Share

青春も愛した人も裏切ってしまった
青春も愛した人も裏切ってしまった
Author: さかなちゃん

第1話

Author: さかなちゃん
生まれ変わった小泉奈月(こいずみ なつき)は、真っ先に離婚協議書を手に青山元治(あおやま もとはる)のもとを訪れ、口を開けば二言だけだった。

「離婚に同意するわ。

子どもを一人、私が連れていく」

元治は協議書をめくる手を止め、視線を上げると、一瞬だけ驚きが過ったが、すぐにいつもの冷淡さで覆い隠した。

「四人の子どもの中で、わざわざあの病弱な子を選ぶのか」

彼は指先で机を軽く叩きながら、探るような口調で言う。「奈月、今度はまた何を企んでいる」

「信じるかどうかは勝手、署名して」

奈月は協議書を彼の前へ押しやった。

元治はペンを握ったまま空中で動きを止め、三十秒ほど経った後、いきなり身を乗り出して署名すると、ペンを机に叩きつけるように置いた。

「言ったことは必ず守れ」

……

「奈月、元治が離婚すると言ってるって本当?」電話口から母の切羽詰まった声が聞こえる。「四人の子どもは……どうするつもりなの?」

「一人連れて行く」

奈月は淡々と答えたが、軽く丸めた指先が心の揺れを隠しきれなかった。

「一人でも連れて帰る方がいいわ」母の声は少し和らぎ、続けて言う。「男の子を連れて戻れば、いずれは小泉家の跡継ぎとして支えてくれる」

「朔真は落ち着いているし、朔矢は賢い。朔斗はやんちゃだけど愛嬌があるし……どの子にするか、もう決めたの?」

「私は朔乃を選ぶ」

電話口が突然沈黙した。

三秒の間を置き、母の声が一気に鋭くなる。

「正気なの?あの子は小さい頃から本家で育って、あなたと親しくもないのよ」

奈月は静かに目を閉じた。

母の懸念が分からないわけではなかった。

青山朔乃(あおやま さくの)は生まれた時わずか1500グラムで、退院したその日から姑に「静養が必要」との理由で抱えられ、先月になってようやく彼女のもとに戻された。

情の深さで言えば、当然ながら自分で育ててきた三人の息子には及ばない。

だが奈月だけは知っていた。この世で唯一、自分に心から寄り添ってくれるのは、この小さな娘だけだと。

前の人生で自分が亡くなった後、墓前で娘は皺だらけの御年玉を握りしめ、しゃくり上げながら泣いていた。

「ママ、お金ぜんぶあげるから、死なないでよ……」

居間の壁に掛けられた家族写真は、陽射しに晒されて少し色褪せていた。

写真の中で元治は三人の息子を抱いて穏やかに笑っている。その傍らで奈月の腕に抱かれた朔乃は、おずおずと母の服の裾を握り、笑顔もなく不安げに写っていた。

奈月はハサミを手に取り、写真を真ん中から切り裂いた。

片方には元治と三人の息子、もう片方には自分と娘。

「私は決めた」

小さな声だったが、確固たる響きを持っていた。

「もう一度よく考えなさい!」

電話の向こうで母は深く溜息をつきながら続ける。「あなたは青山家のために四つ子を産むとき、三日三晩も苦しんで、死にかけたのよ……

これだけの年月の情を、どうしてあっさり捨てられるの?」

奈月は口元を引きつらせ、瞳に涙を浮かべた。

情?かつてはあると思っていた。

幼い頃からの許婚で、幼馴染として共に育った二人。彼の心に佐々木都子(ささき とこ)がいると知りながらも、結婚してしまった。

四つ子を身ごもったとき、腹は大きく、夜には足の痙攣に枕を噛んで眠れない日々。それでも彼は「仕事が忙しい」と書斎にこもり、優しい言葉をひとつかけてはくれなかった。

長男の青山朔真(あおやま さくま)はまだ七歳なのに、眉をひそめて「ママ、パパを困らせないで」と言った。

次男の青山朔矢(あおやま さくや)は都子からもらった数学の問題集を手に、「どうして都子おばさんの方がママより賢いの?」と尋ねてきた。

三男の青山朔斗(あおやま さくと)は特に口が達者で、朔乃のお菓子を奪っては逆に「妹がまた泣いたよ、パパに叱らせるつもりだ」と言った。

ただ一人、末娘の朔乃だけが、兄たちにいじめられても大きな黒い瞳で見上げ、「ママの笑顔が一番好き」と言ってくれた。

前の人生で、四人の子の七歳の誕生日に、元治は離婚協議書を彼女の前に叩きつけた。

奈月は子どもたちを思い、どうしても首を縦に振れなかった。

「もう少し、もう少し待てば、子どもたちが大きくなれば、きっと変わるはず」そう信じて耐えた。

だが待っていたのは、彼が三人の息子を連れて海外へ飛び、都子と盛大なビーチウェディングを挙げる光景だった。

朔乃が密かに知らせてくれなければ、彼女は永遠に知らぬままだった。

慌てて駆けつけた先で目にしたのは、神父の前で熱く口づけを交わす二人。

そして三人の息子が拍手しながら叫んでいた。「パパと都子おばさん、おめでとう!」

「これからは都子おばさんが僕たちのママだ」

さらに胸を張って保証まで加えた。「パパ、安心して。家にいるあの悪いママは僕たちが縛っておく。絶対に邪魔させないから」

五人が陽射しの下で並び立つ姿は、まるで本当の家族のように親しげで、互いの顔立ちに不思議なほど似た面影さえあった。

その瞬間、奈月の世界は完全に崩れ落ちた。

問い質そうと駆け寄った彼女は、疾走する車に撥ね飛ばされた。

宙に舞う刹那、彼女の視界に映ったのは、砂浜の向こうに立つ元治と三人の息子。その目に、微塵の揺らぎもなかった。

後に知ったのは、彼女が死んで半年も経たないうちに、朔乃が母を恋しがるあまり重い病に倒れ、夢の中で「ママ」と叫びながら二度と目を開けなかったこと。

「お母さん、もう説得しないで。私の決意は固いの」

奈月は涙を拭い、声にさらなる強さを込めた。「離婚後、朔乃は唯一の子で、小泉家の唯一の後継ぎよ」

少し間を置いて、言葉を継いだ。「離婚手続きには一か月かかる。それが終わったら、朔乃を連れて雨国へ行くわ」
Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第23話

    元治が目を覚ますと、すでに病院のベッドに横たわっていた。空っぽの病室を見つめながら、口の中に苦い味が広がる。一度、生と死をくぐり抜けたことで、彼は悟る。互いに干渉されないことが、彼女を愛する最良の証なのかもしれない、と。その時、病室の扉が押し開けられた。元治の黒い瞳が一瞬輝いたが、三人の男の子を見てすぐに陰った。彼は自嘲気味に笑う。もう今さら、何を期待できるというのか。三人の男の子は恐る恐るベッドの上の元治を見た。小さな声で言った。「パパ、会いに来たよ」元治は頷いて、手招きで近くに来るよう促す。三人は、彼に嫌われていないことを確認すると、嬉しそうにベッドの前にやってきた。元治は三人を見つめ、ふと口を開いた。「これからも俺と一緒に暮らしたいか?」三人はお互いを見つめ、互いの目に映る不安を見て取った。「パパ、僕たちがパパの子じゃなくても、受け入れてくれる?」その瞳は不安でいっぱいで、元治の答えを待っていた。この間、彼らは多くのことを経験し、元は生意気で傲慢だった坊ちゃんたちが、ずいぶん大人になっていた。元治は淡い笑みを浮かべる。「たとえ君たちの実の父親でなくても、俺は君たちのパパだ。君たちを守るのは俺の務めだ」雨国に行く前なら、彼はすでに三人を児童福祉施設に送る覚悟をしていた。だが、生と死をくぐり抜けた今、目の前の三人の目覚めた子どもたちに、彼の心のわだかまりは消えた。彼らは皆、最も愛してくれる人を傷つけ、そして悔やんでいた。同じ痛みを知る者として、彼の視線は柔らかさを帯びる。「ただし、約束してほしい。大きくなったら、朔乃をちゃんと守ること」三人は真剣に頷いた。「朔乃は僕たちの妹だ。絶対に守るよ」元治が退院する日、それはちょうど奈月の結婚式の日でもあった。彼は三人の子どもを連れて、式場の片隅に立ち、彼女が陽介と結ばれる瞬間を目にした。鐘の音が鳴り響くと、彼はふっと安堵の笑みを浮かべた。「奈月、幸せに」元治は長居せず、三人の手を取り、そっと立ち去った。奈月は何かを感じたかのように、立ち去る方向に目を向けたが、そこにはすでに誰もいなかった。「奈月、ブーケを投げる時間よ」「うん!」奈月は微笑み、幸福の象徴であるブーケを力いっぱい後ろに投げた。

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第22話

    朔真の叫び声に、奈月の手が震え、箸に挟んでいたレタスがテーブルに落ちた。声の方へ顔を向けると、汗だくになった三人の男の子が部屋に飛び込んでくる。焦りに満ちた表情の朔真が荒い息をつきながら叫んだ。「ここの料理には佐々木家の連中が薬を盛ったんだ、絶対食べちゃだめ!」元治の顔色も一変する。まさか佐々木家がここまで手を伸ばし、子供にまで毒を盛るとは思いもしなかった。全てが露見し、都子の両親がキッチンから現れる。三人の男の子を怨みを込めて睨みつけた。「都子の言った通りだ、君たちは裏切り者!最初から毒殺しておけばよかったんだ」三人の少年は恐怖を堪え、思わず奈月と朔乃を背に庇う。朔真は悔しさに顔を歪め、涙声で言った。「ママ、ごめん……ママがいなくなって初めて分かった。僕たちに本気で優しくしてくれたのはママだけだって」「都子は、パパがママに会いに行くのを止めるために、僕たちの出自を脅しに使って、わざと怖がらせて、熱を出して倒れるまで追い込んだんだ……」言葉に詰まりながらも、朔真は溜め込んできた苦しみを吐き出す。朔矢が続けた。「そのあと、秘密を漏らすのを恐れて、僕たちを寄宿学校に放り込み、死んでも構わないって感じで放置したんだ」朔斗は都子の両親を指さし、怒りに満ちた顔で叫ぶ。「こいつらは僕たちを無理やり雨国に連れて行って、殴ったり罵ったりして、記者の前で嘘をつかせた!都子が刑務所に入ってからは、もっと狂って、ママたちを皆殺しにして、僕たちを操って財産を奪おうとしたんだ」三人が一斉に袖をまくり上げると、腕に無数の青あざが残っていた。彼らは涙を流しながらも声を揃える。「もう間違いたくない!命をかけても、ママを守る」奈月は朔乃を抱きしめ、潤んだ瞳で三人を見つめる。驚きと痛ましさに満ちたが、心は静かだ。元治は唇を固く結び、五人を背中で守りながら低く言う。「守るのは俺の責任だ」その目に迷いはもうなかった。佐々木夫婦は待ちきれず、手を振り下ろす。「やれ!」その合図と同時に、両側から手に刃物を持ったチンピラたちが押し寄せ、彼らを取り囲む。元治は歯を食いしばり、必死で立ち向かう。三人の少年も恐怖に青ざめながら、奈月と朔乃を必死に守る。だが多勢に無勢。しかもこちらは女や子供ばかり。元治はすぐに劣

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第21話

    元治は昔から傲慢で、体面や立場を何よりも重んじる男だった。奈月を取り戻すため、初めて会ったときには身を屈めて彼女の前に跪き、今回はついに自分の財産すべてを娘の名義に移すとまで言い出した。それほど彼は悔いていた。けれど、愛していないものはどうしても愛せない。彼がどれほど必死に尽くしても、奈月の心は一切揺れなかった。彼に完全に諦めさせるため、奈月は陽介の服の裾をそっと引き、背伸びして彼の唇に口づけた。陽介はわずかに目を見張ったが、すぐに優しい微笑を浮かべ、彼女の腰を抱き寄せながらその口づけを深めていく。「奈月……君……」元治の目は怒りと絶望で裂けんばかりだ。奈月は行動で彼に最も残酷な答えを突きつける。彼女はもう一切の余地を与えず、陽介の手を引いて別荘に入り、バタンと扉を閉ざし、絶望に沈む男の姿を外に置き去りにした。元治は立ち尽くし、捨てられた子犬のように哀れで無力だった。いつの間にか空から細かな雨が降り始める。雨は彼の衣服を濡らし、冷たい風が裾から吹き込み、骨の髄まで冷やしていく。だが彼は気づかぬかのように、ただ二階の窓を呆然と見上げていた。ぼんやりとしたカーテン越しに、二つの影が寄り添う姿が映り、それはまるで温かな絵のようだ。その瞬間、彼の心は凍りつく。すべてが冷えきってしまった。翌朝、奈月はいつも通り出勤の支度をして会社へ向かう。だが道中で見知らぬ番号から電話が入り、切ったばかりなのにすぐメッセージが届いた。開いてみると、そこにはベッドで眠る朔乃の写真。その傍らに腰掛けていたのは、元治だ。奈月の顔色が一変し、即座に電話をかけ返す。「元治、娘をどこへ連れて行ったの!」電話の向こうからかすれた声が返ってくる。「奈月、朔乃は俺の娘だ。連れ出して少し過ごすくらい、いけないことか?」そんな言葉を彼女が信じるはずもなく、胸の奥の不安は募るばかり。そして予想通り、彼は声色を変えた。「奈月、家族みんなで食事をするのはいつ以来だろう。あの頃、食卓を囲んだ日々が懐かしくて仕方ない……」奈月は深く息を吐き、指先に力を込める。「場所を教えて。今すぐ行く」電話が切れると同時に、位置情報が送られてきた。彼女はハンドルを切り返し、郊外の地点へと車を走らせる。そこは人目につかない

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第20話

    彼が膝をついた姿は、かつてのプロポーズの情景と重なり、一瞬だけ奈月の胸にさざ波が広がった。だが次の瞬間、優しく微笑む陽介の顔が脳裏に浮かび、彼女の瞳は澄み切った光を取り戻す。「いまさら謝られても、遅いの」声には憎しみはなく、ただ静かな解放の響きがあった。「私はもう、好きな人がいる」そう言って、彼女は静かに立っている陽介のもとへ歩み寄り、その前に立つ。「彼は私の婚約者、愛する人」そして振り返り、元治を真っすぐに見据える。「帰って。もうあなたを見たくない」元治の差し出した手は力なく落ちた。だが彼は立ち去らず、石像のように会社の入口に立ち尽くし、社長専用エレベーターの方向を見つめ続ける。通りがかる社員たちはひそひそ声を漏らす。「これが社長の元夫?本当に後悔してるんだな」「でも後悔しても遅いだろ。当時あんなに酷いことをして、今さら情深い男を演じても誰も信じないさ」「そうだよ。神田さんなんて、社長を大切にして、生活面でも気を配ってるし、仕事の契約も次々と持ってきてる。社長が苦しまないようにって」「聞いた?二人は来週結婚するんだって。そのときには神田さんが正式なご主人になる。元夫がここに突っ立ってても意味ないだろ」その言葉は元治の心を刺し、誇り高い彼を居心地悪くさせる。それでも彼は動こうとしなかった。日がすっかり落ち、社員が皆帰ってしまったあとで、ようやくその場を離れた。だが諦めることはない。やがて奈月の雨国別荘の住所を突き止め、車を走らせる。到着して車を降りた瞬間、庭先の光景が彼の理性を粉々に砕いた。陽介がうつむきながら奈月に口づけをしていた。月明かりが二人を優しく包み込み、あまりにも完璧な光景が元治の胸を締めつけた。「何をしている!」元治は狂ったように叫び走り寄った。奈月は驚き、相手の顔を認めると眉をひそめる。「ここに何しに来たの?」陽介は落ち着いた様子で口元に笑みを残し、まるで余韻を楽しむように奈月を抱き寄せたまま視線を上げる。「青山さん。俺が奈月と親しくしている。君に関係ない。普通なら、こんな場面に出くわしたら身を引くよ」元治の顔は怒りで紫色に染まる。必死に怒気を抑え、元治は奈月に向き直る。その目には懇願が宿っていた。「奈月、俺はもう都子と完全に縁を切った。すべての関係を断っ

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第19話

    鈴木はすぐに理解し、人々の前でファイルから三通の書類を取り出した。「こちらにあるのは三件のDNA鑑定報告書です。三人の子どもの実母が小泉奈月さんではないことを証明しています」都子の両親の顔が一瞬にして蒼白になり、唇を震わせて反論する。「そ、それは偽物だ!わざと都子を陥れようとしてるんだ」「偽造かどうかは見ればわかります」鈴木は無表情のまま、さらに別の三通の鑑定書を広げた。「こちらは三人の子と佐々木都子さんの親子鑑定。血縁関係の確率は99.99%です」そう言うや否や、会場のプロジェクターに監視映像が映し出される。そこには、マスク姿の都子が人目を盗んで研究室に忍び込み、スタッフの隙をついて、名前の書かれたサンプルをすり替える瞬間がはっきり映っていた。奈月は、床にへたり込んだ三人の少年を見下ろす。その声には疲れが滲む。「確かに、あなたたちを身ごもり産んだわ。でもあなたたちは?都子のために私を脅そうとし、感謝もない」彼女は小さく首を振った。「本当に失望したわ」そして奈月は公式SNSアカウントに全ての証拠を公開するよう指示した。「疑問のある方は、ネットで確認して。証拠は完全に揃っている」場内には一斉に息を呑む音があがり、誰もが慌ててスマホを開いて投稿を確認し、画面の光に、驚愕に満ちた数々の顔が浮かび上がる。「信じられない。サンプルをすり替えただなんて、まるで奈月に代理出産させたのと同じじゃないか」「だから娘だけ連れて行ったのか。三人はそもそも実子じゃなかったんだ」「佐々木家、悪質すぎる。結婚詐欺に加えて罪をなすりつけるなんて、最低だ」「外道」怒声が場を切り裂いた。いつの間にか人混みをかき分けて元治が現れ、数歩で三人の子の前に詰め寄ると、容赦なく頬を打った。「誰がこんな真似をしろと命じた」子どもたちは顔を押さえ、信じられないというように涙を浮かべて叫ぶ。「パパ」だが元治は冷たく目を細め、書類を叩きつけた。それは彼と三人の子のDNA鑑定で、はっきりと「親子関係を否定」と記されている。「パパと呼ぶな。君たちにその資格はない」真相が完全に暴かれ、三人はその場で泣き崩れた。わずか三十分で、【青山家の三人の息子は出生時にすり替えられていた】というハッシュタグが世界のトレンド首位を席巻。怒りに満

  • 青春も愛した人も裏切ってしまった   第18話

    元治は背中の傷も顧みず、無理を押して雨国行きの最も早い便を予約した。今度こそ、奈月に二度と傷を負わせるわけにはいかない。雨国、奈月は、都子の両親に連れられてきた三人の男の子を前にして、顔を暗く曇らせていた。都子の両親はドサッと膝をつき、周囲のメディアが一斉にカメラを向け、シャッター音が響き渡る。「小泉さん、どうか都子を助けてやって」都子の母は声を張り上げ、泣き喚く。「あなたは権力もあり地位もある。どうして元治のことをそこまで執念深く追いつめるの?それに、この三人の子どもの母親でしょ。どうして心を鬼にして見捨てられるの」その言葉に、記者たちの目が一気に輝き、フラッシュが乱れ飛んだ。人混みの中、誰かがスマホで配信しているのを見て、奈月の眉がぴくりと震える。事情を知らない通行人たちが口々に言い出す。「え、奈月って元夫の件でこんな騒ぎ起こしてるの?婚約者は何も言わないの」「神田社長って、まさかヒモ男?言いなりになってるんじゃないの」「うわ、腹いせに実の子まで捨てるなんて、鬼みたいな女だな……」奈月の表情が冷たく引き締まり、鋭い視線を三人の子へと投げた。「朔真、朔矢、朔斗。最後のチャンスをあげるわ。こっちに来なさい。今日のことは水に流してあげる」三人の少年はその言葉に身を震わせ、思わず立ち上がろうとする。だが都子の両親が力任せに押さえつける。都子の両親は三人を脅かす。「都子は君たちの母親だ。母親が窮地にいるのに無視したら、人間のすることじゃない」子どもたちの顔は真っ青になり、力なくうつむく。奈月は眉をひそめ、ふっと鼻で笑った。「つまり、この三人を人質にして私を脅すつもりなのね」都子の両親は薄ら笑いを浮かべる。「とんでもない。子どもたちはちゃんと分別がある。これは彼ら自身の意志だよ」彼らは、子どもを盾にすれば、奈月が必ず妥協すると確信していた。だが人前で脅されても、奈月の顔は不思議なほど冷静だ。三人をじっと見つめる瞳に揺らぎはない。もし前の人生の自分なら、真実を知らずに情に流されてしまったかもしれない。「言いなさい。望みは何?」得意げに目を交わしたあと、父親が堂々と声を張る。「今すぐ佐藤家への攻撃をやめろ。そして遺言を残して、小泉家の全財産を朔真、朔矢、朔斗に継がせろ」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status