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第49話

Author: 神雅小夢
last update Huling Na-update: 2025-07-14 08:32:54
『どうした!?  雪音さん?』

 係長の焦りの混じった声が大きくなった。

「りゅ、龍太郎、付き合っていないひとに、手は出さないって言ったじゃん⁉︎」

 私は小声で口にする。あの言葉は嘘だったのか?

「それは交際してない場合だろ。おまえはもうおれの婚約者だぞ。交際相手よりも深い関係だ」

「私は了承してない」

 そう言って、龍太郎の包囲網をするりと抜ける。

「でも否定もしなかったな。黙っているということは、肯定とみなしたんだが?」

 うっ、確かにびっくりしたのと、龍太郎の家族がそんなことを許すわけがないと、面倒くさいので|敢《あ》えて否定もしなかった。

「おれたちはもう成人なんだぞ。おまえ、自分の行動には責任を持てよ」

 ……え? それはつまり龍太郎の中では、私たちは正式に婚約してることになってるの?

 うそだよね……? 普通に考えてありえないんだけど……。

 なんで? そうなる?

 ……あ、そうか、そうだった。龍太郎に普通は通じないんだった……。しまった……!!

『もしも~し、雪音さぁん?』

 係長の声が遠くに聞こえる。

「ほら、早く電話に出てやれよ。なにか用事なんだろ?」

 龍太郎はクククと堕天使みたいな笑みを浮かべた。

 もぅ! なんなの! この悪魔天使!(意味不明)

「あ、もしもし、係長、すいません。ゴキブリが出て……、びっくりして声が出ちゃいました。ごめんなさい」

 私は何事もなかったかのように振る舞う。

『ゴキブリ!? 剣堂さんちはそんなに不潔な家なの? 意外だなぁ……。そんなところにいて大丈夫なの?』

 係長の困惑した様子が電話越しに伝わってくる。

「あ、大丈夫です。大きなゴキブリが一匹居ただけなんで……」

 そう言いかけた時、龍太郎の声が耳元で聞こえた。

「誰がゴキブリだ?」

 龍太郎の恐ろしく低い声がして、私の耳に彼が『ふぅ~』と息を吹きかけた。

「きゃっ!」

 くすぐったくて、恥ずかしくて思わず、声をあげる。

『え? どうしたの? 誰かそこにいるの?』

 係長の|訝《いぶか》しむ声がした。

「おれのすることで声を出したら、おまえの負けな。耐えられたら、婚約の話はなかったことにしてやるよ」

 龍太郎に後ろから抱きしめられた。

「だいたい、おまえが他の男を名前で呼ぶから悪いん
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