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第4話

Autor: 椿
「たぶん、お前がアレルギー持ちだってことを忘れてたんだと思う。彼女の代わりに、俺が謝るよ」

それから、剛は私から目をそらして言った。「このことはおばさんには黙っておいてくれ。洋子はもう十分に可哀想なんだ。おばさんにまで嫌われたら、この家での居場所がなくなっちゃうだろ?彼女にはもう、俺たちしかいないんだ。

だからこの件は、もうこれで終わりにしてくれ。大目に見てやってくれよ」

大目に見てやってくれ、か。

その軽い一言で、私が受けてきた理不尽も心の傷も、すべてを無かったことにされてしまった。

私は、小さくうなずいた。

そうか。確かに、もうこの人たちに期待すべきじゃないのかもしれない。

こうして退院したあと、私は住み込みのアルバイトを見つけて、家には帰らなかった。

そして大学の合格通知が届く日に、私はやっと家に戻った。

ドアを開けると、家の中はとても和やかな雰囲気に包まれていた。

剛と母は、新しいきれいなワンピースを着た洋子を囲んで、嬉しそうに抱き合っていた。

「うちの洋子ちゃんも、もう大学生なのね。本当に嬉しいわ。

洋子ちゃんは優秀できれいだから、大学に入ったらきっとモテモテだね」

そう言われ、洋子は恥ずかしそうに剛の腕を掴んで揺らした。

「ううん、剛さんが一番だよ。私の中では、剛さんが一番かっこいいんだから!」

しかし、私が入ってきたことに気づくと、彼らの楽しそうな笑い声は、ぴたりと止んだ。

母は私を睨みつけた。「何日もどこをほっつき歩いてたの。てっきり外で野垂れ死んだかと思ったわ」

一方、私の痩せた姿を見て、剛は胸が痛むような顔をして、すぐに駆け寄ってくると私の手を取ろうとした。

「お前と洋子の大学の学費、俺も一部払うから。そんなに無理して、自分で稼がなくてもいいんだよ」

だが、私はその手を振り払い、冷たく言い放った。「いらないから」

そう言って、私は自分の部屋へ向かおうとした。

「絢香」剛は私を呼び止めた。わざと優しい声を作っているのがわかる。「合格通知も届いたことだし、俺が車で大学まで送るよ。前もって見ておけば、慣れるだろ」

「ほんと?やったぁ!」洋子はすぐに彼の腕に絡みつき、目を輝かせた。「剛さん、大好き!」

でも、次の瞬間にはしょんぼりして、おずおずと私の方を見ながら言った。「でも、絢香さんはまだ私のこと怒ってるみたいだし……私と一緒には行きたくないよね。二人で行ってきていいよ、私は大丈夫だから」

そんな彼女の言葉を聞いて、私はどっと疲れを感じた。

だから、母が口を開いて私を怒鳴るより先に、私は言った。

「あなたたちだけで行って。私は用事があるから」

すると、剛は眉をひそめ、無意識に一歩前に出ると、私の腕を掴もうと手を伸ばした。「絢香……」

しかし、母が「剛」と呼びかけて、すぐに彼を制した。「この子のしかめっ面を見てると気分が悪くなるわ。もう彼女は放っておいて、さあ、行こう」

そこで、洋子もタイミングよくうつむいて、小さな声で言った。「剛さん、絢香さんに無理させないで……たぶん、本当に私と一緒は嫌なんだと……」

それを聞くと剛の伸ばされた手は、宙で固まった。

そして、心に言いようのないいらだちと怒りがこみ上げてきたようで、彼は手を引っ込めると、私の前に歩み寄り、低い声になった。

「絢香、お前がそうやってすねてられるのも、あと一日だけだ。明日、俺が一人でお前を大学に連れて行ってやる」

剛は少し間を置いて、命令するように付け加えた。「明日は、昔みたいに、ちゃんと笑顔を見せてくれよ。今のそんな、つまらないことで意地を張る態度は改めろ。わかったな?」

そう言われ私はふっと笑うと、そのまま自分の部屋に入った。

昔の私には、もう二度と戻れない。

彼らが出て行った後、私はわずかな荷物をまとめ、東都中央大学の合格通知書と、前もって買っておいた切符を手に、まっすぐ駅へと向かった。

そして列車に乗る前、私は、18年間暮らしたこの南の街を、最後にもう一度だけ振り返って見た。

それから、二度と振り返らずに、自分の夢へと向かって行った。
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