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第9話

Author: 安寧を祈る
タイトルの画面から、どうやら彼のオフィスの監視カメラの映像らしい。

鬼塚は、自分がこんな動画を保存した覚えはない。だとすれば、絢瀬が残したものに違いない。

急に意識が研ぎ澄まされ、震える手で動画を再生した。

動画は絢瀬が会社にスープを届けに来た日の、オフィスの監視記録だった。

画面には、白鳥と彼の秘書が、服を脱ぎ捨て、あらゆる場所で絡み合っていた。

デスクの上、ソファ、窓際、そしてカーペットで。

彼は固まった。

「あなた、すごい……もう、たまらない」

「我慢しなくていいよ。誰にもばれやしないから」

「三年前、あの夫婦に私たちの関係を知られてしまって、このビルで死なせたんじゃない?」

まるで雷に打たれたようだった。

鬼塚は必死に情報を整理する。

つまり白鳥は彼の秘書と不倫関係にあった。

大胆にも、彼のオフィスで情事に及んでいた。

そして絢瀬の両親の死は、まさかの白鳥の仕業だった。

ふと、絢瀬の我慢強くも脆そうな顔が浮かんだ。

彼女が命がけで白鳥に毒を盛った理由が、ようやく理解できた。

これは彼女が両親のための復讐だった。

鬼塚は椅子に凭れかかり
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