしないといけないのかぁ。憂鬱だなぁ。ダリア!ダリアも手伝ってくれ!」
と、三人寄っても文殊の知恵にならない連中での公務の処理が始まりました。
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「んー!!解放感っ!もう、何年ぶりだろう?小さい頃から王太子教育にと忙しかったからなぁ。10年以上かなぁ?なんかすごい幸せだなぁ。今頃は私が毎日こなしていた資料の山をあの3バカが頑張っているのかしら?
いやだ、実の兄とか、国王をバカとか言ったら事実でもダメよねぇ。ウフフっ♪」
ベリルル帝国に向かう馬車で私は既に極楽を感じていた。
その数時間後に本当に極楽に行きそうになろうとは思わなかったけど。
当たり前のように山賊に襲われました。
馬車が‘私はお金持ちですよ~’って気配だったのかしら?ワーグ侯爵家所有の馬車とは言え、家紋のない馬車を選んだんだけど?
その時、都合よくもベリルル帝国で‘山賊撲滅強化週間’なるものだったらしく、私を助けてくださる方々に出会いました。
山賊達が狙うのはこの馬車の荷台にある金品(宝飾類は所持していません)というか、お金と私かな?私を娼館に売ればお金になるから。
これらをガードしつつ山賊達を殲滅。最後には説教をしていた。
「山賊としてやっていけるのは若いうちのみで、将来は全く保証されていないだろう?それならば、何か手に職を付けた方がいいだろう。引退を自分で決めることができるし、手に職があれば、食うものに困らない」
確かに。ただ殲滅するのではなく、山賊をなくすためにもどうすべきかを考えての説教なんだなーと思いました。
「でもよぉ。俺らはガッコ―とか行ってないから文字は読めねーし……」
「そんなのは読めない平民なんかたくさんいるんだから問題じゃないだろう?本当にやる気があるのなら出来るはずだ!」
熱いなぁ。でも、言ってることはあってるし、手に職があった方が将来的に安心よね。好きな子ができたって、山賊の嫁になりたいって子はそうそういないでしょう?そう考えるといい考えよ?
「そこの女はどう思う?」
私に話を振られました。
「そうねぇ。例えば、貴方に好きな子ができたとしましょう。その子は山賊の嫁に来てくれるかしら?家族は反対するんじゃないかなぁ?でも、職人だったらどうかな?腕のいい職人なら喜んで、もらって下さいレベルでしょうね。そう考えると、手に職がある方がいいと私は思うわよ?」
これでどうだろう?
「そうかぁ、そうだよな。山賊の嫁になりたい女はいないよな……」
「よしっ、俺が職人を紹介してやる。どんな職種がいいんだ?食品・工芸と様々な職人が世の中にはいるぞ?」
「改めまして、マリアローズ嬢。私と婚約していただけますか?」 改めるというか、初めて聞いたんですけど。しかもこんな衆人環視の中でのプロポーズ?「はい、よろしくお願いします」 としか応えられないじゃないですか~!!「きゃーマリアちゃんが義理の娘になるのよ~!!私の事は‘お義母さん’って呼んでね♡」 そう言えば、皇帝は?「皇帝なら、「いろんな宗派の剣技をマスターする」って言って、ここ5年くらい帰ってきてないぞ」 うーん、それでも帝国は強固なんだから、やっぱりロペス様は優秀なのだと思うのです。 数年後、ロペス様は皇帝として板につきまくっています。国民からの指示も強固で、この帝国もかなり安定しています。 私は皇妃になって久しいのですが、王太子妃教育などで得ている知識と長年に渡って書類を処理していたということで、書類の処理能力はすさまじいらしいです。おかげでこの国の文官達は大体定時に帰宅が可能となっており、喜ばれています。 私とロペス様との間に子供も生まれました。男の子です。銀髪に深い青色にちょっと緑を足したような色の瞳の子です。緑は私の瞳かな? お義母さんは「いきなり旅に出るような子じゃないといいんだけど……」と言いながらも、溺愛している様子。 お義父さんが突然帰ってきてビックリしました。お義父さんの方も驚いていました。 息子が即位をしていたこと、息子が結婚していたこと。初孫が男の子で可愛いこと。「子供って成長するんだなぁ」 と、至極当たり前のことを仰っていました。お強いんでしょうね。 今後は帝国にいるそうで、お義母さんも一安心です。 余談ですが、キャロメ王国はやはり財政が上手く回らなくなり、国の領土を付近の国に割譲する(される?)こととなり、もともと弱小国だったのが、超弱小国となりました。もちろんベリルル帝国も領民共々土地をいただきました。領民は税率の引き下げなど、とてもよろこんでいます。 このまま散財が続くようですと、キャロメ王国は地図から消えるでしょう。今でも小指の爪程度の領土しかないのに……。
「あら、おかしいわね。なんで側妃のダリアがここにいるのかしら?」 と、私は言ってみた。ダリアが側妃なのを確実に知っているのは私キャロメ王国王妃だから。 会場内の他国の王族たちは「彼女が王妃じゃないのか?」などと話をしている。「久しぶりね。デイビス国王」「これはこれは、ベリルル皇妃ではありませんか!」「貴方…王妃でもない人間をこの皇宮に滞在させていたの?」「え?」「彼女、側妃なんでしょ?ここにいるマリアローズ様こそが正式な王妃。どうして今まで公の場にマリアローズ様を連れて行かなかったの?」「王妃はタイミング悪く、病気に罹り…」 そんなわけないでしょう?私は健康体よ!「マリアローズ様がこの国に滞在している間は、皇宮に滞在してもらったわ。貴方が今までしてきたことは聞いたわよ?」「マリアローズの言い分を鵜呑みにするのですか?」「何か言うのならお言いなさい」 皇妃様がいつもと違って迫力あって怖い。…でも帝国の皇妃ならそうなのかなぁ?「……」「マリアローズ様の話によると、国王と側妃ダリア嬢は遊び惚け、自分は書類処理機のように国王と側妃の分の公務もしていたという話だけど?公務って言っても書類仕事のみよ」 「え?ありえなくない?」「自分の公務を放棄?国王だよな?」等の声が聞こえてきました。流石です。皇妃様!「……」「それで戻って来い?書類仕事をさせるためかしら?私なら絶対に戻らないわ」 「私だったらそんなの絶対嫌よ」「俺は男だけど、嫌だなぁ」と、周りからの声が聞こえてきます。「あら、いけない。辛気臭くなっちゃったわ!今日はめでたい即位記念パーティーよ!招待の皆様楽しんでくださいね!」 「あちらにいるのがマリアローズ様か?お美しい。彼女を書類処理機?気は確かなのか?キャロメ国王は」 「あら、彼女のアクセサリー類って…ねぇ?」 なんだろう?「お集まりの皆様に連絡があります!この度、マリアローズ=キャロメはデイビス=キャロメと離縁し、ロペス=ベリルルと婚約を致します!!」 おぉー、と感嘆の声が多く聞こえた。そんな中…。「異議あり!」「なんですか?キャロメ国王」「両親の許しも得ずにこのような暴挙に出ることはどうなのでしょう?」「我が国の法律では両親の許しを必要としていません。必要なのは年齢と本人同士の気持ちです。私達の衣装を見れば
パーティーの前日にドレスが届いた。 普段はそんなに多くの侍女さんにお世話にならないんですが、試着のために侍女さん達に着せて頂きました。「マリアローズ様、よくお似合いで。やはり肌もキレイなので、このようにデコルテが強調されたドレスでも全く問題はありませんね」 問題は…私が恥ずかしことです。こんなドレスは着たことがない! こういうのはだいたいダリアに奪われたりしてたし。「では仕上げにこのネックレスをつければ完璧ですね!」 これは……大きなサファイアの周りを小さなサファイアが囲むようにして。高価そうだけど、成金下品っぽくなくて、品がある。「こちらはベリルル王家に代々伝わるネックレスとなっています」 そのようなものを他国の王妃である私が身につけていいのでしょうか? 等と考えているうちに、あれよあれよと着飾られました。ティアラまでサファイアがついているようです。ベリルル王家の象徴になっているのでしょうか? パーティー当日は前日よりもさらに多くの侍女の方に磨き上げられ、着飾られ、完成した姿はキャロメ王国王妃として正しいものでしょうか? ロペス様が迎えにいらしてくれました。見て驚きました。予想をしていなかったんですが……。 私が着ているドレスとペアのような服装ではありませんか?似合っているから憎らしい。イケメンというのは何を着てもカッコいいのでしょうか?「ああ、マリアローズ嬢は今日はいつもよりさらに美しいね。母上が大騒ぎしそうだよ」 それは褒められてるのよね?「ロペス様はいつもカッコいいので、なんとも言い難いですが。いつもよりも凛々しく素敵です」 付近の侍女からキャーとか声が上がったけど、これも社交辞令みたいなものです。「マリアローズ嬢はこの国代々伝わる宝飾品を身につけてくれたんだね?」 自らすすんで身につけたわけではなく、なされるがままという感じでした。しかし…サファイアの深い青色が、ロペス様の瞳の青色を彷彿させてなんとも言い難いです。「きゃー!マリアちゃん可愛い!というか、キレイー!!ネックレスとかも似合ってて素敵よ、ウフッ」 なんとも不敵な感じがします。 流石にパーティーですから、皇帝にお会いする事ができるでしょう。 皇帝…ロペス様の御父上かぁ。どんな方だろう?仕事ができる方だろうなぁ。 パーティー会場にて私は遂にあいつらと
皇妃様は、たびたびお茶に誘ってくれたりしてかなり私はリラックスして皇城で生活していました。 王太子教育、ハテは王妃教育まで受けていたので、マナーや教養などバッチリです。そこらの令嬢など私には太刀打ちできません。 そうは言っても、突然現れた挙句、皇城で生活をし始めた私をこの国の貴族の令嬢は面白く思わないようで、よく嫌がらせなんかを受けますが、キャロメ王国にいた時のダリアの面倒くささに比べると可愛らしいものです。笑って受け流せます。 未だに書類上、キャロメ王国の王妃です。 一刻も早く離縁をしたいと私は思います。 向こうのデイビス国王は、私を書類処理機だと思っているのでしょうか?手放したくないんでしょうね。嫌になる。「マリアちゃん!朗報よ!白い結婚が・・・」「3年以上続けば…ですよね?それはダメなんですよ。あの男はそういうことには頭が回るんでしょうか?まず初夜で閨を共にしています。それからずーっと放っておかれて3年くらい経った頃に、また閨を…。なので、白い結婚が続いているわけではないのです」「何よ!あの小僧!マリアちゃんを何だと思ってるの?」「多分、書類処理機かな?」「酷すぎるー!!!」 また皇妃が泣いてしまった。私が泣かせたんじゃないけど、近くにいた令嬢が面白おかしく私が泣かせたことにした噂を流しそうね。ハァ。「誰だ?妙な噂を流しているのは?」 やっぱり噂は妙なものなんだ。「あのとき、皇妃のお茶会に来ていた令嬢だから、けっこう高位貴族の令嬢だと思うけど?やることが稚拙なのね」「うーん、ベリルル帝国の高位貴族の令嬢のレベルが全員稚拙だと思われてしまうなぁ。母上、早急にリストアップして私に下さい。噂の根源を突き止め、必ずや何らかの制裁を」「そうよぉ、マリアちゃんは何も悪くないのにマリアちゃんが私を泣かせたみたいな噂を流しているのよ?」 私の身分、一応王妃なんだよなぁ。不敬でお家取り潰しも可能なんだけど?「マリアローズ嬢、来月この城でパーティーを開くことになった。俺の即位記念パーティーだ。それには、キャロメ王国の国王も来る予定だから、マリアローズ嬢の妹君も一緒に来るだろうと予測している。俺達はそこでキャロメ王国の国王を吊るし上げようと思う。マリアローズ嬢との離縁も承諾させる」「離縁には家族の承諾が必要では?」「なんと!この国の法律は
「王妃なのに今まで社交もさせてなかったんでしょ?何をしていたの?」「国王の物を含め、国の公務を全部私が処理していました。宰相の物もかなぁ?国王の物は確実に私が処理していましたし、側妃の物もでしょうね。側妃は妹のダリアなんですけど。あ、宰相は兄のワルラーです。国の権力がワーグ侯爵家に集中しちゃってるんですけど、その事を諫める人がいないので、結果的に悪循環のようにワーグ侯爵家が国家権力を一手に引き受けるみたいになってるんですよ」「そのわりに、頭は悪いんだな」「そうですね。アッサリと私を国外に出すあたり。もう戻る気はないんですけど。戻れば書類地獄が待ってるんですよ?」 絶対ヤダ!「何言ってるのよ。あのバカ小僧のためにマリアちゃんが頭を使う必要なんかないわよ。あっちはあっちでなんとかすればいいのよ。マリアちゃんのありがたみを思い知るといいわ。社交にも出さないで……」 ベリルル皇妃涙目じゃないですか?そんなに感情移入しなくても。「あの国王は社交に誰を連れて出ているんだ?」「妹のダリアです。側妃になって寵愛を受けていますよ。いつも「お姉様ぁ」って来て、国王とイチャイチャした自慢話を私にするんです」「迷惑だな」 一刀両断ですね。その通りなんですけど。「国王は妹にはいろいろプレゼントをしているみたいですね。国庫の管理も大変です。妹も傾国の美女なんでしょうか?美女って程ではないと思うのですが。ちなみに私は国王からプレゼントをいただいた事はありません」「あの小僧、今度会ったらパーティーで吊るし上げようかしら?」「母上、穏便に」「だってぇ、可愛いマリアちゃんを蔑ろにしているんですもの」 私を受け入れてくれるのは非常に有難いのですが、物騒です…。「あの国は……私の見立てですけど、ダリアにお金を散財しているので、何か天災が起きた時の対処ができないでしょうね。この国に援助を申し出て来る可能性が高いですね。でもまぁ、今ある書類を全部片付けないといけないんですけどね」 あの3人でできるのかしら?私が1日でこなしていた量に1週間くらいかかりそう。そんなことをしていたら書類はガンガン溜まるでしょうね。それを全部私のせいにするでしょうからすごいと思うけど。 あの書類の中には本来、3人それぞれがすべき書類が含まれているわけで。 ああ、あと城の文官さん達の書類も混ざっ
武器職人もいるけど敢えて口に出さなかったのかしら? 職人から山賊に武器が横流しされることがあってはいけませんからね。防具も。 生活に根付いた職人でしょうね。 念願の……念願のベリルル帝国に到着! いけないっ、目が涙で滲んでしまうわ。 ここまで山賊から助けてくれた方々がついてきてくれましたが、私はこれからどうしましょうか? これまでず――――っと王城に籠って公務ばかりしていた弊害ですか?何をしていいのかさっぱりわかりません。「プッ、お嬢さんは完全にオノボリサン状態だな。何を見ても目をキラキラさせて、まぁ」 仕方ないじゃないっ!文章でしか見たことのない建築物なんかが目の前にあるんだもの。これで感動しない方がどうかしてるわよ! 私はしばらく感動に酔いしれていたので、迂闊にも忘れていた。今夜はどこに泊まるのだろう?「スイマセン。近くにある安宿を教えていただけませんか?」ぐううぅぅぅぅぅきゅるるん。 なんてタイミングでお腹が……。「ついでに安くて美味しい食堂なんかも教えていただきた…ちょっと!笑いすぎじゃないの?」「いや、あまりのタイミングで可愛らしいお腹の音だったもんで」 確かにラストの‘きゅるるん’ってなんなの?普段はあんな音しないのに。「名前を名乗ってなかったな。俺の名前はロペス=ベリルル」 うわっ、この国の皇太子?「あ~、私はマリアローズ=キャロメ。どうせいつかはバレるんだし。ロペス様ならバレてもいいかなって」 盛大なお腹の音、聞かれてしまいました。よりにもよって皇太子殿下に。恥ずかしい限りです。「キャロメ王国の妃はダリア妃しか知らないが、かなりのワケアリみたいだな?まぁ、皇宮は部屋も多いし、飯も上手いからそこでゆっくり話そうや」 あの国王。私の存在を国外秘みたいに扱ってたの?公務をやらせるだけやらせて。……許せん! ベリルル帝国の皇城はとっても大きく、普段キャロメ王国の王城を見慣れている私でも自然と口から「大きい……」と声が漏れた。「マリアローズ嬢は今日はこの部屋を使うといい」 そうロペス皇太子に言われ、与えられた部屋は南向きの大きな部屋で、普段私が執務を行うような部屋の10倍は広かった。 例えて言うなら、侍女が5人くらいいても問題はなさそうな感じのお部屋だった。「あらぁ、ロペスが女の子を連れて帰って来